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第1章 総則

はじめに

この文章は、国土交通省近畿地方整備局が公開している設計便覧(案)の内容を複写・一部加工したものです。

第1節 目的

本設計便覧河川編は、近畿地方整備局における堤防、護岸、樋門、水門等の河川構造物、海岸保全施設、砂防施設、地すべり防御施設の設計にあたり、自由度の高い設計や新しい技術·工法などの積極的な取り入れを図り、技術の向上を目指すとともに、地域の個性(歴史·文化·風土)にあった、またそれぞれの現場や環境·景観等の特性に配慮した構造物等を整備するため、設計上に考慮しておくべき項目や考え方等を示したものである。

本設計便覧河川編は、解説·河川管理施設等構造令、建設省河川砂防技術基準(案)同解説、河川改修事業関係例規集、海岸保全施設の技術上の基準·同解説、その他対象基準等を参考とし、そのうち最小限考慮しておくべき基準、留意すべき項目、考え方の背景等をとりまとめたものである。この意図するところは、構造物等を設計するにあたり、その施設の設置することの目的、要求性能事項等を理解され、その目的、機能、性能を達成するために様々な考え方を展開し、自由度を広げるとともに、新しい技術や工法を積極的に取り入れることによって、より一層環境や景観の保全·再生·創出及び地域の個性(歴史·文化·風土)に配慮し、技術の向上を図るものである。

第2節 運用

本便覧は、河川管理施設等構造令、建設省河川砂防技術基準(案)同解説、河川改修事業関係例規集、海岸保全施設の技術上の基準·同解説、その他対象基準等を参考とし、とりまとめたものであるが、現場における機能·安全性·環境·景観等に対する適切な配慮について、設計者の技術的判断を拘束するものではなく、現場状況等の様々な観点に基づく総合的な設計を求めるものである。

また、本便覧を適用するにあたり、関係諸法令·基準·指針等に別に定めがある場合、また改正が行われた場合などでは、これら諸法令に従い、速やかに対応するものとする。

第3節 計画概論

1. 機能·安全性·耐久性の確保

公共土木施設は、求められる機能を満足していなければならない。河川管理施設をはじめ公共土木施設に求められる機能は、地域住民が安心して生活ができる安全性を持ち、その状況が長期間にわたり維持できる十分な強度と耐久性が求められる。

2. 環境·景観等河川環境の保全·再生·創出への配慮

これからの川づくりにおいては、多自然川づくりの視点を踏まえ川づくり全体の水準の向上を図ることが必要である。

2-1「多自然川づくり」の定義

「多自然川づくり」とは、河川全体の自然の営みを視野に入れ、地域の暮らしや歴史·文化との調和にも配慮し、河川が本来有している生物の生息·生育·繁殖環境及び多様な河川景観を保全·創出するため、河川管理を行うことをいう。

2-2 適用範囲

「多自然川づくり」はすべての川づくりの基本であり、すべての一級河川、二級河川及び準用河川における調査、計画、設計、施工、維持管理等の河川管理におけるすべての行為が対象となること。

2-3 実施の基本

  1. 川づくりにあたっては、単に自然のものや自然に近いものを多く寄せ集めるのではなく、可能な限り自然の特性やメカニズムを活用すること。
  2. 関係者間で2-4に示す留意すべき事項を確認すること。
  3. 川づくり全体の水準の向上のため、以下の方向性で取り組むこと。
    • 河川全体の自然の営みを視野に入れた川づくりとすること。
    • 生物の生息·生育·繁殖環境を保全·創出することはもちろんのこと、地域の暮らしや歴史·文化と結びついた川づくりとすること。
    • 調査、計画、設計、施工、維持管理等の河川管理全般を視野に入れた川づくりとすること。

2-4 留意すべき事項

その川の川らしさを自然環境、景観、歴史·文化等の観点から把握し、その川らしさができる限り保全·創出されるよう努め、事前·事後調査及び順応的管理を十分に実施すること。

また、課題の残る川づくりを解消するために、配慮しなければならない共通の留意点を以下に示す。

  1. 平面計画については、その河川が本来有している多様性に富んだ自然環境を保全·創出することを基本として定め、過度の整正又はショートカットを避けること。
  2. 縦断計画については、その河川が本来有している多様性に富んだ自然環境を保全·創出することを基本として定め、掘削等による河床材料や縦断形の変化や床止め等の横断工作物の採用は極力避けること。
  3. 横断計画については、河川が有している自然の復元力を活用するため、標準横断形による上下流一律の画一的形状での整備は避け、川幅をできるだけ広く確保するよう努めること。
  4. 護岸については、水理特性、背後地の地形·地質、土地利用などを十分踏まえた上で、必要最小限の設置区間とし、生物の生息·生育·繁殖環境と多様な河川景観の保全·創出に配慮した適切な工法とすること。
  5. 本川と支川又は水路との合流部分については、水面や河床の連続性を確保するよう努めること。落差工を設置せざるを得ない場合には、水生生物の自由な移動を確保するための工夫を行うこと。
  6. 河川管理用通路の設置については、山付き部や河畔林が連続する区間等の良好な自然環境を保全するとともに、川との横断方向の連続性が保全されるよう、平面計画に柔軟性を持たせる等の工夫を行うこと。
  7. 堰·水門·樋門等の人工構造物の設置については、地域の歴史·文化、周辺景観との調和に配慮した配置·設計を行うこと。
  8. 瀬と淵、ワンド、河畔林等の現存する良好な環境資源をできるだけ保全すること。

3. 河川空間活用への配慮

市街地では、河川空間はまとまった自然が存在する貴重な空間であり、まちづくりのうえで重要な要素である。この観点から、河川空間と周辺地域とを一体的に考え、まちづくりの一環として整備し、まちの顔となる良好な水辺空間の創出を図る必要がある。また、地域や河川の特性を活かした交流ネットワークの構築など、地域間の交流·連携活動や個性豊かな地域づくりを支援するため、河川空間を活用して、親水、自然の学習、情報発信等多機能を有する水辺空間としての整備、また、川の持つ、人を健康にし、人の心を癒す機能を生かした、健康づくりやふれあい·交流の場としての川づくりが求められている。

そのため、河川管理施設等においても、施設のデザインへの配慮、河川空間の活用を阻害しない施設配置、施設への親水機能の付与等を通じて、こうした河川空間の活用に向けたニーズに的確に対応し、個性あふれる活力のある地域社会の形成に貢献する必要がある。

4. 経済性(コスト)

社会資本は、安全で豊かな国民生活の実現や活力ある経済発展に不可欠な基盤であり、今後ともその整備を計画的かつ着実に進めていくことが必要である。社会資本の整備に当たっては、社会経済情勢の動向や国民のニーズを的確に把握し、事業評価などによりその必要性や妥当性を明確にした上で、重点化を図りつつ実施することが重要である。

社会資本を整備する手段としての公共工事は、「より良いものをより安く」提供する、という観点から実施することが求められているところである。このため、限られた財源を有効に活用し、効率的な公共事業の執行を通じて、社会資本整備を着実に進めるため、公共工事コストの一層の縮減を推進する必要がある。また、これまで実施してきたコスト縮減施策の定着を図ることや新たなコスト縮減施策を進めていくことが重要である。

さらに、工事コストの低減だけでなく、より耐用年数の長い施設、省資源·省エネルギー化に資する施設、環境·景観と調和する施設等の整備を推進するなど、施設の品質の向上を図ることにより、ライフサイクルを通じてのコストの低減や環境に対する負荷の低減を図るなど、総合的なコスト縮減を図っていく必要がある。

5. 維持管理(メンテナンス)

公共土木施設の設計は、施工と共にメンテナンス(維持管理)を考慮する必要がある。維持修繕の容易な構造·材料である場合、また特殊な材料などを用いる場合であっても、完成後のメンテナンスの頻度を機能·目的に反せずに抑えることができれば、維持管理に優れているものといえ、ライフサイクルコストの低減にも寄与できるものである。

6. 建設副産物のリサイクル

建設副産物については、資源の有効利用、環境保全及びコストの見地から重要な課題である。建設副産物の発生の抑制、再利用の促進、適正処分の徹底を基本として、工法·資材の採用、再生資源の利用、建設副産物の処理方法などについて検討しなければならない。

7. 新技術の活用

建設分野における技術研究開発は、広範な分野の技術を総合したものであるため、その技術開発の成果は、国民生活、経済活動等に大きな波及効果をもたらすものであり、新技術·新素材への期待は大きい。したがって、必要な技術の開発への模索として問題意識を持ち、政府研究機関などの研究成果の動静を常に把握しておくことや、民間で開発された新技術を試験フィールド、パイロット事業等を通じて新技術等を積極的に活用展開を図っていく必要がある。