道路環境対策
急激な都市化の進展やモータリゼーションの急激な進展は、騒音、大気汚染、振動といった道路環境問題を惹き起こしています。このうちもっとも深刻な道路交通騒音問題の対策としては、自動車の構造を改善してその発生する騒音を減少させる発生源対策、大型車の通行規制、最高速度の引下げ等の交通規制の他に、道路本体の整備及び沿道の土地利用対策があります。
道路の整備については、
- 都市を迂回する環状道路、バイパス等の整備による道路機能の分化、
- 掘割構造化、遮音壁の設置等の道路構造の改善、
- 環境施設帯、植樹帯等の環境空間の確保等
の対策がありますが、沿道の土地利用との関係での制約が存しています。
そこで、従来からの都市計画の用途指定による誘導措置、有料の自動車専用道路の沿道の既存住宅についての防音工事費助成の実施に加えて、昭和55年には道路交通騒音により生ずる障害の防止と沿道の適正かつ合理的な土地利用の促進を図り、もって円滑な道路交通の確保と良好な市街地の形成に資することを目的として、「幹線道路の沿道の整備に関する法律」(以下「沿道法」といいます。)が制定、公布施行されました。
しかしながら、道路交通騒音の著しい道路は多く残されているにもかかわらず、沿道整備道路の指定が必ずしも多くはあり ません。そのため、沿道法による環境対策は必ずしも十分活用されているとはいえない状況にあります。このため、平成8年より12回にわたる沿道法改正が行われました。
また、道路事業の実施に当たっては、当該事業が環境に及ぼす影響について、計画段階から調査予測等を行い、十分な保全対策を検討しておくことが公共事業の円滑な実施を行ううえで必要条件となっています。
国土交通省としても、従来より所管事業に関して所要の環境影響評価を実施していましたが、平成9年2月10日に中央環境審議会からの答申を受けて、政府部内において「環境影響評価法案」が策定され、同年6月13日に公布されました。
環境影響評価法の要旨は次のとおりです。
- 事業者自らが事業の実施前のできる限り早い段階から環境配慮を実施(スクリーニング手続及びスコーピング手続を新たに導入)
- (注i)スクリーニング手続…一定の規模未満の事業についても、環境影響評価の対象とするか否かを個別の事業ごとに判断する手続
- (注ii)スコーピング手続…環境影響評価の調査の実施前に、調査等に関する情報を地方公共団体や住民・専門家等に提供し、意見を幅広く聴いて、具体的な調査項目等の設置を事業者が個別に判断する手続
- 対象事業は、規模が大きく環境影響の程度が著しいもの及びこれに準ずるもの
- 環境影響評価後のフォローアップの措置(環境影響の事後調査及び対策)を必要に応じ評価書に記載
- これらの手続に基づいて行われた環境影響評価の結果を国が当該事業に係る許認可等に反映
- 対象事業が都市計画に定められる場合には、これまでの実績及び都市計画の案と環境影響評価に関する図書の内容が密接不可分であり、同一主体が行うべきこと等から都市計画決定権者が事業者に代わって、環境影響評価を都市計画手続に併せて行う特例を措置しています。
沿道整備道路の指定
沿道整備道路の指定の要件
幹線道路網を構成する道路のうち、自動車交通量及び道路交通騒音が一定基準を超え、または超えることが確実と見込まれ、かつ、沿道に相当数の住居が集合し、または集合することが確実と見込まれる道路について、道路交通騒音により生じる障害の防止と沿道の適正かつ合理的な土地利用を図るため必要があると認めるときは、都道府県知事は区間を定めて、沿道整備道路を指定することができます(沿道法5Ⅰ)。
さらに、この指定は、当該道路及びこれと密接な関連を有する道路の整備の見通し等を考慮した上でなお必要があると認められる場合に限り、行うものとされています(同法5Ⅱ)。
なお、指定の要件を満たす道路の道路管理者または関係市町村は、当該道路を沿道整備道路として指定するよう要請することができることとされています(同法5Ⅳ)。
指定の手続
都道府県知事は、沿道整備道 路の指定を行おうとするときは、国土交通大臣と協議し、その同意を得るとともに、当該指定に係る道路及びこれと密接な関連を有する道路の道路管理者並びに沿道地区計画等を担当する市町村及び都道府県公安委員会との協議を行わなければなりません(沿道法5Ⅰ·Ⅲ)。
沿道整備協議会
沿道整備道路が指定された場合には、道路交通騒音により生じる障害の防止と沿道の適正かつ合理的な土地利用の促進を図るため、当該沿道整備道路及びその沿道の整備に関し必要となるべき措置について協議するため、沿道整備道路を指定した都道府県知事、沿道整備計画を定め届出勧告等の事務を担当する市町村、交通規制を行う都道府県公安委員会及び道路整備を行い沿道法に基づく助成等の措置を講じる道路管理者は、沿道整備協議会を組織することができることとしています(沿道法8)。
沿道地区計画
沿道地区計画の策定
沿道整備道路に接続する土地の区域で、道路交通騒音により生じる障害の防止と沿道の適正かつ合理的な土地利用の促進を図るため、一体的かつ総合的に市街地を整備することが適切であると認められる区域について、市町村は都市計画に沿道地区計画を定めることができることとされています(沿道法9Ⅰ、都市計画法12の42)。
沿道地区計画に定める事項
沿道地区計画については、都市計画法12の4条2項に定める事項のほか、沿道の整備に関する方針、緑地その他の緩衝空地及び主として当該区域内の居住者等の利用に供される道路等の整備並びに土地の利用その他の沿道の整備に関する計画を都市計画に定めるものとしています(沿道法9Ⅱ)。
沿道地区計画の効力
沿道地区計画の効力として、沿道地区計画が用途地域等の他の都市計画が定められていることを前提に、さらにより詳細な計画をいわば上乗せして定めるものであることから、建築行為、開発行為等についての市町村長への届出の義務付けと、これに対する市町村長の勧告及び指導または助言を定めています(沿道法10)。
なお、沿道地区計画に定められた内容のうち、道路交通騒音の著しい幹線道路の沿道にふさわしい市街地の整備を促進するために特に重要な事項と認められるものについては、建築基準法上の制限として建築確認等によってその実現を担保することが適切であることから、合理的に必要と認められる限りにおいて、市町村の条例で建築基準法上の制限として定めることができることとしています(建築基準法68の2)。
また、開発行為のうち開発許可を要するものについては開発許可を通じて沿道の整備の促進を図ることとし、具体的には、開発許可 基準に予定建築物の用途または開発行為の設計が沿道地区計画に定められた内容に即して定められていることという要件を追加しています(都市計画法33Ⅰ5)。
沿道整備権利移転等促進計画
沿道の生活環境を整備するためには、沿道整備道路に面した敷地に騒音に強い用途の緩衝建築物や公共施設を誘導し、生活環境が整備された後背地に住宅を誘導する等の土地利用の転換が不可欠です。「沿道整備権利移転等促進計画」の制度は、その実現のため、住民の意向を踏まえつつ市町村の計画によって権利移転を促進するものです(沿道法第3章の2)。
沿道整備促進のための措置
土地の買入れに対する資金の貸付け
国は、市町村が沿道地区計画の区域内の土地のうち道路交通騒音により生じる障害の防止または軽減と当該区域の計画的な整備を図るために有効に利用できる土地で一定のものを買い入れる場合には、当該市町村に対し、その土地の取得に要する費用に充てる資金の3分の2以内の金額を無利子で貸し付けることとしています(沿道法11)。