道路の建設
道路に関する工事の意義
「道路に関する工事」とは、一般的には道路法上の道路について行われる工事で、道路の新設、改築または修繕に関する工事(災害復旧は除かれます。)をいいます。
道路の建設基準
道路の構造の原則
道路の構造は、当該道路の存する地域の地形、地質、気象その他の状況及び当該道路の交通状況を考慮し、通常の衝撃に対して安全なものであるとともに、安全かつ円滑な交通を確保できるものでなければなりません(道路法第29条)。
その具体的な技術的基準については道路法第30条第1項及び第2項に基づいて制定されている道路構造令に道路の種別、級別の区分に応じて定められています。
Q: 道路構造令どおりの基準で道路が出来ていれば、道路の「設置の瑕疵」にならないのか。
A: 道路構造令は、「道路を新設し、または改築する場合における道路の構造の一般的技術的基準」を定めたものであり、瑕疵があるかどうかの判断は、その他の諸般の事情も含めて判断されるべきですので、道路構造令どおりの基準で道路ができていることのみで設置の瑕疵がないとは言えません。
道路に関する工事の権限
原則
道路に関する工事は、道路法第12条から道路法第17条、高速自動車国道法第6条により、道路管理者が行うのが原則です。
有料道路事業については、道路整備特別措置法が道路に関する工事についての特例を認めています。すなわち、東日本高速道路株式会社、首都高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社、阪神高速道路株式会社若しくは本州四国連絡高速道路株式会社(以下「会社」といいます。)又は地方道路公社が道路に関する工事を実施できることとしています(特措法第3条、第4条、第10条、第12条、第14条、第15条)。また、有料道路事業についての道路管理者による工事は、都道府県道、市町村道のみに限られます(特措法第18条)。
原因者工事
道路管理者は、道路に関する工事以外の工事により必要を生じた道路に関する工事や道路を損傷したり汚損した行為、または道路の補強、拡幅その他道路の構造の現状を変更する必要を生じさせた行為により必要を生じた道路に関する工事を、当該工事の執行者や行為者に施行させることができます(道路法第22条)。
承認工事
道路管理者以外の者は、道路管理者の承認を受けて、道路に関する工事を行うことができます(道路法第24条)。
兼用工作物
道路と他の工作物(堤防、護岸、ダム、鉄道又は軌道用の橋、踏切道など)とが相互に効用を兼ねる場合においては、道路管理者と他の工作物の管理者が、協議によりその管理の方法を定めることができますし、また道路管理者が他の工作物の管理者に対して、道路に関する工事等の施行を命ずることもできます(道路法第20条・第21条)。
道路に関する工事に伴う権限
附随する権限
道路に関する工事の施行に関連して、道路管理者に付与されている権限には、次のようなものがあります。
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土地収用権(土地収用法第3条)
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占用許可に際しての調整条件付加(道路法第34条)
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通行の禁止又は制限(道路法第46条)
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監督処分(道路法第71条第2項)
Q: 道路の区域の決定前に、土地収用法第16条の事業認定を受けることができるか。
A:区域決定と土地収用法上の事業認定は、その目的等に差異があり、区域決定前でも事業認定を受けることができます。
用地の先行取得
道路に関する工事に着手するにあたっては、当該工事を行う土地について権原を取得し、支障物件を除却しておくことが必要です。
用地交渉は、相手のあることですから、工事着手間際になって始めたのでは、思わぬ障害にぶつかり、工事が予定どおり進まないことになります。また、地価が著しく高騰し、あるいは、移転を要する物件が多数建設されることが予想される地域については、できるだけ早い時期に用地を取得することによって、事業費の節減が可能であり、また、用地の取得にあたっての無用の摩擦を避けることができます。
このような観点から、用地の先行取得ということが強く要請されますが、この要請に答えるために、昭和51年度から国庫債務負担行為による用地先行取得制度(用地国債制度)を設けて用地先行取得を行っています。これらの土地を道路管理者が再取得する場合には、先行取得者が支出した用地取得時から引渡すまでの間の管理に要した経費、土地の取得に有利子の資金を充てた場合の利子等についても、負担すること及びこれを国庫補助の対象とすることとされています。
用地の補償基準
(1)用地の補償基準
用地の補償基準としては、昭和 37 年 6 月 29 日閣議決定された「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」があります。国土交通省の直轄事業については、国土交通省の公共用地の取得に伴う損失補償基準(平成 13 年 1 月 6 日国土交通省訓令第 76 号)、国土交通省の公共用地の取得に伴う損失補償基準の運用方針(平成 15 年 8 月 5 日国土交通事務次官通達)の定めるところによりますが、さらにその細目については、「国土交通省損失補償取扱要領」(平成 15 年 8 月 5 日国土交通省総合政策局長通達)に定められています。同要領には、「土地評価事務要領」、「区分所有建物敷地取得補償実施要領」、「残地工事費補償実施要領」、「自動車保管場所補償実施要領」が別記されています。
(2)公共補償基準
なお、公共補償については、昭和 42 年閣議決定された「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」及び同日閣議了解された「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱の施行について」によって行われます。また、国土交通省の直轄事業については、「国土交通省の直轄の公共事業の施行に伴う公共補償基準」(平成 13 年 1 月 6 日国土交通省訓令第 77 号)の定めるところによります。
土地収用
(1)土地収用の根拠
道路用地の取得は、通常は相手方との任意の協議により行われますが、これが不調の場合には、収用手続によることとなります。 土地収用については、原則として土地収用法(昭和 26 年法律 219です。 「号)の規定によるが、公共の利害に特に重大な関係があり、かつ、緊急に施行することを要する事業については、同法の特例として、公共用地の取得に関する特別措置法(昭和 36 年法律 150 号)の規定が適用されます。
(2)事業認定及び特定公共事業の認定
しかし、任意協議が不調であるからといって、いきなり収用委員会に持ち込むわけにはいけません。これらの法律の適用を受けるためには、それぞれ土地収用法による「事業の認定」あるいは公共用地の取得に関する特別措置法による「特定公共事業の認定」を受けておかなければなりません。
たとえ一部分であっても、用地の取得が遅れれば、事業全体が遅れることとなります。したがって原則として用地買収にとりかかる前に事業認定あるいは特定公共事業の認定を受けておくことが望ましいです。国土交通省の直轄事業については、「地方整備局用地事務取扱規則」(平成 13 年国土交通省訓令 86 号)が、この趣旨を明らかにしています。
国有財産の使用
国土交通省直轄事業の場合
道路用地として必要な土地が、国有財産である場合は少なくありません。他省庁の所管に属する国有財産の所管換を受けようとするときは、国土交通大臣は、当該財産を所管する各省庁の長及び財務大臣に協議しなければなりません(国有財産法第12条)。
国有財産を、所属を異にする会計の間(たとえば一般会計と社会資本整備特別会計道路整備勘定)において、所管換若しくは所属替をし、又は所属を異にする会計をして使用させるときは、当該会計間において有償として整理するのが原則でありますが、国において直接公共の用に供する目的をもってこれをする場合であって、当該財産の価額が政令で定める金額(現在は 5,000 万円)に達しないときは、この限りではありません(国有財産法第15条、国有財産法施行令第12条)。
行政財産の使用
一般に、行政財産は、交換、売払い等の処分の対象及び私権の設定の対象とはなりません(国有財産法第18条第1項、国有財産法施行令 第12条)。
しかし、地方公共団体又は特別の法律により設立された法人のうち政令で定めるもの(機構及び会社を含む。)又は地方道路公社が行政財産を道路の用に供する必要がある場合において、そのために地上権を設定するときは、当該地方公共団体又は法人、地方道路公社にこれを無償で使用させ、又は収益させることができます(国有財産法 18Ⅱ5、VI、国有財産法施行令第12条 の 5、12 の 8)。
普通財産の使用
機構・会社の場合
普通財産である国有財産は、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構、東日本高速道路株式会社、首都高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社、阪神高速道路株式会社及び本州四国連絡高速道路株式会社が道路の用に供する場合においては、国有財産法 22 条の規定にかかわらず、機構等に無償で貸し付けることができます(道路整備特別措置法 51Ⅷ)。
地方公共団体の場合
普通財産である国有財産は、都道府県道又は市町村道の用に供する場合においては、国有財産法 22 条又は 28 条の規定にかかわらず、当該道路の道路管理者である地方公共団体に無償で貸し付け、又は譲与することができます(法 90Ⅱ)。
なお、新道路法施行(昭和 27 年 12 月 5 日)の際、現に旧法(道路法(大正 8 年法律 58 号))の規定による府県道、市道又は町村道の用に供されている国有に属する土地で、新法の規定により都道府県道又は市町村道の用に供されるものは、国有財産法 22 条の規定にかかわらず、新法施行の際、当該都道府県道又は市町村道の存する都道府県又は市 町村にそれぞれ無償で貸し付けられたものとみなされています(法施行法 5Ⅰ)。
道路の敷地の帰属
(1)道路の敷地の帰属
国道の新設又は改築のために取得した道路を構成する敷地又は支壁その他の物件は国に、都道府県道又は市町村道の新設又は改築のために取得した敷地等はそれぞれ当該新設又は改築をした都道府県又は市町村に帰属します(法 90I)。
(2)高速道路の場合
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会社が高速道路の新設又は改築のために取得した道路資産は、2 に記述するように機構に帰属する日前においては、当該会社に帰属します(道路整備特別措置法 51Ⅰ)。
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会社が公告する工事完了の日(道路整備特別措置法 22Ⅱ)の翌日以降においては、高速道路の新設又は改築のために取得した道路資産は、機構に帰属します(道路整備特別措置法 51Ⅱ)。
支障物件の撤去
(1)支障物件の撤去の方法
道路用地として取得した土地について、道路工事を行い、道路として供用するためには、当該土地にある建物等の支障物件を撤去しなければなりません。
支障物件の撤去は、原則として、当該物件の所有者との契約により、移転料等の補償金を支払って当該物件の所有者に行わせますが、移転が著しく困難な場合あるいは移転料が当該物件の価格を超える場合等においては、当該物件を取得することができます。
取得した場合には、道路管理者の側において、処分することとなります。
工事の契約
国及び地方公共団体の場合
工事は、直営事業で施行する場合を除き、建設業者との請負契約によって施行されます。
この請負契約については、国の直轄事業の場合には会計法第 4 章、及び予算決算及び会計令第 7 章の定めるところにより、地方公共団体の事業の場合には地方自治法第 2 編第 9 章第 6 節の定めるところによりますが、いずれも原則として競争入札の方法により行われます。
会社の場合
会社については、別段の法律の定めはないが、各会社が定めた契約取扱準則において、国と同様な取扱いをすることとしています。
工事の受託及び委託
道路に関する工事の委託、受託については、道路法には明文の規定がないが、当然行い得る。国土交通省が受託できることは、国土交通省設置法に規定されており(同法 464)、地方公共団体が受·委託できることは、地方自治法 252 条の 14 の規定で明らかです。
工事の施行方法
工事の施行方法の一般方針
工事を施行するに当たっては、できるだけ交通を阻害しないように、また、騒音、振動等により附近の住民に迷惑をかけないように十分配慮する必要があります。
現道の 拡幅あるいは舗装をする場合は、ある程度の交通阻害は避けられませんが、その場合でも、交通量の多い昼間を避けて夜間に工事を行うとか、2 車線以上ある道路については、片側ずつ工事を行うとか、迂回路のある道路については、迂回路が利用されるように標識類を整備するとかの措置を講ずる必要があります。
このような配慮は、占用工事を許可する場合にも当然行うべきです。工事中の標識等が不十分であったために事故を招き、道路管理の瑕疵に基づくものとして損害賠償の責任を負わされる事例がかなり見受けられるのは残念なことです。
また、違法な占用工事を放置したため、道路管理者の責任が追及されたという例もあります。
工事の騒音防止など
工事中の騒音、振動も受忍の範囲を超えれば損害賠償の対象となりますが、どこまでが受忍の範囲であるかは難しい問題であり、また防止しようとしても、技術面あるいは費用の面での制約もあります。
したがって、一律に論ずることはできませんが、地域住民の負担ができるだけ少なくするように努力すべきです。
警察署長への協議
道路において工事若しくは作業をしようとする者又は当該工事若しくは作業の請負人は、警察署長の許可を受けなければなりません(道路交通法第77条Ⅰ)が、道路法による道路の管理者が道路の維持、修繕その他の管理のため工事又は作業を行おうとするときは、許可に代えて所轄警察署長に協議すれば足ります(同法 80I)。
附帯工事
附帯工事の意義
道路管理者は、道路に関する工事により必要となった他の工事又は道路に関する工事を施行するために必要となった他の工事を道路に関する工事とあわせて施行することができます(法 23)。これらの工事を附帯工事といいます。
「道路に関する工事により必要を生じた他の工事」の事例
道路に関する工事により必要を生じた他の工事の例としては、道路の拡幅工事のために必要を生じた用水路の付替工事、電柱等占用物件の移設工事等があります。
「道路に関する工事を施行するために必要を生じた他の工事」の事例
道路に関する工事を施行するために必要を生じた他の工事の例としては、橋梁の付替工事を行うために必要を生じた河川の締切工事等があります。
附帯工事の範囲
附帯工事の範囲については、道路に関する工事を施行するに際して必要となった他の工事であって、当該工事が道路に関する工事と直接関係あるものであれば、いかなる種類のものでもかまわない。ただし、当該工事を道路に関する工事とあわせて行うことが道路管理上妥当なものでなければなりません。
附随工事
附隨工事とは、道路に関する工事により又は道路に関する工事を施行するため必要を生じた他の工事であるが、道路管理者以外の者が自発的に(法 38 条 1 項の規定により道路管理者に委託する場合を含む。)又は法 71 条 2 項 1 号の規定に基づく監督処分を受けて施行する工事をいう(「道路に関する工事により又は道路に関する工事を施行するため 必要を生じた他の工事で道路管理者が自ら行わないものの取扱いについて」(昭和 29 年 9 月 6 日道発 257 号道路局長通達))。
附帯工事に要する費用の負担原則
道路管理者は法 23 条 1 項の規定に基づいて自らの責任において施行する附帯工事に要する費用は、道路管理者がその全部又は一部を負担しなければなりません(法 59Ⅰ)。
附帯工事原因者負担金
附帯工事の原因となった道路工事自体が、さらに、他の工事又は他の行為のために必要となったものである場合には、当該附帯工事に要する費用は、その原因者の負担とすることができますが(法 59Ⅲ)、これを附帯工事原因者負担金といいます。