第14章 砂防
第1節 基本事項
1. 適用範囲
本章では、砂防えん堤、床固め工、護岸および水制工、渓流保全工(流路工)、山腹に関する設計の考え方を示したものである。
本章は、砂防施設配置計画のうち、土砂生産抑制施設配置計画、土砂流送制御施設配置計画について、土砂生産・流送の場とその場で使われる砂防の工種について整理したものである。
水系砂防計画及び土石流対策計画に基づき策定される砂防施設配置計画の区分 | 土砂生産・流送の場 | 砂防の工種 |
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土砂生産抑制施設配置計画 | 山腹 | 山腹基礎 工、山腹緑化工、山腹斜面補強工、山腹保育工 |
渓床・渓岸 | 砂防えん堤、床固工、帯工、護岸工、渓流保全工 | |
土砂流送制御施設配置計画 | 渓流・河川 | 砂防えん堤、床固工、帯工、護岸工、水制工、渓流保全工、導流工、遊砂地工 |
2. 適用基準等
表1-2-1 示方書等の名称
指針・要綱等 | 発行年月日 | 発刊者 |
---|---|---|
河川砂防技術基準 同解説 計画編 | 平成17年11月 | 日本河川協会 |
河川砂防技術基準(案)同解説 設計編Ⅱ | 平成9年10月 | |
砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策指針)同解説 | 平成19年3月 | 国土技術政策総合研究所 |
土石流・流木対策設計技術指針同解説 | 平成19年3月 | |
改定版砂防設計公式集(マニュアル) | 昭和59年10月 | 全国治水砂防協会 |
鋼製砂防構造物設計便覧(平成21年度版) | 平成21年9月 | 砂防・地すべり技術センター |
砂防ソイルセメント設計・施工便覧 | 平成23年10月 | |
その他関係法令等 | - | - |
3. 設計の基本的考え
砂防設備の設計にあたっては、治水安全性の確 保とともに、自然環境を守り優れた自然を後世に残すよう配慮しなければならない。
渓流空間は、恐ろしい土砂災害の発生の場であると同時に、自然環境に恵まれた憩いの場でもある。したがって、砂防施設の設計あたっては、治水安全性の確保とともに、自然環境を守り優れた自然を後世に残すよう配慮しなければならない。
3-1 環境との調和
自然と調和した健康な暮らしと健全な環境の創出を図るため、周辺環境に十分配慮し、自然の渓流を活かした砂防施設の設置を行い、「環境と調和した砂防施設」の立案を進める。
「環境と調和した砂防施設計画」は、渓流が持つ自然な姿をできるだけ保ち、渓流が本来有している良好な生息環境に配慮し、あわせて美しい自然景観を保全・創出するものであり、砂防施設の立案においては、土砂処理のための合理的な計画を検討すると同時に、環境に配慮することが必要である。
各砂防施設における環境に配慮する方法の一例:
施設 | 検討項目 |
---|---|
山腹工 | - 山腹基礎工は周辺環境になじんだ工法、材料等を工夫する。(間伐材の利用(山腹工節減工法等)) - 植栽工の樹種は適地、適木を選定する。(樹種は2~4種類を組み合わせ自然植生に近いものとする。) |
砂防えん堤工 | - 周辺環境になじむよう構造、材料、修景等を工夫する。(砂防えん堤のスリット化、必要に応じて魚道の確保(魚の迂回路・多段式落差工)、修景用ブロックを型枠に使用、石、間伐材(木材)等で被覆、砂防えん堤前面を極力、覆土し植栽する。現地発生土砂の有効活用(砂防ソイルセメント工法の活用)) |
床固め工 | - 周辺環境になじむよう構造、材料、修景を工夫する。(渓流魚、両生類に対する配置(魚道、オオサンショウウオ昇降路)、魚の回遊路、窪地の設置、多段式落差工、全断面魚道化、緩勾配化) |
河道 | - 下流部の河道法線、横断線形、断面構造を工夫する。(現河道を極力活かし、屈曲や膨らみを持った法線形の採用、瀬や淵を保全、創出し、直線化を避ける、現河道幅が広い部分は遊砂地として利用、渓岸の緩傾斜化(背後の土地利用状況・用地の確保等を考慮)、低水路の確保(河道内に植生エリアを確保・河床勾配が急などで複数断面の形状が維持できない場合は除く)) |
護岸工(根固め) | - 構造、材料を工夫する。(水理特性に応じ植生と木または石材を併用した渓岸保護の採用、じゃかご、捨石等の多様な空隙構造をもつ材料の採用、コンクリート護岸を覆土し、植生を導入(隠し護岸)(低水路を除き下流に悪影響のない程度に覆土)、多自然型ブロックの採用やつる性植物で護岸を覆う、護岸の背後地に樹木を植え、渓畔林を創出) |
落差工 | - 現河床勾配の変化点等以外は極力落差工を施工しない。(構造、材料、修景を工夫) - 魚道の確保に配慮する。(魚の回遊路、窪地の設置、多段式落差工、全断面魚道化) |
緑の砂防 | - 緑の環境保全機能、防災機能を最大限活かす。(土砂災害緩衝樹林帯の整備、環境保全機能(生物多様性機能、景観機能、水質浄化機能)、防災機能(土砂生産抑制機能、流出土砂抑制機能、流出土砂調整機能、土地利用抑制機能)) |
第2節 砂防えん堤(標準)
1. 砂防えん堤の種類
1-1 砂防えん堤構築材料による分類
砂防えん堤の構築材料による分類は、表2-1-1のとおりである。
種類 | 説明 |
---|---|
コンクリート砂防えん堤 | 砂防えん堤に一般的に用いられる材料である。また、加工されたものとして、コンクリート枠砂防えん堤、コンクリートブロック砂防えん堤等がある。 |
コンクリートブロック砂防えん堤 | コンクリートブロックを組み合わせて築造した砂防えん堤で、基礎地盤に対する要求が少ないため、地すべり地等で用いられることが多い。 |
粗石コンクリート砂防えん堤 | コンクリートの中に粗石(径30~50cm)を混入したものを、特に粗石コンクリートと呼ぶ。強度的にコンクリートと中埋石の付着さえ十分ならば粗石コンクリートはコンクリートと同一であるという前提で、現地で得やすい玉石を中埋めとして用い、コンクリート量を節約するもののである。 |
鋼製砂防えん堤 | 近年、鋼製の砂防えん堤の施工例が多くなっている。種類として、枠形式、スリット形式、格子形式、ダブルウォール形式、セル形式、スクリーン形式等があげられる。 |
石積み砂防えん堤 | 空石積みと練り石積みがあり、耐磨耗性は良いが、近年石工が少なくなり、施工例も減少している。 |
ロックフィル砂防えん堤 | ロックフィル形式、アース形式等がある。 |
木製砂防えん堤 | 丸太を組み合わせた方格枠内に玉石を填充するものが、木製堰堤として古くから用いられ、現場付近で得られる材料で安定的な構造物がつくれるという点で高く評価されていたが、木材は耐久性の点で永久構造物としては適当でなく、一時的な構造物あるいは短期間で安定が期待できるような小荒廃地の構造物として使われる。 |
ソイルセメント砂防えん堤 | 砂防ソイルセメントは、施工現場において現地発生土砂とセメント・セメントミルク等を攪拌・混合して製造するもので、砂防施設とこれに伴う附帯施設の構築及び地盤改良に活用する材料の総称である。 |
1-2 砂防えん堤の目的による分類
砂防えん堤の目的による分類は、以下のとおりである。
目的 | 説明 |
---|---|
土砂生産抑制施設 | 上流側に土砂を堆積させ、山脚を固定して山腹の崩壊を防止する |
土砂流送制御施設 | 流出土砂を貯留または調整する |
1-3 砂防えん堤の形式による分類
砂防えん堤の形式による分類は、以下のとおりである。
形式 | 説明 |
---|---|
不透過型砂防えん堤 | 土石流時と平常時の流出土砂を貯留する |
透過型・部分透過型砂防えん堤 | 土砂を捕捉または調整する |
1-4 砂防えん堤の構造形式による分類
表2-1-4 砂防えん堤の構造形式による分類
構造形式 | 説明 |
---|---|
コンクリート重力式砂防えん堤 | 一般的な砂防えん堤であり、堤体コンクリートの自重で外力に抵抗する。 |
中空中詰め重力式砂防えん堤 | 底面応力の緩和とコンクリート量の節減に効果があるが、型枠費が大きく、最近はあまり採用されない。 |
ロックフィル砂防えん堤 | 良質な材料を現場近くで 得られることが望まれる。 |
アーチ式砂防えん堤 | 外力を河床部から側方部へ大部分を伝えることによって安定を図る構造。 |
三次元砂防えん堤 | 堤体に作用する荷重を基礎の地盤と側方の岩盤に伝え、摩擦力およびせん断抵抗力によって安定を図る構造。 |
枠形式砂防えん堤 | 地質条件で屈とう性が要求される場合や、緊急な施工を要する場合、あるいは透水性が要求される場合に用いられる。 |
スリット砂防えん堤 | 土砂流のフロント部の巨礫群を捕捉し、減勢させる鋼管スリット砂防えん堤や、掃流域で貯砂量の一部を調節量として取り扱うために施工するものなどがある。 |
ダブルウォール砂防えん堤 | 矢板やエキスバンドメタル、コンクリートパネルを上下流に組み立てて、型枠の代替とする。 |
ソイルセメント砂防えん堤 | 現地発生土砂を有効活用し、堤体材料とする構造形式。 |
2. 砂防えん堤の各部の名称
砂防えん堤の各部の名称は、図2-2-1に示すとおりである。
部位 |
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本堤 |
非越流部 |
袖天端 |
越流部 |
袖小口 |
非越流部 |
水通し |
袖勾配 |
副堤 |
水叩き池 |
水叩き |
本副間距離 |
袖立上がり |
天端幅 |
水抜き |
間詰め |
副堤 |
水通し幅 |
袖 |
前庭保護工 |
なお、前庭保護工として、砂防えん堤の下流の構造物として設置するものには副堤と垂直壁がある。
副堤
副堤は、本堤の高さが15m以上の場合、本堤下流の基礎地盤が悪く洗掘・河床低下のおそれのある場合および、水叩きコンクリートの厚さが2mを越えて水叩池を設けた場合に、概ね単独で設置する構造物で、周囲の岩盤が劣悪な場合には、水叩き被覆工を伴うこともある。裏のり勾配をつける等単独で構造物の安定が図れる構造でなければならない。
垂直壁
垂直壁は、水叩きの下流に設置する構造物で、水叩きコンクリート下流の洗掘を防ぐための構造物である。なお、上流側の勾配は、鉛直として設置する。
3. 砂防えん堤の配置
3-1 位置
設置目的 | 設置位置 |
---|---|
山脚固定による山腹の崩壊などの防止または軽減 | 崩壊などのおそれがある山腹の直下流 |
渓床の縦侵食の防止または軽減 | 縦侵食域の直下流 |
不安定な渓床堆積物の対策 | 不安定な渓床堆積物の直下流 |
4. 不透過型砂防えん堤の設計
不透過型砂防えん堤の設計は、以下の基準に従うものとする。
- 河川砂防技術基準 同解説 計画編 第3-2章砂防施設配置計画
- 河川砂防技術基準(案)同解説 設計編Ⅱ 第3章2節砂防ダム
- 改訂版 砂防設計公式集
- 砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策指針)同解説
- 土石流・流木対策設計技術指針同解説
設計内容 |
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砂防えん堤型式の選定 |
水通しの設計 |
本体の設計 |
基礎の設計 |
袖の設計 |
前庭保護工の設計 |
付属物の設計 |