第2章 堤防
第 1 節 通則
1. 適用範囲
本章は、河川において行う堤防の設計についての考え方を示すものである。
なお、堤防は、盛土により築造するものとする。解説·河川管理施設等構造令 P112
2. 適用基準等
- 改訂解説·河川管理施設等構造令
- 河川砂防技術基準 同解説 計画編
- 河川砂防技術基準(案) 同解説 設計編 I
- 河川土工マニュアル
- 河川堤防の構造検討の手引き(改訂版)
- 河川構造物の耐震性能照査指針·解説 Ⅱ.堤防編
3. 堤防の種類
堤防とは、河川の流水の氾濫を防ぐ目的をもって、土砂·石礫等によって造られた河川構造物である。河川の特性と堤防の目的に応じて堤防の造り方も異なり、一般に土でつくられる土堤、コンクリートや矢板等で設けられる特殊堤、破堤による甚大な被害を軽減するために設けられる高規格堤防(スーパー堤防)等の種類がある。
- 土堤:土でできた一般原則の堤防
- 特殊堤:堤防の全部もしくは主要な部分がコンクリート、鋼矢板等にて盛土の部分がなくても自立する堤防
- 高規格堤防(スーパー堤防):大都市地域の大河川において、越水や長時間の浸水、地震等に対しても破壊しない幅の広い超過洪水対策のための質の高い堤防
また、機能上次のような種類の堤防がある。
図 1-3-2:堤防の機能上の種類
4. 堤防設計の基本
4-1 堤防の原則
堤防は、護岸、水制その他これらに類する施設と一体として、計画高水位(高潮区間にあっては、計画高潮位)以下の水位の流水の通常の作用に対して安全な構造とするものとする。
解説·河川管理施設等構造令 P106 一部加筆
河川改修工事は、計画の対象となる洪水流量(計画高水流量)を定め、それ以下の洪水に対して氾濫原を防御するために行うものである。いわば河川改修工事は、計画高水流量以下の洪水に限って計画河道の中に押し込めようとするものである。すなわち、堤防は、計画高水位以下の水位の流水の通常の作用に対して安全であるよう設置されるものであるといえる。
なお、高規格堤防においては、「本章第 3 節高規格堤防」に示すとおり、高規格堤防設計水位に対し安全となるように設計するものである。
4-2 完成堤防の定義
完成堤防とは、計画高水位に対して必要な高さと断面を有し、さらに必要に応じ護岸(のり覆工、根固め工等)等を施したものをいう。
河川砂防技術基準(案)同解説 設計編Ⅰ(H9.10)P3、4
河川管理施設等構造令(以下構造令という)における堤防に関する基準は、堤内地盤より 0.6m 以上のものについて定められており、この基準でも 0.6m 未満の盛土はこの節を適用しないものとする。
堤防の高さ、および断面については計画高水位を対象に築造されるが、一般に堤防は土でできているので越流や浸透に対して十分な配慮が必要である。
したがって、余裕高が必要であり、また、浸透等に耐える安定した 断面形状と構造が必要である。さらに流勢に対して侵食による破壊を防ぐためには必要に応じて護岸(のり覆工に根固め等を備えたもの)等を設け、堤防の土羽部分は芝等で被覆する。
図 1-4-1:完成堤防の例
完成堤防は、計画高水位の流水に対して構造上通常考えられている安全性を確保するものでなければならない。したがって、必要な余裕高、断面を有し、さらに必要に応じ護岸等を備えた構造とする必要がある。
ただし、改修工事を進める場合に、段階的に洪水に対する安全度を向上させるため、対岸、または上下流の堤防の高さその他工事費等の関係から、堤防の暫定断面施工や護岸等を未施工とする、あるいは護岸ののり覆工のみ施工して根固め工を後年度に回す等段階施工が行われる場合がある。
この場合の堤防の強度は計画高水位の流水に対しては完全な構造物としての機能を期待し難いため、この場合の堤防を暫定堤防と称し完成堤防とは区別される。
4-3 堤防の性能と機能
流水が河川外に流出することを防止するために設ける堤防は、計画高水位(高潮区間にあっては計画高潮位、暫定堤防にあっては、「構造令 第 32 条」に定める水位)以下の水位の流水の通常の作用に対して安全な構造となるよう設計するものとする。 また、平水時における地震の作用に対して、地震により 壊れても浸水による二次災害を起こさないことを原則として耐震性を評価し、必要に応じて対策を行うものとする。
河川砂防技術基準(案)同解説 設計編Ⅰ(H9.10)P4、5
河川管理施設等構造令による「流水」には、河川の流水の浸透水が含まれるので、流水の通常の作用とは、洗掘作用のほか、浸透作用も考える必要があり、土堤を原則とする堤防は、これらの作用に対して安全な構造とする必要がある。洗掘作用は、一般的に局所的現象として発生する場合が多いため、河川の蛇行特性、河床変動特性等について検討のうえ、洗掘作用に対する堤防保護の必要性を判断しなければならない。したがって、高規格堤防を除く一般の堤防は、計画高水位以下の水位の流水の通常の作用に対して安全な構造となるよう耐浸透性および耐侵食性について設計する必要がある。
また、現在の堤防は、そのほとんどが長い歴史の中で、過去の被災の状況に応じて嵩上げ、腹付け等の修繕・補強工事を重ねてきた結果の姿であるので、通常経験しうる洪水の浸透作用に対しては、経験上安全であると考えられており、過去の経験等に基づき設計を行ってきた。現在においても、堤防の安全性を厳密に評価することは難しいが、技術の進歩等により土質構造に関する解析計算が容易に実施できるようになってきており、理論的な設計手法によって堤防の安全性を照査することが可能となっている。
地震については、これまで土堤には一般に地震に対する安全性は考慮されていない。これは、地震と洪水が同時に発生する可能性が少なく、地震による被害を受けても、土堤であるため復旧が比較的容易であり、洪水や高潮の来襲の前に復旧すれば、堤防の機能は最低限度確保することができることから、頻繁に発生する洪水に対しての防御が優先であるという考え方によるものである。過去の地震による堤防被害事例の調査によれば、最も著しい場合でも堤防すべてが沈下してしまう事例はなく、ある程度の高さ(堤防高の 25%程度以上)は残留している。しかし、堤内地が低いゼロメートル地帯等では、地震時の河川水位や堤防沈下の程度によっては、被害を受けた河川堤防を河川水が越流し、二次的に甚大な浸水被害へと波及する恐れがあるため、浸水による二次災害の可能性がある河川堤防では、土堤についても地震力を考慮することが必要である。そこで、土堤の確保すべき耐震性として、地震により壊れない堤防とするのではなく、壊れても浸水による二次災害を起こさないことを原則として耐震性を評価し、必要に応じて対策を行うものとする。
堤防の設計にあたり、考慮すべき事項は 下表のとおりである。
表 1-4-1:堤防の安全性に求める機能と外力
作用 | 確保すべき機能 | 安全性に係る外力 |
---|---|---|
降雨および流水 | 耐浸透 | 降雨および流水の浸透 |
流水 | 耐侵食 | 流水による流体力 |
地震 | 必要に応じて耐震 | 地震動による液状化、慣性力 |