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第6章 樋門
第1節 基本事項
1. 定義
樋門とは、河川または水路を横断して設けられる制水施設であって、堤防の機能を有するものをいう。
樋門と水門の区別については、当該施設の横断する河川または水路が合流する河川(本川)の堤防を分断して設けられるものは水門であり、堤体内に暗渠を挿入して設けられるのは樋門である。通常、支川がセミバック堤(半背水堤)の場合は水門を採用し、自己流堤の場合は、樋門を採用する。なお、構造令では、樋門と樋管の区別はなく、通常樋管と称しているものも樋門に含めて取り扱うこととしている。
2. 樋門設計の手順
樋門設計の手順は以下の通りである。
- 設計目的を確認
- 基本条件の検討・整理
- データ量が十分でない場合は追加調査を実施
- 基本事項の検討
- 位置の検討
- 敷き高の検討
- 必要断面の検討
- 断面形状の検討
- 形式検討(樋門、水門)
- 水門の場合
- 基礎地盤検討
- 沈下量、変位量検討
- 地盤対策工検討
- 構造検討
- 函材の検討
- 基礎形式検討
- 構造形式検討
- 門扉構造検討
- 門扉検討
- 巻上げ装置
- 基礎地盤検討
- 景観検討
- 全体景観検討
- 操作室形式、デザイン検討
- 基本図作成
- 全体計画図
- 計画一般図
- 施工計画検討
- 工法検討
- 仮設検討
- 工程検討
- 総合検討、計画の妥当性検討
- 細部設計
第2節 構造(標準)
1. 樋門の基本諸元
1-1 樋門の構造形式
樋門の構造形式は、基礎地盤の残留沈下量および基礎の特性等を考慮して選定するものとし、原則として柔構造樋門とする。
樋門の構造形式は、地盤の沈下への対応特性から柔構造樋門と剛構造樋門に分けられる。堤防内に設置される樋門の構造形式は、地盤あるいは基礎の沈下・変位に追随し、周辺堤防に悪影響を及ぼすことが少ない柔構造樋門とすることを原則とする。ただし、基礎地盤の残留沈下量が樋門の構造特性を損なわず、周辺堤防に悪影響を及ぼさない範囲のものであるとき、あるいは抑制する場合には剛支持の直接基礎形式としてもよい。なお、杭基礎等を用いた剛支持樋門は、函体周辺の空洞化や堤防クラックの発生等によって、堤防機能を損なう恐れが高いため、特殊な制約条件がある場合を除いて適用してはならない。
樋門の構造形式とその特徴は以下の通りである。
- 柔構造樋門
- 主要構造:本体の沈下を許容する
- 基礎形式:柔支持基礎
- 継手構造:カラー継手、可とう性継手、弾性継手
- 函軸構造形式:函軸たわみ性構造
- 門柱、ゲート、管理橋:傾斜に対応できる構造
- 剛構造樋門
- 主要構造:本体の沈下をほとんど許容しない
- 基礎形式:剛支持基礎
- 継手構造:カラー継手、可とう性継手、弾性継手
- 函軸構造形式:函軸非たわみ性構造、函軸たわみ性構造
1-2 樋門の断面
1-2-1 排水樋門
排水樋門における函渠断面は、次のとおり決定する。
- 函渠断面は、維持管理の容易性等を考慮して内径1.0m以上でなければならない。
- 函内流速は、支川の計画を考慮して函内に土砂が堆積しないように配慮して決定する。
- 函体断面の内法高は、流木等の流下物が特に多い場合を除き、計画排水量が流下するときの水位に以下の表に掲げる値を加えた高さ以上とする。また、即時沈下量の1/2程度をキャンバー盛土として実施することにより、残留沈下量を低減することもできる。
計画高水流量(m³/s) | 余裕高 |
---|---|
20未満 | 計画高水流量が流下する断面の1割を内法幅で除した値以上 |
50未満 | 0.3m以上 |
50以上 | 0.6m以上(0.1m単位に切り上げる) |
※残留沈下量の扱いは、適宜検討の上、上表の値に加算してもよい。
また、供用後は追跡調査を実施するものとし、期間は3カ年程度として調査計画を立案して実施する。なお、3カ年後においても沈下傾向がある程度継続している場合は調査を継続するものとする。
1-2-2 取水樋門
取水樋門の断面は、排水樋門に準じるが、計画取水量に対応できかつ函体内に土砂が沈殿しないように断面を定めるのがよい。取水可能量が過大となる場合には、計画取水量以上の取水ができないような措置を行なう。
1-2-3 余裕高の設定
柔構造樋門は函体の沈下を許容するものであり、沈下が生じてもその機能を確保する必要高さを余裕高さとして函体断面を計画する。
1-3 二連以上の函渠の径間長および断面
二連以上の函渠の端部の通水断面は、原則として本体中央部の通水断面と同等とする。また、樋門等が4連以上で、かつ、樋門延長Lと樋門幅Wの比L/Wが1.5未満の場合は流水線が急に曲がることを防ぐため、端部と中央部を直線上にそろえることができる。
二連以上の函渠の端部の通水断面は、「構造令第49条」および「河川砂防技術基準(案)同解説設計編I第1章第8節樋門」に準ずるものとする。
樋門等の延長が長いと、流水線の変化が出入口のみとなり、あまり支障とならず、かつ費用の点でも前記の方針を適用する とかなりの差が生じるため、樋門延長と樋門幅の比が1.5未満の場合には、端部と中央部を直線上にそろえることができるものとした。ただし、樋門管理上や流水線の変化が支障とならない場合には、施工性等を考慮してL/Wが1.5以上の場合でも端部と中央部を直線上にそろえることも検討するものとする。なお、4連以上の樋門の場合は、水門とした方が好ましい場合が多いので、構造の選択については十分検討のうえ決定する必要がある。
1-4 樋門の本体長
樋門の本体長は、原則として計画堤防断面の川表および川裏の法尻までとする。
なお、敷高および通水断面等の樋門の機能の確保のために、堤防断面を切込まざるを得ない場合においても、切込みを必要最小限とするように努めなければならない。
必要最小限の切込みは、胸壁が護岸の基礎として機能することを考慮して、本体頂版から胸壁の天端までの高さが1.5m以下とすることであり、胸壁が護岸の基礎として機能することを考慮して、0.5m程度とすることが望ましい。
1-5 樋門の敷高
樋門の敷高は、堤内湛水地域の地盤高、本川の河床高、支川あるいは水路の敷高、湛水位を考慮して堤防の安全、用排水に支障のない高さとする。
樋門の敷高の決定に際しては、以下の事柄に留意して、決定 するものとする。
- 排水樋門の敷高は、低すぎると吐口付近に土砂が堆積して流下断面積が減少し、高すぎると排水能力が減少するので、本川の河床高と支川あるいは水路の敷高との関係から決定する。
- 取水樋門の敷高は、河床低下により取水困難となっている例が多く、低すぎると取水量が水利権以上となることがあるので、過去の河床変動の動向を調べ将来の河床低下を考慮して決定する。
2. 樋門本体の構造
樋門本体は、鉄筋コンクリート構造またはこれに準ずる構造とするものとする。
「これに準ずる構造」とは、強度、耐久性等が鉄筋コンクリート構造と同等と見なせる材質のものであり、プレキャストコンクリート管、鋼管およびダクタイル鋳鉄管を含むものとする。また、その他のたわみ性管(高耐圧ポリエチレン管、FRP管、強化プラスチック管等)を使用する場合には、検討を十分に行い、その安全性を確かめるものとする。
3. ゲート等の構造
樋門のゲートは、確実に開閉し、かつ、必要な水密性を有し、鋼構造またはこれに準ずる構造とするものとする。また、樋門のゲートの開閉装置は、ゲートの開閉を確実に行うことができる構造とするものとする。
樋門のゲートの構造については、構造令の準用規定がない。これは、樋門は川とはいえない小規模な水路を横断して設けられるものも非常に多く、その規模は千差万別であり、極めて小規模な樋門のゲートについては、ある程度弾力的な取扱いが必要であるという事情によるものである。なお、大規模な樋門のゲートについては、必要に応じ、ダムのゲートに関する規定を準用すべきは当然のことである。ただし、完全掘込河道の場合はゲートを設ける必要はない。
4. 管理施設等
樋門には、管理橋等その他の必要な管理施設を設けなければならない。
樋門に必要な管理施設としては、次のものがある。
- 管理橋
- ゲート操作台および上屋
- 階段
- 防護柵
- 水位標
- 照明設備
- 監視装置
- その他
5. グラウトホール
函体底版下の空洞化を監視するため、原則として函体底版にはグラウトホールを設ける。グラウトホールには空洞測定用沈下板を設置するのがよい。
グラウトホールの設置間隔は、遮水矢板の位置、グラウトの能力を考慮して決定する。
第3節 基礎地盤の検討(標準)
1. 地盤調査
地盤調査は、ボーリング調査、原位置試験および室内土質試験の組み合わせで実施する。調査位置は、原則として樋門の計画位置とし、必要に応じてその周辺にて行う。
地盤調査の目的は、土層構成、土質、地下水の状況等を把握し、設計に必要な地盤性状および土層の特性等の条件を把握することにある。
1-1 一般的な調査項目
地盤調査の一般的な調査方法により得られる情報とその利用法は以下の通りである。具体的な調査項目は、これらを参考として選定する。
- 土層構成の把握、土質定数の概略推定
- ボーリング:土層区分(分類、厚さ)、地下水位、支持層の位置を把握し、土層構成を把握する。
- 標準貫入試験(ボーリングと併用):N値、資料採取による土質の分類から、砂の内部摩擦角、砂地盤の液状化の判定、粘土の一軸圧縮強さ、粘着力、杭の鉛直支持力、土の変形係数、水平方向地盤反力係数を推定する。これらの調査結果から推定される土性値は、あくまで概略値として用いるべきである。
- サウンディング、原位置試験- オランダ式二重管コーン貫入試験:コーン支持力から、N値の推定、粘土の一軸圧縮強さ、粘着力を推定する。一般に概略的な調査として、あるいはボーリング間の土層の連続性を把握するために用いる。
- スウェーデン式サウンディング試験:貫入量1mあたりの半回転数から、N値の推定、粘土の一軸圧縮強さ、粘着力を推定する。
- 地盤の変形特性
- ボーリング孔内水平載荷試験:地盤の変形係数、水平方向地盤反力係数を求め、地盤の即時沈下、側方変位量を推定する。軟弱地盤では本試験を実施するのが望ましい。
- 地盤の鉛直支持力
- 平板載荷試験:地盤の極限支持力、鉛直方向地盤反力係数、変形係数を求め、地盤の支持力、水平方向地盤反力係数を推定する。特に入念な検討を行う場合に調査する。
- 土質定数の推定
- 室内土質試験
- 物理試験(土粒子の密度、含水比、湿潤密度、粒度、液性・塑性限界試験など):土の判別分類、土粒子の密度、含水比、湿潤密度、粒度分布、液性・塑性限界を求める。砂地盤の液状化の判定、地盤の透水係数の推定(粒度試験結果より)、粘土の圧縮指数、圧密係数の推定(液性・塑性限界試験結果より)に利用する。一般に粘性土を対象として行う。土の力学特性の推定値は、あくまで概略値として用いるべきである。
- 一軸圧縮試験:土の一軸圧縮強さ、変形係数を求め、土の粘着力、水平方向地盤反力係数を推定する。盛土材の土質定数を求める場合、盛土の安定を検討する場合には、この試験が必要である。
- 三軸圧縮試験:土の粘着力、内部摩擦角、変形係数を求め、地盤の支持力、土の強度増加率、水平方向地盤反力係数を推定する。
- 室内土質試験
- 圧密沈下量の推 定
- 圧密試験:圧密降伏応力、e-logP曲線、圧密係数、体積圧縮係数を求め、粘土層の圧密沈下量、圧密時間を推定する。軟弱粘性土地盤の場合は、この試験が必要である。
- 地下水対策、透水性地盤
- 地下水調査
- 地下水測定:各帯水層の地下水位、間隙水圧、流向・流速を測定し、水圧分布の測定、被圧の有無の判定、砂地盤の液状化の判定、工法選定の資料とする。堤防開削の場合には調査することが望ましい。
- 現場透水試験、室内透水試験、揚水試験:地盤の透水係数、地盤の貯留係数を求め、工法選定の資料とする。透水性地盤や重要な構造物の場合は、調査することが望ましい。地盤の透水係数を求める方法としては、揚水試験が最も信頼性が高い。
- 地下水調査
1-2 軟弱地盤および透水性地盤の調査項目
樋門を建設する際に問題となる地盤は、軟弱地盤および透水性地盤である。
1-2-1 軟弱な粘土性地盤の調査
a. 孔内水平載荷試験
- 地盤の変形特性を把握するためにボーリング孔を利用した孔内水平載荷試験が一般的であり 、各層を代表する深度を選定して実施する。
b. 物理試験等の室内土質試験
- 土質、強度、圧密特性を明らかにするための試験等として、シンウォールサンプラーまたはフォイルサンプラーを用いて乱さない資料を採取して、物理試験(土粒子の密度、含水比、粒度、湿潤密度、液性・塑性限界等)、一軸圧縮試験、圧密試験、三軸圧縮試験、その他試験等を地盤の状況に応じた試験を行う。
c. その他補助調査
- 軟弱層の深さ、層厚、広がり、原位置強度特性等について詳細に調べることを目的として、オランダ式二重コーン試験、スウェーデン式サウンディング試験、三成分コーン試験等を行う。
1-2-2 有機質土地盤の調査
基本的に可能であれば、上記軟弱な粘土性地盤に準じた試験を行う。その他強熱減量試験を行う。
1-2-3 緩い砂地盤の調査
a. ボーリング孔を利用して孔内水平載荷試験を行う。また、被圧水頭の影響が予測される場合には間隙水圧の測定を行う。
b. 物理試験
- 乱さない資料の採取は一般的に困難であるので、標準貫入試験で得られる資料を用いて、地震時の液状化判定に必要な物理定数を求めるための物理試験(土粒子の密度、含水比、粒度等)を行う。必要があれば、ボーリングの補助として、軟弱層の深さ、層厚、広がり、原位置強度特性等について詳細に調べることを目的として、スウェーデン式サウンディング試験を行う。
1-3 耐震設計のための調査項目
耐震設計を行う場合は、耐震設計の内容に応じた調査を行う。耐震設計で必要な土質定数と調査法の概要は以下の通りである。
目的 | 調査方法 | 得られる情報 | 他の定数からの推定 |
---|---|---|---|
設計震度、地盤種別 | PS検層 | S波速度(Vs) | N値から推定可 |
液状化判定 | 標準貫入試験 | - | - |
地盤の変形特性 | PS検層 | S波速度(Vs) | N値から推定可 |
FEMによる変形解析 | PS検層 | S波速度(Vs) | N値から推定可 |
対策工 | 現場透水試験、揚水試験 | - | 透水係数は粒径D10、D60から推定可 |
2. 地盤の残留沈下量の許容値と地盤の安定
地盤の残留沈下量の許容値の目安は以下の通りである。
硬式樋門の構造形式 | 残留沈下量の許容値 |
---|---|
直接基礎 | 5cm |
柔支持基礎 | キャンバー盛土非考慮:30cmキャンバー盛土考慮:50cm |
地盤の安定は、沈下・側方変位、支持力、液状化に対して検討する必要がある。樋門の基礎地盤および樋門の周辺堤防の安定は、常時および地震時の円弧すべり安全率によって評価することが可能であり、円弧すべりに対する許容安全率は、一般に次の値がとられている。地震時の検討においては、慣性力および過剰間隙水圧を考慮する。
- 常時:Fs=1.2
- 地震時(慣性力考慮):Fsh=1.0
- 地震時(過剰間隙水圧考慮:砂質地盤):Fsd=1.0
2-1 荷重条件の検討
2-1-1 堤防盛土条件
沈下計算に考慮する盛土条件を設定する場合は、沈下が終息している既設盛土と盛土荷重として考慮する新規盛土を明確に区分しなければならない。さらに、次の項目について検討し、必要に応じて考慮する。
- 余盛り盛土
- 置換する場合は、置換材と原状土の単位体積重量差
- 荷重として考慮した盛土(湿潤重量)が地下水位以下に沈下することによる浮力(水中重量)の影響
- 堤防天端高を確保するために堤防が沈下した分を追加する盛土に よる影響
2-1-2 荷重条件
即時沈下の計算には、床付け面以上の全盛土荷重を考慮する。圧密沈下の計算には、新たに加わる盛土部分のみを考慮する。
上載荷重(活荷重)は、一般に圧密沈下の計算に考慮するのがよい。なお、ここで上載荷重を考慮した場合は、本体の縦方向の計算には上載荷重を考慮しない。
2-2 沈下量、変位量の算定
2-2-1 残留沈下量の算定
地盤の残留沈下量は、函体施工以後の即時沈下量および圧密沈下量の沈下量分布を算出する。一般に樋門の存在を無視して計算してもよい。
2-2-2 地盤の側方変位量の算定
地盤の側方変位量は、盛土の載荷による地盤のせん断変形に伴なう水平変位量とし、地盤を弾性体とみなして求める。一般に樋門の存在を無視して計算してもよい。
なお、側方変位量は、即時沈下量と同様に地盤を弾性体としたFEM解析等によっても求めることができる。
第4節 樋門の設計(標準)
1. 設計に関する一般事項
1-1 本体の設計の基本
柔構造樋門の本体は、函体の構造形式を問わず本体の函軸方向の地盤変位(沈下・側方変位)分布をできるだけ精度良く推定し、地盤変位分布に適切に対応できるように設計しなければならない。
樋門本体の設計は、「河川砂防技術基準(案)同解説 設計編I」および「柔構造樋門設計の手引き」、「建設省制定 土木構造物標準設計」を参考として設計するものとする。
樋門の一般的な設計手順は以下の通りである。
- 設計条件の設定
- 函体横断方向の設計
- 基礎工法の選定
- 直接基礎の場合:函体横断方向の設計
- 杭基礎の場合:杭の設計、基礎の設計
- その他の基礎の場合:基礎の設計
- ゲートの設計
- 戸当りの設計
- 巻上機の設計
- 胸壁の設計
- 継 手有りの場合:継手の設計
- 遮水壁有りの場合:遮水壁の設計、遮水矢板の設計
- 門柱の設計
- 操作台の設計
- 管理橋の設計
- 上屋有りの場合:上屋の設計
- 翼壁の設計
- 取付部の設計
- 護岸工・護床工の設計
- 付帯施設の設計
1-2 函体の構造形式の選定
函体構造は、地盤の残留沈下量の大きさや分布形状、キャンバー盛土対応、改良後地盤の特性、基礎形式の影響等の条件によって適用性が異なる。このため、沈下対策等の地盤対策を伴う場合は、地盤対策を検討した上で、函体構造の選定を行うのがよい。
函体構造を検討する上で函体の構造形式とりわけ函体の函軸構造形式の特性を理解することが重要である。柔構造樋門の残留沈下(地盤変位)の影響と函軸構造形式の特性との対応は、次のようになる。
- 地盤の沈下の影響に対しては、函軸たわみ特性で対応する。
- 地盤の側方変位の影響に対しては、函軸変位特性で対応する。
函軸たわみ性は、函体構造、スパン割、継手の変形能力によって達成される。函体構造と継手構造は密接に関係するので、函体構造を検討する場合は、継手構造との適合性を考慮する。一般的に用いられる函体構造は以下の通りである。
構造材料 | 形状 | 特徴 |
---|---|---|
コンクリート構造 | 矩形(円形) | RC構造、PC構造 |
ダクタイル鋳鉄管 | 円形 | 大きな沈下に対応できる、管長4~6m、弾性継手、溶接が適さない |
鋼構造 | 円形 | 比較的大きな沈下に対応できる、水密性が高い、弾性継手、防食が必要 |
2. 函体の横方向の設計
2-1 設計モデル
函体の横方向は、函体の材質・断面構造等の特性を考慮して設計する。
函体の断面構造には、その形状から矩形、円形、幌形(アーチ形)があり、さらに、円形管体は剛性管とたわみ性管に分けられる。函体の横方向の設計にあたっては、これらの断面構造および材料特性に応じた設計法を適用する。
2-2 荷重の設定
荷重は、函体横方向にもっとも不利な断面力が生じるように作用させるものとする。
函体の横方向の設計にあたっては、以下に示す荷重について函体に最も不利となる組合せを設定して部材計算を行う。
荷重種別 | 函体の横方向の設計での考慮 |
---|---|
死荷重(函体自重) | ○ |
活荷重(自動車荷重) | ○ |
土圧(鉛直土 圧・水平土圧) | ○ |
水圧(地下水圧) | △ |
内水圧等 | △ |
※○:考慮する、△:条件によって考慮する
地下水位については、大断面である場合や浮力の影響が大きい場合を除いて、一般に地下水位は無視できる。
(1) 矩形(剛性)函体
- 横方向の設計は、各スパンごとに最も危険な断面を選定し、各々の荷重条件に対して検討する。
- 排水機場等に接続する函体で内水圧が作用する場合は、内水圧作用時の検討を行う。このときの外圧(鉛直土圧、水平土圧等)は、該当スパンの最小有効土かぶりを考慮する。多連の函体において、排水機場に連結する場合等その一部の断面にのみ内水圧を作用させる場合は、内水圧が偏載荷となる場合を考慮して検討する。
(2) 円形たわみ性管体(ダクタイル鋳鉄管および鋼製管体)
- 盛土等の荷重の変化点ごとの各々の荷重条件に対して検討する。
- 管体周辺の盛土材の土性を管体の設計支持角に反映させる。
- 管体自重は無視してもよい。
- 内水圧が作用する場合は、別途検討する。
3. 本体の縦方向の設計
本体の縦方向における設計の基本は次に示すとおりである。
- 本体の縦方向の設計には、樋門の構造形式、基礎形式の特性そして地盤の残留沈下量の影響に配慮した設計手法を適用する。
- 荷重は、本体に最も不利な断面力あるいは変位を生じるように作用させるものとする。
- 本体と地盤との相対沈下量、相対水平変位量は、許容値以内とし、本体の地盤反力度は、地盤の許容支持力度以内でなければならない。
本体の縦方向の計算は、基礎形式に応じて以下のように区分して設計する。浮き固化改良体基礎、浮き杭基礎を原則として設計する。浮き直接基礎として設計するのは、これらの基礎は樋門本体と結合させないで構造的に分離して適用するためである。
基礎形式 | 設計計算法 |
---|---|
直接基礎 | 直接基礎 |
柔支持基礎 | 浮き直接基礎 |
浮き直接基礎 | 浮き直接基礎 |
浮き固化改良体基礎 | 原則として浮き直接基礎 |
浮き杭基礎 | 原則として浮き直接基礎 |
※注
- 地盤の残留沈下量が5cm程度を超える場合は、柔支持基礎とする。
- 基礎工の特性によってはその影響を地盤反力係数等により適切に評価した設計法による必要がある。
3-1 設計モデル
本体の縦方向は、基礎形式に応じて次のようにモデル化する。なお、いずれの場合も函体スパンを継手の結合条件に応じて連結した連続梁と仮定して解くのがよい。
- 直接基礎の樋門は、本体を「弾性床上の梁」とモデル化する。
- 柔構造樋門は、本体を「地盤変位の影響を考慮した弾性床上の梁」とモデル化する。
本体の縦方向の設計は、本体に最も不利な断面力および変位が生じる荷重の組合せを設定して行う。
3-2 本体の縦方向の計算
本体の縦方向は、以下の照査事項を満足しなければならない。
- 本体の沈下・側方変位
- 地盤反力度、本体と地盤との相対変位(沈下)量
- 継手、接合部の変形能力
照査項目と照査方法は以下の通りである。
照査項目 | 照査箇所 | 照査方法 |
---|---|---|
本体の沈下 | 本体 | 省略 |
側方変位 | 継手部 | 継手の開口量 |
地盤反力度 | 門柱部函体端部 | 基礎地盤との相対変位量(基礎幅の1%かつ5cm以内) |
本体と地盤との相対変位量 | 本体下部 | 相対変位量(空洞量5cm以内) |
継手・接合部の変形 | 継手・接合部 | 許容開口量以内 |