Skip to main content

水理計測

12.1 概説 (General remarks)

12.1.1 計測物理量

水理学を含む力学的問題では、基本量として長さ [L][L]、時間 [T][T]、質量 [M][M] が一般に用いられている。これらの基本量の単位には原則として SI 単位 (国際単位系) が用いられるが、わが国では必要に応じて重力単位系等が併記される。物理量とはこれらの基本量を組み合せて定義されるもので、その次元が [L][L] だけで表現されるものを幾何学的な量、[L][L][T][T] で表現されるものを運動学的な量、[L][L][T][T][M][M] で表現されるものを力学的な量という。水理学の諸問題に現れる物理量は特別の問題を除けば表-13.2に示すものとなる。

12.1.2 測定の方法

計測物理量をある単位で表わされた基準の量と比較して、数量的に決定することを測定という。測定法は基準の量との比較の方法により、直接測定と間接測定に大別される。直接測定とは計測物理量をそれと同種類の基準の量と比較することで、天秤による質量の測定がこれに当る。間接測定とは計測物理量と一定の関係にある量を測定し、それから計測物理量を導きだす方法で、水位の測定から流量を算出する流量測定がこれに当る。一般に、必要な物理量をそのままの形で測定することは難しく、他の扱いやすい物理量への変換を必要とすることが多い。水理学の諸問題に現れる物理量のうち、流体の物性および重力加速度を除いた物理量のうち、代表的なものの測定方法を表-12.1に示す。

流れの状態あるいは性質を目でみることは現象を理解するうえできわめて有意義なことである。これは流れの可視化と呼ばれ、非常に数多くの手法が確立してきている。また、最近の計算機や光学機器の発達により、得られた画像を処理することが容易にできるようになり、種々の水理量を定量的に求める努力がなされ、簡単な流れに対して成果が得られている。

12.2 流量の測定 (Discharge measurements)

12.2.1 堰

(1) 刃形堰

刃形堰による流量測定には図-12.1に示す水路および堰板が用いられる。この測定法の特長は、水位測定だけで流量が求まり、測定範囲が広く、精度が比較的良いことである。水路 (L)(L) は流入部分 (L1L_1)、整流装置 (L2L_2) および整流区間 (L3L_3) で構成される。整流装置は直径 20mm の穴を中心間隔 30mm で千鳥にあけた多孔板を4枚以上等間隔で設置する。堰の形状により分類される、全幅堰、四角堰、直角三角堰について適用範囲を考慮した水路の参考寸法を表-12.2に示す。

このときの流量公式は次のとおりである。これらの式の精度は、それぞれ ±1.7\pm 1.71.51.51.4%1.4\% である。

a. 全幅堰:石原・井田の式[38]

Q=CBh3/2Q = C B h^{3/2}

C = 1.785 + \left( \frac{0.00295}{h} + 0.237 D \right) (1 + \varepsilon)^{3/2} \tag{12.1}

ここに、QQ は越流量 (m3/s\text{m}^3/\text{s})、BB は水路幅 (m)、hh は越流水深 (m)、CC は流量係数、DD は堰高 (m)、ε\varepsilon は補正項で D1D \leq 1 のとき ε=0\varepsilon = 0D>1D > 1 のとき ε=0.55(D1)\varepsilon = 0.55 (D - 1) である。

b. 四角堰:板谷・手島の式[39]

Q=Cbh3/2Q = C b h^{3/2}

C = 1.785 + \frac{0.237}{h/b} + 0.237 \frac{b}{B} \tag{12.2}

ここに、bb は堰幅 (m)、他は a. と同じである。

c. 直角三角堰:沼知・黒川・岡沢の式[40]-[42]

Q=Ch5/2Q = C h^{5/2}

C = 1.34 \left( 1 + \frac{0.01}{h} \right) \left[ 1 + \left( 0.14 + \frac{0.05}{h} \right) \left( \frac{h}{B} - 0.5 \right)^2 \right] \tag{12.3}

記号は、a. と同じである。

刃形堰による流量測定法は JIS B 8302 によって規定されている。

(2) 長方形堰

図-12.2に示す上流端が直角で堤頂が水平な長方形断面の堰の流況と流量係数とは、Govinda-Rao (ゴビンダーラオ) [43] によって次のように与えられている。なお、流量 QQQ=CBh3/2Q = C B h^{3/2} で求める。

長頂堰 (h/L0.1h/L \leq 0.1) :連続した波状水面

C = 1.642 \left( \frac{h}{L} \right)^{0.022} \tag{12.4}

広頂堰 (0.1h/L0.40.1 \leq h/L \leq 0.4) :堰頂面に平行な流れ

C = 1.552 + 0.083 \frac{h}{L} \tag{12.5}

狭頂堰 (0.4h/L1.51.90.4 \leq h/L \leq 1.5 \sim 1.9) :完全な曲線流

C = 1.54 + 0.0847 \frac{h}{L} \tag{12.6}

刃形堰 (1.51.9h/L1.5 \sim 1.9 \leq h/L) :水脈が堰頂から剥離

C = 1.785 + 0.237 \frac{h}{b} \tag{12.7}

ここに、hh は越流水深 (m)、LL は堤頂長さ (m)、WW は堰高さ (m)、他は (1) と同じである。

狭頂堰と刃形堰とを分ける h/Lh/L の値は h/Wh/W に支配され、Kandaswamy・Rouse [198] の実験から次式で与えられる。

h/L = 1.51 + 0.01 (h/W) \tag{12.8}

(3) 潜り堰

堰下流の水深がある値より大きくなると、自由越流から潜り越流に移行し、堰の越流量は下流水深の影響を受けるようになる。この状態の堰を潜り堰と呼ぶ。堰の形状によっては自由越流と潜り越流の中間に不完全越流の領域が存在する。図-12.3に示す台形堰の流況および流量公式は本間[44],[45] によって、次式および表-12.3で与えられている。

a. 完全越流状態および不完全越流状態

Q = C B h_1^{3/2} \tag{12.9}

b. 潜り越流状態

Q = C' B h_2 \sqrt{h_1 - h_2} = C' B h_2 \sqrt{\zeta} \tag{12.10}

ここに、h1h_1 は上流の越流水深、h2h_2 は下流の潜り水深、CCCC' は流量係数、他は表-12.3に示すとおりである。

(4) パーシャルフリューム

パーシャルフリュームは限界流フリュームの代表的なものであり、図-12.4に示すように水路幅を絞り込んで流れに支配断面を形成させ、その水位から流量を求めるもので、浮遊物や流砂による閉塞が起りにくく、測定が円滑に行える。パーシャルフリュームの流量公式は次式のとおりである。

Q = k H_a^n \tag{12.11}

ここに、QQ は流量 (l/s)、HaH_a は上流水深 (cm)、kknn は表-12.4で与えられる係数である。

比較的小規模なパーシャルフリュームの参考寸法を表-12.4に示す。流量が表に示す限界をこえると潜り状態となり、流量公式は適用できなくなる。

12.2.2 ゲート・オリフィス

(1) 水平水路床のゲート

図-12.5に示す水平な水路に設置された下端が刃形となっている鉛直なゲートからの自由流出量は、エネルギー損失を無視すると次式で与えられる。

Q = C_c a B \sqrt{\frac{2g h_0}{1 - (C_c a/h_0)^2}} \tag{12.12}

ここに、QQ は流出量、CcC_c は縮流係数、aa はゲート開き、BB は水路幅、h0h_0 は上流水深である。

しかし、自由流出、潜り流出にかかわらず次式が実用上取り扱いやすい。

Q = C_d a B \sqrt{2 g h_0} \tag{12.13}

ここに、CdC_d は流量係数で図-12.6に示すものである。

潜り流出の場合、CdC_dh0h_0 と下流水深 h2h_2 の関数となる。

(2) 刃形オリフィス

図-12.7のような水槽の側面に設けた刃形オリフィスからの自由流出量は次式で求められる。

Q = C_d A \sqrt{2 g H} \tag{12.14}

ここに、QQ は流出量、CdC_d は流量係数、AA はオリフィスの断面積、HH は貯水深である。

オリフィスの流量係数は断面が円形の場合は、Smith と Walker の実験によると図-12.8に示すものとなる。この図から dd あるいは貯水深が小さいと流量係数が大きくなることがわかる。HHH/dH/d に置き換えて整理しても、流量係数の値は dd の小さい方が大きくなる。長方形の刃形オリフィスの流量係数は Poncelet と Lesbros の実験によると図-12.9に示すものとなる。

下流の水位が高く、オリフィスからの水脈が噴流として流出するものを潜りオリフィスという。貯水深 HH を上下流の水位差 (H=H1H2H = H_1 - H_2) と読み替えると、流出量は自由流出と同じように上式で与えられるが流量係数 CC は通常のオリフィスより若干小さく、0.6 程度となる。潜りの状態が不完全で水脈の上面が大気圧とみられる場合には、流れは自由流出状態のオリフィスと考えてよい。

(3) ベンチュリー管

管路の一部にオリフィス等の縮流部を設けて、そのよ下流に生じる圧力差を測定して検定曲線から流量を求めるものを差圧式流量計と呼び、その代表的なもので圧力損失が小さくなるようにしたものが図-12.10に示すベンチュリー管である。ベンチュリー管による流量測定法は JIS Z 8763 によって規定されており、流れを整えるため上下流にそれぞれ 10D、5D の長さの直管を接続する必要がある。ベンチュリー管には図に示す長管形式のほか、安価であるが圧力損失がやや大きい短管形式がある。両者の流量算定式の精度はほぼ等しく 1.5% 程度である。

12.2.3 超音波流量計

超音波が流れの方向に伝播する速度と、流れと逆方向に伝播する速度の差を測定して流量を求めるもので、具体的には管の輪対称位置に送受波器を取り付けて、その測線上の平均流速を測定し、断面積および補正係数を乗じて流量値とするものである。既設管への取付けが容易で、装置の規模が管径にあまり影響されないので大口径の場合に比較的安価となる。超音波が用いられるのは、指向性が強く、パルス波の発生が容易であることによる。

12.2.4 電磁流量計

図-12.11に示すように管内部に磁界を加え、電気的に絶縁された管の内部の輪対称位置に電極を置き、流れによって発生する起電力を測定し、流量を求めるものである。発生起電力は流速に比例するため、断面積および補正係数を乗じて流量値とする。電磁流量計の特長は発生起電力が流れの状態や流体の物性に無関係で流入土砂の影響を受けないことと、応答性が高いことである。

12.3 流速の測定 (Velocity measurements)

12.3.1 プロペラ流速計

プロペラ流速計は図-12.12に示す計探で、プロペラの回転数を測定し、流速と回転数が比例することを利用して校正曲線により流速を求めるものである。実験室で用いられる小型の流速計はプロペラの直径が 5 ~ 20mm で、光あるいは磁場を羽が切ることで生じるパルス信号を電気的な計数回路でカウントして回転数を求めている。プロペラの慣性があるため応答速度は高くない。軸受けの状態が変化すると校正曲線を修正する必要があるため、流れの水質および保存方法に注意し、重要な計測の前後には検定をする必要がある。

12.3.2 ピトー管

ピトー管は図-12.13に示す計器で、2.8.2に示す水中マノメータと組み合せて総圧および静圧を測定し、次式により流速を求めるものである。

V = G_v \sqrt{2 g h} \tag{12.15}

ここに VV は流速、hh は差圧 (総圧と静圧の差)、GvG_v はピトー管の形状等による補正係数で、標準ピトー管では広い流速範囲で Gv=1G_v = 1 である。

標準ピトー管自身による測定誤差は 2% 以下であるが、流れとピトー管の向きのずれによる誤差が大きいので注意が必要である。標準ピトー管は比較的寸法が大きく壁面近傍の測定には向かない。この場合には細い管で総圧を測定して静圧は壁面の小孔等で測定する。

12.3.3 熱式流速計

熱式流速計は発熱体の熱が流れによって奪われ、その電気抵抗が変化することを利用したもので、ホットワイヤ、ホットフィルムおよびサーミスタがある。ホットワイヤとホットフィルムは応答性が非常に高く、乱流計測によく用いられているが、水理実験では温度変化に対する補正が重要となる。ホットワイヤとホットフィルムのセンサ部の代表的な形状は図-12.14に示すとおりで、先端部に細いワイヤあるいはフィルムを張ったものであるため機械的に弱い。また、流体中に含まれる微粒子の付着により特性が変化するため、頻繁に洗浄することが必要である。サーミスタ流速計は丈夫であるが空間分解能と応答性に劣る。

12.3.4 レーザードップラー流速計

レーザードップラー流速計は光学計測の代表的なものであり、流れとともに運動する微粒子にレーザー光をあてると、光源との相対速度により散乱光の周波数がシフトすることを利用したもので、その原理は図-12.15に示すとおりである。この周波数のシフト量はドップラー周波数と呼ばれ、散乱光と入射光を干渉させることで、光学的に求められる。ドップラー周波数と微粒子速度は比例することから、容易に流速を求めることができる。この流速計の長所は、流れを乱さず、空間分解能が高く、また速度の測定範囲が広いことであるが、高価である。

12.4 流れの可視化[32] (Flow visualization)

12.4.1 色素注入法

色素注入法は、層流から乱流への遷移の問題を実験的に示した Reynolds の実験以来、流れの可視化の代表的な手法となっている。細い管または物体表面の小さな孔やすき間から色水を流出させる方法が一般的であるが、周囲の流れと速度差を生じないようにする必要がある。

12.4.2 水素気泡法

水柱に設置した細い白金線を陰極とし、銅板を陽極として、100 ~ 500V の直流電圧を加えると、水の電気分解により水素の細かい気泡がシート状に発生し、流れとともに運動する。水素気泡法はこの原理によるもので、シートは電圧をパルス状に加えることでタイムラインとし、あるいは白金線を部分的に被覆することでスペースラインとして流れの可視化に用いる。また、タイムラインの間隔から流速分布を求めることができる。

12.4.3 タフト法

タフト法は、しなやかな糸を対象物体あるいは針金に張り付けて流れを可視化し流向を定性的に求める方法である。糸の長さは流線の曲率より十分短いものとし、糸が自由に回転できるような固定方法をとる必要がある。また、乱れの空間スケールと比べて短い糸を用いると、糸の揺れ方から乱れの強さを知ることができる。

12.4.4 シュリーレン法

光学的な方法による流れの可視化は、流れの中の密度差によって生じる光の屈折・干渉現象を利用するもので、シュリーレン法はその代表的なものである。シュリーレン法の原理を図-12.16に示すが、ナイフエッジの垂直方向の密度勾配を観測することになるので、対象とする現象に応じてナイフエッジの向きを決める必要がある。定量的な測定が必要となる場合はシュリーレン法では難しく、同じ光学的方法である干渉法が用いられる。