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道路管理者の監督処分

監督処分の意義

道路は、一般交通の用に供される公の施設であるため、交通上、構造上、または公益上支障となる行為は、直ちに排除されなければなりません。また、適法な状態にある行為に対しても、道路管理上の必要から、一定の措置をとらなければならない場合があります。このため、道路管理者に対して、各種の強権的な処分権限が認められています。

監督処分の内容

違法・不正の状態を是正するための処分または措置命令。法令または処分違反、処分に附した条件違反、詐欺その他不正な手段によって許可等を受けた等、相手方に非難に値する一定の事情がある場合には、道路管理者は、法令の規定によって与えた許可等を取り消し、その効力を停止し、またはその条件を変更し、または工事等の中止、工作物等の改築、移転、除却または損害予防措置または原状回復を命ずることができます(道路法第71条第1項)。

適法状態にあるが、公益上の必要がある場合に、許可等を受けている者に対する処分または措置命令、すなわち、 (イ)道路に関する工事のためやむを得ない必要が生じた場合、 (ロ)道路の構造または交通に著しい支障が生じた場合、 (ハ)道路の管理上の事由以外の事由(イ)・(ロ)を除く) に基づく公益上やむを得ない必要が生じた場合には、道路管理者は、1 の監督処分を行うことができます(道路法第71条第2項)。

道路監理員の監督処分

道路管理者は、その職員のうちから道路監理員を命じ、道路監理員に各種の措置を命ずる権限を行わせることができます(道路法第71条第4項)。

監督処分に伴う損失の補償

道路管理者は、承認工事(道路法第24条)の承認を受けた者または占用の許可(道路法第32条第1項・第3項)を受けた者に対して、前記の事由による監督処分を行う場合には、これらの者が処分によって通常受けるべき損失を補償することを要します(道路法第72条第1項)。

「道路に関する工事」の意義

道路法第72条第1項の「道路に関する工事」には、道路管理者の行う道路の新設、改築または修繕に関する工事に限らず、街路事業、土地区画整理事業等の事業の一環として行われるもの及び一般私人が請願に基づいて行う道路に関する工事も含まれます。

「公益上やむを得ない必要が生じた場合」の意義

道路法第72条第3項の「公益上やむを得ない必要が生じた場合」とは、広く社会一般の利益を保護するために特にその必要が生じた場合であり、具体的には、ダムの建設に伴って水没する道路上の電柱を除去する場合、道路上に鉄道を敷設するため占用物件を移転する場合(「道路法 7 条 2 項 3 号の規定による監督処分について」昭和 36 年 10 月 13 日道路発 33 号路政課長回答参照)等です。

道路管理者と協議して設置する占用物件に係る監督処分

法 35 条に規定する協議占用物件については、あらかじめ協議の際に、協議の内容として監督処分に関する事項を定める必要があり、道路管理者は、その成立した協議に基づいて監督処分を行うことができます(「道路法上の疑義について」昭和 42 年 4 月 7 日道神発 54 号道路局長回答参照)。

罰則

道路管理者または道路監理員の命令に違反した者は、100 万円以下の罰金に処せられます(道路法第102条第4項・第5項)。

道路予定地

道路予定地の場合にも、同様です(道路法第91条第2項)。

Q and A

特定の物件のみに対する処分

Q 道路上に不法占用家屋が多数存在する場合に、道路管理者が必要と認める特定の不法占用物件についてのみ、監督処分を行って差し支えありませんか。

A 差し支えありません(青森地判昭 32.11.29 参照)。 「同種の不法占用が多数存在することをもって特定のものに監督処分することは公益上の必要があるとは考えられない」とする主張に対し「道路法71条1項の処分は公益上の必要性を要件としない(要約)」として斥けられています。

他の道路の占用物件

Q 国道工事のため、市道の占用物件を除却する必要が生じた。国道の管理者が、直接道路に関する工事のためやむを得ない必要が生じたとして監督処分できますか。

A 占用物件の除却には占用許可の取消しが必要であり、取消し処分は許可処分庁が行うべきです。この場合であっても、法 71 条 2 項の「道路」とは「当該道路」と限定していないのであるから、国道工事を同項 1 号の「道路に関する工事」と解して差し支えありません(「占用物件の処理について」昭和 45 年 2 月 5 日道政発 16 号首都高速道路公団副理事長あて道路局長回答参照)。

都市計画事業

Q 都市計画事業として道路に関する工事を施行する場合、道路法71条第2項により監督処分できますか。

A 都市計画事業である道路事業を道路管理者が行う場合には、都市計画事業であることが道路法の規定の適用を排除するものではないから、当然にできます。 道路管理者以外の者が都市計画事業者として道路に関する工事を施行する場合であっても、道路管理者が道路法上の道路に関する工事と認定すればできると解されます。

道路区域の決定がない場合

Q 区域決定がされていない道路工事区間において、監督処分ができますか。

A 道路の区域決定と道路管理者の権原取得がなされていなければ、監督処分は行えません。道路工事に着手する前に、まず区域決定を行うべきです。

信号機の移設

Q 都道府県公安委員会の設置している交通信号機を移設する必要が生じた場合、道路法71条第2項の適用はありますか。

A 道路法上、都道府県公安委員会の設置する交通信号機は、法 32 条の許可物件と考えられ、道路法71条第2項の適用を排除する規定はないから同条の適用はありますと解されますが、当該物件の性格にかんがみその移設については実質的に協議により処理すべきです。

関連工事の扱い

Q 道路に関する工事のため、占用物件であるガス管を占用者負担で移転させる場合、水道管の移設工事が必要となりました。この場合、

  1. 水道管について道路法71条第2項1号該当として監督処分できますか。
  2. 費用負担者は、ガス事業者か、水道事業者か。

A

  1. できます。
  2. 水道事業者が負担すべきです(道路法第59条第3項)。

協議占用、義務占用と監督処分

Q 協議占用(道路法第35条)あるいは義務占用(道路法第36条)の場合に、監督処分(道路法第71条)は可能ですか。

A 義務占用については監督処分できることはもちろんです。協議占用についても疑義はありますが積極的に解します。ただ、この場合は、実務運用上は、法令違背に限らず、協議内容違反等の事実があった場合または道路管理上必要が生じた場合の是正措置権並びに措置を怠った場合の代執行権及び協議破棄権の存在を明確に協議内容に定めておくことが望ましい(「道路法上の疑義について」昭和 42 年 4 月 7 日道神発 54 号川崎市長あて道路局長回答参照)。

損失補償

Q 法 71 条 2 項 1 号の監督処分の場合の補償措置について問います。

A 法 71 条 2 項 1 号の場合については、補償の規定はありません。しかし占用許可に際し特別の条件が附されていない場合は、公正妥当なる限度において、その損失を補償してもよい場合もあります(「道路に関する工事に因り又は道路に関する工事を施行するため必要を生じた他の工事で道路管理者が自ら行わないものの取扱いについて」昭和 29 年 9 月 6 日道発 257 号道路局長通達参照)。

公益上やむを得ない場合

Q 法 71 条 2 項 3 号に規定する「公益上やむを得ない必要が生じた場合」とは、どのような場合ですか。

A 広く社会一般の利益を保護するために特にその必要が生じた場合を指し、例えば、新たに飛行場が建設され、近

代執行

代執行の意義

道路交通の確保若しくは道路の構造の保全又は公益上支障となる事態を除去するため、監督処分を命じても、なお、義務者が履行しない場合の措置として、代執行の手段があります。

代執行の要件

法令により直接命ぜられ、又は法令に基づき行政庁により命ぜられた行為(他人が代わってなすことのできる行為に限る。)について、義務者がこれを履行しない場合、他の手段によってその履行を確保することが困難であり、かつ、その不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができます(行政代執行法 2)。

代執行の手続

戒告

代執行をなすには、まず、相当の履行期限を定め、この期限までに履行がなされないときは、代執行をなすべき旨を、あらかじめ書面で戒告しなければなりません。ただし、非常の場合又は危険切迫の場合において、当該行為の急速な実施について緊急の必要があり、戒告の手続をとる暇がないときは、省略することができます(同法 I・III)。

代執行令書の交付

義務者が、戒告を受けて、指定の期限までにその義務を履行しないときは、原則として、当該行政庁は、代執行令書をもって、(イ)代執行をなすべき時期、(ロ)代執行のために派遣する執行責任者の氏名、(ハ)代執行に要する費用の概算見積額を義務者に通知することを要します。ただし、非常の場合又は危険切迫の場合において、当該行為の急速な実施について緊急の必要があり、この手続をとる暇のないときは、省略することができます(同法 3II・III)。

代執行の実施

戒告の期限内に義務の履行がないときは、当該行政庁は自ら義務者がなすべき行為をなし、又は第三者をしてその行為をなさしめます。この場合、代執行のために現場に派遣される執行責任者は、その者が執行責任者たる本人であることを示すべき証票を携帯し、要求があるときは、いつでもこれを呈示しなければなりません(同法 4)。

代執行に要した費用の徴収

代執行に要した費用は、義務者から徴収します。この費用の徴収については、実際に要した費用の額及びその納期日を定め、義務者に対し、文書をもってその納付を命じなければなりません。義務者が任意に履行しない場合は、国税滞納処分の例により、徴収することができます(同法 5・6)。

Q and A

大正 3 年法律第 37 号による代執行

Q: 「公共団体ノ管理スル公共用土地物件ノ使用ニ関スル法律」(大正 3 年法律 37 号)に基づく物件の撤去等の命令に基づく義務の代執行を行った実例はありますか。

A: 実例はあります(代執行戒告処分無効確認請求事件、横浜地判昭 28.7.17 行裁例集 4 巻 7 号 1779 頁を参照してください)。

代執行によって生じた物件の保管

Q: 代執行によって生ずる解体資材、動産等の物件は、作業の開始前又は終了後に所有者にそれを引取るべき旨を通知し、所有者自らこれを占有管理できるような状態に置くことを条件として、代執行を行う者は原則として保管義務を免れると解してよいですか。

A: 代執行した場合の発生品等の保管義務については、法に明定されておらず常に問題となるところですが、所有者が占有管理できる状態が実現できればよいですが、場所の確保が困難な場合等、所有者自らこれを占有管理することができない事情にある限りにおいては、代執行者に事務管理者としての相当の善管義務が生じるものと解されます(横浜地判昭 29.2.4、長崎地判昭 37.1.31)。

所有者が相当の理由もなく引取らない場合は、供託(民法 494)し、目的物が供託に適せず又は滅失等のおそれがあるときは裁判所の許可を得て競売し、代価を供託する(民法 497、非訟事件手続法 83・81)ことになります。

代執行の対象範囲

Q: 交通安全事業として、歩道の設置を行うにあたり、不法占用家屋の一部が歩道の敷地にかかる場合、当該家屋の全部について代執行を行うことができますか。

A: 当該歩道敷地にかかる部分が塀、垣等部分執行が可能な場合は、当該部分に限りますが、歩道敷地にかかる部分が当該家屋の大半にわたる等部分執行が不可能な場合は、当該家屋の全部について代執行できると解すべきです。

代執行権発動の限界

Q: 道路の側溝外壁を土台として利用して、家屋等の支柱を建てている場合、道路管理者が道路工事により側溝のかさ上げをする必要が生じたため、当該支柱の除却命令を発したにもかかわらず、義務者がこれに従わないとき、道路管理者は、代執行できますか。

A: 当該側溝のかさ上げが道路管理上必要不可欠ならば、代執行できると解すべきです。

民地にまたがった不法占用物件の除去

Q: 道路区域と民地とにまたがって不法に建設された建築物を除去するにはどうしたらよいですか。

A: 道路法上不法占用監督処分の措置命令違反を前提として代執行を行うことも可能です。なお民地上にある部分だけを存置する価値があり、また、その部分だけを切り離して存置することが物理的に可能であるときは最小限度の補強措置を施してその部分を存置すべきです。しかし、その部分だけを切り離して存置することが物理的に不可能であるときは、やむを得ない措置として建物の全体を除却、移転しうると解されます(事案によっては、本来、除却、移転の対象とならない部分について、損失補償が必要とされるでしょう)。

告発 · 罰則

告発

刑事訴訟法上、官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければなりません(刑訴法 239ⅡI)。

罰則

道路法は、公共施設としての道路の機能を発揮させるために、道路法の違反者に対し、99 条から 106 条までの罰則を設けています。

Q and A

不動産侵奪罪

Q 道路法上の道路に無許可で建築物を設置した場合、刑法 235 条の 2 の不動産侵奪罪の適用があるものと解してよいか。

A 不動産侵奪罪の適用があると解すべきです。

告発の方法

Q 告発の方法はどのようなものか。

A 告発は、書面又は口頭で、検察官又は司法警察員に対して行うこととされています(刑訴法 241)。