道路に関する紛争
道路の管理に関する苦情の処理
道路の管理に対して寄せられる苦情
道路の管理に関して寄せられる苦情はさまざまであります。その主なものは用地、管理瑕疵または溝掘り補償に関する問題ですが、近年、道路環 境問題に関する苦情が増大しています。
具体的には、自動車騒音、自動車からの排出ガス・振動、日照阻害や電波障害などが挙げられます。
苦情処理の一般的方針
近年国民の権利意識の高揚に伴い、道路の建設管理に対する反対・苦情などは増大しており、道路管理者としては、ここで述べる問題に対しては慎重に対処し処理することが望ましいです。
Q and A
横断歩道橋から家の中をのぞかれる
Q 横断歩道橋を設置したところ、近傍の住民から、家の中がのぞかれて困るのでどうにかしてほしいという要求があった。なんらかの補償をすべきか。
A 横断歩道橋の設置は適法な道路の改築工事として行われたものである限り通常は、補償を要しないものと考えられます。ただし、私法上の相隣関係としては、境界線近傍の建築について、境界線より1メートル未満の距離において他人の宅地を観望すべき窓または縁側を設ける者は目隠しを付することを要するものとされていることでもあり、これに類似した状況にあ るときは補償工事を行うことが望ましい場合もあるでしょう。
横断歩道橋による営業不振
Q 横断歩道橋を設置したところ、通行人の流れが従前と異なったため、営業不振に陥った商店から損失補償の要求があったが補償すべきか。
A 道路の新設、改築などの管理は、広く一般公衆の交通上の利便を増進するために行われる適法な行政作用であり、また道路通行による利益は反射的利益に過ぎないから、本問のような場合にも、補償を要するものではありません。
道路の付替による遠回り
Q 道路の付替により遠回りを余儀なくされ、自動車の所有者がこのため増加した燃料費の支払を要求してきたが支払うべきか。
A 道路の通行は道路が供用されていることの反射的利益にすぎないから、支払うべき義務はありません。
橋の新設のため船が通行できない
Q 橋を新設したため船が通行できなくなったが、補償を要するか。
A 道路管理者は、橋を新設する前に、あらかじめ十分に、当該箇所を通行する船の有無、その大きさなどを調査し、このような事態の生じないようにすべきですが、これを怠ったため通行不能となった船がある場合には、補償する必要があります。
通行車両の騒音など
Q 沿道住民から道路を通行する車両による騒音、振動、排気ガスに対する苦情が出ているが、なんらかの補償をすべきか。
A 当該苦情について損害賠償をするためには、現に被害が存在し、被害と道路の騒音などとの相当因果関係が証明され、かつ、被害が受忍限度を超えていると認められる必要があります(国道43号訴訟事件・最高判平7.7.7など)。しかし、一般的に道路を走行する自動車の騒音、振動、排ガスによる身体被害、生活妨害は過去の知見によれば発生しないとされています。なお、物的被害についても前述の諸点を慎重に検討の上対応すべきです。
道路工事の騒音など
Q 道路築造のためのくい打ち機械による騒音、振動に対する苦情が出ているが、なんらかの補償をすべきか。
A 工事時間を考慮したり、工事の趣旨を話して了解を得るなどの措置を講じるべきですが、騒音、振動が受忍の限度を超える場合は、補償すべきです。
道路照明のため作物が成長しない
Q 道路の照明の影響で、沿道の作物の生育が止まったとして損失補償の請求があったがどうすべきか。
A 道路に照明を設けること及びその使用方法が道路管理上必要な場合においては、沿道の土地についてある程度の損害を生じることはやむを得ないものであり、受忍すべきものです。なお沿道の作物の生育を阻害しないよう、照明に片側カバーを付けるなどの措置をとることが望ましいです。
除雪と沿道の耕作
Q 道路の除雪のため、沿道の田畑は融雪期間が長く、耕作に支障があるとして損失補償の要求があったがどうすべきか。
A 除雪は、なるべく道路区域内で処理するという方針で、除雪のための余地を設けることが望ましいです。道路構造令の適用のある積雪地域に存する道路の中央帯及び路肩の幅員については、除雪を勘案して定めるものとされ、雪寒道路については除雪事業などにつき特別な助成措置が講じられていますので、道路管理者としては、これらの道路には、除雪のためのスペースの設置、管理などに万全を期すべきです。漫然とこれらの措置を怠った場合には、管理の瑕疵に基づく損害の賠償ということもあり得るもの と考えます。
除雪による空缶補償
Q 除雪に際して空缶などが入ったとして沿道の田畑の所有者から補償要求があったが応じるべきか。
A 消雪時に沿道土地所有者の行う沿道土地の空缶などの清掃は沿道土地所有者として受忍すべき性質のものであり、除雪によるものであることが証明され、かつ特別の損害が生じたものでない限り、補償する必要はありません。
行政上の不服申立て
行政不服審査法の目的
行政不服審査法は、行政庁の違法または不当な処分その他の公権力の行使に当たる行為に関し、国民に対して広く行政庁に対する不服申立ての道を開くことによって、簡易迅速な手続による国民の権利、利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的としています(行政不服審査法1Ⅰ)。
行政不服審査法と道路法の関係
行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に関する不服申立てについては、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、行政不服審査法の定めるところによるものとされており、法96条は、道路法に基づいてなされた処分に関する不服申立ての特例を定めています。
道路法上の処分に関する不服申立て制度の体系
道路法上の処分に関する不服申立て制度の体系は、次のとおりです。
- 法97条の2の委任に基づき、地方整備局長または北海道開発局長が行った処分については、国土交通大臣に対して、審査請求をすることができます(行政不服審査法5)。
- 指定区間外の国道または都道府県道の道路管理者として、都道府県または市が行った処分については、国土交通大臣に対して審査請求をすることができ、また、当該処分を行った都道府県または市に対して異議申立てをすることもできるとされています(法96Ⅱ)。この場合、審査請求は、まず異議申立てをし、それについての決定を経た後でなければすることができません(行政不服審査法20)。
- 市町村道の道路管理者として、市町村が行った処分については、都道府県に対して審査請求をすることができ、また、当該処分を行った市町村に対して異議申立てをすることもできるとされています(法96Ⅱ)。この場合、審査請求は、まず異議申立てをし、それについての決定を経た後でなければすることができません(行政不服審查法20)。
兼用工作物に関する処分についての特例
法20条の規定による協議に基づき、他の工作物の管理者が道路管理者に代わってした処分に対する不服申立ては、次のとおりです。
- 他の工作物の管理者が、大臣若しくはその地方支分部局の長または都道府県である場合は、国土交通大臣または当該他の工作物に関する主務大臣に対して審査請求することができます。この場合において、他の工作物の管理者が都道府県であるときは、異議申立てをすることもできます(法96Ⅲ)。
- その他の者が他の工作物の管理者である場合は、都道府県知事に対して審査請求することができます。この場合において、他の工作物の管理者が市町村その他の公共団体であるときは、異議申立てをすることもできます(法96Ⅲ)。
不服申立ての対象
行政不服審査法の規定による不服申立ての対象は、「処分」であり、当該処分は「公権力の行使に当たる事実上の行為で、人の収容、物の留置その他その内容が継続的性質を有するもの(事実行為)」を含むとされています(行政不服審査法2Ⅰ)。