第8章 排水機場
第1節 基本事項
1. 定義
排水機場とは、ポンプによって河川または水路の流水を河岸、または堤防を横断して排水するために、河岸または堤防の付近に設けられる施設であって、ポンプ場とその付属施設(吐出水槽、樋門等)の総称である。
排水機場には、通常、樋門が設けられるが、まれには樋門の代わりに水門が設けられる場合もある。また水門および樋門を設けないで、小規模な吐出管によって堤防を横過する場合も少なくない。
構造令ではポンプ場およびその付属施設を排水機場と称しているが、許可工作物である場合は、その適用範囲について注意を要する 。すなわち、許可工作物である場合、樋門は当然河川区域内に設けられるとしても、ポンプ場等は河川区域外に設けられる場合が多いが、その場合においてポンプ場等にまで構造令が適用されるのかどうかという点である。構造令の適用範囲は以下のとおりである。
- 排水機場の「吐出水槽その他の調圧部」についてはすべての場合、また、排水機場の「ポンプ室」については、河川区域内のものまたは河川区域内にまたがる場合のみ構造令を適用することとしている。
- 排水機場に付属して水門または樋門が設けられる(ポンプ排水のみに供する水門または樋門)場合、当該水門または樋門については、「構造令 第57条第2項」の規定によって「構造令 第49条(河川を横断して設ける水門の径間長等)第2項」の適用がないことのほかは、「構造令 第46条~第53条」の水門および樋門に関する諸規定の適用がある。
2. 適用基準等
排水機場の設計に適用する主な基準等は以下の通りである。
- 改訂解説・河川管理施設等構造令(平成12年1月、日本河川協会)
- 河川砂防技術基準 同解説 計画編(平成17年11月)
- 河川砂防技術基準(案)同解説 設計編I(平成9年10月)
- 揚排水ポンプ設備技術基準(案)同解説(平成13年2月、河川ポンプ施設技術協会)
- ダム・堰施設技術基準(案)(平成23年7月、ダム・堰施設技術協会)
- 設計便覧(案)機械編、電気通信編(平成24年4月、近畿地方整備局)
- 河川構造物の耐震性能照査指針・解説 Ⅳ水門・樋門及び堰編(平成24年2月、国土交通省水管理・国土保全局)
- その他関係法令等
排水機場の設計に考慮する主要な荷重は以下の通りである。
- 自重:機場(吸水槽、上屋等)およびポンプ設備の荷重を考慮する。原動機の基礎コンクリートの大きさは、その振動等を考えて、必要な重量と厚さを有する必要がある。
- 静水圧:考えられる静水圧の組合わせを検討する。ただし、地震時慣性力と機場運転時(洪水時)における水圧は、同時に作用しないものとする。
- 揚圧力:揚圧力は、機場の水位差が最大となる水位により求めるものとする。
- 地震時慣性力:水平方向についてのみ考慮する。
- 温度荷重:温度変化を±15.0℃とし、膨張係数を鋼で0.000012、コンクリートで0.00001として計算する。
- 土圧:土圧は原則としてクーロン公式を用いて常時および地震時について計算するものとする。
- 風荷重
- 雪荷重
- 自動車荷重:大型の自動車のA活荷重、またはB活荷重を基本とするが、状況に応じた荷重を使用してもよい。
3. 沈砂池
沈砂池は、流水中の土砂を沈降させてポンプの摩耗、損傷を防ぐため、必要に応じて吸水槽の前に設けるものとする。沈砂池の流入部は、偏流を防ぐようにするものとする。
流水中の土砂はポンプの主要部の寿命を低下させる原因となるので、特に砂礫質の土砂がポンプに流入する恐れのある場合には、河川の状況等により必要に応じて沈砂池を設けるものとする。
沈砂池を設置する場合の留意点は、以下のとおりである。
- 沈砂池の形状:沈砂池は、吸水槽の導水路も兼ねるので、流れの方向や流速の急変は避け、均等な流速とし、偏流や死水の生じないよう方向、大きさ等を検討するものとする。
- 沈砂池の大きさおよび深さ等の諸元:流水の流況、流入土砂の粒度を勘案し、ポンプの摩耗等の影響が生じないように設定するものとする。
- 沈砂池の構造:地表面下深く築造され、土圧、揚圧力等の荷重が作用し、不同沈下の影響を受ける恐れがあるため、原則として堅固で水密な鉄筋コンクリート構造とする。
- 沈砂池の伸縮継手:沈砂池が長い場合、地盤が軟弱な場合、荷重や支持層が変化する場合には、必要に応じて適当な間隔に伸縮継手を設けるものとする。
- 沈砂池の計画:一般に粒径が0.3mm以上の土砂を除去するものとして計画する。
3-1 設計
沈砂池は、設計荷重に対して安全な構造となるよう設計するものとする。
大型の沈砂池は、一般に擁壁と床版との組合わせによる構造であるので、計算は擁壁と床版を分離して行うものとする。
擁壁は、転倒、滑動、支持力について検討するものとする。床版は、施工時の自重および揚圧力に対する基礎の安全性について検討を行うものとする。擁壁は、床版が洗掘、その他により破壊しても影響を受けないよう、原則として自立構造とするものとする。ただし、沈砂池の幅が小さく、擁壁と床版が 一体構造の場合は、一体として検討を行うものとする。
4. 機場上屋
4-1 ポンプ室
ポンプ室は、次に示す内容を考慮して設計を行うものとする。
- ポンプ室の大きさ:「揚排水ポンプ設備技術基準(案)同解説」に準ずるものとするが、ポンプ台数、電気設備、附属設備、将来の増設、仮置場等を考慮して、決定するものとする。
- ポンプ室の防湿・防音対策:ポンプ運転時の防湿対策、騒音対策等が必要な場合には、適切な換気や防音構造を持つポンプ室を設けるものとする。
- ポンプ室の機器配置:ポンプ室には、主ポンプ、付属設備、機器搬入口等を機能的に、かつ整然と配置するものとする。
4-2 操作室、管理室等
排水機場には、適切な操作室、管理室等を設け、管理室は、操作室、電気室、ポンプ室等の監視に適当な位置に設けるものとする。
操作室は、原則として場内と場外設備全体をよく見渡せる位置に設けるものとする。また、配電盤等を格納する電気室は、換気と採光がよく、乾燥した場所で、乾燥、器具の点検、調整等が容易な広さを有するものとする。
4-3 設計
排水機場の上屋の設計は、建築基準法、同施行令、消防法等の関連法令および以下に示す仕様書等に準拠するものとする。
- 「建築基礎構造設計指針」(日本建築学会)
- 「建築工事共通仕様書(追補付 平成11年4月再編集版)」(建設大臣官房官庁営繕部)
- 「機械設備工事共通仕様書および標準図」(建設大臣官房官庁営繕部)
- 「電気設備工事共通仕様書および標準図」(建設大臣官房官庁営繕部)
- 「建築工事標準仕様書・同解説」(日本建築学会)
5. スクリーン
ポンプ運転時に浮遊物が流入しポンプ運転に支障を与える恐れがある場合は、ポンプの保護と安全対策として、ポンプ吸込槽入口には、必要に応じてスクリーンを設けるものとする。ただし、人力除塵での対応が困難な場合に限って除塵機を設置するものとする。
除塵機で排除できない大きな流下物、園芸用のビニール等がある箇所にあっては、スクリーンの前方に必要に応じて杭やフロータを設けるものとする。
6. 角落し等
吸水槽の流入口には、吸水槽の除砂、スクリーンおよびポンプ設備の点検修理、土木構造物修理用の角落しのため、戸溝を設け るものとする。
7. 付属設備
機場には、必要に応じて付属設備を設けるものとする。
付属設備としては、以下に示すような施設が考えられる。
- ポンプ運転に必要な水位の検知と監視のための水位計、照明灯等
- 換気設備、消火設備、避雷針設備、冷暖房設備、飲料水設備等
- 大容量の機場で公害規制等のある地域での内燃機関排気のための集合煙突設備
- その他、ポンプ運転のための支援設備
第2節 耐震設計(標準)
排水機場は、所定の耐震性能を保持するよう、設置される地盤条件、機場の規模、構造形式等に応じて、適切に設計するものとする。耐震設計は、「河川構造物の耐震性能照査指針・解説」に準じて行うものとする。
2-5 基礎
排水機場の基礎は、上部荷重を良質な地盤に安全に伝達する構造として設計する。
基礎形式は、直接基礎、杭基礎が考えられる。基礎形式の選定にあたっては、必要工期、作業場面積の大小、環境面での制限、施工機械の保有量等を考慮するものとする。
また、機場地点の地質条件等によっては、地震時に基礎地盤が液状化する可能性 があるので、必要に応じて液状化対策を行うものとする。地震に対する照査は、「道路橋示方書」に準ずるものとする。
第3節 救急排水ポンプ(標準)
救急排水ポンプ設備は、比較的小規模な排水施設を対象として、ポンプ設備や電源設備等の可搬設備、運搬、据付機器および現地の固定設備より構成される。
救急排水ポンプ設備は、建設省と(社)河川ポンプ施設技術協会で開発したものであり、屋外で使用できるように設計されているので、排水機場には機器を収納する建物は必要ない。また、ポンプ本体は、同じ周波数で使用する場合、異なる流域の排水機場でも運転できるように、コラムと呼ばれる揚水管部とポンプ本体の取付け部分の寸法は統一されており互換性がある。
1. 選定基準
救急排水ポンプの選定基準は以下の通りである。
- 2河川以上の内水頻発区間であって、可搬式ポンプにより機動的かつ効率的な排水が可能な地域を対象とする。
- 当該排水に必要なポンプの排水容量の規模が概ね10m³/s以内であること。
- 排水先河川の必要な流下能力が確保されていること。