Skip to main content

第14章 砂防

第1節 基本事項

1. 適用範囲

本章では、砂防えん堤、床固め工、護岸および水制工、渓流保全工(流路工)、山腹に関する設計の考え方を示したものである。

本章は、砂防施設配置計画のうち、土砂生産抑制施設配置計画、土砂流送制御施設配置計画について、土砂生産・流送の場とその場で使われる砂防の工種について整理したものである。

水系砂防計画及び土石流対策計画に基づき策定される砂防施設配置計画の区分土砂生産・流送の場砂防の工種
土砂生産抑制施設配置計画山腹山腹基礎工、山腹緑化工、山腹斜面補強工、山腹保育工
渓床・渓岸砂防えん堤、床固工、帯工、護岸工、渓流保全工
土砂流送制御施設配置計画渓流・河川砂防えん堤、床固工、帯工、護岸工、水制工、渓流保全工、導流工、遊砂地工

2. 適用基準等

表1-2-1 示方書等の名称

指針・要綱等発行年月日発刊者
河川砂防技術基準 同解説 計画編平成17年11月日本河川協会
河川砂防技術基準(案)同解説 設計編Ⅱ平成9年10月
砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策指針)同解説平成19年3月国土技術政策総合研究所
土石流・流木対策設計技術指針同解説平成19年3月
改定版砂防設計公式集(マニュアル)昭和59年10月全国治水砂防協会
鋼製砂防構造物設計便覧(平成21年度版)平成21年9月砂防・地すべり技術センター
砂防ソイルセメント設計・施工便覧平成23年10月
その他関係法令等--

3. 設計の基本的考え

砂防設備の設計にあたっては、治水安全性の確保とともに、自然環境を守り優れた自然を後世に残すよう配慮しなければならない。

渓流空間は、恐ろしい土砂災害の発生の場であると同時に、自然環境に恵まれた憩いの場でもある。したがって、砂防施設の設計あたっては、治水安全性の確保とともに、自然環境を守り優れた自然を後世に残すよう配慮しなければならない。

3-1 環境との調和

自然と調和した健康な暮らしと健全な環境の創出を図るため、周辺環境に十分配慮し、自然の渓流を活かした砂防施設の設置を行い、「環境と調和した砂防施設」の立案を進める。

「環境と調和した砂防施設計画」は、渓流が持つ自然な姿をできるだけ保ち、渓流が本来有している良好な生息環境に配慮し、あわせて美しい自然景観を保全・創出するものであり、砂防施設の立案においては、土砂処理のための合理的な計画を検討すると同時に、環境に配慮することが必要である。

各砂防施設における環境に配慮する方法の一例:

施設検討項目
山腹工- 山腹基礎工は周辺環境になじんだ工法、材料等を工夫する。(間伐材の利用(山腹工節減工法等)) - 植栽工の樹種は適地、適木を選定する。(樹種は2~4種類を組み合わせ自然植生に近いものとする。)
砂防えん堤工- 周辺環境になじむよう構造、材料、修景等を工夫する。(砂防えん堤のスリット化、必要に応じて魚道の確保(魚の迂回路・多段式落差工)、修景用ブロックを型枠に使用、石、間伐材(木材)等で被覆、砂防えん堤前面を極力、覆土し植栽する。現地発生土砂の有効活用(砂防ソイルセメント工法の活用))
床固め工- 周辺環境になじむよう構造、材料、修景を工夫する。(渓流魚、両生類に対する配置(魚道、オオサンショウウオ昇降路)、魚の回遊路、窪地の設置、多段式落差工、全断面魚道化、緩勾配化)
河道- 下流部の河道法線、横断線形、断面構造を工夫する。(現河道を極力活かし、屈曲や膨らみを持った法線形の採用、瀬や淵を保全、創出し、直線化を避ける、現河道幅が広い部分は遊砂地として利用、渓岸の緩傾斜化(背後の土地利用状況・用地の確保等を考慮)、低水路の確保(河道内に植生エリアを確保・河床勾配が急などで複数断面の形状が維持できない場合は除く))
護岸工(根固め)- 構造、材料を工夫する。(水理特性に応じ植生と木または石材を併用した渓岸保護の採用、じゃかご、捨石等の多様な空隙構造をもつ材料の採用、コンクリート護岸を覆土し、植生を導入(隠し護岸)(低水路を除き下流に悪影響のない程度に覆土)、多自然型ブロックの採用やつる性植物で護岸を覆う、護岸の背後地に樹木を植え、渓畔林を創出)
落差工- 現河床勾配の変化点等以外は極力落差工を施工しない。(構造、材料、修景を工夫) - 魚道の確保に配慮する。(魚の回遊路、窪地の設置、多段式落差工、全断面魚道化)
緑の砂防- 緑の環境保全機能、防災機能を最大限活かす。(土砂災害緩衝樹林帯の整備、環境保全機能(生物多様性機能、景観機能、水質浄化機能)、防災機能(土砂生産抑制機能、流出土砂抑制機能、流出土砂調整機能、土地利用抑制機能))

第2節 砂防えん堤(標準)

1. 砂防えん堤の種類

1-1 砂防えん堤構築材料による分類

砂防えん堤の構築材料による分類は、表2-1-1のとおりである。

種類説明
コンクリート砂防えん堤砂防えん堤に一般的に用いられる材料である。また、加工されたものとして、コンクリート枠砂防えん堤、コンクリートブロック砂防えん堤等がある。
コンクリートブロック砂防えん堤コンクリートブロックを組み合わせて築造した砂防えん堤で、基礎地盤に対する要求が少ないため、地すべり地等で用いられることが多い。
粗石コンクリート砂防えん堤コンクリートの中に粗石(径30~50cm)を混入したものを、特に粗石コンクリートと呼ぶ。強度的にコンクリートと中埋石の付着さえ十分ならば粗石コンクリートはコンクリートと同一であるという前提で、現地で得やすい玉石を中埋めとして用い、コンクリート量を節約するもののである。
鋼製砂防えん堤近年、鋼製の砂防えん堤の施工例が多くなっている。種類として、枠形式、スリット形式、格子形式、ダブルウォール形式、セル形式、スクリーン形式等があげられる。
石積み砂防えん堤空石積みと練り石積みがあり、耐磨耗性は良いが、近年石工が少なくなり、施工例も減少している。
ロックフィル砂防えん堤ロックフィル形式、アース形式等がある。
木製砂防えん堤丸太を組み合わせた方格枠内に玉石を填充するものが、木製堰堤として古くから用いられ、現場付近で得られる材料で安定的な構造物がつくれるという点で高く評価されていたが、木材は耐久性の点で永久構造物としては適当でなく、一時的な構造物あるいは短期間で安定が期待できるような小荒廃地の構造物として使われる。
ソイルセメント砂防えん堤砂防ソイルセメントは、施工現場において現地発生土砂とセメント・セメントミルク等を攪拌・混合して製造するもので、砂防施設とこれに伴う附帯施設の構築及び地盤改良に活用する材料の総称である。

1-2 砂防えん堤の目的による分類

砂防えん堤の目的による分類は、以下のとおりである。

目的説明
土砂生産抑制施設上流側に土砂を堆積させ、山脚を固定して山腹の崩壊を防止する
土砂流送制御施設流出土砂を貯留または調整する

1-3 砂防えん堤の形式による分類

砂防えん堤の形式による分類は、以下のとおりである。

形式説明
不透過型砂防えん堤土石流時と平常時の流出土砂を貯留する
透過型・部分透過型砂防えん堤土砂を捕捉または調整する

1-4 砂防えん堤の構造形式による分類

表2-1-4 砂防えん堤の構造形式による分類

構造形式説明
コンクリート重力式砂防えん堤一般的な砂防えん堤であり、堤体コンクリートの自重で外力に抵抗する。
中空中詰め重力式砂防えん堤底面応力の緩和とコンクリート量の節減に効果があるが、型枠費が大きく、最近はあまり採用されない。
ロックフィル砂防えん堤良質な材料を現場近くで得られることが望まれる。
アーチ式砂防えん堤外力を河床部から側方部へ大部分を伝えることによって安定を図る構造。
三次元砂防えん堤堤体に作用する荷重を基礎の地盤と側方の岩盤に伝え、摩擦力およびせん断抵抗力によって安定を図る構造。
枠形式砂防えん堤地質条件で屈とう性が要求される場合や、緊急な施工を要する場合、あるいは透水性が要求される場合に用いられる。
スリット砂防えん堤土砂流のフロント部の巨礫群を捕捉し、減勢させる鋼管スリット砂防えん堤や、掃流域で貯砂量の一部を調節量として取り扱うために施工するものなどがある。
ダブルウォール砂防えん堤矢板やエキスバンドメタル、コンクリートパネルを上下流に組み立てて、型枠の代替とする。
ソイルセメント砂防えん堤現地発生土砂を有効活用し、堤体材料とする構造形式。

2. 砂防えん堤の各部の名称

砂防えん堤の各部の名称は、図2-2-1に示すとおりである。

部位
本堤
非越流部
袖天端
越流部
袖小口
非越流部
水通し
袖勾配
副堤
水叩き池
水叩き
本副間距離
袖立上がり
天端幅
水抜き
間詰め
副堤
水通し幅
前庭保護工

図2-2-1 砂防えん堤各部の名称

なお、前庭保護工として、砂防えん堤の下流の構造物として設置するものには副堤と垂直壁がある。

副堤

副堤は、本堤の高さが15m以上の場合、本堤下流の基礎地盤が悪く洗掘・河床低下のおそれのある場合および、水叩きコンクリートの厚さが2mを越えて水叩池を設けた場合に、概ね単独で設置する構造物で、周囲の岩盤が劣悪な場合には、水叩き被覆工を伴うこともある。裏のり勾配をつける等単独で構造物の安定が図れる構造でなければならない。

垂直壁

垂直壁は、水叩きの下流に設置する構造物で、水叩きコンクリート下流の洗掘を防ぐための構造物である。なお、上流側の勾配は、鉛直として設置する。

3. 砂防えん堤の配置

3-1 位置

設置目的設置位置
山脚固定による山腹の崩壊などの防止または軽減崩壊などのおそれがある山腹の直下流
渓床の縦侵食の防止または軽減縦侵食域の直下流
不安定な渓床堆積物の対策不安定な渓床堆積物の直下流

4. 不透過型砂防えん堤の設計

不透過型砂防えん堤の設計は、以下の基準に従うものとする。

  • 河川砂防技術基準 同解説 計画編 第3-2章砂防施設配置計画
  • 河川砂防技術基準(案)同解説 設計編Ⅱ 第3章2節砂防ダム
  • 改訂版 砂防設計公式集
  • 砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策指針)同解説
  • 土石流・流木対策設計技術指針同解説
設計内容
砂防えん堤型式の選定
水通しの設計
本体の設計
基礎の設計
袖の設計
前庭保護工の設計
付属物の設計

4-1 基本事項

4-1-1 設計洪水流量

砂防えん堤の設計流量は、土砂移動現象「掃流区間及び土石流区間」に応じて、設計該当地区の降雨量の年超過確率(1/100~1/200)、または既往最大のうち大きい方を採用し、土砂含有率を考慮して定めるものとする。

設計洪水流量の算定は、次に示す合理式が一般に用いられる。

Q = Q' × (1 + α) Q' = (1/3.6) × f × r × A (合理式)

ここに、

  • Q: 対象流量(m^3/s)
  • Q': 合理式によって求めるピーク流量(m^3/s)
  • α: 土砂混入率
  • f: 流出係数
  • r: 洪水到達時間内の平均雨量強度(mm/h)
  • A: 流域面積(km^2)

ただし、土石流区間の場合は原則として「砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策指針)同解説」に準じ、土石流ピーク流量に対しても安全な設計とする。

表2-4-1 近畿地方整備局管内における計画規模の一例

水系六甲山系瀬田川水系木津川水系九頭竜川水系
計画雨量*110mm/hr60mm/hr(田上)70mm/hr(信楽)60mm/hr(名張市、青山町、山添村)91mm/hr(曽爾村、御杖村、美杉村)90mm/hr
対象確率1/2001/1001/1001/100
土砂混入率50%掃流区域: 10%土石流区域: 50%掃流区域: 10%土石流区域: 50%20%

表中の「計画雨量*」は上記水系での1例であって、ピーク流量を算定する際に用いる洪水到達時間内の平均降雨強度は該当する地域の降雨強度式(第11章水路第5節府県別降雨強度)より求める必要がある。

4-1-2 設計荷重

砂防えん堤に作用する外力には、静水圧・堆砂圧・揚圧力・地震時慣性力・地震時動水圧・温度変化による膨張力・伸縮力・土石流荷重等があり、設計条件に応じて適切な外力で設計するものとする。

なお、土石流時の設計荷重については「河川砂防技術基準(案)同解説 設計編Ⅱ 第3章砂防施設の設計」による検討と、「土石流・流木対策設計技術指針同解説」による土石流流体力を考慮する場合についての両方を検討し、両方に対して安全でなければならない。

4-2 水通しの設計

4-2-1 水通しの位置および断面
  • 水通しの中心の位置は、原則として現河床の中央に位置するものとし、砂防えん堤上下流の地形、地質、渓岸の状態、流水の方向等を考慮して定めるものとする。
(1) 水通しの底幅B1

水通し幅は現渓床幅程度を基本とし、3m以上を原則とする。

(2) 水通しの高さH3

水通しの高さは、逆台形堰の越流公式により求められた対象流量に応じた越流水位hsに、表2-4-2に示す余裕高hs'以上の値を加えて定めるものとする。ただし、土石流ピーク流量を用いる場合は「土石流・流木対策設計技術指針同解説」に準じ越流水深を求め、その値と土石流として流出すると予想される最大礫径を比較して大きい方の値を越流水深hsとする。

計画流量余裕高
200m^3/s未満0.6m
200~500m^3/s0.8m
500m^3/s以上1.0m
計画堆砂勾配(余裕高)/(設計水深)
1/10以上0.50
1/10~1/300.40
1/30~1/500.30
1/50~1/700.25

図2-4-2 水通しの断面

4-3 重力コンクリート砂防えん堤本体の設計

4-3-1 天端幅

砂防えん堤の天端幅は、えん堤サイト付近の河床構成材料、流出土砂形態、対象流量等の要素を考慮して決定するものとし、流出土砂等の衝撃に耐えるとともに、水通し部では通過砂礫の摩耗等に耐えるような幅とする必要がある。

近畿管内では、重力式コンクリート砂防えん堤の天端幅は、一般に表2-4-4に示す値を用いている。

表2-4-4 近畿管内での天端幅(標準)

区間六甲山系瀬田川水系木津川水系九頭竜川水系
掃流区間3.0m2.0m2.0m2.5m
土石流区間3.0m3.0m--
4-3-2 断面形状

砂防えん堤として一般に用いる重力式砂防えん堤は、その安定を保つために、次の三つの条件を満たさなければならない。なお、砂防えん堤の断面決定に当たっては、原則として越流水深を考慮するものとする。

  1. 砂防えん堤の上流端に引張応力が生じないようえん堤の自重および外力の合力の作用線が、原則として底部の中央1/3以内に入ること。
  2. 砂防えん堤底と基礎地盤との間で滑動を起こさぬこと。
  3. 砂防えん堤内に生ずる最大応力が材料の許容応力を超えないとともに、地盤の受ける最大圧が地盤の許容支持力以内であること。
(1) 下流のり勾配

a. 越流部

砂防えん堤の下流のり面は、越流土砂による損傷を極力受けない計画とし、砂防えん堤の越流部における下流のり勾配は一般に1:0.2とする。

なお、流出土砂の粒径が小さく、かつその量が少ない場合(中小出水においても土砂の流出が少ない渓流等)は、経済性を考慮しこれより緩くすることができる。

ただし、下流のり勾配を緩くする場合、その上限を1:1.0とし、かつ土砂が活発に流送され始める流速Vとえん堤高さHから求められる次式の勾配よりも急にする。

L/H ≥ U^2/(2gH)

ここで、

  • L: 水通し肩からの堤底のり尻までの水平距離
  • H: えん堤高(m)
  • U: 土砂が活発に流送され始める流速U(m/s)

図2-4-3 下流のり勾配

b. 非越流部

非越流部の断面は、越流部断面と同一を標準とする。

ただし、非越流部では、落下砂礫の衝撃および摩耗等を考慮する必要がないので、下流のり勾配を緩くすることができる。非越流部の形状を越流部と変えるかどうかは、安全性および施工性の難易等を考慮して決定するものとする。

越流部の断面を変える場合は平常時および洪水時の安定性の他、15m以上の砂防えん堤については、未満砂で湛水していない状態の時に、下流側から地震時慣性力が作用する状態についても安全性を有する断面とする。

c. 上流のり勾配

重力式コンクリート砂防えん堤の越流部の上流のり勾配を求める場合は、安定計算により定めることとする。

4-4 基礎の設計

砂防えん堤の基礎地盤は、安全性等から岩盤が原則である。ただし、計画上やむをえず砂礫基盤とする場合(フローティングえん堤)は、原則として、えん堤高15m未満に抑えるとともに、均一な地層を選定しなければならない。

基礎地盤が所要の強度を得ることができない場合は、想定される現象に対応できるよう適切な基礎処理を行うものとする。

なお、砂防えん堤の基礎処理は、想定されるそれぞれの現象に対処できる工法から、経済性、施工性等も考慮して選定し設計しなければならないが、砂防えん堤の規模や基礎の状態により工法も著しく異なるため、いくつかの工法を比較検討して適切な工法を選定し、その工法に合った設計法により設計する必要がある。

4-4-1 カットオフ

カットオフは、砂防えん堤の必要な基礎根入れを確保した上で、パイピングやえん堤下流の対策として設けられる。

  1. カットオフの幅は、カットオフ部の応力集中を避けるために堤敷長のB/3以内とすることが必要であり、施工性を考慮してその幅を決めるものとする。なお最小幅は2mとする。
  2. カットオフの高さは、h=3m以内としている例が多い。安定計算上は堤体として扱わないものとする。

図2-4-4 カットオフの適用条件

4-4-2 段切り

岩盤を基礎とした砂防えん堤でえん堤軸直上流側の岩盤河床勾配が急であり、通常の水平なえん堤基礎面では岩盤への根入深が著しく大きくなり不経済となる場合、段切構造とすることができる。

えん堤基礎面を段切構造とすることができるえん堤は、岩盤を基礎としているえん堤に限り、砂礫基礎の場合には用いないこととする。段切構造は下図2-4-5を標準とし、上流側根入深が標準根入深の2倍程度以上の場合用いることができる。

安定計算は、図中Hをえん堤高とし、段切計画前の水平な基礎面を用いて計算するものとする。

図2-4-5 段切断面模式図

4-5 袖の設計

砂防えん堤の袖は、洪水を越流させないことを原則とし、想定される外力に対して安全な構造として設計するものとする。また、土石流・流木対策の場合は、礫の衝撃力と流木の衝撃力の大きい方に土石流流体力を加えたものに対して安全な構造とする。

袖の両岸は、洪水流等の外力をしばしば受けるとともに、異常な洪水や土石流により越流する場合も考えられ、これによる袖部の破壊あるいは下流部の洗掘は砂防えん堤の本体の破壊の原因になりやすい。袖はこれらに対処するため十分な袖勾配をとり、袖の嵌入の深さを本体と同程度の安定性を有する地盤までとし、特に砂礫地盤の場合は必要に応じて上下流に土留擁壁を施工して袖の基礎の安定を図るべきである。

4-6 前庭保護工の設計

前庭保護工は、砂防えん堤からの落下水、落下砂礫による基礎地盤の洗掘、および下流の河床低下の防止に対する所要の効果が発揮されるとともに、落下水、落下砂礫による衝突に対して安全なものとなるよう設計するものとする。

前庭保護工

前庭保護工は、副堤および水叩き池による減勢工、水叩き、側壁護岸、護床工等から成る。砂防えん堤を越流する水脈は、一般に高段からの自由落下であり、水脈の落下地点における衝突水圧等によりえん堤基礎部が洗掘される。一方、衝突した水脈は、下流へ高流速で流下するため、現況河川の水理条件にもどる地点まで河床低下が生じる。このためえん堤基礎と下流の河床への悪影響をなくす目的で、前庭保護工を設けて対処している。

なお、土石流が袖部を越流すると予想される場合は、図2-4-6に示すように、前庭部の側壁護岸を土石流の越流を考慮した構造とする。

土石流を考慮した側壁護岸の例
条件対策
土石流ピーク流量に対して袖部を含めた断面によって対処する場合袖の嵩上げにより余裕高を確保
土石流ピーク流量に対して袖部を含めた断面によって対処する場合側壁護岸のかさ上げにより余裕高を確保
側壁護岸を土石流の越流を考慮した構造とする場合水叩きの拡幅
側壁護岸を土石流の越流を考慮した構造とする場合のり面をコンクリート張り工とする

図2-4-6 土石流を考慮した側壁護岸の例

4-6-1 副堤・水叩き池による減勢工

副堤の位置、および天端の高さは、えん堤基礎地盤の洗掘、および下流河床低下の防止に対する所要の効果が発揮されるよう定めるものとする。

副堤の水通し、本体、基礎、袖の設計は、「本節4.不透過型砂防えん堤の設計」に準ずるものとする。

ただし、袖勾配は、原則として水平とするものとする。なお、土石流が頻発するような流域においては「土石流・流木対策設計技術指針同解説2.1.3.4前庭保護工」を参考とする。

4-6-2 水叩き

水叩きは、えん堤下流の河床洗掘を防止し、えん堤基礎の安定及び両岸の崩壊防止に対する効果が十分に発揮されるとともに、落下水、落下砂礫の衝突および揚圧力に対して安全なものとなるよう設計するものとする。

副堤を設けない場合は、水叩き下部端に垂直壁を設けるものとする。なお、垂直壁の構造及び水叩きの厚みは「河川砂防技術基準(案)同解説 設計編Ⅱ 第3章2.8.3」に準ずる。

4-6-3 側壁護岸

側壁護岸は、砂防えん堤の水通し天端より落下する流水によって、本堤と副堤または垂直壁との間において発生する恐れのある側方侵食を防止しうる構造として設計するものとする。

側壁護岸基礎の平面位置は、砂防えん堤から対象流量の落下位置より後退させるものとする。側壁構造は、「河川砂防技術基準(案)同解説 設計編Ⅱ 第3章2.8.3」に準じて設計する。なお、側壁の水抜きは、原則として常時落木が予想される水位以下には設けないものとする。

4-6-4 護床工

護床工は、副堤、垂直壁の下流河床の洗掘を防止しうる構造として設計するものとする。

護床工は、河床材料、河床勾配、対象流量などを総合的に検討して設計するものとする。

4-7 付属物の設計

砂防えん堤の付属物である水抜き、間詰め、流木止め等は、その機能および安全性が得られる構造として設計するものとする。

(1) 水抜き

砂防えん堤には必要に応じ水抜き暗渠を設け、次に示すこれら目的によって、その効果を十分発揮するような大きさ、数、形、および配置を定めるものとする。

  • 流出土砂量の調節
  • 施工中の流水の切替え

なお、砂防えん堤の構造上水抜き箇所に応力の集中を起こしやすいので、必要に応じて鉄筋等により補強する等、慎重に対処するものとする。

また、小断面の水抜き暗渠(0.6m×0.6m程度以下)については、硬質塩化ビニール管とする。

(2) 間詰め

基礎および袖の嵌入層における掘削部は間詰めにより保護しなければならない。

図2-4-7 間詰めの例

なお、一般に間詰めは、掘削部において行い、基礎掘削部の場合の間詰めは、基礎岩盤はコンクリート、砂礫基礎は砂礫あるいはコンクリートで行う。本体の立上がり部および袖の嵌入部の間詰めは、岩盤の場合はコンクリート、土砂盤の場合は土留擁壁を設け土砂で埋めもどすことが多い。間詰コンクリートの打設高は1mを原則とし、本体コンクリートと同時打設とする。

(3) 堤冠保護工

水通し部は、細流土砂や石礫により摩耗や欠損されることが考慮される場合には、これを防止するため堤冠部を保護するものとする。

堤冠保護工については、施工方法を考慮して、下図の施工範囲を標準とする。

図2-4-8 堤冠保護工施工範囲

(4) 流木止め

流木の流下の恐れがある場合には、必要に応じて流木止めを設けるものとする。

流木止めを本堤や副堤に設置する際は、水通し断面は、図2-4-9のように流木止めを含まない断面とする。

図2-4-9 流木止めのある場合の水通し断面

なお、流木止めの設計は、流木止めのみの安定性についても安定計算を実施するものとする。流木止めの型式には、スリット方式やスクリーン方式等があり、その設計にあたっては、流木除去が可能なように考慮する必要がある。

4-8 堤体腹付け補強対策

腹付け補強厚さは、施工上必要な幅として1.5mを最小とする。ただし、盛土等により作業ヤードが確保できる場合や、石積で修景する場合は別途考慮する。

また、新旧コンクリートの一体化を目的として、既設堤体のチッピングおよび用心鉄筋を配置するとともに、現場状況に応じて天端の新旧打設目からの浸透防止対策を行う。

既設堤体コンクリートの強度が不足している部分は撤去等の処理を行うとともに、無視できない漏水についても止水、グラウト等の処理を行う。

平成9年に発生した腹付け部の剥離(関東地整、利根川水系)で、天端の新旧コンクリート打継目からの流水の流入した事例から、浸透水も剥離を助長させた一因であると考えられることから、現場状況に応じて浸透防止対策を行う。

図2-4-10 浸透防止対策例

5. 透過型砂防えん堤の設計

透過型砂防えん堤の設計は、「砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策指針)同解説」「土石流流木対策設計技術指針同解説」に基づくこととし、必要に応じて「鋼製砂防構造物設計便覧」を参照するとよい。

5-1 基本事項

5-1-1 透過型砂防えん堤の種類

図2-5-1 透過型砂防えん堤の種類

コンクリートスリット砂防えん堤は水通しの一部が鉛直方向に開口しているスリット構造のコンクリート砂防えん堤として位置づけられるが、設計の基本は不透過型コンクリート砂防えん堤に準じる。

なお、透過型砂防えん堤は以下の点に留意して計画・設計するものとする。

  1. 土石流区間の透過型砂防えん堤は鋼製を原則とし、流下する土砂については、下流のえん堤などで捕捉あるいは調節できるように計画する。
  2. コンクリートスリット砂防えん堤の場合、透過部総断面積が小さいために、先行流の湛水により、土石流先頭部に含まれる巨石は湛水の上流端附近に停止して透過部断面が閉塞せず、巨石を含まない土砂がスリットを通過したり、減水時の短時間に流下してしまう危険性がある。
  3. 掃流区間に設置する透過型砂防えん堤は、コンクリートスリット砂防えん堤を原則とする。鋼製スリットえん堤では各個運搬される土砂がすり抜けてしまうので、鋼製スリットえん堤は設置しない。掃流区間に設置されたコンクリートスリットえん堤は大量の土砂がえん堤下流部に堆積するので、下流河道内、あるいは下流のえん堤により安全に堆積するように計画する。

土石流区間は、一般に渓床勾配I=2°(概ね1/30)以上の区間で、掃流区間は2°(1/30)未満の区間である。

大暗渠えん堤は、砂防えん堤堤体の一部に暗渠を設置したもので、土石流時に流下してくる石礫によって大暗渠を閉塞させるものである。鋼製スリット砂防えん堤は透過部断面が土石流中の石礫を閉塞するように鋼管を設置したものである。

5-1-2 設計流量

土石流区間の設計流量は、土石流ピーク流量とする。なお、掃流区間の場合は、「本章4.不透過型砂防えん堤の設計」と同様とする。

土石流区間の透過型砂防えん堤の水通し断面を設計する場合、土石流ピーク流量を用いて算出する。土石流ピーク流量は、「砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策指針)同解説2.7.3」に示した方法に基づき算出する。

5-1-3 設計荷重

基本的には「本章4.不透過型砂防えん堤の設計」と同様とする。

ただし、透過構造に応じた設計外力が作用するものとし、次のことを考慮するものとする。

考慮事項説明
堆砂圧土石流が上載されるものとして台形分布とする。
透過部分の自重砂礫、および水は詰まっていない状態で算定する。
透過率の高い場合図2-5-2に示す堆積圧、および流体力を外力として検討する。堆砂圧は台形分布となる。
基礎コンクリートが厚い場合基礎天端まで水位があるものとして静水圧を作用させる。

図2-5-2 透過型鋼製スリット砂防えん堤の設計外力

コンクリートスリット砂防えん堤の場合の設計外力、および安定条件等は、不透過型砂防えん堤に準じて行うものとする。ただし、堤体自重は水通し部の堤体ブロック全体の重量と、スリット部を含んだ水通し部のブロックの体積より算出した容積の単位体積重量を用いて計算する。(図2-5-3参照)

r_c = W / V

ここで、

  • r_c: 見かけのコンクリート単位体積重量
  • W: スリット部を除いた堤体重量
  • V: スリット部を含む堤体積

図2-5-3 スリット部における水通しの堤体積

5-1-4 設計水深

土石流区間に設置する鋼製透過型砂防えん堤の場合、設計流量を流しうる水通部の越流水深を設計水深として定める。掃流区間に設置するコンクリートスリット砂防えん堤の場合、「本章4.不透過型砂防えん堤の設計」と同様とする。

5-2 透過型砂防えん堤の安定条件

透過型砂防えん堤は堤体全体が滑動、転倒および支持力に対して安定であるとともに、透過部を構成する部材が材料の強度に対して安全でなければならない。

透過型砂防えん堤堤体全体の安定条件は、「本章4.不透過型砂防えん堤の設計」に準ずる。

5-3 本体構造

透過部の部材は、設計外力に対し安全でなければならない。一部の部材が破損したとしても砂防えん堤全体が破壊につながらないよう、フェールセーフの観点から、できるだけ冗長性(リダンダンシー)の高い構造とする。

5-3-1 水通し

水通し断面は、原則として「本章4.不透過型砂防えん堤の設計」によるが、透過部閉塞後も安全に土石流を流せる断面とする。透過型砂防えん堤の透過部が完全に閉塞した場合に土石流ピーク流量を流し得る十分な水通し断面を有する構造とする。鋼製スリット砂防えん堤の場合は、余裕高を考慮しなくてもよい。

図2-5-4 透過型砂防えん堤の水通し

(1) 開口部の大きさ

透過型砂防えん堤の開口部の大きさは、土石流の最大礫径、および施設の目的により決定する。ただし、スリット砂防えん堤の開口部の最小幅は、施工性、維持管理を考慮し、1.0mとする。土石流の最大礫径は、土石流として流出すると予想される土砂の粒径をダム計画地点より上流の渓床、およびえん堤サイト下流各々200m程度の渓床堆積物を踏査し、200個以上の巨礫の頻度分布を調べ、累加曲線の95%程度をもって最大礫径とする。

実験によると、土砂濃度が高い場合においては、水平純間隔及び鉛直純間隔が最大礫径(D95)の1.5倍より小さければ、透過部断面が閉塞することが分かっているため、機能上、必要な場合、水平純間隔及び鉛直純間隔を1.5倍まで広げることができる。

機能水平純間隔鉛直純間隔最下段の透過部下面高さ
土石流の捕捉D95×1.0 ※1D95×1.0 ※1土石流の水深以下 ※2

※1 上述の通り、水平純間隔・鉛直純間隔を最大礫径(D95)の1.5倍まで広げることができる。 ※2 上述の通り、最下段透過部断面高さを最大礫径(D95)の1.5倍まで狭くすることができる。

また、掃流区域で堰上げ型スリット砂防えん堤を計画した場合は、次式を満足するものとする。

b ≤ 1.5d100 >> b > 3d10

ここに、

  • d100: 洪水時の最大礫径(10cm単位)(100年確率程度)
  • d10: 中小洪水時の最大礫径(10cm単位)(10年確率程度)

5-4 スリットの構造

5-4-1 鋼製スリットの選定

鋼製スリットの選定については、設計耐力等の性能規定、経済性及び環境面等を考慮して現場にあった最適なものを選定する。

5-4-2 スリットの数

スリットの数は、スリット部の流下能力が中小洪水流量以上になることを原則とし、スリット密度およびスリット幅の総和を勘案し決定する。

1個当たりのスリットを流下する流量Qは、逆台形堰の越流式により求めるものとし、全体の流量はn・Qとなる。堰上型の場合は、えん堤高、スリットの深さ、スリットを流下する流量等の関係を十分考慮し、スリット幅の総和を決定する。スリット幅の総和が同じであれば、複数のスリットにしても土砂調節効果は同じであることから、スリットの数はスリット底部の摩耗や施工性を考慮して決定する。

5-4-3 スリットの深さ

スリットの敷高は、上流側の現河床高程度を下限とし、砂防えん堤の基礎根入れ深さを確保するものとする。また、山脚固定等の目的を兼ねる場合は、これを考慮した敷高の検討が必要である。なお、垂直壁、もしくは副堤の水通し天端よりスリットの敷高を高くしなければならない。

スリットの高さは、水位変動を大きくし土砂調節効果を高める必要性から、できるだけ大きい方が望ましい。

堰上型の場合、スリット砂防えん堤は、堰上げによって土砂濃度を低下させ堆砂を促進するタイプであり、砂防えん堤上流で流水が減勢して堰上げられることが必要である。したがって、砂防えん堤上流の流れが射流である場合には、スリット部での越流水深(水位)が跳水対応水深より大きくなることが必要である。

事項敷高
スリットの敷高
生態系、景観下流水面との差を小さく
副堤の水通し天端副堤水通し天端標高程度
スリットの配置

スリットの配置は、単スリットでは水通しの中央を原則とする。複スリットでは渓岸に悪影響を与えないように決定する。

袖の安定性、および構造

不透過型砂防えん堤と同様とする。

前庭保護工

条件前庭保護工
透過部が閉塞した場合えん堤本体の安定性を維持できるよう計画
土石流の後続流による洗掘が予想される場合不透過型砂防えん堤に準じた前庭保護工
透過部下端と渓床面に落差がある場合不透過型砂防えん堤に準じた前庭保護工

第3節 床固め工(標準)

1. 基本事項

1-1 目的

床固め工は、渓床の縦侵食防止、渓床堆積物の再移動防止により渓床を安定させることとともに、渓岸の侵食又は崩壊などの防止又は軽減を目的とした施設である。なお、床固め工は、護岸工などの基礎の洗堀を防止し、保護する根固めを有する。

1-2 位置

床固め工の配置位置は、次の事項を考慮して決定するものとする。

区分事項
1渓床低下の恐れのある箇所に決定する。
2工作物の基礎を保護する目的の場合には、それら工作物の下流部に設置する。
3渓岸の侵食、崩壊及び地すべり等の箇所においては、原則としてその下流に決定する。

なお、床固め工は、流水の掃流力などにより渓床の低下を防ぐとともに、不安定土砂の移動を防ぎ土石流などの発生を抑制する機能や渓床の低下の防止と渓床勾配の緩和、乱流防止により渓岸の侵食・崩壊を防止・軽減する機能を有する。

渓岸侵食・崩壊の発生箇所あるいは縦侵食の発生が問題となる区間の延長が長い場合には、床固め工を階段状に配置するなどの検討を行い、渓床渓岸の安定を図る。

床固め工の高さは、通常の場合5m程度以下とする。

1-3 床固めの方向

床固め工の方向は、次の事項を考慮するものとする。

  1. 床固め工の方向は、原則として決定箇所下流部の流心線に直角とする。
  2. 床固め工を階段状に決定する場合の各床固め工の方向は、原則として各決定箇所下流路の流心線に直角とし、各床固め水通しの中心点は、その直上流の床固め水通しの中心点における流心線上に定めるものとする。

床固め工における水通しの越流水は、理論上床固め工の方向に直角に放射されるものである。床固め工の方向を定めるに当たっては、水通しの越流脚に集中する洪水流が、床固め工上下流部の渓岸、あるいは、そこにある工作物に衝撃をふるい害を及ぼさないよう注意しなければならない。

図3-1-1 床固め工の方向

1-4 渓床勾配

床固め工の渓床勾配は、次の事項を考慮するものとする。

  • 床固め工は、一般に渓流の上流部が安定している場合の、あるいは荒廃していでも砂防工事の進行した後の下流部において侵食が行われる所に計画するもので、床固め工によって新しく渓床勾配が形成されることが多い。
  • 床固め工によって形成される渓床勾配は、上流部の状態がよく、流下する砂礫の形状が小さいほど緩くなることを注目すべきである。

渓流の渓床勾配は、流量すなわち流速および水深と渓床の抵抗力によって定まるもので、したがって、床固め工の上流渓床の計画勾配は、これを考慮して、侵食と堆積の起こらない、その流路に適合したもので定めなければならない。

渓床が低下するから、階段状床固め工群間の計画勾配決定に当たっては特にこの点に注意を要する。

  • 階段状床固め工群においては、基礎は下流床固め工の計画渓床勾配面以下に根入れをしなければならない。

  • 渓流の上流部が荒廃しているときは、盛んに砂礫が流送されて下流部渓床が上昇する傾向が強く、縦侵食を伴わないのが普通で、床固め工の施工は時期が早過ぎるか、またはその必要がない。このような場合は、先ず上流部に砂防工事を施工する。上流部が荒廃していない場合には、下流部に縦侵食が起こって床固め工の必要が生じてくる。すなわち、上流から土砂の流送が全くないか、またはわずかの場合に縦侵食が行われているから、この部分に設ける床固めの上流には現勾配と異なった渓床勾配が形成され、しかも上流部の状態がよければよいほど、また砂防工事が進行すればするほど、形成される勾配も小さな値をとるものである。

2. 床固め工の設計

床固め工の設計にあたっては、その目的が達成されるようにするとともに、安全性および将来の維持管理等についても考慮するものとする。

床固め工の設計は、原則的として「本章第2節4.不透過型砂防えん堤の設計」に準ずるが、垂直壁をもおけない場合等は一般に、床固め工の突出高は、渓床面から少なく貯水することはなく、外力は水圧として考える必要はない。

2-1 水通し

床固め工の水通しは、「本章第2節4.不透過型砂防えん堤の設計」に準ずるものとする。

2-2 本体

床固め工は、一般に重力式コンクリート型式が採用されるが、地すべり地や軟弱地盤等の特殊な条件の場合には、枠床固め工、ブロック床固め工、鋼製床固め工等を採用することがある。

なお、その場合は使用する材料および安定を確かめたうえで、現地条件に応じた断面等を決定するものとする。

(1) 高さ

床固め工の高さは、次の事項を考慮するものとする。

  • 床固め工の高さは、通常の場合5m程度以下とし、水叩き、および垂直壁を設けるときも、落差3.5~4.5mが限界である。
  • 床固め工の高さ(水叩きおよび垂直壁を設置する場合を含む)が、5m程度以上を必要とする場合、および床固め工を長区間にわたって設ける必要のある場合は、階段状に計画するのが適当である。
(2) 天端幅

床固め工の天端幅は、原則的として「本章第2節4.不透過型砂防えん堤の設計」に準ずるが、これによりがたい場合であっても、最小1.0mとする。

図3-2-2 天端幅の例

(3) 断面形状

床固めの断面形状は、原則として「本章第2節4.不透過型砂防えん堤の設計」に準ずるが、高さが3.5m以内においては下流のり勾配を1:2.0、上流のり勾配を垂直とし、3.5mを越える場合は別途検討するものとする。

2-3 基礎

基礎がシルトや細砂の場合は、特に透水によるパイピング等に注意する必要がある。また、粒度や締まり具合いのいかんによっては、地震時に流動化現象を起こす恐れがある。粘土の場合は、締まり具合いを含水比によって、圧密沈下やせん断破壊を起こすことがあり、荷重に対する支持力を締め固まりの状況等について、十分注意を払う必要がある。

2-4 袖

単独床固めの場合は「本章第2節4.不透過型砂防えん堤の設計」に準ずるのを原則とするが、一定計画のもとに設置される床固め群の場合は、最上流の床固めのみ袖勾配を設けないのが普通である。また、床固めの施工箇所の両岸、あるいは片側が築堤、宅地、耕地等である場合は、護岸工があっても床固め工の袖は護岸工に関係なく十分に嵌入しなければならない。

2-5 前庭保護工

床固め工には、原則として前庭保護工を設けるものとする。

床固めの設置箇所が砂礫層からなる場合は、原則として水叩きを設けるものとする。

図3-2-3 水叩きの例

3. 帯工

帯工は、床固め工間において床固め工間隔が大きい場合、局所的洗堀により河岸に悪影響を及ぼすことが多く、その対策として用いられる。

単独床固め工の下流および階段状床固め工群の間隔が大きく、なお縦侵食が行われ、あるいはその恐れがある場合は、帯工を計画する。

なお、帯工の間隔は、通常その勾配を表わす分数の分母の数を距離に読み替えた程度を原則とし、また帯工の高さは、下流河川の河床変動を考慮して決定するものとする。

第4節 護岸工および水制工(標準)

1. 護岸工の設計

護岸の設計にあたっては、その目的とする機能が発揮され、流水、流送土砂等の外力に対して安全とするとともに、維持管理面についても考慮する。

護岸の機能としては、山脚の固定、渓岸崩壊防止、横侵食防止等が考えられる。

護岸は、流水による河岸の決壊や崩壊を防止するためのものと、流水の方向を規制してなめらかな流れにすることを目的としたものがある。

護岸工は「河川砂防技術基準 同解説 計画編 第13章第4節護岸、第5節水制」「河川砂防技術基準(案)同解説 設計編Ⅱ 第3章第4節護岸、第5節水制」「改訂版 砂防設計公式集」に準じ、設計を行うものとする。

なお、一般的な護岸の設計順序を図4-1-1に示す。

図4-1-1 護岸設計の順序

1-1 護岸工の位置

護岸工の位置は、次の事項を考慮するものとする。

  1. 渓流において、水流、あるいは流路の湾曲によって、水衝部、あるいは凹部渓岸山腹の崩壊の増大、または崩壊の恐れがある場合、この部分に護岸工を計画する。
  2. 渓流下流部の土砂堆積地、または耕地、および住宅地等の区域において、渓岸が決壊し、若しくはその恐れがある場合、護岸工を計画する。
  3. 渓岸の決壊、または崩壊防止のためには、床固め工、あるいはえん堤工のほか、山脚の根固めに護岸工を必要とする場合が多い。

図4-1-2 護岸工の位置

1-2 護岸工の型式、種類の選定

一般には渓流は、流速が大きいため容易に基礎が洗掘され、また水流が土砂および転石を含むことが多く護岸の受ける衝撃も大きいから、簡単な工作物ではすぐに破損する恐れがあり、護岸の型式および種類の選定においては、必要な設置箇所の地形、地質、河状、その護岸の目的に対する適合性、安全性、経済性等の各要素について考察し、型式、種類の選定を行うものとする。

1-3 護岸の天端高

護岸工の天端高は、次の事項を考慮するものとする。

  1. 護岸工の天端高は、計画高水位に余裕を加えた高さとすることが原則である。
  2. 渓流の曲流部における凹岸の護岸は、強固に計画するとともに、特に天端高を増さなければならない。

1-4 護岸の根入れ

護岸の根入れは河床の洗掘等を勘案して十分なものでなければならない。

なお、護岸工を単独で計画する場合は、現河床の最深部より深くすべきである。また、計画河床が定めてある場合は、それより1.0m以上の根入れを行うことが望ましい。

2. 水制工の設計

水制工の設計にあたっては、流送土砂形態、対象流量、河床材料、河床変動等を考慮して、その目的とする機能が発揮されるようにするとともに、安全性、維持管理面等についても考慮するものとする。

水制の目的としては、流水や流送土砂をはねて渓岸構造物の保護や渓岸侵食の防止を図るものと、流水や流送土砂の流速を減少させて縦侵食の防止を図るものとがあり、水制工の設計にあたっては、所要の機能と安全性を確保できるように十分考慮する必要がある。

2-1 水制工の位置

水制工の位置は、次の事項を考慮するものとする。

  1. 水制工は、一般に渓流の下流部、または砂礫円錐地帯の渓床幅が大で渓床勾配の急でない箇所に計画する。
  2. 直線に近い区域で両岸に水制を計画する場合は、水制の頭部を対立させ、その中心線の延長が中央で交わるように位置を定める。
  3. 渓流上流部においても、渓流沿いの水流の衝撃に起因する崩壊の脚部等に水制を設ける。

水制工

一般に渓流の下流部、あるいは砂礫円錐地帯の乱流区域に計画することが多く、このような区域では、左右両岸対象の位置に計画して各水制頭部間の新水路河床を水流で低下させ同時に水制間に土砂を堆積させ、流路が固定してから水制頭部を導流工、あるいは護岸工で連結させ、整備完了するのである。

また、荒廃渓流の上流部においては、水制工を計画することはまれであるが、有利な場合がある。

すなわち、短区間の崩壊地においては、崩壊の上流端に下向き非越流水制を一つ計画し、水流を崩壊の脚より遠ざけることによって、崩壊の増大を防止することができる。

また、崩壊地が長区間にわたる場合は、多数の非越流水制を計画する。一般に崩壊箇所に対して片岸のみ計画する場合が多い。

2-2 水制の方向

渓流においては、上向き水制が有利であるが、普通は直角水制を用いることが多い。

なお、流線、またはその接線に対して70~90°の間の角度が適当である。

水制水制間の中央の土砂の堆積水制頭部における渓床の洗掘
直角水制多い比較的弱い
下向き水制直角水制より少ない最も弱い
上向き水制渓岸や水制に沿い前二者よりもはるかに多い最も強い

渓流において水流が水制を越流する場合は、直角水制においては偏流を生ずることはないが、下向き水制では岸に向って偏流し、上向き水制では渓流の中心に向って偏流する。

したがって、一般には越流下向き水制は、できる限り避けるべきである。

2-3 長さ、高さ、および間隔

水制の長さ、高さ、および間隔は、水制工の目的、河状、上下流、および対岸への影響、構造物自体の安全性を考慮して定めるものとする。

第5節 渓流保全工(流路工)(標準)

1. 基本事項

1-1 目的

渓流保全工目的
山間部の平地や扇状地を流下する渓流など乱流・偏流を制御して渓岸の浸食・崩壊などを防止
縦断勾配を規制して渓床・渓岸浸食などを防止

1-2 計画高水位

内容説明
決定縦断形・横断形と相互に関連付けて
規模計画降雨の降雨量の年超過確率で評価
指標河川の重要度、既往洪水被害の実態、経済効果の総合的考慮

1-3 法線

法線説明
計画方針できる限り滑らかに
法線の形水流の流下と将来の維持のため、直線に近い
考慮事項土地利用状況、現流路の形状
留意点屈曲著しい現流路への沿わせは避ける

1-4 縦断形

内容説明
勾配上流部から下流部へ次第に緩勾配に
施工原則掘込み方式(築堤工は本川との取付部分など限定)
勾配計画掃流力が50%以上変化しないように

砂防工事としての渓流保全工は、通常勾配が急で、流速が大きいため、築堤方式では、破堤、決壊等の危険性が高く、またいったん破堤した場合の被害が著しいので、できる限り築堤方式を避け、掘込み式とし、安全性を高める工法を採用すべきである。

1-5 断面

渓流保全工の計画断面は、原則として単断面とし、その計画幅は、対象流量、流路の縦断勾配、平面形状、地形、地質、背後地の土地利用状況等を考慮して定めるものとする。渓流保全工の計画断面等は、「河川砂防技術基準(案)同解説 設計編Ⅱ 第3章第6節流路工」および「改訂版 砂防設計公式集」に準ずる。

2. 渓流保全工(流路工)の設計

2-1 渓床

渓流保全工は、原則として底を張らない構造とするものとする。ただし、渓流保全工を計画する区間において、その河床を構成する粒径に対する限界流速が計画勾配と計画水深によって生ずる流速より小さくなる場合には水路を三面張りとしてもよい。

渓流保全工を計画する際には、原則として底を張らない構造とする。渓床勾配等で、河床の抵抗力より掃流力がまさる場合においても、勾配緩和等計画段階で検討しできるだけ三面張りを避けること。しかし勾配緩和、河幅拡大等を考慮しても、なおかつ掃流力のほうが河床の抵抗力より大なる場合には三面張りとすることを考慮すること。長い三面張り区間では適当に垂直壁を設け、地下水路の発達を防ぐ必要がある。

2-2 護岸工と床固め工の取付け

渓流保全工における護岸は、渓流保全工を設計する区域の渓岸の崩壊を防止するとともに、床固め工の袖部を保護するために設けられるものであり、床固め工にすり付けるものとし、床固め工直下の側壁護岸は、床固め工から対象流量が落下する位置より後退させるものとする。

2-3 砂防えん堤との取付け

砂防えん堤と渓流保全工を直結する場合、原則として砂防えん堤の水通し断面は堰の公式によって計算し、渓流保全工の断面は流量公式によって計算するものとして、その間の結合は、副えん堤または垂直壁より下流でなじみよくすり付けるものとする。

3. 渓流保全工(流路工)における護岸工

渓流保全工における護岸は、渓流保全工を設置する地域の渓岸崩壊を防止するとともに、床固め工の袖部を保護するために設けられるものであり、「本章第4節護岸工および水制工」に準じて設計するものとする。

4. 渓流保全工(流路工)における床固め工

渓流保全工における床固め工は、計画河床を安定させるとともに維持するために設けられるものである。なお、この床固め工の構造設計については「本章第3節床固め工」に準ずる。

4-1 位置

一般に渓流保全工の上下流端、計画河床勾配の変化点、流路底張り部の上下流端、計画河床の決定において必要となる箇所に設けられる。

4-2 重複高

渓流保全工における床固め工は、相互に十分な重複高をとるものとし、隣接する床固め工の天端と基礎は少なくとも同高でなければならない。

渓流保全工における床固め工群は、階段状に設けられる。渓床が転石の累積あるいはそれに近い場合は相互に隣接する床固め工の水通しと基礎高を水平としても差し支えないが、渓床が砂あるいは砂利層で形成されている場合は、床固め工基礎は、前庭洗掘対策のため、下流床固め工の水通し天端と重複させなければならない。ただし、三面張りの場合はこの限りでない。

5. 底張り

渓流保全工の底張りは、流水、および摩耗に耐える構造として設計するものとする。

なお、床張りの末端処理は、三面張り渓流保全工から二面張り渓流保全工に移行する部分では、流速の差により二面張り渓流保全工の上流端付近の護岸基礎部分に洗掘が生ずる恐れがあり、護床工、減勢工を考慮するものとする。

また、三面張り下流端には少なくとも帯工を設け、吸出しの防止を図るものとする。

第6節 山腹工(標準)

山腹工の設計は、「河川砂防技術基準(案)同解説 設計編Ⅱ 第3章第7節山腹工」に準ずる。

1. 基本事項

1-1 目的

山腹工とは
とくしゃ地、あるいは崩壊地に植生を導入し表土の風化、侵食、崩壊の拡大を防止

1-2 工種

工種説明
山腹基礎工のり切等を行った後の堆積土の安定を図り、山腹排水路を設け、雨水による侵食を防止する...
山腹緑化工施工対象地に直接植生を導入して緑化する...

山腹工

山腹基礎工山腹緑化工
谷止工山腹階段工
のり切土伏工
土留工実播工
山腹排水路工植栽工
一等高線壕工

1-3 工種の選定

山腹工の計画にあたっては、計画対象地域の地形、地質、土壌、気象、および山脚固定えん堤との関連等を十分調査し、最も適正な工種の選定をしなければならない。また、山腹工は、それぞれの工種の機能が相互に有効に働くように、工種の配置、組合せを考慮するものとする。

2. 山腹工の設計

山腹工の設計に当たっては、その目的である機能が十分発揮できるよう考慮し、安全性、維持管理等についても考慮するものとする。

以上が、提供された文章をマークダウン形式で整形した内容です。図や表は可能な限り文章に変換し、誤字脱字は文脈から推定して修正しました。