開水路流
4.1 開水路水理の基礎(Fundamentals)
4.1.1 開水路1次元方程式
河川流のように自由水面をもつ水路流を開水路流と呼ぶ. 1つの水路流を工学的に取り扱う場合には、水路断面内で平均化ないし積分された諸量(平均流速、平均水位、流量など)が時間および流下距離に対して変化するようすを問題とすることが多い.こ のような取扱いを「1次元的取扱い」と称する.
全水頭〔式(2.28)参照〕が流れ方向にの率で減少するとして水路断面内で平均化すると次式を得る. \beta\frac{\partial v}{\partial t}+\alpha\frac{v}{g}\frac{\partial v}{\partial x}+\frac{\partial h}{\partial x}=i_0-i_f \tag{4.1} ここに、は断面平均流速、は水深、は水路床勾配、はエネルギー勾配、は重力加速度である. とは水路断面内で流速が一様でない度合を表わす補正係数で、は運動量補正係数、は運動エネルギー補正係数と呼ばれる. は圧力が静水圧分布からはずれる度合を表わす補正係数で圧力補正係数と呼ばれる.各々次のように表わされる. \beta=\frac{1}{Av^2}\int\left(\frac{u}{v}\right)^2dA \tag{4.2} \alpha=\frac{1}{Av^3}\int\left(\frac{u}{v}\right)^3dA \tag{4.3} \lambda=\frac{1}{Ah_G}\int\left(\frac{p}{pg}+z\right)dA \tag{4.4} ここに、は断面内の各点の流速、は断面積、は圧力、は水の単位体積重量は水路床から鉛直上向きに測られた距離である.流速が断面内で一様の場合は、となるが、一般には1よりもやや大きな値をもつ.また圧力が静水圧分布のとき、 静水圧より高い場合に、低い場合にとなる. これらの係数は、 現実の流れが完全な1次元運動でないことの影響を補正するものである.特には水路断面内の力の不均衡を表わしが1より顕著に変化する流れは、実質的には1次元的取扱いが不可能である.
流体の体積の保存は次式で表わされる(連続条件式). \frac{\partial A}{\partial t}+\frac{\partial Q}{\partial x}=-q^* \tag{4.5} ここに、は流量は単位流下距離当り水路から流出する水量(流入の場合は負値をとる)である.
4.1.2 流れの分類
状態が時間的に変化する流れを「不定流」、時間的に変化しない流れを「定常流」という.定常流のうち、状態が流下距離によって変化する流れを「不等流」、変化しない流れを「等流」という.また圧力補正係数が流下方向に顕著に変化する流れを「急変流」、とみなせる流れを「漸変流」という.以上の分類を表-4.1に示す.
表-4.1 開水路流の分類(Classification of open-channel flow)
流れの分類 | 細分類 | 数学的表現 | 圧力分布 |
---|---|---|---|
定常流 | 等流 | , | 静水圧 |
不等流-漸変流 | , | 静水圧 | |
不等流-急変流 | , | 非静水圧 | |
不定流 | 漸変不定流 | , | 静水圧 |
急変不定流 | , | 非静水圧 |
4.1.3 比エネルギーと比力
水路底から測った水頭を比エネルギーと呼ぶ. E=\frac{v^2}{2g}+\lambda h=\alpha\frac{v^2}{2g}+\lambda h \tag{4.6}
矩形断面水路でとが1とみなせる流れでは、単位幅流量をとすると、比エネルギーは次式で表わされる. E=\frac{q^2}{2gh^2}+h \tag{4.7}
単位時間に水路断面を通過する運動量と流体圧の合力の和を、流体の単位体積重量で除した量を 比力と呼ぶ. F=\frac{1}{wgA}\int\left(\frac{p}{wg}-wv^2+\frac{p}{wg}\right)dA=\beta\frac{Q^2}{gA}+\lambda'Ah_G \tag{4.8} ここに、は断面の図心の深さである.は圧力が静水圧分布からずれる度合を表わす係数で、次式で表わされる. \lambda'=\frac{1}{Ah_G}\int\frac{p}{wg}dA \tag{4.9}
矩形断面水路でとが1とみなせる水路では、単位幅当りの比力()は次式で表わされる. F'=\frac{q^2}{gh}+\frac{h^2}{2} \tag{4.10} 流れ方向に外力が作用しなければ比力は保存される(運動量保存則).
4.1.4 限界水深と常流、射流
式(4.7)と式(4.10)を一定の条件で図示すると図-4.1(a)となる.つまりとはある水深でともに極小値をとる.この水深を限界水深()と呼ぶ.また式(4.7)においてを一定とした場合および式(4.10)でを一定とした場合のとの関係を図示すると図-4.1(b)となる.すなわち水深が限界水深に等しいときには極大値をとる.したがって限界水深は以下の条件を満足する水深として定義される. \left(\frac{\partial E}{\partial h}\right)_q=0, \quad \left(\frac{\partial F}{\partial h}\right)_q=0, \quad \left(\frac{\partial q}{\partial h}\right)_E=0, \quad \left(\frac{\partial q}{\partial h}\right)_{F'}=0 \tag{4.11}
矩形断面以外の断面をもつ水路については式(4.6)と式(4.8)を用いて、次式を満足する水深が限界水深とされる. \left(\frac{\partial E}{\partial h}\right)_Q=0, \quad \left(\frac{\partial F}{\partial h}\right)_Q=0, \quad \left(\frac{\partial Q}{\partial h}\right)_E=0, \quad \left(\frac{\partial Q}{\partial h}\right)_F=0 \tag{4.12} しかしこの場合には各々の定義によって値が若干異なる.
水深と限界水深の相対的大きさによって流れの状態を次のように分類する. : 常流、 : 限界流、 : 射流
式(4.11)を変形すると、次の関係が得られる. \frac{v}{\sqrt{gh}}=1 \quad (\text{限界流について}) \tag{4.13} はフルード数()と呼ばれ、 開水路流の状態を表わす重要な無次元数である. 常流では、射流ではとなる.
図-4.2(a)のような水路底のわずかな変化に対する水深の応答の基本的特性を調べるために、式(4.1)の左辺第1項と右辺第2項を無視し、とを1とおいて変形すると次式を得る. \frac{dh}{dx}=\frac{1}{Fr^2-1}\frac{dz}{dx} \tag{4.14} ここには水路底の高さ()である. すなわち水路底がわずかに上昇すると、 常流()ならば水深が減少し、射流()ならば水深が増加する.
図-4.2(b)のように水路幅が減少する水路では、同様の解析を行うと、常流であれば水面が低下し、 射流であれば上昇するという結果が得られる.
微小振幅長波の波速はであるから、フルード数は流速と波速の比となっている.常流ではだから下流で生じた水面撹乱が流れを遡れる.一方、射流ではなので、水面撹乱は流れを遡れない.以上のように常流と射流では流れの性質が著しく異なる.
図-4.1(a)からわかるように、一つの比エネルギーの値に対して1常流と射流の状態が1つずつ存在する.この1対の水深を交代水深という.また1つの比力の値に対しても2つの状態が存在する.この1対の水深を共役水深という.
4.2 等流と平均流速公式 (Uniform flow and uniform flow formulae)
4.2.1 等流
流れの状態が時間的にも空間的にも変化しないとき、「等流」と呼ばれる.等流では式(4.1)の左辺が零となるので、 i_f=i_0 \tag{4.15} すなわち、重力のなす仕事率とエネルギー損失率の等しい状態である.
4.2.2 平均流速公式
水路の断面形状、勾配、水路面の粗さなどと等流流速を結びつける関係式を平均流速公式と呼ぶ.以下にその主なものを紹介する