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第15章 地すべり
第1節 基本事項
1. 適用範囲
本章は、一般的な地すべり防止施設の設計に関する考え方を示したものであり、ダムおよび調節池等の貯水池における地すべり防止施設の設計については、別途基準等によるものとする。
2. 適用基準等
指針・要綱等 | 発行年月日 | 発刊者 |
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河川砂防技術基準 同解説 計画編 | 平成17年11月 | 日本河川協会 |
河川砂防技術基準(案) 同解説 設計編Ⅱ | 平成9年10月 | |
道路土工一切土工・斜面安定工指針 | 平成21年6月 | 日本道路協会 |
グラウンドアンカー設計・施工基準同解説 | 平成12年3月 | 地盤工学会 |
地すべり鋼管杭設計要領 | 平成20年5月 | 地すべり対策技術協会 |
その他関係法令等 |
3. 設計の基本的考え方
地すべり防止計画は、地すべりによる災害から、国民の生命、財産及び公共施設等を守ることを目的として策定するものとする。
地すべりによる災害は、我が国の有する特有の地形、地質、気象及び土地利用等の特殊な条件のもとに発生しており、地すべり斜面上及び地すべりの発生に伴う移動土塊の到達範囲にある保全対象が受ける直接的な災害と、河川等の埋塞および埋塞土砂の2次的な決壊によりその上下流域にもたらされる間接的な災害の2つに大別される。
地すべり防止計画は、上記の直接的及び間接的な地すべりによる災害を防止・軽減するため、事前に実施される地すべり調査及びその解析結果を踏まえて、地すべり防止区域の地形、地質、気象等の諸条件や土地利用、保全対象の状況、緊急性等を考 慮し計画する。
なお、計画の策定に当たっては、周辺環境に配慮するとともに、関連する諸法令、地域計画等との整合に留意する必要がある。
また、地すべり防止計画を策定した場合には、地すべり等防止法第9条で規定する地すべり防止工事基本計画に適切に反映する必要がある。
4. 対象とする現象等
地すべり防止計画で対象とする現象は、一定範囲の土地が地下水等に起因してすべる現象又はこれに伴って移動する現象とする。計画の対象とする規模は、地すべりの現象、保全対象の重要度、事業の緊急性、事業効果等を総合的に考慮して定めるものとする。
5. 対策の基本
地すべり防止計画は、地すべり防止施設の整備によるハード対策と警戒避難態勢の整備、土地利用規制等によるソフト対策を適切に組み合わせ、総合的な対策となるよう計画するものとする。
設計にあたっての留意点
- ボーリングの延長
- 長尺のものほど孔曲がりを生ずる恐れがあるため、施工実績を考慮のうえ決定する。
- 標準は50m程度とする。
- 保孔管のストレーナ加工
- 全区間にわたって施す場合もあるが、土質によっては途中で地下水が散逸して、地すべり地域内に地下水が侵入する可能性があるため注意を要する。
- 掘進勾配
- 排除の対象とする地下水層が被圧地下水であり、自噴による排水が期待できる場合には、ボーリングの延長を短縮するよう俯角とする等の手法を用いてもよい。
- 一般的には5~10度の上向きとする。
(2) 集水井工
- 深い位置で集中的に地下水を集水しようとする場合や、横ボーリングの延長が長くなり過ぎる場合に計画するものとする。
- 集水井は、効果的な地下水の集水が可能な範囲内で、原則として堅固な地盤に設置するように設計するものとする。
- 地下水が広範に賦存し、2基以上の集水井を設置する場合には、地すべり地域の状況を十分考慮し、適切な間隔になるよう配置するものとする。
集水井の深さ
- 集水井の深さは、原則として、活動中の地すべり地域内では底部を2m以上地すべり面よりも深くし、休眠中の地すべり地域および地すべり地域外では基盤に2~3m程度嵌入させるものとする。
集水井の構造
- 集水井は、土質、地質、施工性等を考慮し、安全な構造となるように設計するものとする。
(注)必要に応じてラテラルストラット、バーチカルスティフナーを用いる。
排水ボーリング
排水ボーリングは、集水した地下水を集水井から有効に排水できるように設計するものとする。
集水ボーリング
集水井に設ける集水ボーリングは、地質、地下水位等を十分考慮し、有効に集水できるように位置、方向および本数等を定めるものとする。
維持管理施設
集水井の維持管理のため、内部には昇降階段、または梯子を、頂部には、鉄網および鉄筋コンクリート板等の蓋を、周囲にはフェンスを設置するものとする。
(3) 排水トンネル工
排水トンネル工は、深層地下水を排除することを目的とし、地すべりの移動層厚が大きく、集水井工や横ボーリング工では効果が得難い場合に計画するものとする。排水トンネル工は、原則として安定した地盤に設置し、地すべり地域内の水を効果的に排水できるよう設計するものとする。
排水トンネル工は、地すべり規模が大きい場合、移動土塊層が厚い場合、および運動速度が大きい場合などに用いられる工法で、原則として基盤内に設置し、トンネルからの集水ボーリングや集水井との連絡などによって、すべり面に影響を及ぼす地下水を効果的に排水することを目的とする。
3. 排土工および押え盛土工
3-1 排土工(切土工)
排土工は、地すべり推力を低減するために計画するものであり、地すべり背後の斜面に新たに地すべりの拡大を発生の可能性が少ない場合に、地すべり頭部に計画するものとする。複数の地すべりブロックが連鎖的に関連している 場合には、上部のブロックを考慮して計画するものとする。
排土工の計画に際しては、地すべりの規模、すべり面の分布をできるだけ正確に求め、安定計算によって排土量を決定するものとする。
3-2 押え盛土工
押え盛土工は、地すべり推力に抵抗する力を増加させるために計画するものであり、盛土部および盛土下部の斜面の安定度を低下させる可能性のない場合に地すべり末端部に計画するものとする。
押え盛土工は、排土工と併用すると効果的であるので、通常これらを組み合わせて計画する。盛土量については、安定計算によるものとする。また、盛土背面の地下水位の上昇を考慮して、地下水排除工を併用することが望ましい。
4. 河川構造物
河川構造物は、流水の侵食による河床低下や渓岸侵食が地すべり土塊の安定を損なわせ、地すべり発生の誘因となる場合に、渓岸の保護と地すべり末端部の安定を図るために計画するものとする。
地すべり防止のための河川構造物は、次の各項により設計するものとする。
- 渓床の基礎および渓岸の掘削が最小限となるように設計する。
- 河川構造物の設置により地すべり地内の地下水位 を上昇させることのないよう水抜き施設を設計する。
- 活動中の地すべり地内に設ける場合は、柔軟な構造でしかも流水の破壊力に対して安全なものとする。
第4節 抑止工(標準)
1. 杭工
杭工は、地すべり斜面に杭を挿入して、地すべり推力に対して杭の抵抗力で対抗しようとするもので、移動土塊に対し、十分抵抗できるような地点に計画するものとする。杭工は、対象となる地すべり地域の地形および地質等を考慮し、所定の計画安全率が得られるよう設計するものとする。
杭工は、基盤が強固で移動土塊に対して十分対抗できるような地点で施工することが望ましい。しかし、地すべりの運動が激しく、1日1mmを越すような地すべり地内では計画した杭の全部が一度に施工されない限り、杭の働きは個別的なものとなって効果が期待できないので、このような箇所では適切な工法とはいえない。
1-1 杭の構造
杭の構造は、地すべりの規模および周辺の状況に応じて選定するものとする。また、外力に対し杭の全断面が有効に働くように設計するものとする。
1-2 杭の配列
杭の配列は、地すべりの運動方向に対して概ね直角で、等間隔になるよう設計するものとする。
1-3 基礎への根入れ
杭の基礎部への根入れ長さは、杭に加わる土圧による基礎部破壊を起こさないよう決定するものとする。
2. シャフト工
シャフト工は、地すべり推力が大きく、杭工では所定の計画安全率(P.Fs)の確保が困難な場合で、基礎地盤が良好な場合に計画するものとする。シャフト工は、対象となる地すべり地域の地形および地質等を考慮し、所定の計画安全率が得られるよう設計するものとする。
シャフト工は地盤条件の関係で杭挿入の設置が不可能な場合または地すべり土圧が大きく、杭工では計画安全率の確保が困難な場合で、基礎の地盤が比較的良好な場合に用いられることが多い。
3. グラウンドアンカー工
グラウンドアンカー工は、基盤内に定着させた鋼材の引張強さを利用して、地すべり滑動に対抗しようとするもので、引張効果あるいは締め付け効果が効果的に発揮される地点に計画するものとする。
グラウンドアンカー工は、対象とする地すべり地域の地形および地質等を考慮し、所定の計画安全率を得られるよう設計するものとし、その引張力に対するアンカー自体の安定性を確保するとともに、定着地盤および反力構造物を含めた構造物系全体の安定が保たれるよう設計するものである。
アンカー工は、高強度の鋼材を引張材として地盤に定着させ、引張材の頭部に作用した荷重を定着地盤に伝達し、群体としての反力構造物と地山とを一体化することにより安定化させる工法である。地すべり地の地形・地質およびその移動状況等に基づいて検討を行い、地すべり地が急勾配で、杭工、シャフト工では十分な地盤反力が得られない場合、緊急性が高く早期に効果の発揮が望まれる場合等に、適切な位置に計画する。
アンカーは基本的には、アンカー頭部(反力構造物を含む)、引張部およびアンカー定着部(アンカー体および定着地盤)の3つの構成要素により成り立っており、アンカー頭部に作用した荷重を引張部を介して定着地盤に伝達することにより、反力構造物と地山とを一体化させて安定させる工法である。
このため、十分な耐久性が必要とされ、かつ引張荷重に対して各部位の安定性が保たなければならず、アンカー工の設置位置、定着地盤の位置、アンカーの配置、アンカー傾角および反力構造物の規模および構造等は、地すべり地の地形、地質および移動状況を考慮し十分 注意して決定する必要がある。
3-1 アンカーの防食
腐食のおそれのある材料を用いるアンカーに対しては、アンカーの防食の方法を選定するために、アンカーの腐食環境条件の調査を行う。また、永久アンカーは、その供用期間中にアンカーの機能が低下しないように確実な防食を行う。
腐食のおそれのある材料を用いるアンカーについては、適切な防食を講じ、供用期間中にアンカーの機能が低下しないようにするものとする。材料自体が、腐食しない連続繊維補強材とか、鋼材の表面に確実な防食層を持つ防錆された材料は、腐食のおそれがなく防食を必要としない材料としてよい。
3-2 受圧板
受圧板は、アンカーの引張力に十分耐えるように設計するものとする。
受圧板は、アンカー工を定着させるために斜面等に設定される反力構造物である。反力構造物である受圧板には、のり枠や板、十字ブロック等があるが、斜面の状況、アンカーの諸元、施工性、経済性、維持管理および景観等を十分考慮して選定し、受圧板の型式と斜面状況に応じた設計を行うものとする。
- 受圧板への作用力
- 受圧板への作用力は、基本的に設計アンカー力Tとその反力としての地盤反力とし、受圧板に使用するコンクリートおよび鉄筋の許容応力度は、「 コンクリート標準示方書」によるものとする。
- 断面力の算定
- 断面力の算定は、原則として梁モデルにて行うものとし、地盤反力を等分布荷重として扱うか、アンカー力を集中荷重として扱うかは、背面地盤の状況を十分考慮して決定する。
6. 地すべり防止施設計画
地すべり防止施設計画の基本
地すべり防止施設配置計画の規模は、一般に計画安全率で示され、一体となって移動していると考えられる運動ブロックごとに、安定解析によって定められる。
- 計画安全率の決定: 地すべりの現象と規模、保全対象の重要性、地すべりによって生ずることが想定される被害の程度、緊急性等を総合的に考慮
- 計画安全率の注意: 防止工事による相対的な安全率の向上を示すものであり、必ずしも工事実施後の斜面の安定度そのものを示すものではない
- 安定解析: 地すべりの特性(平面形、すべり面形状、移動状況等)に応じて適切な解析手法により行い、地すべり防止施設の規模を決める
抑止工
抑止工は、構造物の抵抗によって、地すべりの抑止が図られるよう地すべりの滑動力に対して安全な構造とし、移動土塊に対して十分な効果を発揮できるように計画するものとする。
抑止工は、以下の各工法の特徴を踏まえて、地すべりの抑止に適切な位置、数量を計画する。
工法名 | 特徴 |
---|---|
杭工 | 杭を不動地盤まで挿入し、付加された杭のせん断抵抗力や曲げ抵抗力によって地すべりの滑動力に直接抵抗することを目的として計画する。 |
シャフト工(深礎工) | 径2.5~6.5m程度の縦坑を不動地盤内まで掘削し鉄筋コンクリートを打設したもの。地すべりの滑動力が大きく、杭工では所定の計画安全率の確保が困難な場合で、不動地盤が良好な場合に計画する。 |
アンカー工 | 不動地盤内に定着させた鋼材等の引張強さを利用して、地すべり滑道に対抗しようとするもの。引き止め効果、締め付け効果あるいはその両方が効果的に発揮される地点に計画する。 |
第2節 斜面の安定解析(標準)
1. 安定解析
安定解析は、地すべりの調査結果を用いて、地すべり発生の可能性のある平面的範囲、すべり面の深さ、すべりの方向を想定し た地すべりブロック毎に行う。
安定解析は、地すべりブロックの主測線上で設定したすべり面を対象として簡便法に基づいて、地すべり土塊の断面をいくつかのスライスに分割して行う。
2. 土質強度定数(c、Φ)
すべり面のせん断強度を決定する方法には、逆算法と土質試験による方法の2つの方法があり、一般には逆算法が用いられる。
2-1 現在活動中の地すべりの場合
すべり面深度をできる限り正確に推定し、安全率をFs=0.951.0の範囲で設定し、すべり面の平均的な強度定数c、φを求める。0.951.0の安全率の選択は、地すべり移動の程度に応じて行う。
c-tanφの関係図から、c、φを決定する場合、下表2-2-1に示す経験値からcを仮定して、他方のtanφを決定することができる。
地すべりの平均鉛直層厚(m) | 粘着力c KN/m^2 |
---|---|
5 | 5 |
10 | 10 |
15 | 15 |
20 | 20 |
25 | 25 |
2-2 現在活動していない地すべりの場合
現状の安全率を「道路土工 切土工・斜面安定工指針 11-2 地すべり調査 解表11-2 地すべりの型の分類」に述べられている平均的な安全率の項を参考にする。
3. 間隙水圧
安定解析に用いる間隙水圧は、間隙水圧を計測するための最も適切な手法によって測定された値を用いるものとする。
すべり面に沿った間隙水圧は、すべり面付近の間隙水圧計の測定結果により得た最も大きな水圧を採用することが原則であるが、便宜的に、各ボーリング孔で確認された最高水位を採用するか、または地盤の水理条件から考えられる最高水位を採用する。
第3節 抑制工(標準)
1. 地表水排除工
地表水排除工は、降雨や地表水の浸透や湧水、沼、水路等地すべり地域内外からの再浸透によって地すべりが誘発されるのを防止するために計画する。
地表水排除工の設計にあたっては、その目的とする機能が十分に発揮されるように、地すべりの状況を十分考慮するものとする。また、安全性 および維持管理の容易さ等を考慮するものとする。
地表水排除工の設計にあたっては、次のことに留意する必要がある。
- 地すべり地域内に設ける地表水排除工の構造は柔軟なものとし、ある程度の変状に対して、それに応じて機能を維持でき、また、修理の容易なものとする。
- 地表水排除工は、必要に応じて暗渠工併用の構造とする。地表水排除工には、浸透防止工と水路工がある。
1-1 水路工
水路工は、地すべり地域内の降水を速やかに集水して地域外に排除するため、また、地域外からの流入水を排除するために計画するものとする。
水路工の設計にあたっての留意点:
- 水路工は、斜面からの地表水の集水とともに凹部に集まる水の再浸透を防ぐ目的を持っているため、掘込水路とするが、地すべり地内では掘削を最小限度にとどめるようにルートを選定するものとする。また、将来の維持管理を考慮して、なるべく幅の広い浅い形状となるようにするものとする。
- 断面は、流量計算を行って対象流量を求め、決定するものとする。これに用いる計画対象降雨量は、原則として超過確率1/50の規模とする。ただし、断面の最小幅は、30cmとする。
- 水路断面は、一般的に土砂等の堆積や変形による断面の減少等を考慮して2で求めた断面積の20%以上の余裕をみておく必要がある。
- 水路工の肩および切取りのり面に対しては、その破損を防止するため、原則としてのり面保護を行うものとする。