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移動床の水理

10.1 流砂に関する基礎事項 (Fundamentals on sedimentation)

10.1.1 粒度分布

粒度分布は一般に粒度加積曲線によって表現され、その分布は粒度試験 (JIS A 1204) により決定される。移動床の水理においてよく用いられる粒径は加積曲線において50%に相当する中央粒径 d50d_{50}、平均粒径 dmd_m などである。また、粒度の分布状態を示す指標として、標準偏差 σ\sigma、ふるい分け指数 SS などが用いられる。

d_m = \frac{\sum d_p p}{\sum p}, \quad p = 0 \sim 100 \tag{10.1}

\sigma = \sqrt{d_{84} / d_{16}} \tag{10.2}

S = \sqrt{d_{75} / d_{25}} \tag{10.3}

ここに、pp は粒径 dd の占める百分率である。

10.1.2 沈降速度

粒子に作用する重力、浮力および流体抵抗による力のつり合い式から、最終沈降速度、VsV_s

V_s = \sqrt{\frac{4}{3} \frac{R_s g d}{C_D}} \tag{10.4}

となる。ここに、RsR_s は粒子の流体中比重、gg は重力の加速度、dd は粒径、CDC_D は抵抗係数であり、レイノルズ数 Re=Vsd/νRe = V_s d / \nu の関数である。特に Re<1Re < 1 である球状粒子に対して Stokes の理論解より、CD=24/ReC_D = 24 / Re と表わされ、式(10.4)は

V_s = \frac{1}{18} \frac{R_s g d^2}{\nu} \tag{10.5}

となる。

なお、Rubey (ルビー) [104] は沈降速度に関する経験式として次式を提案している。

V_s = \left( \sqrt{\frac{2}{3} + \frac{36 \nu^2}{g d^3}} - \sqrt{\frac{36 \nu^2}{g d^3}} \right) \sqrt{R_s g d} \tag{10.6}

球でないことによる形状の効果については、McNown (マクナウン) [105] らによる研究がある。

10.1.3 流砂の分類

流砂の移動形態は掃流砂、浮遊砂、ウォッシュロードの3種類に分類される。掃流砂は流れによる力を受けて、河床近傍を転動、滑動あるいは跳躍しながら移動するものであり、浮遊砂は流れの乱れがもつ拡散作用によって、浮遊状態で移動するものを指す。掃流砂および浮遊砂は移動床を構成する土砂 (ベッドマテリアルロード) からなり、河床と交換を行いつつ輸送されるが、ウォッシュロードは上流から供給される細かい土砂によって構成され、ほとんど沈降することなく輸送され、貯水池等の濁水の原因となる。

10.2 限界掃流力 (Critical tractive force)

移動床上で掃流力、τ=ρghI\tau = \rho g h I を次第に増加させると、ある限界値 τc\tau_c 以上になると土砂の移動が始まる。このときの掃流力を限界掃流力と呼ぶ。ここに、hh は水深、II は摩擦勾配。

10.2.1 平坦床の限界掃流力

無次元化された掃流力 \tau_*_c = \tau_c / (\rho_s - \rho) g d が、摩擦速度 u=ghIu_* = \sqrt{g h I} と粒径によるレイノルズ数 ud/νu_* d / \nu の関数となることを実験的に見出したのは Shields (シールズ) [106] である。ρs\rho_s, ρ\rho はそれぞれ、砂粒子、流体の密度である。平坦床の限界掃流力はその後、White (ホワイト) [107]、栗原[108]、岩垣[33]、岩垣・土屋[109] によって理論解析が行われている。図-10.1に Shields の実験曲線、岩垣の理論曲線を示す。これらの曲線を表わす近似式として Rs=1.55R_s = 1.55ν=0.01cm2/s\nu = 0.01 \text{cm}^2/\text{s} の場合の岩垣の限界掃流力式を以下に示す。

&\tau_{*c} = 80 \sqrt{d} &&\text{for } 0.303 \text{cm} < d \\ &\tau_{*c} = 134.6 d^{0.422} &&\text{for } 0.118 \text{cm} < d \leq 0.303 \text{cm} \\ &\tau_{*c} = 55.0 \sqrt{d} &&\text{for } 0.0565 \text{cm} < d \leq 0.118 \text{cm} \\ &\tau_{*c} = 8.41 d^{0.333} &&\text{for } 0.0065 \text{cm} < d \leq 0.0565 \text{cm} \\ &\tau_{*c} = 226 d &&\text{for } d \leq 0.0065 \text{cm} \end{aligned} \tag{10.7}$$ ### 10.2.2 斜面の限界掃流力 側斜面の限界掃流力は斜面の安定や護岸の設計に際して重要である。側斜面にある砂礫の限界掃流力 $\tau_{cs}$ は、Lane [110], Ikeda [111] によって理論解析と実験が行われ、平坦床の場合の限界掃流力 $\tau_{cL}$ との比 $K$ によって次式のように表わされる。 $$\frac{\tau_{cs}}{\tau_{cL}} = K = \sqrt{1 - \frac{\tan \beta}{\tan \phi} \cos \theta} \tag{10.8}$$ ここに、$\beta$ は斜面が水平面となす角、$\phi$ は水中安息角である。式(10.8)より斜面の限界掃流力は重力の効果により斜面の角度が大きくなると小さくなることが知られる。 ### 10.2.3 混合砂の限界掃流力 現実の河床は混合砂礫から成り立っており、流砂量や河床変動を精度よく求めるには混合粒径の影響を考慮しなければならない。したがって、限界掃流力についても混合粒径の効果をとり入れる必要がある。Egiazaroff (エギアザロフ) [112] は流速分布に対数式を用いて、混合粒径砂の粒径別の限界掃流力を以下のように求めている。 $$\frac{u_{*ci}^2}{R_s g d_i} = \frac{0.1}{\log_{10} 19 (d_i / d_m)^2} \tag{10.9}$$ ここに、$d_i$ は任意粒径である。式(10.9) は $d_i/d_m < 0.4$ では $\tau_{*ci} / \tau_{*cm}$ が増大し、不合理となるので、芦田・道上[113] は一定値、0.85となるよう補正を行っている。 ## 10.3 掃流砂量 (Bed load) 掃流による土砂輸送については Einstein (アインシュタイン) [114]、Meyer-Peter-Müller (メイヤー-ピーター・ミュラー) [115]、佐藤[116]、佐藤・吉川・芦田[117]、芦田・道上[113] らなどにより従来から数多くの研究がなされているが、ほとんどすべての理論は無次元流砂量 $\Phi_B = q_B / \sqrt{R_s g d^3}$ をシールズ応力 $\tau_* = \tau / R_s g d$ の関数として表わすことに帰着される。ここに、$q_B$ は単位幅当り流砂量である。実河川では河床上でアーマリングなどが発生するので、混合砂として取り扱う必要がある。一方、蛇行曲部の局所洗掘深、側岸侵食量あるいは交互砂州の波高などを知るには側斜面の横断方向流砂量を知る必要があり、これについては平野[118]、吉川・池田・北川[119]、Ikeda [120]、長谷川[121] などによる研究がある。 ### 10.3.1 掃流砂量式 (1) 佐藤・吉川・芦田の式 (土研式) 砂粒子に働く鉛直上向きの揚圧力と重力による力積がつり合うものとして $$q_B = \varphi \sqrt{R_s g d^3} \left( \frac{\tau}{\tau_c} \right) f \left( \frac{\tau}{\tau_c} \right) \tag{10.10}$$ を導いた。$f(\tau/\tau_c)$ は図-10.2に示されている。$\varphi$ の値は実験値および実河川における測定値から $n > 0.025$ のとき $\varphi = 0.623$、$n \leq 0.025$ のとき $\varphi = 0.623 \cdot (40 n)^{-3.5}$ と与えられている。ここに、$n$ は Manning の粗度係数である。混合砂の場合には粒径別にかきかえ $$\frac{i_B q_B}{q_B} = \frac{f_i}{f} \varphi (d_i) f \left( \frac{\tau}{\tau_{ci}} \right) \tag{10.11}$$ となる。ここに、$i_B$、$f_i$ は粒径 $d_i$ の粒子が掃流砂、河床材料中に占める割合である。粒径範囲全体の掃流砂量式は $$q_B = \sum f_i i_B q_B \tag{10.12}$$ により与えられる。 (2) Einstein の式[114] 河床上の砂礫の移動は瞬間的な揚力が砂粒の重量をこえたとき生じ、粒径の100倍の距離を移動した後、再び河床上に落ち着くと考え、確率の概念を導入し、流砂量を有効掃流力の関数として導いた。河床砂礫が一様粒径の場合には、掃流砂量は次式によって与えられる。 $$\Phi_B = \frac{40}{\psi^3} f(\xi_e)$$ $$f(\xi_e) = 1 - \frac{1}{\sqrt{\pi}} \int_0^{\xi_e} \exp(-t^2) dt$$ $$\xi_e = \frac{\tau_{*e}}{\psi}, \quad u_{*e} = \sqrt{\frac{\tau_e}{\rho}}$$ $$\frac{U}{u_{*e}} = 5.75 \log_{10} \frac{12.27 R_h}{\chi d} = 5.75 \log_{10} \frac{12.27 R_h}{k_s} \tag{10.13}$$ ここに、$U$ は平均流速、$R_h$ は有効径深、$I_e$ は有効エネルギー勾配、$\chi$ は図-10.3に示す関数である。混合粒径の場合には式(10.13) の代りに、次式が用いられる。 $$\frac{i_B q_B}{q_B} = \frac{f(\xi_{ei})}{f(\xi_e)} \frac{I_i}{I_1 + I_2} \tag{10.14}$$ $$\xi_{ei} = \frac{\tau_{*ei}}{\psi_i}, \quad \psi = \left[ \log_{10} \frac{10.6}{\chi} (X \chi / d_{65}) \right]^2$$ ここに、$\varepsilon$ は細砂が粗粒砂によって遮蔽されるための補正係数で $d / X$ の関数となり、$d_{65} u_*/(11.6 \nu \chi) > 1.80$ のとき $X = 0.77 d_{65}/d$、$d_{65} u_*/(11.6 \nu \chi) \leq 1.80$ のとき $X = 1.39 (11.6 \nu/u_*)$、$Y$ は揚圧力の補正係数で $d_{65} u_*/(11.6 \nu)$ の関数 (図-10.3) である。 (3) 芦田・道上の式 芦田・道上は Gilbert [122] および佐藤・吉川・芦田[117] の実験データを用いて次式を提案している。 $$\Phi_B = 17 \tau_*^{3/2} \left( 1 - \frac{\tau_{*c}}{\tau_*} \right) \left( 1 - \frac{u_{*c}}{u_*} \right) \tag{10.15}$$ 有効摩擦速度は次式により算定する。 $$\frac{U}{u_{*e}} = 6.0 + 5.75 \log_{10} \frac{R}{d (1 + 2 T_*)} \tag{10.16}$$ 粒径別掃流砂量式は $$\frac{i_B q_B}{q_B} = 17 \tau_{*i}^{3/2} \left( 1 - \frac{\tau_{*ci}}{\tau_{*i}} \right) \left( 1 - \frac{u_{*ci}}{u_{*i}} \right) \tag{10.17}$$ により与えられる。$\tau_{*ci}$ (あるいは $u_{*ci}$) は $d_i/d_m > 0.4$ では式(10.9)、$d_i/d_m \leq 0.4$ では $\tau_{*ci}/\tau_{*cm} = 0.85$ として与えられる。 ### 10.3.2 斜面の掃流砂量 側斜面上を運動する砂粒子に作用する力のつり合い式から、次式が導かれた[119]。 $$\frac{q_{By}}{q_{BT}} = \tan \alpha + 1.43 \frac{\tau_c}{\tau} \tan \beta \tag{10.18}$$ ここに、$q_{By}$ は単位幅当り横断方向流砂量、$\alpha$ は2次流などに起因する底面近傍の流れが流下方向となす偏角、$\beta$ は斜面の横断方向の傾きである。なお、式(10.18) 中の $\tau_c$ の値は斜面に傾きがあっても、平坦床の値を準用できることが実験的に示され、さらに混合砂の場合についても拡張が行われている[123]。 ## 10.4 浮遊砂量 (Suspended load) ### 10.4.1 濃度分布 浮遊砂は流れのもつ乱れによる拡散と重力による沈降によって支配されており、一様な水路内において平衡状態になっている浮遊砂の濃度分布に関する基礎方程式は以下の浮遊砂濃度の連続式である。 $$\frac{\partial}{\partial z} \left( \varepsilon_s \frac{\partial c}{\partial z} \right) + w_0 \frac{\partial c}{\partial z} = 0 \tag{10.19}$$ ここに、$z$ は底面から上向きにとった座標、$\varepsilon_s$ は乱流拡散係数、$c$ は浮遊砂濃度、$w_0$ は粒子の沈降速度である。 Rouse [124] は乱流拡散係数として渦動粘性係数を準用し、$\varepsilon_z = \kappa u_* z (1 - z/h)$ を用いて、式(10.19) を積分し次式を得ている。 $$\frac{c}{c_a} = \left( \frac{h - z}{z} \frac{a}{h - a} \right)^Z \tag{10.20}$$ ここに、$c_a$ は高さ $a$ における濃度、$h$ は水深、$Z = w_0/\kappa u_*$ である。 しかし、実際の分布は、乱流拡散係数は渦動粘性係数 $\varepsilon$ よりも若干大きく、$\varepsilon_s = \beta \varepsilon$ とした場合、$\beta$ の値は $1 \sim 1.5$ の値をとることが知られている[125], [126]。また、カルマン定数 $\kappa$ の値も、浮遊砂が存在する場合には純水の場合の値 0.4 よりも減少することが知られている[125], [127], [128]。 ### 10.4.2 浮遊砂量式 (1) Einstein の式 Einstein [114] は濃度分布として式(10.20)を用い、基準点として $a = 2d$ の高さの掃流砂濃度を選んで、次の浮遊砂量式を導いた。 $$i_s q_s = i_B q_B \left[ 2.303 \log_{10} \left( \frac{30.2 z}{d_{65} I_1} \right) I_1 + I_2 \right] \tag{10.21}$$ ここに $i_s$ は浮遊砂量 $q_s$ において与えられた粒径範囲の砂粒の割合、$I_1$, $I_2$ は図-10.4に示される $Z = w_0/\kappa u_*$ をパラメータとした $a/h$ の関数である。 (2) 板倉・岸の式 板倉・岸[130] は力学的方程式から基準点濃度を求め、次の浮遊砂量式を提案している。 $$q_s = u_* h (a/h)^Z c_a P$$ $$c_a = A \left( \sqrt{\frac{0.1}{f} \frac{\tau}{\tau_c}} - 1 \right)$$ $$\alpha = A \left( \sqrt{\frac{0.1}{f} \frac{\tau}{\tau_c}} - 1 \right) \tag{10.22}$$ $$P = \frac{1}{\kappa Z} \left[ 3 + \frac{A}{Z} \left( \frac{n}{A} - \frac{k_s}{h} \log \frac{k_s}{h} \right) I_1 \right]$$ ここに、$P$ は $k_s/h$、$Z$ および $\alpha$ の関数 (図-10.5)。$\alpha$ は $\tau/\tau_c$ の関数 (図-10.6)。$A$ の値として0.0018をとると実測値との適合性がよい。また、基準高さ $a$ は $0.05 h$ を選んでいる。 以上の式のほかに、Lane-Kalinske [129]、芦田・道上[130]、Laursen [131] などの式が知られている。浮遊砂の基準点濃度は河床波などの影響を受けばらつきが大きく、正確な浮遊砂量を見積ることはなかなか困難である。 このようなことから、ウォッシュロードも含む全浮遊砂量、$Q_s (m^3/s)$ を流量、$Q (m^3/s)$ と関係づける経験的な関係式 $$Q_s = \alpha Q^n \tag{10.23}$$ が用いられることがある。$\alpha = 10^{-7} \sim 10^{-6}$ 程度であるが、河川、場所によって変化し、$n$ の値は2程度であることが知られている[132]。 ## 10.5 河床形態と粗度 (Bed forms and roughness) ### 10.5.1 河床形態 (1) 分類 流れと移動床間には相互作用が働き、不安定性によってさまざまな河床形態が発生する。これらの河床形態は一般に以下のように分類されている。 河床形態のうち、最も小規模なスケールとして、$u_* d/\nu$ のような内部変量によって規定される砂線 (parting lineation)、砂漣 (ripple) が存在する。砂線は平坦な移動床上で観察され、流れ方向に伸びた筋状の河床形態であり、その間隔はほぼ $100 \nu/u_*$ で表わされる。この間隔は平坦床でみられるバースティング運動による間隔と一致しており、このような乱流運動によって発生する現象であることが示唆される。砂漣は流れが限界掃流力をこえた直後から発生し、$u_* d/\nu$ が25より小さい場合に発生する。また、砂漣は水面の形状と無関係で、その波長は砂粒径の1000倍程度であり、砂粒径が 0.6mm をこえると発生しない[133]。 次のスケールとして、平均流速や水深のような外部変量によって規定される河床形態があり、これらのうち、砂堆 (dune)、遷移領域 (transition)、平坦床 (flat bed)、反砂堆 (antidune) は流れのフルード数によってほぼその発生領域が決定される[134]。砂堆は上流側が緩やかで下流側は砂の水中安息角にほぼ等しい三角形状をなし、下流側へ伝播していき、砂堆上の流れの水面形は河床形状とほぼ逆位相となる。従来、実験室においては、砂漣と砂堆はそのスケールが同一程度であることが多く、しかもその形状が似ていることから混同されることが多かったが、上述のような相違点を有していることに注意する必要がある。流速を増大させるにつれて、遷移領域、平坦床へと移行するが、遷移領域では砂堆と平坦床が共存している。流れがほぼ射流になると、反砂堆が形成される。反砂堆は正弦波に近い形状を有し、水面形とほぼ同位相をなしており、一般に下流へ伝播するが、上流に向かって伝播するものもある。 以上のような河床形態はポテンシャル流理論[135] やせん断流モデル[135] によって発生域が論じられる。そのほかにフルード数とはほとんど無関係で、流れの乱れの分布の不均一性に起因する縦渦によって形成される縦筋河床 (longitudinal ridge) が存在する。この縦筋の横断方向の間隔は水深の約2倍であることが知られている[136]。 最もスケールの大きい河床形態は砂州であり、そのスケールは河幅と最も密接に関係する。砂州にもさまざまな形態のものがあり、その中でも交互砂州 (alternate bar) は河道形態をも決定する重要な河床形態である。交互砂州は河川の左右岸に交互に発生し、横断方向のモードにより、単列、複列、多列交互砂州となる。単列交互砂州は一般に蛇行河道を、複列・多列砂州は網状河道を形成する。蛇行河道においては蛇行振幅の増大に伴って交互砂州が下流方向へ移動することが阻害され、湾曲部凸岸に固定砂州 (point bar) が形成される。このような交互砂州は水流と河床の横断方向の不安定性に起因するものであり、Callander [137] の研究以来、数多くの研究が行われ、その発生領域や卓越波長が $B/H$、$\tau_*$、$C_f$ 等の関数として得られている[138]-[140]。$B$ は河幅、$H$ は平均水深、$C_f$ は抵抗係数である。これらによれば発生領域は主に $B/H$ の値によって決定され、$B/H < 70 \sim 100$ では単列交互砂州が、それ以上では複列・多列交互砂州へと移行する。また、フルード数が小さい領域 ($Fr \leq 0.8$) では、単列交互砂州の卓越波長、$\Lambda$ は $\sqrt{BH}/C_f$ となることが得られており[140]、実験によっても確かめられているが[141]、大略の値として $\Lambda = (5 \sim 10) B$ となることが知られている。また、非線形解析により砂州の波高も予測が可能となっている[142]。 (2) 領域区分 以上のような、河床形態は $u_* d/\nu$、$\tau_*$、$Fr$、$C_f$、$B/H$ 等数多くのパラメータによって支配されているので、2次元面上で一般的に区分図を描くことは不可能であり、それぞれのスケールごとに区分図が描かれている。図-10.7に白砂[35] による砂堆・平坦床・反砂堆の発生領域を、図-10.8に単列交互砂州および複列・多列交互砂州の発生領域を示す[36]。 ### 10.5.2 河床材料による抵抗 河床材料の粗度は対数速度分布式を積分して得られる Keulegan (クーリガン) [143] の平均流速式を用いてよく検討が行われている。Keulegan の式は $$\frac{U}{\sqrt{g R I}} = 2.5 \ln \left( \frac{11 R}{k} \right) \tag{10.24}$$ である。ここに、$U$ は平均流速、$u_*$ は平均摩擦速度、$R$ は径深、$k$ は相当粗度である。 野外では Kellerhals [144]、Bray [145] などが平坦な礫床河川についてさまざまな粒径について検討し $k \fallingdotseq d_{90}$ であることを示し、一方実験室内では Kamphuis [146] が $k = 2 d_{90}$、岸・黒木[147] が $k = 2 d_{50}$ としている。以上から、相当粗度は90%粒径などの大きい粒径に支配され、$k = (1 \sim 2) d_{90}$ 程度であることが知られる。 低流量時には、点在する大礫が水面上に現れるなどして、流量が大きい場合と異なった様相を示す。Bathurst [148] は、$R/d_{84} \leq 1.5$ の場合に対して $$\frac{U}{u_*} = 10.57 \left( \frac{R}{d_{84}} \right)^{1.71} \left( \frac{B}{h} \right)^{-0.0141 \left( \frac{R}{d_{84}} \right)^{-0.0443}} \left[ \ln \left( \frac{R}{d_{84}} \right) \right]^{0.6042 \left( \frac{R}{d_{84}} \right)^{-1.0319}} \tag{10.25}$$ を提案している。 ### 10.5.3 河床波による抵抗 河床波の形状抵抗については Einstein-Barbarossa [149]、Garde-Raju [150]、Engelund [151]、岸・黒木[147] などによって研究が行われている。 (1) Garde-Raju の式 $$\frac{U}{u_*} = K (\frac{R}{d})^{2/3} (\frac{1}{R_e})^{1/2} \tag{10.26}$$ ここに、$K$ の値は7.66 (平坦河床)、$K = 3.2$ (砂漣と砂堆)、$K = 6.0$ (反砂堆) であり、砂礫による抵抗も含んだ形となっている。 (2) 岸・黒木の方法 岸・黒木は Engelund の方法を改良し、$R/d$ による関係も付け加えて次式を提案している。 $$\frac{U}{u_*} = 7.66 (\frac{R}{2d})^{1/2} (\frac{\tau_*}{\tau_*'})^{2/3} \tag{10.27}$$ ここに、$d$ は有効せん断力 $\tau'$ であり、式(10.27) の右辺 $(\tau_*/\tau_*')^{2/3}$ は河床波による抵抗増を示す。各河床形態に関する $\tau_*$ と $\tau_*'$ の関数はそれぞれの領域ごとに異なっている。遷移河床域をはさんで、$\tau_*$ と $\tau_*'$ の間には多価性が現れる。 ## 10.6 局所洗掘と河床変動 (Local scour and river bed variation) ### 10.6.1 構造物周辺の洗掘深 橋脚や水制のような障害物のまわりの流れでは3次元境界層の剥離が生じ、それが強い馬蹄形渦を発生させ、局所的な洗掘孔が形成される。 (1) 橋脚付近の局所洗掘深 橋脚近傍以外では限界掃流力以下となっている静的洗掘と、限界掃流力以上の流れの場で発生する動的洗掘に分けられる。Andru [152]、Laursen [153]、Cunha [154]、中川・鈴木[155] など数多くの研究が行われている。Laursen、Cunha の式は多くの資料の包絡線としての上限を与えることが知られている[155]。Andru の式は簡単な式であるが、最大洗掘深の概略値を知るのに有効である。 a. Andru の式 $$Z_s = 0.8 H \tag{10.28}$$ b. 中川・鈴木の式 動的洗掘: $$\frac{Z_s}{H} = 1 \quad (H \leq D \text{の場合}) \tag{10.29}$$ $$\frac{Z_s}{D} = 3 - 0.9 \log_{10} \frac{H}{D} \quad (H > D \text{の場合}) \tag{10.30}$$ 静的洗掘: $$\frac{Z_s}{D} = \left( 2 \frac{N_{sc}}{N_s} - 1 \right) \left( \frac{Z_s}{D} \right)_e \tag{10.31}$$ ここに、$Z_s$ は河床面からの最大洗掘深、$D$ は橋脚幅、$H$ は橋脚の影響を受けない断面の水深、$N_s = U/\sqrt{R_s g d}$、$U$ は橋脚の影響を受けない断面の平均流速、$N_{sc}$ は $N_s$ の限界掃流力時の値、$(Z_s/D)_e$ は動的平衡時の値である。 (2) 水制付近の局所洗掘深 権・斉藤[156]、土屋・石崎[157] などにより経験式が提案されている。なお先述の Andru の式も水制付近の局所洗掘を予測するのに有効である。土屋・石崎は上流から流砂がない場合の非越流型水制の先端付近における平衡最大洗掘深さの推定式を提案している。 a. 土屋・石崎の式 $$\frac{H_{\max}}{L} = 4.8 Fr_m^{1/7} \left( \frac{L}{D} \right)^{2/3} \tag{10.32}$$ ここに、$H_{\max}$ は水面から測った最大洗掘深、$U_m$ は最大洗掘深の発生断面における砂礫の移動限界流速、$Fr = U/\sqrt{gH}$。 ### 10.6.2 湾曲部・砂州の洗掘 流路に交互砂州が発生すると偏流が生じ、側岸侵食や局所洗掘を発生させる。河川工学上重要となるのは、最深部が河岸沿いに発生する場合であって、このような洗掘深について、藤田ら[158]、Ikeda [141]、福岡・山本[142]、橋本ら[57] による研究がある。 (1) 交互砂州による局所洗掘 a. Ikeda の式 $$\frac{Z_B}{H} = 1.51 C_f^{-1} \left( \frac{B}{H} \right)^{1.45}, \quad 6 < \frac{B}{H} < 40 \tag{10.33}$$ ここに、$Z_B$ は一つの砂州の最深部を含む横断面における段高河床と最深河床の差、$C_f$ は抵抗係数 $[= (u_*/U)^2]$、$H$ は平均水深である。 b. 橋本・浅野・林の方法 実際河道に適用できるよう、$B/H$ が大きい場合についても実験を行い、最大・平均水深比 $H_{\max}/H$ について対数正規分布を仮定し、超過確率をパラメータとして $H_{\max}/H$ を $B/H$ の関数として求めている (図-10.9)。超過確率50%の場合、すなわち平均値においても $B/H = 100$ では $H_{\max}/H$ は3程度の値となることが知られる。 (2) 湾曲部の局所洗掘 湾曲部では底面近傍に外岸側から内岸側へ向かう二次流が発生し、土砂が内岸側へ輸送され、外岸に沿って洗掘される。一様湾曲水路においては、式(10.18) において $q_{By} = 0$ とおけば横断平衡河床形状が求められるが、図表がすでに得られている[119]。 ### 10.6.3 安定河道 河道が安定であるためには、縦断方向に流砂量が等しく、かつ横断面が安定しており拡幅しないことが必要である。横断面形状については流路幅を流量の関数として求める方法が従来知られていたが、横断方向への乱れによる運動量輸送を考慮してせん断力分布を求め、これから側斜面直下における限界掃流力の概念を導入して動的安定形状を求める方法が発展している[159]。 ① 流量の関数として求める方法[160] $$B = \beta Q^{0.5}, \quad \beta = 3.5 \sim 7 \text{ (平均5)} \tag{10.34}$$ ② 動的安定理論による方法[159] $$H = 0.0615 (\log_{10} 19 \sigma)^{-1} R_s \sqrt{g d_{50} I} \tag{10.35}$$ $$\begin{aligned} B &= \frac{Q}{H \sqrt{g H / 2.5 \log (7.333 H / \sigma d_{50})}} \\ &\quad + \frac{H}{2} \left[ 5.7^{\frac{2.066}{\log (7.333 H / \sigma d_{50})}} - 1 \right] \end{aligned} \tag{10.36}$$ ここに、$H$ は斜面を除く水路中央部の水深、$\sigma = d_{84}/d_{50}$。 ### 10.6.4 河床変動計算 ダムのような構造物を築造したり、河川改修により捷水路を開削したりすると土砂の輸送状況が変化し、河床変動が発生する。このような変動は河床波などによる河床変動と比較して大規模なスケールで発生するので 1 次元解析法が適用される。実河川では混合砂礫であるので、表層近傍の粗粒化を考慮した計算が必要である[161], [162]。このような解析を行うには以下の諸式が必要である。 流れの連続式と運動方程式: $$\frac{\partial}{\partial t} (B H U) = 0 \tag{10.37}$$ $$\frac{\partial U}{\partial x} + U \frac{\partial U}{\partial x} + g \frac{\partial H}{\partial x} + g I_e = 0 \tag{10.38}$$ 流砂の連続式と流砂量式: $$\frac{\partial Z}{\partial t} + \frac{1}{1 - \lambda} \frac{1}{B} \frac{\partial}{\partial x} (q_B B) = 0 \tag{10.39}$$ $$q_B = \sum_i q_{Bi}, \quad q_{Bi} = f(u_{*i}, d_i) \tag{10.40}$$ 砂礫の粒径別の連続式: $$\frac{\partial f_i}{\partial t} + \frac{1}{1 - \lambda} \frac{1}{B a} \left[ \frac{\partial (q_{Bi} B)}{\partial x} - f_i \frac{\partial (q_B B)}{\partial x} \right] = 0 \tag{10.41}$$ $$f_t = \begin{cases} f_i & \text{for } \partial Z/\partial t > 0 \\ f_{i0} & \text{for } \partial Z/\partial t \leq 0 \end{cases}$$ ここに、$B$ は河幅、$H$ は平均水深、$U$ は平均流速、$Z$ は河床高、$\lambda$ は河床砂礫の空隙率、$u_*$ は摩擦速度、$f_i$、$f_{i0}$ はそれぞれ $d_i$ の砂礫が交換層、交換層下の原河床に占める割合、$a$ は交換層の厚さであり、一般に最大粒径程度の値である。福岡[163] は流砂量式として式(10.11)を用い、上述の式(10.38) ~ (10.41) を差分化することによって河床変動に及ぼす河床波の影響、せき上げの影響、カットオフ等による勾配変化の影響についてそれぞれ計算を行っている。