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流域と流出の素過程

流域の地形と地質

流域の地形則

河川流域は、流出系における降雨から流出流量への変換場であって、その形態の影響を把握することは流れの機構を明らかにすることと並んで重要です。

河川流域の形態に関する研究は、Hortonの提案による河道位数の概念をもとに大きく発展しました。

この河道位数は、水源の河道に対して1、位数1の支流のみをもつ河道部分に対して2、位数1と位数2の支流のみをもつ河道部分に対して3、と逐次定めていくものです。

一般に、位数uをもつ2つの河道が合流する場合にその下流の河道が位数u+1をもつことになります。この河道位数の概念を用いて流域の地形量が分析され、次のような統計則が得られています。

河道数則:

Nu=RbkuRb=Nu1/Nu(u=1,2,...,k)(2.1)N_u = R_b^{k-u}、R_b = N_{u-1}/N_u (u = 1, 2, ..., k) \tag{2.1}

河道長則:

Lˉu=Lˉ1RLu1RL=Lˉu/Lˉu1(2.2)\bar{L}_u = \bar{L}_1 R_L^{u-1}、R_L = \bar{L}_u / \bar{L}_{u-1} \tag{2.2}

流域面積則:

Aˉu=Aˉ1Rau1Ra=Aˉu/Aˉu1(2.3)\bar{A}_u = \bar{A}_1 R_a^{u-1}、R_a = \bar{A}_u / \bar{A}_{u-1} \tag{2.3}

河道勾配則:

Sˉu=Sˉ1RS1uRS=Sˉu1/Sˉu(2.4)\bar{S}_u = \bar{S}_1 R_S^{1-u}、R_S = \bar{S}_{u-1} / \bar{S}_u \tag{2.4}

ここに、NuN_uLˉu\bar{L}_uSˉu\bar{S}_uAˉu\bar{A}_uはそれぞれ1つの流域内のuu次河道の数、平均河道長、平均河道勾配、平均集水面積であり、kkは最下流河道の位数です。

RbR_bRLR_LRaR_aRsR_sはそれぞれ分岐比、河道長比、集水面積比、河道勾配比と呼ばれ、通常の河川流域では、その値は次のとおりとなります。

Rb4RL2Ra36RS2(2.5)R_b \simeq 4 R_L \simeq 2 R_a \simeq 3 \sim 6 R_S \simeq 2 \tag{2.5}

流域の地質

雨水の流動場として流域を考えるとき、その形態学的特性だけでなく、場そのものの性質、すなわち地質、植生、土地利用の状態なども重要です。

植生や土地利用形態は洪水時の雨水の流れに影響を与え、後述するように、洪水到達時間や流出係数は植生や土地利用形態によって異なります。

流域の地質の影響は低水流出特性を考える場合に顕著です。例えば、虫明らは、流域の地質条件によって低水流出にかなり相違があり、第四紀火山岩類、花崗岩類流域、第三紀火山岩類、中生層、古生層流域の順に低水流出指標が大きく、かつ低減が緩やかであることを明らかにしています。

また、小葉竹・石原は、修正集中面積図とタンクモデルを組み合せた流出モデルのパラメータを同定することによって、タンクモデルを適用する流域面積の大きさを固定すれば、タンクモデルの諸定数が表層地質を媒介として総合化できるとしています。

降水

雨滴の形で地表に達した水を降雨、雪の形のそれを降雪と呼び、その他の形のものも含め、空中から地表に達する水を総称して降水と呼びます。

降雨の規模

降水は、総観気象的な成因や地形の影響などによって、種々のスケールの降水に区別されることがあります。

また、降雨をもたらす気象学的擾乱の種類と周期および雨域面積は相互に関連しており、下表のように分類されることが多い。

表-2.1 擾乱の種類と周期および雨域面積

種類周期雨域面積
降雨細胞数分km2km^2
降雨バンド20~30分数十km2km^2
集中豪雨5~6時間数百km2km^2
降雨日5~7日数千km2km^2
季節30~50日-

DAD解析

前述したように降雨をもたらす擾乱の時空間スケールは互いに関連しています。このような降雨の量・面積・期間の間に成立する関係を分析することをDAD解析(Depth-Area-Duration Analysis)といいます。

降雨中心から離れる際の強度の減少傾向を定式化した式は数多いです。代表的な式は、Hortonによる式で、

P=P0exp(kAn)(2.6)P = P_0 \exp(-k A^n) \tag{2.6}

この式で、P0P_0は地点雨量の最大値、PPは面積AAにおける平均降雨量、k,nk, nは定数です。k,nk, nは大雨とか小雨とかによって異なってきます。

さらに、降雨の期間も考慮した式として、Fletcherによる式

Pm=D(a+bc+A)(2.7)P_m = \sqrt{D} \biggl( a + \frac{b}{c + \sqrt{A}} \biggr) \tag{2.7}

があります。ここに、DDは降雨の期間、PmP_mは期間DD、面積AAに対する面積雨量の最大値であり、a,b,ca, b, cは定数です。アメリカにおける50000km250000 km^2 までの面積に対して求めたa,b,ca, b, cの値は、DDを時間単位、PmP_mmmmm単位、AAkm2km^2単位として、それぞれ、13131090010 90030.930.9です。

これらの式は河川計画や下水道計画の基本となる強雨時のピーク流量を計算するのに用いられます。

なお、流域内のいくつかの点雨量から流域平均雨量、すなわち面積雨量を求めるには、単純に平均する方法、各観測点を結んだ三角形の網目で流域全体を覆い、この各三角形の各辺の垂直二等分線によって区切られる多角形の面積を重みとして平均するThiessen法、雨量の等値線を引き、それぞれの等雨量線で囲まれた面積にその平均雨量を乗じて和をとり平均する等雨量線法などの方法が用いられます。

レーダー雨量計によれば、数kmkmメッシュ単位で降雨強度の空間的分布がとらえられるので、レーダー反射因子から雨量強度を推定する時の誤差の問題はあるものの、レーダー雨量計を用いて面積雨量を推算する方法も有力です。

降雨遮断

降雨の一部は、植物や建物の表面に一時的に貯留され、後に蒸発して、流出分となりません。これを遮断といいます。

降雨遮断量やこれらの貯留量の時間的な変化を量的にとらえようという試みもなされています。

蒸発散・融雪

蒸発散は、短期流出を対象とする場合は、降雨遮断とともに初期損失の決定の面で重要です。長期流出を対象とする場合には、蒸発散量そのものが重要になります。

また、わが国の日本海側および北部の地方では、冬季にかなり積雪があり、重要な水資源であるとともに、ときとして融雪洪水をひき起すので、それらの地域では融雪量の推定も短期流出・長期流出のいずれの点でも重要な要素です。

地中での不飽和浸透

不飽和浸透の基礎方程式

雨水の土中への不飽和浸透の基礎式は次式で与えられます。

θt=z(Dθz)+z(kpz)kz(2.8)\frac{\partial \theta}{\partial t} = \frac{\partial}{\partial z}(D \frac{\partial \theta}{\partial z}) + \frac{\partial}{\partial z}(k \frac{\partial p}{\partial z}) - \frac{\partial k}{\partial z} \tag{2.8}

D=k(θ)dϕ(θ)dθ(2.9)D = k(\theta) \frac{d \phi(\theta)}{d \theta} \tag{2.9}

ここに、θ\thetaは土中水の体積含水率、ppは水頭で表現した間隙空気圧、ϕ\phiは水頭で表わした毛管ポテンシャル、kkは不飽和透水係数、ttは時間、zzは鉛直下方の座標、DDは水分拡散係数です。

dϕ(θ)/dθd \phi(\theta)/d \thetaの逆数は、比水分容量と呼ばれます。

浸透水と土中の間隙空気とが容易に交換される場合にはp/z\partial p/\partial zを無視してもよく、数値解などが求められています。

地表面の湛水などで、間隙空気が閉塞される場合には複雑な現象が起るので注意を要します。

流域での浸透能

十分に地表面に水を供給したときの雨水の浸透強度を浸透能といいます。浸透能を上回る水の補給があるときの時刻ttにおける浸透能f(t)f(t)を表わす経験式として、次の式があります。

Horton式:

f(t)=fc+(f0fc)exp(αt)(2.10)f(t) = f_c + (f_0 - f_c) \exp(-\alpha t) \tag{2.10}

Kostiakov式:

f(t)=At1/2+B(2.11)f(t) = A t^{-1/2} + B \tag{2.11}

ここに、f0f_0は初期浸透能、fc,Bf_c, Bは最終浸透能、a,Aa, Aは定数です。

前述の不飽和浸透式でp/z=0\partial p/\partial z = 0、かつk,Dk, Dを定数と仮定することによって、これらの式を理論的に導くことができます。

A,BA, Bの値は土壌の種類、有効間隙率によって異なり、fc,αf_c, \alphaはさらに地下水の位置によっても異なった値をとります。

河川流域全体でみたときの平均的な浸透能を流域平均浸透能といいます。石原らは由良川上流域を対象にしてHorton式を適用した結果、fc=0.27mm/hf_c = 0.27 mm/hα=0.151/h\alpha = 0.151 /hを得ています。

また、f0(mm/h)f_0 (mm/h)は土壌の初期の含水状態によって決り、降雨の終了時からはかった時間をt(h)t'(h)とすると、由良川について

f0=4.30+(0.274.30)e0.0152t(2.12)f_0 = 4.30 + (0.27 - 4.30)e^{-0.0152t'} \tag{2.12}

で与えられるとしています。

表面流

表面流の抵抗則

山腹斜面は斉一な斜面ではありませんが、平均的に流出の構造を考える場合には薄層流としての取扱いが可能です。

Palmerや高樟・岸本の実験によれば、これらの表面流の抵抗則としてManning型の抵抗則が成り立つとしています。

表面流の基礎方程式

表面流の基礎方程式は次式で表わされます。

ht+qx=rf(2.13)\frac{\partial h}{\partial t} + \frac{\partial q}{\partial x} = r - f \tag{2.13}

q=αhm(2.14)q = \alpha h^m \tag{2.14}

ここに、hhは水深、qqは斜面単位幅当りの流量、xxは斜面に沿って下流向きの距離、ttは時間、rrは降雨強度、ffは浸透強度、α,m\alpha, mは定数で、Manningの抵抗則に従う場合は、nnをManningの粗度係数、θ\thetaを斜面の水平となす角度とすると、α=sinθ/n\alpha = \sqrt{\sin \theta}/nm=5/3m = 5/3です。

上式は特性曲線法などで解かれますが、上流端ではh=0h = 0q=0q = 0として解きます。

中間流

中間流の基礎式

浸透能の異なる地層があり、上層のそれが下層より大きい場合、境界面上に一時的に地下水状の流れを生じます。一般にこのような流れを中間流といいます。

ダルシー則が成立する場合この流れは次のように表わすことができます。

γht+qx=f1f2(2.15)\gamma \frac{\partial h}{\partial t} + \frac{\partial q}{\partial x} = f_1 - f_2 \tag{2.15}

q=kh(hxsinθ)(2.16)q = -kh \left( \frac{\partial h}{\partial x} - \sin \theta \right) \tag{2.16}

ここに、hhは水深、qqは単位幅当りの流量、xxは流れ方向の距離、ttは時間、γ\gammaは上層の空隙率、kkは上層の透水係数、θ\thetaは境界面が水平面となす角、f1,f2f_1, f_2は上層および下層の浸透強度です。

水深の場所的変化が境界面の勾配に比べて十分小さい場合は

q=khsinθ(2.17)q = kh \sin \theta \tag{2.17}

と近似できて、qqhhの関係は線形になります。

中間流の性質と表面流発生域の消長に果たす役割

わが国の大部分の山腹斜面は、透水性の高い表層(A層)に覆われており、この表層内で中間流が発生します。一般に、わが国の山腹斜面は急峻であるから、水深の場所的変化は無視してよく、流れは線形であると考えてよいでしょう。しかし、中間流がA層厚をこえると、その地点からは中間流の上に表面流が発生することになります。

このような表面流の発生する領域は斜面下部より現れ、斜面上部へと広がり、やがて降雨が終るか降雨強度が小さくなると斜面上より順次消滅します。したがって、実際の流域では表面流の発生する領域は面的に現れます。また、谷型地形のところでは集水効果のため中間流がA層厚をこえる可能性が高く、谷型地形の下部で表面流が発生しやすいでしょう。

地下水流

地下水流れの基礎方程式

帯水層内の地下水の流れを支配する運動方程式としては一般にダルシー則が用いられ、連続方程式と組み合せて、3次元の基礎方程式は次のように記されます。

S0Ht=x(ρkxHx)+y(ρkyHy)+z(ρkzHz)(2.18)S_0 \frac{\partial H}{\partial t} = \frac{\partial}{\partial x} \left( \rho k_x \frac{\partial H}{\partial x} \right) + \frac{\partial}{\partial y} \left( \rho k_y \frac{\partial H}{\partial y} \right) + \frac{\partial}{\partial z} \left( \rho k_z \frac{\partial H}{\partial z} \right) \tag{2.18}

ここに、HHはピエゾ水頭、ttは時間、kx,ky,kzk_x, k_y, k_zx,y,zx, y, z方向の透水係数、ρ\rhoは水の密度、S0S_0は比貯留係数であって、帯水層の鉛直方向の圧縮率をα\alpha、水の圧縮率をβ\beta、間隙率をθ\theta、重力加速度をggとするとS0=θρ2g(β+α/θ)S_0 = \theta \rho^2 g ( \beta + \alpha / \theta)です。

流出過程を対象として議論する場合には、水と帯水層の圧縮性は無視され、また、上式を帯水層について鉛直方向に積分し2次元あるいは1次元の方程式として扱うことが多いです。

水平2次元の扱いでは、自由水面をもつ不被圧地下水については

γht=x(kxh(h+z0)x)+y(kyh(h+z0)y)+rf(2.19)\gamma \frac{\partial h}{\partial t} = \frac{\partial}{\partial x} \left( k_x h \frac{\partial (h + z_0)}{\partial x} \right) + \frac{\partial}{\partial y} \left( k_y h \frac{\partial (h + z_0)}{\partial y} \right) + r - f \tag{2.19}

被圧地下水については

SHt=x(TxHx)+y(TyHy)+rf(2.20)S \frac{\partial H}{\partial t} = \frac{\partial}{\partial x} \left( T_x \frac{\partial H}{\partial x} \right) + \frac{\partial}{\partial y} \left( T_y \frac{\partial H}{\partial y} \right) + r - f \tag{2.20}

が基礎方程式となります。

ここに、hhは水深、z0z_0は不透水性基盤の標高、r,fr, fはそれぞれ帯水層水平単位面積当りの水供給強度、漏水強度、γ\gammaは有効間隙率、TTは透水量係数で透水係数と帯水層厚bbの積、SSは貯留係数でS0b/ρS_0 b / \rhoです。

被圧地下水はその運動の場が不透水層で固定されるので線形の性質をもつのに対し、不被圧地下水は水深の変化が小さいときには線形的扱いが可能となります。

河川への流出とのかかわりでは、地下水が河川水を涵養するeffluent状態の場合と、その逆のinfluent状態とがあることに注意せねばなりません。

河川流量の低減特性

河川流量の低減

流出現象は一般に降雨特性と流域特性に支配されますが、無降雨期間の河川流量の低減状態には、特に流域特性を反映して、それぞれの流域に固有の性質が現れます。

そのため、具体的な流出モデルの構築あるいはパラメータ推定の基礎として低減特性が利用されることが多くなっています。

河川流量の低減状態の表現としては以下のものがあります。

指数低減式:

Q(t)=Q0exp(αt)(2.21)Q(t) = Q_0 \exp(-\alpha t) \tag{2.21}

級数表現式:

Q(t)=Q0sexp(αst)(2.22)Q(t) = \sum Q_{0s} \exp(-\alpha_s t) \tag{2.22}

Hortonの式:

Q(t)=Q0exp(αtn)(2.23)Q(t) = Q_0 \exp(-\alpha t^n) \tag{2.23}

地下水流出の低減:

Qc(t)=Qcoexp(αt)(2.24)Q_c(t) = Q_{co} \exp(-\alpha t) \tag{2.24}

Q_u(t) = Q_{uo} / (K \sqrt{Q_{u0} t + 1)^2 \tag{2.25}

式(2.21)~(2.23)はいろいろな流出成分に対して用いられる式で、式(2.24)、(2.25)はそれぞれ被圧地下水、不被圧地下水の流出成分に対して導かれたものです。

上式中QQは低減開始後時間ttを経た時刻での対象とする流出成分の流量、Q0,Q0s,Qc0,Qu0Q_0, Q_{0s}, Q_{c0},Q_{u0}は当該成分の初期流量、α,αs,n,K,K"\alpha, \alpha_s, n, K', K"は流域固有の特性値ですが、流域内の水の存在状態、降雨条件のいかんで変化することもあります。

流出と貯留

ある流域からの流出流量QQの多少はその時点での流域内の貯留量SSに依存することが考えられます。両者の関係を、

Q=αSn(2.26)Q = \alpha S^n \tag{2.26}

ととらえると、無降雨状態すなわち流量の低減状態に対して、n=1n = 1とすると式(2.21)、(2.24)を、n=2n = 2とすると式(2.25)を導くことが知られています。

また、式(2.22)はそれぞれ式(2.26)でn=1n = 1とした構造をもった流出成分の和としての表現にほかなりません。

実際のそれぞれの流出成分に式(2.21)~(2.25)のような特徴的な低減状態がみられる事実は、流出成分の分離を行ううえでも、貯留と流出の関係についても大きな示唆を与えます。

貯留と流出の関係は、対象とする流域あるいは比較的微小な領域についても、水の挙動に関する運動方程式の一つの近似的表現としても利用されています。