管路流
平均流速公式
管路流の計算にあっては、管路の摩擦損失と平均流速との関係、すなわち平均流速公式が必要である。現在の水理学においては、 この平均流速公式に関して2つの考え方がある。一つはManning(マニング)の式に代表される、 主として経験的に得られた公式であり、 もう一つは理論的裏づけの程度の高い、流速分布の対数則を用いる方法である。現在では両方式間の関係もかなり調べられてきてはいるが、現場で得られる情報に即して適当な方法を選ぶべきである。
対数則による平均流速公式
円管内の乱流の流速分布については、混合距離理論を用いて局所流速の対数則が得られ、それにより平均流速公式が求められる。結果は管壁の滑らかな管と粗い管に分けて示される。
滑らかな円管内の局所流速の分布は、 Prandtl (プラントル)の混合距離理論を用いてNikuradse(ニクラーゼ)により次式のように与えられた。
ここに、は管壁からの距離、は動粘性係数であり、は摩擦速度であり、 管壁の摩擦応力と密度を用いて次のように与えられる。 u_*=\sqrt{\tau_0/\rho} \tag{3。2} 式(3。1)は図-3。1に示すようにNikuradseにより実験的に確かめられている。この式を用いて断面平均流速を求めると次式を得る。 \frac{U}{u_*}=1。75+5。75\log_{10}\frac{r_0u_*}{\nu} \tag{3。3} ここに、は管の半径である。
式(3。1) は管壁の近傍()では使えない。管壁の近くでは乱れ応力よりも粘性応力が卓越すると考えると次の流速分布式を得る。 \frac{u}{u_*} = \frac{yu_*}{\nu} \tag{3。4} 上式の成立する範囲を粘性底層と 呼び、その厚さは次式で与えられる。 \delta=11。6\frac{\nu}{u_*} \tag{3。5}
粗い円管内の流速分布を定めるのは相当粗度であり、滑らかな管の場合と同様にNikuradseにより次式のような対数則が得られている。 \frac{u}{u_*}=8。5+5。75\log_{10}\frac{y}{k_s} \tag{3。6} Nikuradseはとして管壁に一様に砂粒をはりつけて実験を行い、 式(3。6)を確かめた(図3。2)。 また式(3。6)から粗い円管内の平均流速は次式で与えられる \frac{U}{u_*}=4。75+5。75\log_{10}\frac{r_0}{k_s} \tag{3。7}
一般に管壁が水理学的に粗いか滑らかかは、式(3。5)で与えられる粘性底層の厚さと粗度の比から得られる無次元数によって定まる。 任意の粗度の管路の流速分布を次式で表わせば、 \frac{u}{u_*}=5。75\log_{10}\frac{y}{k_s}+A \tag{3。8} 定数は水理学的粗さを 表わすパラメータ の関数であり、図3。3のように実験的に得られている。
3。1。2 指数型平均流速公式
この型の平均流速公式の基本型は以下に示すChezy(シェジー)の式である。 V=C\sqrt{RI} \tag{3。9} ここにはChezyの抵抗係数であり、 は管の断面積と管壁の周長と の比で与えられ、動水半径または径深と呼ぶ。は摩擦勾配であり摩擦速度との間には以下の関係がある。 I=\frac{u_*^2}{gR} \tag{3。10} 今までに提案されている公式のうち代表的なものを表-3。1に示す。
表3。1 指数型平均流速公式(Power laws of mean velocity)
提案者 | 式 | 注意 |
---|---|---|
Mi化s | , 単位はすべてcm | |
Ganguillet-Kutter (ガンギレ・クッタ) | 単位はすべてm | |
Manning (マニング) | 単位はすべてm | |
Hazen-Williams | 単位はすべてft |
3。2 摩擦損失係数
管路の各点における位置水頭と圧力水頭との和、すなわちピエゾ水頭を連ねた線を、動水勾配線と呼ぶ。一様な管路上の2点間の動水勾配線の高さの差は、管路の摩擦抵抗によるエネルギーの損失を示し、これを摩擦損失と称し、円管の場合は次式で与えられる。 h_f=f\frac{L}{D}\frac{v^2}{2g} \tag{3。11} ここに、は摩擦損失水頭、はDarcy-Weisbach (ダルシー・ワイスバッハ)の摩擦損失係数、は2点間の距離、は管の直径、である。
管断面全体の運動量保存則から、であるので、、、の関係として次式が得られる。 u_*=\sqrt{\frac{\tau_0}{\rho}}=V\sqrt{\frac{f}{8}} \tag{3。12} 式(3。11)に式(3。3)および式(3。7)を代入することにより、を与える式が以下のように得られる。 \frac{1}{\sqrt{f}}=2\log_{10}(\text{Re}\sqrt{f})-0。8 \quad \text{(滑らかな管)} \tag{3。13} \frac{1}{\sqrt{f}}=2\log_{10}\left(\frac{r_0}{k_s}\right)+1。74 \quad \text{(粗い管)} \tag{3。14} ここに、は管路のレイノルズ数である。
以上は完全に滑らかまたは粗い管に適用する式である。 Colebrook (コールブルック) は中間的な遷移領域について、の極限のときに式(3。14)に、のときに式(3。13) に漸近する次式[6] を提案している。 \frac{1}{\sqrt{f}}=1。74-2。0\log_{10}\left(\frac{2k_s}{D}+\frac{18。7}{\text{Re}\sqrt{f}}\right) \tag{3。15} 式(3。15) を用いてつくられる図を通常Moody (ムーディ)図表と呼び「水理公式集」に掲載されている[5]。 ここではRouseによって与えられた図表を図-3。4に掲載する。この図表はであるので摩擦勾配を与えて流量を計算するのに便利である。
実用的な管材料につい てをどうとるべきかは種々研究されている[5],[7]。
なお断面形が円以外の管路の摩擦損失水頭の計算にあっては以下の式を使う。 h_f=f'\frac{L}{R^{4/3}}\frac{Q^2}{2gA^2},\quad f'=4f \tag{3。16} ここに、すなわちの算定にあってはRe数中のを、として与えて計算すればよい。
以上は対数型流速分布公式を用いた場合であるが、指数型流速分布公式(3。9) を用いるときは、 式(3。16) を変形して(3。9) と比べることにより得られる次式を用いて、からまたはを計算すればよい。 f'=\frac{8}{C^2} \tag{3。17}
3。3 摩擦損失以外のエネルギー損失
3。3。1 断面の急変による損失
急拡による損失は流線が境界に沿って流れることができないために生ずる剥離渦によるものであり、急縮による損失はやはり流れの方向が境界部で急に変るために生ずる 剥離渦によるものである。急拡、急縮による損失水頭は損失係数、を用いて次式のようにかける。
急拡: h_e=f_e\frac{v_1^2}{2g}=\left[1-\left(\frac{A_1}{A_2}\right)^2\right]^2\frac{v_2^2}{2g} \tag{3。18}
急縮: h_c=f_c\frac{v_2^2}{2g} \tag{3。19}
表3。2、表-3。3にこれらの損失係数の値を示す(記号の意味については図-3。5を参照)。
表-3。2 急拡の損失係数(Friction factor of sudden expansion)
0 | 0。1 | 0。2 | 0。3 | 0。4 | 0。5 | 0。6 | 0。7 | 0。8 | 0。9 | 1。0 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1。00 | 0。81 | 0。64 | 0。49 | 0。36 | 0。25 | 0。16 | 0。09 | 0。04 | 0。01 | 0。00 |
表3。3 急縮の損失係数(Friction factor of sudden contraction)
0 | 0。1 | 0。2 | 0。3 | 0。4 | 0。5 | 0。6 | 0。7 | 0。8 | 0。9 | 1。0 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0。50 | 0。47 | 0。45 | 0。43 | 0。41 | 0。38 | 0。30 | 0。18 | 0。07 | 0。01 | 0。00 |
3。3。2 断面が徐々に変化する場合の損失
断面が徐々に拡大する場合の損失は断面拡大部の頂角が小さいときには小さく(の値が8°をこえると急激に大きくなる。図-3。6にはGibsonによる実験値を示す。断面が徐徐に小さくなる場合の損失は流れの安定が良いので通常の場合小さく無視できる。
3。3。3 曲がりによる損失
管が曲がっている場合の損失は、遠心力による2次流、剥離、乱れの不均一性などの影響が複雑にからみ合って生じる。この場合の損失は損失係数により次式で求められる。 h_b=f_b\frac{v^2}{2g} \tag{3。20} 図-3。7、 図-3。8はRichter (リヒタ)が整理した結果である。
図3。7 曲がりの損失係数とレイノルズ数との関係[7] (Friction factor of bend versus Reynolds number)
図3。8 曲がりの損失係数と曲率半径との関係[7] (Friction factor of bend versus radius of curvature)
3。3。4 屈折による損失
屈折による損失も工作精度による差異が大きいので公式としては定めにくい。だいたいの目安を得るためにWeisbachの公式をあげておく[7]。 ここに、は屈折角、また実験はの円管で行っている。 h_e=f_e\frac{v^2}{2g} \tag{3。21} f_e=0。946\sin^2\frac{\theta}{2}+2。05\sin^4\frac{\theta}{2} \tag{3。22}
3。3。5 管内オリフィスによる損失
管内オリフィスは主として流量測定のためのものである。したがって、その使用にあたっては、どうしてもキャリブレーションが必要である。また、現在ではJIS規格も定められているので、個別に観測値を用いて設計すべきである。
3。3。6 分流および合流による損失
分流および合流による損失も相当に複雑である。「土木工学ハンドブック」 (1963年版)にはGardelによる実験値が載せられている。しかしレイノルズ数の範囲が限られており()、かつ流量比など管路全体より定まってくる因子が大きく影響してくるのでその適用範囲も限られている。この場合も現段階では個別に実験によって定めるほかはないようである。
3。3。7 弁類による損失
スルース弁、コック弁、バタフライ弁について、Weisbachの実験値をあげておく(表-3。4~表-3。6 および図-3。9)。 h_v=f_v\frac{v^2}{2g} \tag{3。23}
表-3。4 スルース弁(Weisbachによる) (Friction factor of sluice valves)
開度 | 0 | 0。125 | 0。25 | 0。375 | 0。5 | 0。625 | 0。75 | 0。875 | 1。0 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
閉止 | 97。8 | 17。0 | 5。52 | 2。06 | 0。81 | 0。26 | 0。07 | 0 |
表3。5 コック弁(スフェリカル弁)(Weisbachによる) (Friction factor of stop valves)
開度 | 0° | 82。7° | 60° | 50° | 40° | 30° | 20° | 10° | 0° |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
閉止 | 20。6 | 52。6 | 17。3 | 5。47 | 1。56 | 0。29 | 0 | 0 |
表-3。6 バタフライ弁(Weisbachによる) (Friction factor of butterfly valves)
開度 | 0° | 70° | 60° | 50° | 40° | 30° | 20° | 10° | 5° | 0° |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
750 | 118 | 32。6 | 10。8 | 3。91 | 1。54 | 0。59 | 0。24 | 0。53 | 1 |