第13章 海岸
第1節 基本事項
1. 適用範囲
海岸計画は、海岸災害の防止、海岸域の利用、海岸環境の保全を目的に、「海岸法第23条」に規定する海岸整備計画を都道府県知事が作成し、主務大臣に提出ないし関係海岸管理者と協議する際に必要な事項を定めるものであり、本章は、海岸保全区域における海岸保全施設の設計についての概要を示すものである。
2. 適用基準等
- 海岸保全施設の技術上の基準・同解 説 (平成16年6月, 海岸保全施設技術研究会)
- 河川砂防技術基準 同解説 計画編 (平成17年11月, 日本河川協会)
- 河川砂防技術基準(案)同解説 設計編Ⅱ (平成9年10月)
- 緩傾斜堤の設計の手引き (平成18年1月, 全国海岸協会)
- 人工リーフ設計の手引き (平成16年3月)
3. 設計のフローチャート
各種海岸保全施設の詳細設計にいたる一般的な設計のフローチャートを図1-3-1に示す。
- 自然条件・社会条件の把握
- 面的防護方式のパターンの選定
- 個別施設の配置の検討
- 環境条件
- 個別施設の基本諸元の仮定
- 整備目標の設定
- 整備効果の検討
- YES: 配置、基本諸元の決定
- NO: 個別施設の設計条件の決定
- 個別施設の性能規定の検討
- 個別施設の安定性の照査
- YES: 個別施設の構造諸元の決定
- NO:
- 詳細設計
(4) ヘッドランド工法
ヘッドランド工法は、大規模な突堤や離岸堤等の海岸構造物によって静的あるいは動的に安定な海浜を形成する工法、およびヘッド部付突堤等の人工岬によってポケットビーチ的に安定な海浜を形成する工法である。
3. 設計手順
突堤の設計に当たっては、所定の機能が発揮されるよう、突堤の型式、天端高、長さ及び方向並びに突堤相互の間隔を定めるものとする。
突堤の標準的な設計手順を図3-3-1に示す。
- 構造形式
- 設置場所の水深、波力、底質・土質、海底地形・海浜地形及び地形変化の状況、経済性、施工性、海岸域の自然環境及び利用を総合的に評価。
- 要求性能の決定
- 目的達成性能(汀線が必要な浜幅を満足する漂砂制御性能)
- 安全性能(設計高潮位以下の潮位の海水及び設計波の作用に対する適切な安全性)
- 照査において考慮すべき条件
- 自然条件(潮位、波浪、津波、流れ、漂砂、海底地形及び海浜地形、地盤)
- その他の条件(背後地の重要度、海岸の環境、海岸の利用及び利用者の安全、船舶航行条件、施工条件)
- 目的達成性能の照査
- 安全性能の照査
- 波力、土圧の作用並びに洗堀に対する安全性
- 詳細設計
各項目の詳細については、「海岸保全施設の技術上の基準・同解説 3.5 P3-78~3-85」を参照のこと。
4. 構造
堤体は、波力、土圧等の外力に対して安定した構造としなければならない。なお、脚部 が洗掘されるおそれのある場合には、洗掘を防止するために必要な基礎工または根固め工を設けるものとする。
構造細目は、表3-2-2に示した突堤型式によって変わり、その設計細目もそれぞれことなる。それぞれの型式の設計細目については「海岸保全施設の技術上の基準・同解説」および「港湾の施設の技術上の基準 同解説」等を参考にして設計をするものとする。
第4節 離岸堤(標準)
1. 基本事項
1-1 定義
離岸堤は、汀線から離れた沖側に、汀線にほぼ平行に設置される構造物であり、消波、または波高減衰を目的とするもの、その背後に砂を貯え侵食防止や海浜の造成をはかることを目的とするものがある。
1-2 離岸堤の機能
離岸堤の機能としては、次のもの等が挙げられる。
- 入射波のエネルギーを減勢させる。
- 波高の減衰 効果により、波形勾配を小さくして、侵食型から堆積型の波に変える。
- 波高の減衰効果により、沿岸漂砂量を減少させる。
- (1)および(2)の効果により、トンボロを発生させて海浜の造成を図る。
2. 型式の選定
離岸堤の型式の選定にあったては、突堤に準ずるものとする。
3. 設計手順
離岸堤の設計に当たっては、所定の機能が発揮されるよう、離岸堤の型式、天端高、天端幅、長さ及び汀線からの距離並びに離岸堤相互の間隔を定めるものとする。
離岸堤の標準的な設計手順を図4-3-1に示す。
- 構造形式
- 設置の目的を踏まえ、設置場所の水深、波力、底質・土質及び海底地形・海浜地形を総合的に評価。
- 要求性能の決定
- 目的達成性能(波のうちあげ高または越波流量が所定の値を上回らないことを満足する越波制御性能、汀線が必要な浜幅を満足する漂砂制御性能)
- 安全性能(設計高潮位以下の潮位の海水及び設計波の作用に対する適切な安全性)
- 照査において考慮すべき条件
- 自然条件(潮位、波浪、流れ、漂砂、海底地形及び海浜地形、地盤)
- その他の条件(背後地の重要度、海岸の環境、海岸の利用及び利用者の安全、船舶航行条件、施工条件)
- 目的 達成性能の照査
- 堤長、天端高、離岸距離、構造の組み合わせにより評価、離岸堤群の場合は設置間隔を追加。
- 安全性能の照査
- 波力の作用並びに洗堀に対する安全性
- 詳細設計
各項目の詳細については、「海岸保全施設の技術上の基準・同解説 3.5 P3-86~3-98」を参照のこと。
4. 構造
離岸堤の安全性を確保するためには、所要断面の確保が必要であり、波の作用、海底地盤の変化に対し安全性を見込んだ配慮が必要となる。このため、特にブロックの質量、積み方、法勾配、天端幅、基礎構造については、十分な配慮が必要となる。
斜面勾配は、緩斜面化、複断面化したほうが反射による離岸堤前面の洗掘を防ぐとともに、堤体の安全性が高まる。
なお、ブロックの重量は、波力にしたがって求めるものとし、過去の災害実績の多い海岸では1.5倍程度まで割増しする場合が多い。詳細は「海岸保全施設の技術上の基準・同解説」等を参考にして設計をするものとする。
第5節 人工リーフ(標準)
1. 定義
人工リーフは、自然のサンゴ礁の形態を捨石等の材料を用いて珊瑚礁が高波を砕波、減衰させる現象を再現したもので、景観を損なうことなしに波浪の静穏化、海浜の緩勾配化および沿岸漂砂の制御を行い、安定した海浜の形成を海浜でのレクリエーションの促進を図ろうとするものである。
2. 具体的な設置目的
- 打ち上げ高、越波量、あるいは飛沫量を減少させる。
- 沿岸漂砂量を減少させる。
- 人工リーフの岸側に砂を堆砂させて汀線を前進させる。
- 人工リーフの岸側の砂が沖向きに流出するのを防止する。
3. 設計手順
リーフの標準的な設計手順を図5-3-1に示す。
- 構造形式
- 要求性能の決定
- 目的達成性能(波のうちあげ高または越波流量が所定の値を上回らないことを満足する越波制御性能、汀線が必要な浜幅を満足する漂砂制御性能)
- 照査において考慮すべき条件
- 自然条件(潮位、波浪、流れ、漂砂、海底地形及び海浜地形、地盤)
- その他の条件(背後地の重要度、海岸の環境、海岸の利用及び利用者の安全、船舶航行条件、施工条件)
- 目的達成性能の照査
- 安全性能の照査
- 安全性能(設 計高潮位以下の潮位の海水及び設計波の作用に対する適切な安全性)
- 詳細設計
- 長さ、天端高、離岸距離、構造型式の組み合わせにより評価、潜堤・人工リーフ群の場合は堤体間隔(または間口幅)を追加。
- 波力等の作用並びに洗堀に対する安全性
各項目の詳細については、「海岸保全施設の技術上の基準・同解説 3.5 P3-99~3-107」を参照のこと。
リーフの諸元と効果・機能の関係:
- 越波防止: 越波防止効果を支配する消波効果は、主に天端水深と天端幅により決定される。
- 海浜の安定化: 沖向漂砂の制御効果は主に消波効果に支配されるので、天端水深と天端幅の関係が深い諸元となる。また、離岸距離、堤脚水深も岸沖漂砂の制御に関する諸元である。沿岸漂砂量の低減や堆砂効果は消波効果との関係も強いが、海浜流場を支配する平面形(堤長、開口幅、離岸堤)との関連が特に強い。
- 堤体断面の規模: 堤体断面の規模は天端幅と堤脚水深によりほぼ決められる。
- 海岸の利用等: 船舶の航行や海洋性レクリエーションによる海面利用には天端水深が関係する。また人工リーフによる水質、生態系の変化は海浜流場や設置水深との関連が強いことから、堤脚水深、離岸距離、堤長、開口幅と関連すると考えられる。
- 被覆材重量: 被覆材重量は、主に天端水深と堤脚水深に支配される。
- 海上交通: 潜水構造のため視認性が悪いことから、海上交通の多い場所では本工法の採用にあたり十分配慮しなければならない。
第6節 養浜(標準)
1. 定義
海岸に人工的に砂を供給することを養浜といい、造られた砂浜を人工海浜という。
養浜とは、侵食された海岸あるいは種々の利用要請のある海岸に人工的に砂を供給し海浜の造成を行なうことであり、こうして造成された海浜を人工海浜という。
人工海浜には、養浜材料流出防止施設を適切に設けることによって、継続的に砂を補給することなく安定状態を保っているものと、継続的に砂を補給することによって動的な安定状況を保っているものとがある。なお、本節では、前者を対象とする。
後者のための養浜の代表的なものには、構造物によって下手への漂砂の供給が断たれた場合に、漂砂の上手海岸に堆積した土砂を人工的に下手海岸に供給する、いわゆるサンドバイパス工法(図6-1-2)がある。
2. 基本事項
養浜は、背後の堤防、護岸と一体として、防災機能、海浜の安定性、海浜の利用等を考慮し、養浜量、基本断面、養浜材料、流出防止施設の種類等を決定するものと する。
(1) 防災
浜の砂礫は、打ち寄せる波のエネルギーを減殺分散し、背後の施設や地域の防護として重要な役割を果たしている。このような点から、特に侵食対策工の一つとして、海浜造成は有効な手段と考えられている。
(2) 海岸利用
海岸が本来有しているオープンスペース的な性格、景観美等に加え、海浜造成により、海水浴場、釣り場、磯遊び、散策の場等、海洋性レクリエーションの場として積極的な利用が考えられる。また、地曳き網、船揚場等生産活動の場としての海浜利用も古来からの利用形態として依然として多い。
(3) 海岸環境
海浜により波を砕けさせ、エアレーションを促進することにより、海中の溶存酸素量を増し、海岸と前面の海域との海水交換により、海域の溶存酸素量を増し、健全な生態系を復活させる。このような過程で海域の浄化を図ることが考えられる。また、波や潮の干満によって乾湿を繰り返す"なぎさ"は、生物の生息のための貴重な場を提供する。