Skip to main content

総説

概説

地球上で水は循環しています。海から蒸発して雲になり、降水として地上に達した水は様々な過程を経て海に戻ります。この一連の過程を水文学的水循環と呼んでおり、この循環と人間・生物とのかかわり、つまり地球上での水の歴史を扱う学問を水文学と呼んでいます。

水文学的水循環には地球規模のものから局地的なものまで様々な規模のものがありますが、私たち人間生活と最も深くかかわりのあるのは流域規模のものです。特に、土木工学の分野で主に問題となるのは、地上に達した水が流域の末端に至るまでの過程で起こる現象、雨水の流出過程です。

一方、気象学的な諸現象は水文学的水循環の一翼を担っており、降雨、降雪あるいは蒸発散などの現象を通して流域における水文事象を大きく支配しています。さらに、単に水文事象とのかかわりばかりでなく、気象学的諸現象は人間生活、人間活動に対する自然的条件、環境条件を生み出しているといえるでしょう。つまり、土木工学の対象となるあらゆる種類の事柄の背景には、気象学的現象が横たわっています。

河川流域の構造と雨水の流出システム

河川流域の最小単位は、一般に山腹斜面とそれに付随した河谷あるいは河道とが結合したものです。 前者は流域の面的要素として降雨を受ける場であるとともに、地表近傍とその地下で起る種々の現象を介して河谷に流入する水の流量を規定しています。 後者の河谷あるいは河道は、山腹斜面からの流出水を集めるとともに、上流から下流へと流出水を流下させる役割を果たしています。 実際に存在する河川流域は、河道網に従って、このような最小単位流域の直列あるいは並列の連鎖として構成されています。

図-1:流出のシステム

図-1(a)は1つの単位流域内部で起っている流出過程、すなわち流出システムの主要部を特にその鉛直分布に注目してブロック図として示したものです。

河川への流出という意味では、地下水の流れ、山腹の表層ごく浅いところを流れる中間流、そして地表を流れる地表流が河川流量を涵養していますが、これらを母体とする流出は、それぞれ地下水流出中間流出表面流出といわれ、まとめて流出の三成分と呼ばれています。

山腹斜面では、植生による降雨遮断、地表面よりの蒸発、植生を通しての蒸発散、地中への浸透、土中水の挙動など種々の現象が地表、地下で起り、雨水の流出現象にかかわっています。

図-1(b)は、単位流域の直列・並列の連鎖としての流域での水の集水流下の過程、いわば流出過程の水平方向のシステムを記しています。 図では、流域最上流端に位置して降雨のみを受ける単位流域をⅠ、河道を通じてより上流よりの流出水をも受ける単位流域をⅡと記してあります。 それぞれの単位流域では前述の諸現象が起っています。

山腹斜面・河道で起っている個々の素過程(現象)は、その生起の場を異にし、それぞれの物理的・力学的機構に従って時間的・空間的に挙動しつつも、相互に干渉しながら雨水の流出過程での部分システムとしてそれぞれの役割を果たしています。 流出の三成分に注目するならば、表面流出と中間流出の一部(早い中間流出)は直接流出(あるいは短期流出)とも呼ばれ、降雨や融雪後の速やかな流出成分であって、豪雨後の大出水などの主要部を形成しています。 また、地下水流出と遅い中間流出から成る間接流出は、流出流量は小さいですが長期間の河川水を涵養(長期流出)して、水資源計画のうえでも、河川環境を維持するうえでも重要な位置を占めています。 実際の流域、そして気象学的要因の複雑さは、水文現象にさまざまな形で反映されるので、水文現象には物理的特性ばかりでなく、確率統計的特性などいろいろな側面が現れます。 したがって、水文学的水循環を基礎概念としつつも、具体的な土木工学上の事柄に対して、水文現象の取扱いに用いられる概念、解析手法は今日では非常に多岐にわたっています。