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第6章 樋門

第1節 基本事項

1. 定義

樋門とは、河川または水路を横断して設けられる制水施設であって、堤防の機能を有するものをいう。

樋門と水門の区別については、当該施設の横断する河川または水路が合流する河川(本川)の堤防を分断して設けられるものは水門であり、堤体内に暗渠を挿入して設けられるのは樋門である。通常、支川がセミバック堤(半背水堤)の場合は水門を採用し、自己流堤の場合は、樋門を採用する。なお、構造令では、樋門と樋管の区別はなく、通常樋管と称しているものも樋門に含めて取り扱うこととしている。

2. 樋門設計の手順

樋門設計の手順は以下の通りである。

  1. 設計目的を確認
  2. 基本条件の検討・整理
    • データ量が十分でない場合は追加調査を実施
  3. 基本事項の検討
    • 位置の検討
    • 敷き高の検討
    • 必要断面の検討
    • 断面形状の検討
    • 形式検討(樋門、水門)
  4. 水門の場合
    • 基礎地盤検討
      • 沈下量、変位量検討
      • 地盤対策工検討
    • 構造検討
      • 函材の検討
      • 基礎形式検討
      • 構造形式検討
    • 門扉構造検討
      • 門扉検討
      • 巻上げ装置
  5. 景観検討
    • 全体景観検討
    • 操作室形式、デザイン検討
  6. 基本図作成
    • 全体計画図
    • 計画一般図
  7. 施工計画検討
    • 工法検討
    • 仮設検討
    • 工程検討
  8. 総合検討、計画の妥当性検討
  9. 細部設計

第2節 構造(標準)

1. 樋門の基本諸元

1-1 樋門の構造形式

樋門の構造形式は、基礎地盤の残留沈下量および基礎の特性等を考慮して選定するものとし、原則として柔構造樋門とする。

樋門の構造形式は、地盤の沈下への対応特性から柔構造樋門と剛構造樋門に分けられる。堤防内に設置される樋門の構造形式は、地盤あるいは基礎の沈下・変位に追随し、周辺堤防に悪影響を及ぼすことが少ない柔構造樋門とすることを原則とする。ただし、基礎地盤の残留沈下量が樋門の構造特性を損なわず、周辺堤防に悪影響を及ぼさない範囲のものであるとき、あるいは抑制する場合には剛支持の直接基礎形式としてもよい。なお、杭基礎等を用いた剛支持樋門は、函体周辺の空洞化や堤防クラックの発生等によって、堤防機能を損なう恐れが高いため、特殊な制約条件がある場合を除いて適用してはならない。

樋門の構造形式とその特徴は以下の通りである。

  • 柔構造樋門
    • 主要構造:本体の沈下を許容する
    • 基礎形式:柔支持基礎
    • 継手構造:カラー継手、可とう性継手、弾性継手
    • 函軸構造形式:函軸たわみ性構造
    • 門柱、ゲート、管理橋:傾斜に対応できる構造
  • 剛構造樋門
    • 主要構造:本体の沈下をほとんど許容しない
    • 基礎形式:剛支持基礎
    • 継手構造:カラー継手、可とう性継手、弾性継手
    • 函軸構造形式:函軸非たわみ性構造、函軸たわみ性構造
1-2 樋門の断面
1-2-1 排水樋門

排水樋門における函渠断面は、次のとおり決定する。

  1. 函渠断面は、維持管理の容易性等を考慮して内径1.0m以上でなければならない。
  2. 函内流速は、支川の計画を考慮して函内に土砂が堆積しないように配慮して決定する。
  3. 函体断面の内法高は、流木等の流下物が特に多い場合を除き、計画排水量が流下するときの水位に以下の表に掲げる値を加えた高さ以上とする。また、即時沈下量の1/2程度をキャンバー盛土として実施することにより、残留沈下量を低減することもできる。
計画高水流量(m³/s)余裕高
20未満計画高水流量が流下する断面の1割を内法幅で除した値以上
50未満0.3m以上
50以上0.6m以上(0.1m単位に切り上げる)

※残留沈下量の扱いは、適宜検討の上、上表の値に加算してもよい。

また、供用後は追跡調査を実施するものとし、期間は3カ年程度として調査計画を立案して実施する。なお、3カ年後においても沈下傾向がある程度継続している場合は調査を継続するものとする。

1-2-2 取水樋門

取水樋門の断面は、排水樋門に準じるが、計画取水量に対応できかつ函体内に土砂が沈殿しないように断面を定めるのがよい。取水可能量が過大となる場合には、計画取水量以上の取水ができないような措置を行なう。

1-2-3 余裕高の設定

柔構造樋門は函体の沈下を許容するものであり、沈下が生じてもその機能を確保する必要高さを余裕高さとして函体断面を計画する。

1-3 二連以上の函渠の径間長および断面

二連以上の函渠の端部の通水断面は、原則として本体中央部の通水断面と同等とする。また、樋門等が4連以上で、かつ、樋門延長Lと樋門幅Wの比L/Wが1.5未満の場合は流水線が急に曲がることを防ぐため、端部と中央部を直線上にそろえることができる。

二連以上の函渠の端部の通水断面は、「構造令第49条」および「河川砂防技術基準(案)同解説設計編I第1章第8節樋門」に準ずるものとする。

樋門等の延長が長いと、流水線の変化が出入口のみとなり、あまり支障とならず、かつ費用の点でも前記の方針を適用するとかなりの差が生じるため、樋門延長と樋門幅の比が1.5未満の場合には、端部と中央部を直線上にそろえることができるものとした。ただし、樋門管理上や流水線の変化が支障とならない場合には、施工性等を考慮してL/Wが1.5以上の場合でも端部と中央部を直線上にそろえることも検討するものとする。なお、4連以上の樋門の場合は、水門とした方が好ましい場合が多いので、構造の選択については十分検討のうえ決定する必要がある。

1-4 樋門の本体長

樋門の本体長は、原則として計画堤防断面の川表および川裏の法尻までとする。

なお、敷高および通水断面等の樋門の機能の確保のために、堤防断面を切込まざるを得ない場合においても、切込みを必要最小限とするように努めなければならない。

必要最小限の切込みは、胸壁が護岸の基礎として機能することを考慮して、本体頂版から胸壁の天端までの高さが1.5m以下とすることであり、胸壁が護岸の基礎として機能することを考慮して、0.5m程度とすることが望ましい。

1-5 樋門の敷高

樋門の敷高は、堤内湛水地域の地盤高、本川の河床高、支川あるいは水路の敷高、湛水位を考慮して堤防の安全、用排水に支障のない高さとする。

樋門の敷高の決定に際しては、以下の事柄に留意して、決定するものとする。

  1. 排水樋門の敷高は、低すぎると吐口付近に土砂が堆積して流下断面積が減少し、高すぎると排水能力が減少するので、本川の河床高と支川あるいは水路の敷高との関係から決定する。
  2. 取水樋門の敷高は、河床低下により取水困難となっている例が多く、低すぎると取水量が水利権以上となることがあるので、過去の河床変動の動向を調べ将来の河床低下を考慮して決定する。

2. 樋門本体の構造

樋門本体は、鉄筋コンクリート構造またはこれに準ずる構造とするものとする。

「これに準ずる構造」とは、強度、耐久性等が鉄筋コンクリート構造と同等と見なせる材質のものであり、プレキャストコンクリート管、鋼管およびダクタイル鋳鉄管を含むものとする。また、その他のたわみ性管(高耐圧ポリエチレン管、FRP管、強化プラスチック管等)を使用する場合には、検討を十分に行い、その安全性を確かめるものとする。

3. ゲート等の構造

樋門のゲートは、確実に開閉し、かつ、必要な水密性を有し、鋼構造またはこれに準ずる構造とするものとする。また、樋門のゲートの開閉装置は、ゲートの開閉を確実に行うことができる構造とするものとする。

樋門のゲートの構造については、構造令の準用規定がない。これは、樋門は川とはいえない小規模な水路を横断して設けられるものも非常に多く、その規模は千差万別であり、極めて小規模な樋門のゲートについては、ある程度弾力的な取扱いが必要であるという事情によるものである。なお、大規模な樋門のゲートについては、必要に応じ、ダムのゲートに関する規定を準用すべきは当然のことである。ただし、完全掘込河道の場合はゲートを設ける必要はない。

4. 管理施設等

樋門には、管理橋等その他の必要な管理施設を設けなければならない。

樋門に必要な管理施設としては、次のものがある。

  • 管理橋
  • ゲート操作台および上屋
  • 階段
  • 防護柵
  • 水位標
  • 照明設備
  • 監視装置
  • その他

5. グラウトホール

函体底版下の空洞化を監視するため、原則として函体底版にはグラウトホールを設ける。グラウトホールには空洞測定用沈下板を設置するのがよい。

グラウトホールの設置間隔は、遮水矢板の位置、グラウトの能力を考慮して決定する。

第3節 基礎地盤の検討(標準)

1. 地盤調査

地盤調査は、ボーリング調査、原位置試験および室内土質試験の組み合わせで実施する。調査位置は、原則として樋門の計画位置とし、必要に応じてその周辺にて行う。

地盤調査の目的は、土層構成、土質、地下水の状況等を把握し、設計に必要な地盤性状および土層の特性等の条件を把握することにある。

1-1 一般的な調査項目

地盤調査の一般的な調査方法により得られる情報とその利用法は以下の通りである。具体的な調査項目は、これらを参考として選定する。

  • 土層構成の把握、土質定数の概略推定
    • ボーリング:土層区分(分類、厚さ)、地下水位、支持層の位置を把握し、土層構成を把握する。
    • 標準貫入試験(ボーリングと併用):N値、資料採取による土質の分類から、砂の内部摩擦角、砂地盤の液状化の判定、粘土の一軸圧縮強さ、粘着力、杭の鉛直支持力、土の変形係数、水平方向地盤反力係数を推定する。これらの調査結果から推定される土性値は、あくまで概略値として用いるべきである。
  • サウンディング、原位置試験- オランダ式二重管コーン貫入試験:コーン支持力から、N値の推定、粘土の一軸圧縮強さ、粘着力を推定する。一般に概略的な調査として、あるいはボーリング間の土層の連続性を把握するために用いる。
    • スウェーデン式サウンディング試験:貫入量1mあたりの半回転数から、N値の推定、粘土の一軸圧縮強さ、粘着力を推定する。
  • 地盤の変形特性
    • ボーリング孔内水平載荷試験:地盤の変形係数、水平方向地盤反力係数を求め、地盤の即時沈下、側方変位量を推定する。軟弱地盤では本試験を実施するのが望ましい。
  • 地盤の鉛直支持力
    • 平板載荷試験:地盤の極限支持力、鉛直方向地盤反力係数、変形係数を求め、地盤の支持力、水平方向地盤反力係数を推定する。特に入念な検討を行う場合に調査する。
  • 土質定数の推定
    • 室内土質試験
      • 物理試験(土粒子の密度、含水比、湿潤密度、粒度、液性・塑性限界試験など):土の判別分類、土粒子の密度、含水比、湿潤密度、粒度分布、液性・塑性限界を求める。砂地盤の液状化の判定、地盤の透水係数の推定(粒度試験結果より)、粘土の圧縮指数、圧密係数の推定(液性・塑性限界試験結果より)に利用する。一般に粘性土を対象として行う。土の力学特性の推定値は、あくまで概略値として用いるべきである。
      • 一軸圧縮試験:土の一軸圧縮強さ、変形係数を求め、土の粘着力、水平方向地盤反力係数を推定する。盛土材の土質定数を求める場合、盛土の安定を検討する場合には、この試験が必要である。
      • 三軸圧縮試験:土の粘着力、内部摩擦角、変形係数を求め、地盤の支持力、土の強度増加率、水平方向地盤反力係数を推定する。
  • 圧密沈下量の推定
    • 圧密試験:圧密降伏応力、e-logP曲線、圧密係数、体積圧縮係数を求め、粘土層の圧密沈下量、圧密時間を推定する。軟弱粘性土地盤の場合は、この試験が必要である。
  • 地下水対策、透水性地盤
    • 地下水調査
      • 地下水測定:各帯水層の地下水位、間隙水圧、流向・流速を測定し、水圧分布の測定、被圧の有無の判定、砂地盤の液状化の判定、工法選定の資料とする。堤防開削の場合には調査することが望ましい。
      • 現場透水試験、室内透水試験、揚水試験:地盤の透水係数、地盤の貯留係数を求め、工法選定の資料とする。透水性地盤や重要な構造物の場合は、調査することが望ましい。地盤の透水係数を求める方法としては、揚水試験が最も信頼性が高い。
1-2 軟弱地盤および透水性地盤の調査項目

樋門を建設する際に問題となる地盤は、軟弱地盤および透水性地盤である。

1-2-1 軟弱な粘土性地盤の調査

a. 孔内水平載荷試験

  • 地盤の変形特性を把握するためにボーリング孔を利用した孔内水平載荷試験が一般的であり、各層を代表する深度を選定して実施する。

b. 物理試験等の室内土質試験

  • 土質、強度、圧密特性を明らかにするための試験等として、シンウォールサンプラーまたはフォイルサンプラーを用いて乱さない資料を採取して、物理試験(土粒子の密度、含水比、粒度、湿潤密度、液性・塑性限界等)、一軸圧縮試験、圧密試験、三軸圧縮試験、その他試験等を地盤の状況に応じた試験を行う。

c. その他補助調査

  • 軟弱層の深さ、層厚、広がり、原位置強度特性等について詳細に調べることを目的として、オランダ式二重コーン試験、スウェーデン式サウンディング試験、三成分コーン試験等を行う。
1-2-2 有機質土地盤の調査

基本的に可能であれば、上記軟弱な粘土性地盤に準じた試験を行う。その他強熱減量試験を行う。

1-2-3 緩い砂地盤の調査

a. ボーリング孔を利用して孔内水平載荷試験を行う。また、被圧水頭の影響が予測される場合には間隙水圧の測定を行う。

b. 物理試験

  • 乱さない資料の採取は一般的に困難であるので、標準貫入試験で得られる資料を用いて、地震時の液状化判定に必要な物理定数を求めるための物理試験(土粒子の密度、含水比、粒度等)を行う。必要があれば、ボーリングの補助として、軟弱層の深さ、層厚、広がり、原位置強度特性等について詳細に調べることを目的として、スウェーデン式サウンディング試験を行う。
1-3 耐震設計のための調査項目

耐震設計を行う場合は、耐震設計の内容に応じた調査を行う。耐震設計で必要な土質定数と調査法の概要は以下の通りである。

目的調査方法得られる情報他の定数からの推定
設計震度、地盤種別PS検層S波速度(Vs)N値から推定可
液状化判定標準貫入試験--
地盤の変形特性PS検層S波速度(Vs)N値から推定可
FEMによる変形解析PS検層S波速度(Vs)N値から推定可
対策工現場透水試験、揚水試験-透水係数は粒径D10、D60から推定可

2. 地盤の残留沈下量の許容値と地盤の安定

地盤の残留沈下量の許容値の目安は以下の通りである。

硬式樋門の構造形式残留沈下量の許容値
直接基礎5cm
柔支持基礎キャンバー盛土非考慮:30cmキャンバー盛土考慮:50cm

地盤の安定は、沈下・側方変位、支持力、液状化に対して検討する必要がある。樋門の基礎地盤および樋門の周辺堤防の安定は、常時および地震時の円弧すべり安全率によって評価することが可能であり、円弧すべりに対する許容安全率は、一般に次の値がとられている。地震時の検討においては、慣性力および過剰間隙水圧を考慮する。

  1. 常時:Fs=1.2
  2. 地震時(慣性力考慮):Fsh=1.0
  3. 地震時(過剰間隙水圧考慮:砂質地盤):Fsd=1.0
2-1 荷重条件の検討
2-1-1 堤防盛土条件

沈下計算に考慮する盛土条件を設定する場合は、沈下が終息している既設盛土と盛土荷重として考慮する新規盛土を明確に区分しなければならない。さらに、次の項目について検討し、必要に応じて考慮する。

  1. 余盛り盛土
  2. 置換する場合は、置換材と原状土の単位体積重量差
  3. 荷重として考慮した盛土(湿潤重量)が地下水位以下に沈下することによる浮力(水中重量)の影響
  4. 堤防天端高を確保するために堤防が沈下した分を追加する盛土による影響
2-1-2 荷重条件

即時沈下の計算には、床付け面以上の全盛土荷重を考慮する。圧密沈下の計算には、新たに加わる盛土部分のみを考慮する。

上載荷重(活荷重)は、一般に圧密沈下の計算に考慮するのがよい。なお、ここで上載荷重を考慮した場合は、本体の縦方向の計算には上載荷重を考慮しない。

2-2 沈下量、変位量の算定
2-2-1 残留沈下量の算定

地盤の残留沈下量は、函体施工以後の即時沈下量および圧密沈下量の沈下量分布を算出する。一般に樋門の存在を無視して計算してもよい。

2-2-2 地盤の側方変位量の算定

地盤の側方変位量は、盛土の載荷による地盤のせん断変形に伴なう水平変位量とし、地盤を弾性体とみなして求める。一般に樋門の存在を無視して計算してもよい。

なお、側方変位量は、即時沈下量と同様に地盤を弾性体としたFEM解析等によっても求めることができる。

第4節 樋門の設計(標準)

1. 設計に関する一般事項

1-1 本体の設計の基本

柔構造樋門の本体は、函体の構造形式を問わず本体の函軸方向の地盤変位(沈下・側方変位)分布をできるだけ精度良く推定し、地盤変位分布に適切に対応できるように設計しなければならない。

樋門本体の設計は、「河川砂防技術基準(案)同解説 設計編I」および「柔構造樋門設計の手引き」、「建設省制定 土木構造物標準設計」を参考として設計するものとする。

樋門の一般的な設計手順は以下の通りである。

  1. 設計条件の設定
  2. 函体横断方向の設計
  3. 基礎工法の選定
    • 直接基礎の場合:函体横断方向の設計
    • 杭基礎の場合:杭の設計、基礎の設計
    • その他の基礎の場合:基礎の設計
  4. ゲートの設計
  5. 戸当りの設計
  6. 巻上機の設計
  7. 胸壁の設計
    • 継手有りの場合:継手の設計
    • 遮水壁有りの場合:遮水壁の設計、遮水矢板の設計
  8. 門柱の設計
  9. 操作台の設計
  10. 管理橋の設計
  11. 上屋有りの場合:上屋の設計
  12. 翼壁の設計
  13. 取付部の設計
  14. 護岸工・護床工の設計
  15. 付帯施設の設計
1-2 函体の構造形式の選定

函体構造は、地盤の残留沈下量の大きさや分布形状、キャンバー盛土対応、改良後地盤の特性、基礎形式の影響等の条件によって適用性が異なる。このため、沈下対策等の地盤対策を伴う場合は、地盤対策を検討した上で、函体構造の選定を行うのがよい。

函体構造を検討する上で函体の構造形式とりわけ函体の函軸構造形式の特性を理解することが重要である。柔構造樋門の残留沈下(地盤変位)の影響と函軸構造形式の特性との対応は、次のようになる。

  1. 地盤の沈下の影響に対しては、函軸たわみ特性で対応する。
  2. 地盤の側方変位の影響に対しては、函軸変位特性で対応する。

函軸たわみ性は、函体構造、スパン割、継手の変形能力によって達成される。函体構造と継手構造は密接に関係するので、函体構造を検討する場合は、継手構造との適合性を考慮する。一般的に用いられる函体構造は以下の通りである。

構造材料形状特徴
コンクリート構造矩形(円形)RC構造、PC構造
ダクタイル鋳鉄管円形大きな沈下に対応できる、管長4~6m、弾性継手、溶接が適さない
鋼構造円形比較的大きな沈下に対応できる、水密性が高い、弾性継手、防食が必要

2. 函体の横方向の設計

2-1 設計モデル

函体の横方向は、函体の材質・断面構造等の特性を考慮して設計する。

函体の断面構造には、その形状から矩形、円形、幌形(アーチ形)があり、さらに、円形管体は剛性管とたわみ性管に分けられる。函体の横方向の設計にあたっては、これらの断面構造および材料特性に応じた設計法を適用する。

2-2 荷重の設定

荷重は、函体横方向にもっとも不利な断面力が生じるように作用させるものとする。

函体の横方向の設計にあたっては、以下に示す荷重について函体に最も不利となる組合せを設定して部材計算を行う。

荷重種別函体の横方向の設計での考慮
死荷重(函体自重)
活荷重(自動車荷重)
土圧(鉛直土圧・水平土圧)
水圧(地下水圧)
内水圧等

※○:考慮する、△:条件によって考慮する

地下水位については、大断面である場合や浮力の影響が大きい場合を除いて、一般に地下水位は無視できる。

(1) 矩形(剛性)函体
  1. 横方向の設計は、各スパンごとに最も危険な断面を選定し、各々の荷重条件に対して検討する。
  2. 排水機場等に接続する函体で内水圧が作用する場合は、内水圧作用時の検討を行う。このときの外圧(鉛直土圧、水平土圧等)は、該当スパンの最小有効土かぶりを考慮する。多連の函体において、排水機場に連結する場合等その一部の断面にのみ内水圧を作用させる場合は、内水圧が偏載荷となる場合を考慮して検討する。
(2) 円形たわみ性管体(ダクタイル鋳鉄管および鋼製管体)
  1. 盛土等の荷重の変化点ごとの各々の荷重条件に対して検討する。
  2. 管体周辺の盛土材の土性を管体の設計支持角に反映させる。
  3. 管体自重は無視してもよい。
  4. 内水圧が作用する場合は、別途検討する。

3. 本体の縦方向の設計

本体の縦方向における設計の基本は次に示すとおりである。

  1. 本体の縦方向の設計には、樋門の構造形式、基礎形式の特性そして地盤の残留沈下量の影響に配慮した設計手法を適用する。
  2. 荷重は、本体に最も不利な断面力あるいは変位を生じるように作用させるものとする。
  3. 本体と地盤との相対沈下量、相対水平変位量は、許容値以内とし、本体の地盤反力度は、地盤の許容支持力度以内でなければならない。

本体の縦方向の計算は、基礎形式に応じて以下のように区分して設計する。浮き固化改良体基礎、浮き杭基礎を原則として設計する。浮き直接基礎として設計するのは、これらの基礎は樋門本体と結合させないで構造的に分離して適用するためである。

基礎形式設計計算法
直接基礎直接基礎
柔支持基礎浮き直接基礎
浮き直接基礎浮き直接基礎
浮き固化改良体基礎原則として浮き直接基礎
浮き杭基礎原則として浮き直接基礎

※注

  1. 地盤の残留沈下量が5cm程度を超える場合は、柔支持基礎とする。
  2. 基礎工の特性によってはその影響を地盤反力係数等により適切に評価した設計法による必要がある。
3-1 設計モデル

本体の縦方向は、基礎形式に応じて次のようにモデル化する。なお、いずれの場合も函体スパンを継手の結合条件に応じて連結した連続梁と仮定して解くのがよい。

  1. 直接基礎の樋門は、本体を「弾性床上の梁」とモデル化する。
  2. 柔構造樋門は、本体を「地盤変位の影響を考慮した弾性床上の梁」とモデル化する。

本体の縦方向の設計は、本体に最も不利な断面力および変位が生じる荷重の組合せを設定して行う。

3-2 本体の縦方向の計算

本体の縦方向は、以下の照査事項を満足しなければならない。

  1. 本体の沈下・側方変位
  2. 地盤反力度、本体と地盤との相対変位(沈下)量
  3. 継手、接合部の変形能力

照査項目と照査方法は以下の通りである。

照査項目照査箇所照査方法
本体の沈下本体省略
側方変位継手部継手の開口量
地盤反力度門柱部函体端部基礎地盤との相対変位量(基礎幅の1%かつ5cm以内)
本体と地盤との相対変位量本体下部相対変位量(空洞量5cm以内)
継手・接合部の変形継手・接合部許容開口量以内

4. 継手の設計

函体の継手は、以下の機能を確保できるように設計する。

  1. 函体内外の水圧に対する水密性
  2. 継手部の変位に対応できる変形能力
  3. 継手部に発生する応力に対する安全性
(1) 継手の特性

樋門で使用される継手の特性は以下の通りである。一般に継手バネは非線形の変形特性を有しており、計算結果としての変形量が弾性範囲の外にある場合は、その特性を考慮した解析(試行による等価線形バネの設定等)が必要となる場合がある。

可とう性継手の結合条件は、一般的にはフリーとすることが多いが、継手ゴムのバネ定数を評価することで弾性継手に準じて設計することもできる。

継手形式継手の種類特徴変形特性結合条件
可撓性継手可撓継手主部材はゴムメンブレン等で、スパン間の相対変位を拘束することが他の構造に比べ少ない。継手の開口、折れ角、目違いをほとんど拘束しないため断面力の伝達は少ない。フリー
カラー継手カラー継手、改良型カラー継手せん断方向には変位を拘束するが、函軸方向に対しての拘束はほとんどない。カラー・函体間に応力分散ゴムを挟んだ改良型カラー継手の場合は、弾性継手として考える。継手の目違いを拘束するが、開口、折れ角をほとんど拘束しない。このため、せん断力のみを伝達する。ヒンジまたは弾性(函軸方向はフリー)
弾性継手プレストレインドゴム継手スパン間にゴムを挟んで、これにプレストレスを与えて弾性を確保した継手である。軸力、せん断力、曲げモーメントを隣接するスパンに伝達させる機能がある。継手バネの大きさとスパン間の変位差に応じた断面力の伝達がある。弾性(函軸方向バネ、せん断バネ、曲げバネ)
メカニカル継手S型ダクタイル鋳鉄管のソケット型の継手パッキング材のゴム輪が弾性挙動を示す。--

第5節 耐震設計(標準)

1. 地震対策の基本

樋門の耐震設計は「河川構造物の耐震性能照査指針・解説」に準ずるものとする。

1-1 耐震性能

樋門の耐震性能は、地震動のレベルに応じて以下のように設定する。

地震動のレベル耐震性能
レベル1地震動1
レベル2地震動2(治水上重要な樋門)、3(それ以外の樋門)

耐震性能の定義は以下の通りである。

  • 耐震性能1:地震によって樋門としての健全度を損なわない性能。
  • 耐震性能2:地震後においても、樋門としての機能を保持する性能。
  • 耐震性能3:地震による損傷が限定的なものにとどまり、樋門としての機能の回復が速やかに行い得る性能。
1-2 耐震設計の基本方針

樋門の耐震性能は、耐震性能の照査に用いる地震動並びに樋門の限界状態に応じて、適切な方法に基づいて行うものとする。ただし、一般には、静的照査法により耐震性能の照査を行えばよい。

1-3 樋門の耐震性の向上

樋門の耐震性を向上させるためには、次の事項に配慮する必要がある。

  • 樋門の耐震性を向上させるには、周辺堤防を含む樋門の全体系の耐震性を向上させることが重要である。とりわけ、周辺堤防の挙動が樋門の耐震性を左右するため、周辺堤防の耐震性の確保を優先して実施する。
  • 砂質地盤の液状化や軟弱粘性土層のすべり等による地盤の変状が生じる可能性がある沖積地盤上では、地震時に樋門の被害が発生する可能性が高い。一般に樋門の構造を強化することによってこれらの変状に対抗することは難しいので、特に、砂質地盤においては液状化を抑制することを設計目標とする必要がある。
  • 地震の影響によって、樋門の周辺堤防は法尻側に変位しようとする。このような地盤の側方変位あるいは側方流動に対しては、樋門の函体の函軸構造形式を函軸緊張構造とすることで対応するのが有効と考えられる。

2. 耐震性能の照査方法

レベル1地震動に対する静的照査法による樋門の耐震性能の照査は、原則として、震度法に基づいて行うものとする。また、レベル2地震動に対する静的照査法による耐震性能の照査は、原則として、地震時保有水平耐力法に基づいて行うものとする。

レベル1地震動に対する静的照査法による樋門耐震性能の照査にあたっては、まず、荷重を算定し、液状化の可能性がある場合には、その影響を考慮するものとする。次に、門柱、基礎、ゲート及び函渠について、それぞれ、耐震性能1の照査を行うものとする。

レベル2地震動に対する静的照査法による樋門耐震性能の照査にあたっては、まず、荷重を算定し、液状化の可能性がある場合には、その影響を考慮するものとする。次に、門柱、基礎、ゲート及び函渠について、それぞれ、耐震性能2又は耐震性能3の照査を行うものとする。

耐震性能の照査内容は、治水・利水上の区分と樋門の各部に応じて以下の通りとする。

治水・利水上の区分樋門の部分レベル1地震動に対する照査レベル2地震動に対する照査
治水上または利水上重要な樋門函渠耐震性能1門柱等に起因して函渠端部に作用する曲げモーメントを考慮し、函渠に生じる応力度が許容応力度以下であることを照査函渠縦断方向の変形を静的に算定し、原則として、函体に生じる曲げモーメント及びせん断力がそれぞれ、終局曲げモーメント及びせん断耐力以下であるとともに、継手を有する場合には継手の変位が許容変位以下であることを照査※レベル2については樋門に求められる性能に対し、左記構造物の部分が損傷した場合でも確実な代替措置がある場合は、耐震性能3の照査を実施
門柱耐震性能2門柱・堰柱に生じる応力度が許容応力度以下であることを照査門柱・堰柱の地震時保有水平耐力が門柱・堰柱に作用する慣性力を下回らないとともに、門柱・堰柱の残留変位がゲートの開閉性から決定される許容残留変位以下であることを照査
基礎基礎に生じる応力度が許容応力度以下であり、かつ、支持、転倒及び滑動に対して安定であるとともに、基礎の変位が許容変位以下であることを照査原則として、地震時に降伏に達しないことを照査。ただし、液状化が生じる場合には基礎に塑性化が生じることを考慮してもよい
ゲート操作台各種関連基準に準拠各種関連基準に準拠
ゲート耐震性能1部材に生じる応力度が許容応力度以下であることを照査耐震性能2ゲートの残留変位がゲートの開閉性から決定される許容残留変位以下であることを照査。ただし、原則として、ゲートの部材に生じる応力度が許容応力度以下であることを照査してもよい
ゲート操作室耐震性能1各種関連基準に準拠耐震性能2各種関連基準に準拠
管理橋道路橋示方書等に準拠道路橋示方書等に準拠
胸壁及び翼壁、中間床板、水叩き、しゃ水工、護床工、護岸、高水敷保護工、付属設備等対象外対象外※構造物の主要な部分ではないため照査対象外としてもよい
それ以外の樋門函渠耐震性能1門柱等に起因して函渠端部に作用する曲げモーメントを考慮し、函渠に生じる応力度が許容応力度以下であることを照査函渠縦断方向の変形を静的に算定し、原則として、函体に生じる曲げモーメント及びせん断力が、それぞれ、終局曲げモーメント及びせん断耐力以下であることを照査
門柱耐震性能1門柱・堰柱に生じる応力度が許容応力度以下であることを照査耐震性能3門柱・堰柱の地震時保有水平耐力が門柱・堰柱に作用する慣性力を下回らないとともに、門柱・堰柱の残留変位が許容残留変位以下であることを照査
基礎基礎に生じる応力度が許容応力度以下であり、かつ、支持、転倒及び滑動に対して安定であるとともに、基礎の変位が許容変位以下であることを照査原則として、地震時に降伏に達しないことを照査。ただし、液状化が生じる場合には基礎に塑性化が生じることを考慮してもよい
ゲート操作台各種関連基準に準拠各種関連基準に準拠
ゲート耐震性能1部材に生じる応力度が許容応力度以下であることを照査耐震性能3ゲートの残留変位が許容残留変位以下であることを照査。ただし、原則として、ゲートの部材に生じる応力度が許容応力度以下であることを照査してもよい
ゲート操作室各種関連基準に準拠耐震性能3各種関連基準に準拠
管理橋道路橋示方書等に準拠道路橋示方書等に準拠
胸壁及び翼壁、中間床板、水叩き、しゃ水工、護床工、護岸、高水敷保護工、付属設備等対象外対象外※構造物の主要な部分ではないため照査対象外としてもよい
5-1 設置位置

樋門等の設置位置は、その設置目的に応じて選定するが地盤の軟弱な場所および旧河道等を避け河状の安定した位置とし、統廃合に努めるものとする。

5-2 設置間隔

樋門相互の設置間隔をやむを得ず近傍する場合は、堤体の弱体化および既設樋門への影響等を生じないよう十分距離を離すものとする。

5-3 方向

樋門の方向は、堤防法線に対して原則として直角とするものとする。ただし、河川の流水方向に対し、上流向きとならないこと。

5-4 その他

高規格堤防や緩傾斜堤防等の計画がある区間に樋門を計画する場合には、設置条件や荷重条件等に留意して設計するものとする。

6. 樋門断面

用水を目的とするものにあっては、取水計画上問題とならない範囲において対象渇水時においても計画取水量が確保できる断面とする。排出水を目的とするものにあっては、計画高水位以下の水位の洪水(計画高水位の定めない水路等においては、水路の設計流量、または流下能力)の流下を妨げない断面とするものとする。管内流速は、接続する支川の流速に比べて著しく増減することがないようにするものとする。

6-1 樋門の総幅員

樋門の総幅員は、「構造令 第48条1.水門および樋門の総幅員」に準じて決定する。

6-2 樋門断面

計画流出量を基に樋門断面を設定する場合には、以下の方法から最も適した方法を採用する。

方法概要適用範囲
限界水深方式樋門吐口の限界水深を境界条件として水面計算を行い断面を決定する方法支川計画が無く、また地形や社会的等の条件により支川計画の想定が適当でない場合及び、本川水位の影響を受ける場合等に適用する。
内水解析方式実績湛水より計画対象湛水を選定し、内水位計算により断面を決定する方法内水排除ポンプや遊水池等樋門方式と他の方式を併設する場合に適用される場合が多い。
流速仮定方式管内流速を仮定して断面を求める方式等流計算を出発点水位として等流、不等流計算により必要断面を求める。

第6節 特殊構造の樋門の設計(参考)

特殊構造の樋門は、次のような場合に採用を検討することができる。

  1. 特殊な現場条件に対応するために、調査・設計・施工法について特別な検討を行う。
  2. 樋門の経済性や施工性向上を目的として、新技術・新材料の特性を活用する。
  3. 柔構造樋門の課題を軽減あるいは解決する構造検討を行う。

特殊構造を理由として、樋門に求められる機能、特に堤防機能の安全性を損なうことを許容するものではない。

特殊な現場条件に対応する樋門を設計する場合は、樋門および周辺堤防の長期的な安全性確保を優先して考慮する必要がある。

1. 非開削工法による樋門

堤防天端あるいは裏小段が交通量の多い道路で、堤防を開削することにより道路の切回しや規模の大きい二重締切を伴う場合は、推進工法等の非開削工法による樋門の構築が有利となる。

推進工法等によって樋門を構築する場合は、堤防および樋門の安定性、機能を備えるように設計するものとし、次の事項について十分な検討を行なわなければならない。

  1. 管周囲が緩められるための浸透流によるルーフィングの対策
  2. 軟弱地盤の場合は、門柱部の不同沈下の可能性とその対策
  3. 腹付け・嵩上げ盛土や将来の増加盛土による地盤の沈下の影響
  4. 遮水工の位置、構造、設置方法
  5. 遮水矢板との接続方法
  6. 締切の考え方

2. 門柱を必要としないゲート構造

樋門のゲート設備の形式および規模は、本体の形式・規模および他の設備との配置を考慮して、設計上与えられた機能を満足するように決定すること。

  • ゲート設備は、設置場所、使用目的や使用条件だけでなく、樋門の立地条件も含めて、適切な形式および規模を選定する。
  • 樋門に必要とされる機能に対して、使用可能なゲート設備(門柱構造に対応したゲートを含む)のうち、一般的によく利用される形式は以下の通りである。
設置目的設備の形式設備の用途ゲートの形式
排水樋門排水、逆流防止、用水制水ローラ、スライド、スイング、マイタ、上端ヒンジフラップ
取水取水制水、取水ローラ、スライド
修理用ゲート修理用補修時の制水角落し
門柱を必要としないゲート構造の採用

門柱なしゲートの設置目的は以下の通りである。

  1. 門柱・管理橋レス化
  2. 基礎処理の軽減
  3. 地盤変位への適応向上
  4. 工期の短縮
  5. 景観との調和
  6. 操作の簡易化

一般的に、門柱ありゲートに比べて門柱なしゲートの方が上記の目的を達成しやすい。

第7節 施工の合理化を図るための設計の考え方(参考)

1. 基本方針

本項は、施工の合理化に対する効果が大きいと考えられる項目に関して、構造物形状の単純化、使用材料の標準化・規格化、構造物のプレキャスト化等の視点を設計等に盛り込むこととしたものである。

2. 対象範囲

樋門の構造のうち、場所打ち鉄筋コンクリート構造による函渠(プレキャスト製品を含む)、胸壁、遮水壁、門柱、ゲート操作台(以下、操作台という)、翼壁を対象とし、コンクリート以外の材質の函渠、継手、ゲート等については対象としない。

また、対象とする樋門の規模は、土かぶり10m程度以下、内空断面の大きさ3.0m程度以下の鉄筋コンクリート構造の樋門とする。

なお、規模の大きい樋門においても、本項の考え方を部分的に利用することで「標準化」等の施工合理化を念頭に置いた設計を心掛けるべきである。また、景観に配慮した構造物については適用外ではあるが、設計思想を踏まえ、合理的な設計を行うものとする。

3. 計画における配慮

樋門の計画にあたっては、設計・施工の省力化の促進を念頭において、以下の事項に配慮するものとする。

  • 構造物形状の単純化
  • 使用材料および主要部材の標準化・規格化
  • 構造物のプレキャスト化

詳細は、「土木構造物設計マニュアル(案)[樋門編]」、「土木構造物設計マニュアル(案)に係わる設計・施工の手引き[樋門編]」によるものとする。

第2節 構造(標準)

1. 樋門の基本諸元

1-1 樋門の構造形式

樋門の構造形式は、基礎地盤の残留沈下量および基礎の特性等を考慮して選定するものとし、原則として柔構造樋門とする。

樋門の構造形式は、地盤の沈下への対応特性から柔構造樋門と剛構造樋門に分けられる。堤防内に設置される樋門の構造形式は、地盤あるいは基礎の沈下・変位に追随し、周辺堤防に悪影響を及ぼすことが少ない柔構造樋門とすることを原則とする。ただし、基礎地盤の残留沈下量が樋門の構造特性を損なわず、周辺堤防に悪影響を及ぼさない範囲のものであるとき、あるいは抑制する場合には剛支持の直接基礎形式としてもよい。なお、杭基礎等を用いた剛支持樋門は、函体周辺の空洞化や堤防クラックの発生等によって、堤防機能を損なう恐れが高いため、特殊な制約条件がある場合を除いて適用してはならない。

1-2 樋門の断面
1-2-1 排水樋門

排水樋門における函渠断面は、次のとおり決定する。

  1. 函渠断面は、維持管理の容易性等を考慮して内径1.0m以上でなければならない。
  2. 函内流速は、支川の計画を考慮して函内に土砂が堆積しないように配慮して決定する。
  3. 函体断面の内法高は、流木等の流下物が特に多い場合を除き、計画排水量が流下するときの水位に表2-1-2に掲げる値を加えた高さ以上とする。また、即時沈下量の1/2程度をキャンバー盛土として実施することにより、残留沈下量を低減することもできる。

また、供用後は追跡調査を実施するものとし、期間は3カ年程度として調査計画を立案して実施する。なお、3カ年後においても沈下傾向がある程度継続している場合は調査を継続するものとする。

1-2-2 取水樋門

取水樋門の断面は、排水樋門に準じるが、計画取水量に対応できかつ函体内に土砂が沈殿しないように断面を定めるのがよい。取水可能量が過大となる場合には、計画取水量以上の取水ができないような措置を行なう。

1-2-3 余裕高の設定

柔構造樋門は函体の沈下を許容するものであり、沈下が生じてもその機能を確保する必要高さを余裕高さとして函体断面を計画する。

1-3 二連以上の函渠の径間長および断面

二連以上の函渠の端部の通水断面は、原則として本体中央部の通水断面と同等とする。また、樋門等が4連以上で、かつ、樋門延長Lと樋門幅Wの比L/Wが1.5未満の場合は流水線が急に曲がることを防ぐため、端部と中央部を直線上にそろえることができる。

二連以上の函渠の端部の通水断面は、「構造令第49条」および「河川砂防技術基準(案)同解説設計編I第1章第8節樋門」に準ずるものとする。

樋門等の延長が長いと、流水線の変化が出入口のみとなり、あまり支障とならず、かつ費用の点でも前記の方針を適用するとかなりの差が生じるため、樋門延長と樋門幅の比が1.5未満の場合には、端部と中央部を直線上にそろえることができるものとした。ただし、樋門管理上や流水線の変化が支障とならない場合には、施工性等を考慮してL/Wが1.5以上の場合でも端部と中央部を直線上にそろえることも検討するものとする。なお、4連以上の樋門の場合は、水門とした方が好ましい場合が多いので、構造の選択については十分検討のうえ決定する必要がある。

1-4 樋門の本体長

樋門の本体長は、原則として計画堤防断面の川表および川裏の法尻までとする。

なお、敷高および通水断面等の樋門の機能の確保のために、堤防断面を切込まざるを得ない場合においても、切込みを必要最小限とするように努めなければならない。

必要最小限の切込みは、胸壁が護岸の基礎として機能することを考慮して、本体頂版から胸壁の天端までの高さが1.5m以下とすることであり、胸壁が護岸の基礎として機能することを考慮して、0.5m程度とすることが望ましい。

1-5 樋門の敷高

樋門の敷高は、堤内湛水地域の地盤高、本川の河床高、支川あるいは水路の敷高、湛水位を考慮して堤防の安全、用排水に支障のない高さとする。

樋門の敷高の決定に際しては、以下の事柄に留意して、決定するものとする。

  1. 排水樋門の敷高は、低すぎると吐口付近に土砂が堆積して流下断面積が減少し、高すぎると排水能力が減少するので、本川の河床高と支川あるいは水路の敷高との関係から決定する。
  2. 取水樋門の敷高は、河床低下により取水困難となっている例が多く、低すぎると取水量が水利権以上となることがあるので、過去の河床変動の動向を調べ将来の河床低下を考慮して決定する。

2. 樋門本体の構造

樋門本体は、鉄筋コンクリート構造またはこれに準ずる構造とするものとする。

「これに準ずる構造」とは、強度、耐久性等が鉄筋コンクリート構造と同等と見なせる材質のものであり、プレキャストコンクリート管、鋼管およびダクタイル鋳鉄管を含むものとする。また、その他のたわみ性管(高耐圧ポリエチレン管、FRP管、強化プラスチック管等)を使用する場合には、検討を十分に行い、その安全性を確かめるものとする。

3. ゲート等の構造

樋門のゲートは、確実に開閉し、かつ、必要な水密性を有し、鋼構造またはこれに準ずる構造とするものとする。また、樋門のゲートの開閉装置は、ゲートの開閉を確実に行うことができる構造とするものとする。

樋門のゲートの構造については、構造令の準用規定がない。これは、樋門は川とはいえない小規模な水路を横断して設けられるものも非常に多く、その規模は千差万別であり、極めて小規模な樋門のゲートについては、ある程度弾力的な取扱いが必要であるという事情によるものである。なお、大規模な樋門のゲートについては、必要に応じ、ダムのゲートに関する規定を準用すべきは当然のことである。ただし、完全掘込河道の場合はゲートを設ける必要はない。

4. 管理施設等

樋門には、管理橋等その他の必要な管理施設を設けなければならない。

樋門に必要な管理施設としては、次のものがある。

  • 管理橋
  • ゲート操作台および上屋
  • 階段
  • 防護柵
  • 水位標
  • 照明設備
  • 監視装置
  • その他

5. グラウトホール

函体底版下の空洞化を監視するため、原則として函体底版にはグラウトホールを設ける。グラウトホールには空洞測定用沈下板を設置するのがよい。

グラウトホールの設置間隔は、遮水矢板の位置、グラウトの能力を考慮して決定する。

以上が、提示された文章をマークダウン形式で整形し、誤字脱字を修正し、表形式の情報を可能な限り箇条書きの文章に変換した結果です。原文の内容は省略せずに維持しつつ、読みやすくなるよう構成を整えました。