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災害復興・復旧計画

本節では。まず、東日本大震災での津波被災からの復興事業の枠組みを整理し復興計画の実際と謀題を概観することで¥今後起こり得る大規模災害の事前復興を含む、復興・復旧の備えのための基礎的情報をとりまとめる。その後、そうした教訓を踏まえた災害復興-復旧計画の在り方について、事前復興と災害後の復興とに分けて解説する。

5.4.1 東日本大震災における復興計画の実際と課題

(1 ) 津波防御水準

2011年3月11目。巨大津波が東北の太平洋沿岸を襲った。その復興において一つの鍵となったのは、やはり津波防御水準で、あった。土木学会東日本大震災特別委員会津波特定テーマ委員会によって守同年5月10日に、第一回の報告46)が行われ、 二段構えの防災.;,成災方法が提言された。つまり津波を明治三陸津波、昭和三陸津波のような、数十年から百数十年に一度というレベルl津波(以下11津波)、今次津波のような500年から1000年に一度のレベル2津波(以下L2津波)に分け、L1津波に対しては.防潮堤などの海岸保全施設によって防御し、 L2津波に対しては総合的な防災計画により滅災を図るという内容であった。

中央防災会議は、それを踏襲し、政府としての津波防災方針として「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会中間とりまとめ[)を同年6月26日に公表した。このL2津波は物理的に防御しないという方針は。今回と同様の津波でまた被害が出るという方針であるため、復興まちづくりにおいて受け入れられるはずもなく、その結果、高台移転や高盛土道路など防法vJ堤以外の施設等によって事実上のL2津波防災を考慮した計画とされるという観額を持ったまま、復興は進むことになった。

中央防災会議の中間とりまとめを受け、同年7月8日に設計津波設定方が固から「設計津波の水位の設定方法等についてjの通知48)により、設計津波高さについての具体的な算定手順が示され、おおむね同年9月には各県で防潮堤の高さが公表された。

(2 ) 復興事業制度と体制

(1) 建築規制

大規模災害後は、後々復興計画との組紙を起こさないように建築制限を行うことが多い。建築制限の方法は、建築基準法84条(被災市街地における建築制限)、建築基準法39条(災害危険区域)、被災市街地復興特別措置法によるものがある。

建築基準法84条(被災市街地における建築制限)は、発災後、最大二箇月間のいっさいの建築を制限することができる。今回の津波被災においては、被害が甚大であり復興計画の策定に時間を要することから、「東日本大震災により甚大な被害を受けた市街地における建築制限の特例に関する法律」により7 発災後6箇月となる、 2011年9月11日まで(もしくは. さらに二箇月延期し11月11日まで)の、建築制限延長が認められることとなった。

建築基準法39条(災害危険区域)に基づく建築制限は、防災集団移転促進事業、がけ地近接等危険住宅移転事業の実施要件となるため、復興事業と並行して指定された地区も多い。なお、中央防災会議の方針に則った11津波を守る防潮堤で守られた地位にもかかわらず、災害危険区域が適用されるのは、こうした事業要件の関係である。

一方、災害危険区域は、災害直後からの建築制限としての性格を持たせて実施された例もある。制限の内平等は市町村条例で定めることとなっており、病院や住宅を制限するケース、宿泊施設まで制限するケースと市町村によってさまざまである。

「被災市街地復興特別措置法」に基づく「被災市街地復興推進地域」を指定することて¥復興のための都市計画事業が確定するまで包括的に建築制限を行うものである。建築基準法による建築制限と異なり、i被災市街地復興推進地域Jは都市計画区域内のみで建築制限が可能であり、その制限内容についても。おおむね都市計画事業区域における建築制限に近いもので木造二階建ての家屋等は建設できる制限となっている。

宮城県では多くの被災市町村で建築基準法84条を適用しその後、市街地部においては、 i被災市街地復興推進地域」の指定へとシフトしたケースがほとんどである。岩手県、福島県においては、災害危険区域と被災市街地復興推進地域による規制が用いられた。

(2 ) 復旧・復興事業制度と復興庁

大規模災害後の復旧に係る事業制度は「公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法」に基づく災害復旧事業、 さらには、災害対策基本法により激甚災害に指定された場合適用される「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」に基づくいわゆる倣特事業がある。東日本大震災の復旧での復旧事業においては、 i東日本大震災についての激甚災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」を定め、激甚災害として復旧事業が進められている。なお、今回の大地震に伴い、最大120cm もの広域地盤沈下が発生したため、通常の災害復旧と異なり、 沈下した分の高さを戻す工事(沈下戻し)についても災害復旧で手当てされることとなった。

社会基盤整備にかかる復興事業に関しては. 2011年12月14日に制定された「東日本大震災復興特別区域法」による「復興交付金制度」が主たる事業手法となっている。復興交付金は、 表5.1のように、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、環境省がそれぞれ所掌する社会基盤施設、公共施設に関する基幹的な40事業を一括した事業制度である。また、効果促進事業として、基幹事業の効果を高めるために、基幹事業からは漏れたさまざまな事業に用いることのできる枠組みも用意された。例えば、石巻市では先述の広域地盤沈下に対して、自然排水が難しくなった土地の嵩上げについては、この効果促進事業が用いられる予定である。

なお、表5.1中の[新規]は、今回の復興事業のために新設された事業メニューである。また、東日本大震災復興特別区域法では、復興交付金のほかにも、さまざまな規制・課税等の特例が位置付けられている。

復興庁は、復興交付金の予算要求-配分権、東日本大震災復興特別区域法に係る事務等を一括して取り扱う省庁として.2012年2月10日に設置された。関東大震災からの復興を担った帝都復興院は事業実施権限も持っていたが、復興庁はあくまで、予算配分権限を中心とした、各種手続きのワンストップサービスを目指した、調整役との位置付けとなった。

社会基盤整備に関して、復興交付金の対象とならない事業については、通常の社会資本整備総合交付金制度に復興枠が設けられた。例えば.L2津波を減災するための高盛土道路や避難路などは、復興交付金の対象とならないため、こちらの手法が用いられている。

以上のように、東日本大震災からの復旧・復興は、大きく災害復旧事業、復興交付金事業、社会資本整備総合交付金事業(復興)の3種類によって進められている。これらの事業については、補助率の引上げと、自治体負担分の地方交付税交付金での担保という形で、事実上、国費100%の事業として進められている。ただし発災から5年の集中復興期間を過ぎた2016年度からは、復興交付金の効果促進事業、社会資本整備総合交付金事業(復興)については、被災自治体の負担が検討されている。

C3 J 復興計画における課題

東日本大震災による津波被災からの復興は、 さまざまな課題に直面したまま進められている。ここでは、その課題について整理しておく。

(1) 人口減少下の復興

東日本大震災の発災以前から、東北地方の太平洋沿岸では人口減少と高齢化が進んで、いた。モータリゼーションの影響も含め、中心市街地の衰退も進んでいた。また人口減少のH寺代を踏まえ?全国的にもいくつかの自治体で、維持費の観点から橋梁を廃止するといった動きも出始めている。

つまり、今回の復興は都市地域の適切な縮退やコンパクトイヒが求められる時代の復興である。このことは、 さまざまな課題につながっている。復興事業制度には、開発型のスキームしかない点、 ともすると高台移転はコンパクトシティと逆行する計画となる点、災害公営住宅の供給が近い将来確実に過大になる点など枚挙に暇がない。さらには、中心市街地活性化や高齢者のモビリティの確保といった日本の地方部が抱える過大もそのまま存在している。

(2 ) 人材不足と建設費の高騰

東日本大震災の被災規模があまりに甚大であり、事業量も膨大なものとなっている。被災自治体職員だけでは、膨大な調査・設計・工事の発注事務を処理することが不可能で.他自治体からの派遣l隊員に依存して発注が進められている。さらにUR都市機構が災害公営住宅事業や基盤整備に闘し、被災自治体の事務を受託して、被災自治体の負荷の軽減が行われている。また一部ではppp事業も取り入れられている。

同様にCMr方式も多く取り入れられており、工事調整といった. 一般的に発注者が行う内容をも請負側が行うという取組みも進められている。

しかしながら、その一方で、民間技術者そのものも不足しており.計画-設計・工事の質のみならず。被災地における労働環境も懸念される状態となってしまっている。

さらに。急激な需要の増加により、建設資材単価、労務単価も高騰している。高騰だけではなく必要資材の欠品なども発生しており.条件の悪い工事に関しては.入札不識が発生している(不落ではなく不調が多いようである)。また建築工事においては、必要資材数が非常に多いため守大規模建築工事は欠品リスクが高くなるため、入札不調となることが相次いでいる。

こうした事態を避けるために、設計段階から施工会社を決めることになるデザインピルド方式も一部で取り組まれている。いずれにせよ、工事全般で土木の場合は大規模化を図るなど、入札不調を避けるための工夫が懸命になされている。

(3 ) 復興計画・事業における合意形成

近年の公共事業においては、事業の合意形成も含め住民参加で行われることが一般的となっている。住民参加型の計画・合意形成には、官民の聞に立つ適切なファシリテーターが必要で、ある上に。計画策定に時間を要する。事業推進の人材だけで、も不足している状況で、 どのように住民参加による合意形成をとりつつ事業を進めるのか、難しい状況となっている。また、復興は急がねばならないため、 どのように時間管理を行いながら、住民参加型を実施できるのか、難しい謀題となっている。住民側からも、 i早ければなんでもよい」といった意見も多く出てしまう状況にあるため.地域の将来を考える住民との温度差が合意形成を難しくしているのが笑情である。

(4 ) 土地に関する課題

土地に関する課題は多岐にわたる。復興事業が新たな用地を必要とする場合は。避けて通ることのできない重大な課題であるだけでなく、土地に関するさまざまな課題に被災地では直面している。

一つめの課題は、地籍調査である。幸い東北地方は比較的地籍調査が進んでいたが未整備であった場合、地権者立会の下で境界画定から始めなければならない。このことが復興事業を大きく遅らせる原因となりかねない。

二つめの課題は.登記の問題である。日本において土地の所有権登記は任意である。今回被災した三陸沿岸の漁村集落においては。コミュニテイが小さいために、どこが誰の土地かはわかりきっており、登記せずとも係争となることがほとんどなし、。そのために、特に相続登記がなされていないケースが多く、この場合。登記簿記載の所有者から法定相続人を調べ上げ、全員の同意を得なければ用地買収ができない。所有者が今回の津波で死亡しているもしくは行方不明となっている場合は、特例措置による迅速化が図られたが、こうした一般のケースにおいては用地担当が.法定相続人の実印を得るために全国を飛び回ることとなった。また三陸沿岸の漁村集落で、は、昔ながらの講(集落ぐるみの互助組織)が残っているケースも多く。そうした場合は、入会地(集落の共有地)や共有水面を持っていることが多く、共有地、共有水面からの収益は、集会所の建設-維持などコミュニティのために使われている。このような入会地を収用する場合は、共有名義人が多く、かつ未相続の所有権者も多くいるため、高台移転候補地としてどれだけ適地であったとしても.収用に時間がかかりすぎる点から、断念せざるを得ないケースもあった。

三つめの課題は、土地・建物の流動性の低さである。例えば発災後の石巻では、各地から支媛活動にやってきた団体が支援拠点としての事務所を市街地に借りようとした際、被災した一階部分の改修を支援団体自ら行うという条件であっても、 2Eきl苫舗を貸す家主はあまり多くなく苦労したと聞く。一般に、地方都市の中心市街地に土地-建物を所有する人は、郊外型庖舗が隆盛する以前に形成した資産により、資産家として生計が成り立つ人が少なくない。そのため、 リスクを抱えて空き庖舗を貸庖舗にする積極的理由がなく、むしろ積極的に空き庖舗としているケースが存外に多い。同様に、こうした土地の流動性の低さは、市街地全体でも同様で、あり、例えば震災前から石巻市ではDID人口が減少していたにもかかわらずDID面積が増えるという減少が発生していた。震災後も同様に、石巻市の市街化区域内からの内陸移転先は、その件数の多さと、土地の流動性の低さから、市街化調整区域を新たに開発して受け皿を作らざるを得なかった。

四つめの課題としては、高台移転、 内陸移転後の被災した土地の所有形態である。今回の防災集団移転促進事業は、被災者の生活再建のため、住宅として利用していた移転元地については地権者の希望があれば市町村が買い取ることができる。売却を希望する被災者が多く、結果として被災した低平地は市町村が買い取ることのできない住宅地以外の土地と公有地がモザイク状に分布するということになった。こうした低平地は、多くの場合都市計画区域外であるため、土地交換だけの区画整理等を実施するとしても、都市計画区域指定から始めることになか手続き上大変煩雑になるため、多くの被災自治体で手っかずのままである。

(5 ) 事業実施体制に関する課題

阪神・淡路大震災の復興事業においては、一部の区薗整理を除き、社会基盤施設は原位置同規模復旧であった。そのため、各社会基盤施設管理者がそれぞれ復旧にあたれば迅速な復旧が可能であった。東日本大震災からの復旧・復興においては、災害危険区域を設定し、街を移動させる復旧・復興となっている。そのため、多くの地域で、ほとんどすべての社会基盤施設の位置形状の調整に膨大な労力が必要となった(表5.2参照)。例えば道路管理者は、道路が渡河する河川堤防の図面を同時に作成するような業務は基本的に発注できないため、事業主体として復興・復旧に参画する国や県に、そうした調整は原則できない。つまり、こうした全体の調整は、復興計画全体の撹い手として市町村がイニシアテイブを執ることになるが、今まで国・県から指導を受ける立場であった市町村にとっては、難しいマネジメントを強いられている。また、防潮堤計画で、は後背地の土地利用がさほど考えられないケースにおいても、用地買収をせずに高価な直立堤が選定されたり、そうでなくとも、海側に拡張して建設したりするケースが多い。そこには、そうした事業調整を避けて復旧・復興を急ぐ意味も含まれている。

さらに、こうした計画段階での事業調整だけでなく、今後進む工事に関しでも、その調整にもさらに相当の労力を必要とすると考えられる。事業主体が細分化されそれを統合する方法が、一部の受託可能な例を除きあまりない制度上の課題であろう。

また、市町村内部においても、課題が存在した。平成の大合併を行った市では、発災時点で合併後10年程度しか経過していなかったため、合併前市町村の、組織、人事の融合は必ずしも進んでいる状況ではなく巨大化した組織故に意思決定に時間がかかるケースも見られた。

(4 ) 復興計画の実際

ここでは、以上のような制度-体fljlJ 課題の中で実際に行われた復興計画を概観する。

(l) L2津波減災の実現パターン

先述のとおか防潮堤がL1津波防御である一方、復興計画においては、住宅は事実上L2津波からの安全性を考慮した計画が進められている。L2津波の減災を復興計画として実現するパターンは地形条件により、おおむね以下の4通りである(図5.32参照)。

① 平野部防災緑地型 ② 平野部高盛土道路型 ③ リアス部単純移転型 ④ リアス部~土可住地併用型

なお、これらのパターンを検討する前提となるL2津波は、市町村によって潮位設定の差はあるが、防潮堤が破壊されないことを前提としている。一方、避難計画は、最悪想定として、満潮時に今次津波が発生するものと想定した上で、防潮堤はすべて破壊されることを前提とした津波浸水区域に基つ3計画されることになっており、まちづくりとしてのL2津波と防災計画上のL2津波の、留意が必要である。

また「③ リアス部単純移転型」を除いた他の3パターンでは、一部例外はあるものの、 L2津波に関しては、 12・2ルールJと呼ばれる考え方により、 L2津波に対して、防災ではなく減災としての対応を採っていることになる。12・2ルール」は、津波も波害関数の推定結果に基づき、水深2m、流速2m以上で建物の全壊率が一気に高まることを念頭に置き、 L2津波によって水深2m、流速2mまでの被害は許容するものである。

「① 平野部防災緑地型」は、海岸段丘のため平地の少ない福島県で多く採用されている方法である。

「② 平野部高盛土道路型」は、今次津波において、仙台東部道路の盛土によって津波が止められた経験から、仙台湾沿岸で多く採用されている。

「① リアス部単純移転型」は岩手-宮城のリアス式海岸部の大多数で採用されている方法で、住宅地は切り土を基本としている。なお一部、盛土状の住宅地も持つバリエーシヨンや、低平地を防潮堤の高さに合わせて嵩上げするバリエーションが存在する。

「④ リアス部盛土函可住地併用型」は1 陸前高田市の高団地区(中心市街地)、および大槌町の町方地区(中心市街地)で採用されている方法である。

(2 ) 復興計画の実例(女川町を例に)

ここでは、女川町の中心街を例に、実際の復興計画を紹介する(図5.33参照)。女川町中心街は先述のパターンで言えば、 1① リアス部単純移転型」の一部盛土状の住宅地と低平地を全面的に防潮堤の高さに合わせて嵩上げしたバリエーションの例である。

計画面での特徴は、震災前に低地に広く広がっていた商業地を、駅前のプロムナード周辺に集約することT 公共施設を生活軸と呼ばれる幹線道路沿いに集約することといった、いわゆるコンパクト化が積極的に取り組まれている点にある。さらに、各高台住宅地からの海への眺望景観や眺望軸の整備、駅前プロムナードの高質なデザインなと¥景観・デザインに関しでも、精力的に取り組まれている。詳細な内容は『女川町まちづくりデザインのあらまし第二版t9 に詳しい。

5.4 .2 東日本大震災での教訓を踏まえた災害復興計画の在り方

前項で整理・解説した東日本大震災での課題や教訓を踏まえ、つぎなる大規模災害復興計画のあるべき姿について、発災前の備え(事前復興)と発災後の対応、について、それぞれ解説する。

( 1 ) 事前復興

(1) 災害への基本的備え

地域づくり、まちづくりの基本は土地にある。まず、地籍獲備は円滑な災害復興のためにはきわめて重要である。平常時では地籍調査は境界論争などの「寝た子を起こすjと敬遠される側面があるが、そうした地域での災害復興は確実に遅くなることを銘記すべきであろう。また、相続登記の推奨や土地の流動性確保のための施策は、有効かつ的確に展開していかなければならない。特に土地の流動性確保は、復興だけではなく、通常の地域づくり、まちづくりにおいてもきわめて重要な課題で、ある。

さらには、基本的な事業制度についても見直しが必要であろう。災害復興時に事業主体が錯綜し時間がかかる愚を繰り返しではならない。また、地域の産業が壊滅的被害を受けた今回のようなケースであっても、民間資本の損害に対し、公金による救済は行わないという資本主義国家の原則が貫かれ、グループ補助金制度が作られるまでに時間を要した。個々の地域産業は、私的財であるが地域産業全体は公的財の性格を持つ。地域産業の壊滅に対して、公的補助を出す仕組みを準備しておかなければ、災害による地域の衰退をさらに深刻なものにする危険性が高い。

(2 ) 地域構造・都市構造としての将来像

帝都復興、戦災復興など、過去の大規模災筈等からの復興が成功してきた鍵は、平常時にはさまざまな問題で取り組めなかった整備を、災害を契機に一気に実現した点にある。東日本大震災からの復興においては、人口減少への時代の転換点にあったため。制度的にも地域戦略的にもその転換が追いついていなかった。そのため、災害を機に一気に進めるべきものが何なのかの合意形成ができていなかったといえる。例えば、震災後、宮城県では漁村集落の持続可能性のために漁港の集約・再編を試みたが、漁業協同組合の反発から実現することはできなかった。その一方で、震災前より検討されていた公立小中学校の統廃合は、震災を機に一気に進められている。

この経験からも、平常時において、地域の将来戦略を的確に議論し合意形成を進めていくことが、実は災害復興に関しでも基本的な備えとなることがわかる。具体的な市街地の集約化、中心市街地の再整備とコンパクト化、さらには、地域構造の再編・集約やそれに併せた社会基盤施設の適切な統廃合や縮退といった人口減少下において必要となる具体目標の策定と合意が、災害時にも有効に機能する。

(3 ) 災害リスクと街が滅びるリスク

さまざまな災害に対する防災力や強靭性を強化することが重要であることはもちろんだが、人口減少下においては、災害によって被害が出るリスクと、人口減少によって街が滅びるリスクとの両方のリスクを抱えていることを銘記すべきである。東日本大震災の津波被災地で.防潮堤問題が発生したのも、その双方のリスクがトレードオフになっているケースばかりである。防災施設は、平常時においては、景観、環境、 利便性などさまざまな側面から、地域の将来戦略に対して負の影響を及ぼすことがある。これらの折り合いを平常時から適切につけながら、防災施設整備や強靭化を行っていく必要がある。事前復興とは決して、 防災施設整備や強靭化だけにあるのではなく、あくまで地域の将来戦略と一体となっていることに留意が必要で、ある。

C2 J 発災後の復興

(1) 事前復興の延長としての復興計画

事前復興すなわち、災害リスクを含めた地域の将来戦略が明確であれば、復興計画は、その戦略を復興事業制度の中でどう一気に進めるかという問題に帰着する。将来戦略から実施する必要を検討してきたさまざまな地域構造再編や市街地の縮退、公共施設の統廃合、社会基盤施設の廃止、 中心市街地活性化策等々を、災害を機に一気に進めるというのが基本骨格をなすはずだからである。

特にその中でも.人口増加の時代に1 水筈-津波等の危険性が高い地域に広がらざるを得なかった市街地色適切に危険性の低いエリアに誘導することは、持続可能な地域づくりにおいては有効な方法となろう。

(2 ) 事業優先度の明確な設定

東日本大震災の復興では、被災規模が甚大であったため、 調査、設計、施工すべてにおいて、人材、資材の不足・高騰を招いてしまった。計画や設計の質も高くなく、住民参加についても十分で、きなかった。つまり復興の期間をどのように分散させるかが、迅速かつ円滑な復興にとって。大きな鍵となる。東日本大震災では?恒久住宅地の復興を急ぐあまり、産業の復興が後手に回り。人口流出に拍車をかけた側面があった。一気にすべてをやることの無理を知か適切な優先順位設定を行うことがきわめて重要で、ある。(平野勝也)