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地域防災計画・災害対応計画

本節では、災害発生前に策定する計画と災害時の行政・地域コミュニテイ、支援団体の行動について、土木計画学の視点から述べる。

5.3.1 地域防災計画・災害対応計画の位置付け

災害対策基本法第三章によると、防災計画には、内閣府に設置される中央防災会議が作成する防災基本計画、指定行政機関指定公共機関が作成する防災業務計画、都道府県・市町村に設置される防災会議が策定する地域防災計画(localdisaster management plan)がある。また、 2013 (平成25)年の改正では、これらに加えて市町村の居住者や事業者による作成が可能な(必須ではない)地区防災計画(communitydisastermanagement plan)が明記され、より地域住民に近いレベルでの計画が策定可能となった。

災害対応に関しては、災害対策基本法には計画としての整備を求めてはいないが、第五章の災害応急対策において、対策すべき項目が明記されていることから、地域防災計画や地区防災計画を策定する際に、行動マニュアルなどの形でとりまとめられることがある。

地域防災計画や行動マニュアルは、事前にある程度の見通しがつく水害を対象とした水害編と、突発的に発生する地震編に分けて作成されている場合が多い(両編に共通の部分を共通編としている場合もある)。事前にある程度の見通しがつく水害に関しては、アメリカで大きな成果を上げているタイムライン(timeline)が注目されている。タイムラインは、 I事前にある程度被害の発生が見通せるリスクに対して、あらかじめ関係機関が実施すべき対策を時系列でプログラム化した計画」であり、 I先を見越した対応ができるJ. I確認漏れを防ぐことができるJ. I関係組織聞の対応のばらつきを防ぐことができる」ことがメリットであるとされている41)。国土交通省では、 2012年に発生したハリケーンサンデイにおける災害対応に関する現地調査の結果を受けて、 2014年より「日本型タイムライン(事前対応計画)Jの作成を推進している。

事後に関しでも時間割!の重要性は同様で、あり、タイムライン(事前対応計画)に適していない突発事象も含めて、行動マニュアルに時間軸を導入したものが行政機関レベル、地域活動レベル、企業レベル、個人レベルで作成されている(水害に関してはタイムラインに追記する形でまとめられる場合もある)。企業防災では、地震などによる災害被害を最小化する「防災」に加えて、災害時の企業活動の維持または早期回復を目指す「事業継続」の観点からアプローチがあり、「事業継続」に焦点を当てた事業継続計画(businesscontinuity plan、 BCP)の策定が推進されているが、この計画では、事業活動が中断した場合の目標復旧時間-目標復旧レベルを設定する必要があり、必然的に時間軸が意識されていた。事業継続計画の目的意識を明確にするために、防災計画と分けて説明されてきたこともあり行動マニュアルを事業継続計画やこれを自治体に適応した業務継続計画、地域の社会機能に拡張した地域継統計画という枠組みで捉える動きもある。

5.3.2 災害発生前の計画

ハード整備時の想定を超える外力(超過外力)を伴う災害時には、災害発生後の対応だけでは被害を最小限に食い止めることはできない。災害前にできる準備について以下にまとめる。

[ 1 ) 災害リスクの把握

効果的な準備のための最初にステップは、対象とする地域の災害リスク(disasterrisk)をま日ることである。災害リスクは、 ハザード(hazard)、エクスポージャ(expos山巴)、パルナラビリティ(vulnerab出ty)の三つの要素から構成されるため、これらの情報を把握することが求められる。

ハザードに関しては。近年。公的な機関がハザードマップとしてまとめ、積極的に公開する傾向にある。水害のハザードについては、2013年の水防法改正で、洪水時の円滑かつ迅速な避難を確保しまたは浸水を防止することにより、水災による被害の軽減を図るため、洪水予報河川および水位周知河川について、浸水想定区域を指定することが義務付けられた。また滋賀県や京都府のように、洪水予報河JI!、水位周知河川以外の河川をも対象としたハザードマップを公開する自治体もある。地震(それに伴う津波を含む)については、南海トラフ巨大地震や首都直下地震といった国レベルの対応が求められる巨大地震に加えて、地震調査推進本部が全園地震動予測地図を、産業技術総合研究所が活断層データベースを公開している。さらに、津波の危険を伴う地震については津波浸水区域図が作成されている。土砂災害については、土砂災害のおそれがある箇所として想定された土砂災害危険箇所が公表され.そのうち、土砂災害防止法に基づき土砂災害警戒区域.土砂災害特別警戒区域の指定と公表が進められている。火山については、活動火山対策特別措置法に基づき火山災害警戒地域が指定、公表されている。これらの情報は.調査-分析の末に公表している機関から想定や指定のプロセスが併せて公開されており、これらの情報と併せて取り扱うことが求められるω。ハザード情報だけが独り歩きすると危険区域として想定されていない場所乞安全な場所と読み替えてしまうことが指摘されており、被害の拡大につながることも懸念される。

エクスポージャを知るためは.人口や資産分布を把援する必要がある。現在の人口分布については、国や市町村から公開されているが、 再現期間(r巴turnperiod)の長い災害では、将来の人口分布の予測が必要となる。また、資産や企業立地の分布についても調査しておきたい。

パルナラピリティについては、災害の種類に応じてさまざまな要因が考えられる。求めるべき災害リスクを決めることで、被害拡大への影響を及ぼす要因を特定し、調査することが求められる。

C 2 ) 土地利用規制・土地利用誘導

災害リスクが極度に高い場所については、土地利用を規制し、居住地として認めないことが求められる。建築基準法第三十九条では危険の著しい区域を災害危険区域として指定することができることと、指定された危険区域には建築物の建築を禁止できることが規定されているが. I危険の著しい区域」の指定が難しく災害発生と連動しない規制は実現してこなかった。しかし、東日本大震災の発生を受け『被災地復興において国土交通省の防災集団移転促進事業が複数の地域で適応され. I危険の著しい地域」での土地利用規制と居住地移転が注目されてきた。また2014年に施行された滋賀県流域治水の推進に関する条例では、「危険の著しい地域」での建築規制や、 すでに居住している世帯に対して増築、改築時に一定の防災対策を求めるなと¥事前の規制や誘導も少しずつであるが行われている。ただ、災害などのきっかけなしにすでに居住している人に移住を促すことは難しいのが現状である。今後、人口減少が進み、都市のコンパクト化を推進する際に、災害リスクの高い場所への居住を抑制していくことで災害に強い地域に変容させていくことが現実的であろうと考えられる。

C3 ) 災害情報の整備

災害リスクの高い場所に、居住者がいる場合には、人命を筆頭として守るべきものに優先順位を付A け、状況判断から守れるものを守ることが求められる。災害発生の可能性が高まった時点で、できるだけ早く行動を開始することが人命の確保につながるため、公共機関では、そのきっかけとなる早期警戒情報(earlywarning)を発表している。気象庁が発する気象警報・注意報には.16種の注意報(大雨、洪水、強風、風雪、大雪i皮1良、 高i草月、雷、融雪i農霧、乾燥、 なだれ、低温、箱、着氷、着雪).7種の警報(大雨、洪水、暴風、暴風雪、大雪、波浪、高潮)があり. 2013年8月からは6種の特別警報(大雨、暴風、暴風雪.大雪、波浪、高潮)が加わっている。これらの情報は、予想される現象が発生するおおむね3 ~ 6 時間前に、予想、の難しい短時間の強い雨に関する大雨、洪水警報・注意報についても、おおむね2~3 時間前に発表されることになっている。これらの猶予時間(Ieadtime)は、情報が防災機関や住民に伝わり、避難行動などがとられるまでに要する時間を考慮して設定されているが、予測が難しい現象では、十分な時間が確保できない場合がある。また、警報の発表が夜間や早朝になる場合にはf 夕方に注意報を発表しその発表文中に警報の発せられる可能性のある時間帯を記載するといった工夫もとられている。注意報や警報が早めの避難行動を促す情報であるのに対して、特別警報はただちに命を守る行動を促すための情報である。

気象庁は、これら以外にも、緊急地震速報、津波注意報・警報、土砂災害警戒情報、噴火警報、竜巻注意情報も発している。2007年より開始された緊急地震速報は、一般の人々が推定震度5弱以上のときに I( 震度4以上の)強い揺れとなる地域」をテレビや携帯端末を通じて伝えるサービス(地震動警報)である(高度利用者向けに、発表基準が低く誤報の可能性が高いもののより詳細な情報を得ることができる地震動予報も存在する)。地震時の行動のきっかけとして利用されることも多いが、原理上は数十秒とれる可能性がある猶予時聞が、条件によってはとれないこともあることを念頭に行動指針を検討する必要がある。津波については、大津波警報(3mを超える津波).津波警報(1m以上3m未満の津波).津波注意報(lm未満の津波)が地震発生から約3分を目標に発せられる。東日本大震災時の教訓を基に、過小評価の防止のため高さが未確定の時点では「巨大Jという表現を使い非常事態であることを表現するなど発表方法に改善がなされた。この情報の精度は、原因となる地震の位置と大きさの特定の精度に依存するものであり、緊急地震速報と同様に、結果を保証するものではなく、最大限の努力をした結果(ベストエフオート)として受け止めておく必要がある。土砂災害警戒情報は.2008年より全国で運用が開始されたものであり、土壌雨量指数と警戒避難基準雨量による基準から発表の判断がなされている。現在でも判断基準や対象区域の詳細化についての検討が行われており、予測精度の向上が期待されている。噴火警報は、囲内のすべての活火山を対象として2007年より運用が開始されており、噴火警報(居住地域).噴火警報(火口周辺).噴火予報がある。特に噴火警戒レベルが設定されている火山では、各レベルに「避難J.I避難準備J.I入山規制J.「火口周辺規制J. I活火山であることに留意jといったキーワードが関連付けられており、防災.i.成災活動への活用が意識されている。また、噴火警報発表中の火山において、人々の生活に影響を及ぼす降灰のおそれがある場合には降灰予報も発表される。竜巻注意情報は、雷注意報を補佐する情報として2008年より発表が開始された。おおむね県単位を対象とし有効期間は1時間である。

市町村長は、上記の気象庁の発する災害情報を勘案し災害対策基本法第六十条に基づいて適切なタイミングで、避難準備情報(evacuationpreparation information).避難勧告(evacuationadvisory). 避難指示(evacuationdirective) (以下では、 三つをまとめて避難勧告等と呼ぶ)を発することができる。避難勧告は避難のための行動を勧めるもの、避難指示は避難勧告より被害の危険が切迫したときに発せられるもので、拘束力が高くなる。避難準備情報は、要援護者避難情報とも呼ばれ、要援護者(避難行動に時間を要する人)が避難行動(避難支援者は支援行動)をそれ以外の人は、避難準備を開始するきっかけとして発せられる情報である。しかしながら. i適切なタイミング」の判断が難しく、これらの避難勧告等を出すことができなかったことも多い。避難勧告等もベストエフオート情報であるが、これを危険が迫ったときに必ず発表されるものと捉え、情報がなければ避難しない住民も数多く存在する。このため、避難勧告等が出ずに、人的被害が出た場合には社会問題となることが多い。内閣府では2005年に作成した「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」を2014年に改定したが、この改定では。避難勧告等は.空振りをおそれず、早めに出すことを基本とされることとなった。

これら気象庁や行政の発する情報は、行動シミュレーションの入力情報としてまた避難計画や行動マニュアル作成時の時間軸として利用されることがあるが、その際にはそれぞれの情報の特徴を押さえ.発表者の意図に反した行動となってしまうことがないように注意することが必要で、ある。

[4 ) 避難計画・地区防災計画

避難(evacuation) は、避難開始のタイミング(いつ).災害による危険が迫った際にいる場所(どこから).避難先(どこへ) 避難経路、避難手段(どのように)といった要素によって決定される。避難対象となる領域が広く、 市町村を超えた広域の避難が想定される災害(原子力発電所や化学プラント事故による災害も含む)では。避難効率を上げるために公共交通機関や行政の用意するパスの利用が想定されるため、行政が具体的な避難計画を策定することも可能で、あるが.対象となる領域が狭く、徒歩避難を原則とする場合には、避難を決定する要素は、避車1する個人の主体的行動に依存するものであるため、行政の作成する避難計画は避難勧告等の避難判断基準の決め方や避難先となる避難所の指定など個人が避難計画を作るために必要な事項を整理したものが主であった。しかし、東日本大震災の発生により避難の重要性が再認識され、より具体的な計画が求められることとなった。災害対策基本法において、 地区防災計画が位置付けられたこと指定緊急避難場所(災害が発生しまたは発生するおそれがある場合にその危険から逃れるための避難場所).指定避難場所(災害の危険性があり避難した住民等を災害の危険性がなくなるまでに必要な間滞在させ.または災害により家に戻れなくなった住民等を一時的に滞在させるための施設)の指定が義務付けられたこと危険な場所からの立ち退きによる避難(従来の避難、水平避難や立ち退き避難U呼ばれる)に加えて.屋内での待避等屋内における安全確保措置(垂直避難とも呼ばれる)が行動形態として追加されたことはこれを後押しするものであると考えられる。

具体的な避難計画は、地域コミュニティ単位で作られているものが多く、その一部は'地区防災計画として位置付けられている。計画を具体的にすることは.その効果とともに、実施可能性についても評価が求められるが対象となる災害の特性に依存する項目であり注意が必要である。計画評価や実施可能性については、防災訓練やシミュレーションによって行われることが多いが。どの災害においても有効な「危険度が増す前に安全な場所への立ち退き避難」を前提にしたものがほとんどである。これは一つの理想的な避難の評価としては問題ないが、予測から災害発生までの猶予時聞が短い災害では.そのとき居る場所やそのときの状況により立ち退き避難ではなく屋内での安全確保措置を選択する必要があか複数の行動シナリオの評価が求められる。特に津波からの避難を想定した場合緊急避難場所までの移動に目が向きがちであり原因事象である地震からの避難であるその場での安全f確保行動が考慮されていない場合も多い。

避難計画を作成するに当たっての大きな問題として要支援者の避難に関する問題がある。災害対策基本法において高齢者、障害者、乳幼児等の防災施策において特に配慮、を要する方(要配慮者)のうち、災害発生時の避難等に特に支援を要する方(避難行動要支援者)の名簿作成も義務付けられたこともあり、この名簿の作成・活用に係る具体的手順等を盛り込んだ「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」(2013年8月)が策定・公表された。この指針においても取り組むべき事項として挙げられているものの具体的な解決策が見いだしにくい問題として.要支援者の避難を支援する人(避難行動支援者)のマッチングと避難手段がある。要支援者と支援者のマッチングについては、指針ではできるだけ複数の支援者が互いに補完し合いながら避難支援に当たること、特定の支援者に役割が集中しないことが指摘されているが、 どのようにマッチングするかについては地域で取り組む課題であるとされている。高齢化が進んだ地域はいうに及ばず、比較的高齢化率が低い地域であっても職住分離した地区では、時間帯によっては支援者となる人が十分に確保できないことがある。ボランティア団体などの民間団体との連携も指針では勧められているが、コーディネーションに関しては有効な手段は見いだされていないのが現状である。避難手段については、歩行に問題のある要支援者には特に重要で、あるが、災害予測から避難まで猶予時間が短く徒歩避難が難しい避難困難地域においても課題となっている。東日本大震災の経験から、対応策として自動車での避難が検討されているが、 自動車利用により被害を拡大させないために、どのような条件であれば自動車避難をしてよいのかなどの事前のルール作成とその遵守の徹底が必要となる。

[5 ) 地域防災活動

事前の準備は、災害発生時の住民行動に結び付いて初めて効果を発揮する。そのためには、地域コミュニティ単位での防災活動が必要である。地域防災活動の主体は、自治体や町内会が母体となって自主的に防災活動を行う任意団体である自主防災組織(voluntaryorganization for disaster prevention)が担うことが多い(自主防災組織の活動カバー率(全世帯数のうち、自主防災組織の活動範囲に含まれている地域の世帯数の割合) は、全国で81.0% (2015年4月1日現在)であり年々上昇している)43)。地域防災活動では、ハザードに対する知識を深め、防災訓練、防災まち歩き、地域安全マップ作製などを通して、災害時の地域の課題を探り、地域で実施可能な対応策を考える。対応策は訓練で実践してみることで、その効果を実感する。防災訓練は、オーソドックスな避難、安否確認、避難所開設、炊き出しといったものに加えて、シナリオを示さない訓練、夜の防災訓練、個別の避難トライアル、マンションを対象とした訓練なと状況や条f牛を変えることで災害時のイメージを膨らませる工夫が凝らされたものも見られる。また、平常時のイベントに明示的に防災を絡めたり(防災運動会など).非明示的であっても主催者側が災害時の見立てを付け加えたりする(模擬居運営を炊き出しと見立てるなど)ことで地域のつながりを深め、地域防災力向上につなげることも行われている。

5.3.3 災害発生時の対応

災害時には、行政などの公共機関、地域コミュニテイ、外部からの支援者が力を合わせて対応し被害の拡大防止と被災者の生活再建に努めることとなる。以下に、災害対応についてまとめる。

[1 ) 災害対策本部

災害対策基本法に従い災害対策本部(disastermanagement headquarters)は、災害のレベルに応じて国、都道府県、市区町村に設置されることになる。固に対策本部が大規模な災害が発生した場合、災筈対策本部は、対策の方針を決めるだけでなく、関連機関の調整を行う必要がある。このためには、通信・情報管理・広報といった機能、それらを支える総務の機能が必要とされる。なすべき対策とその時点での優先順位付けを決めることで、これらの機能が担う仕事は変化していくことになる。このため、防災計画で本部が置かれると想定されていた庁舎の周辺で災害が発生した場合は、運用に大きな影響をもたらすことになる。防災計画で想定した災害対応の体制が組めない場合には、上記に加えて、他地域からの支援を受け入れること(受援)が求められる。十分な情報が得られない中で大量の作業をこなしている状態での受援の判断は難しいため、近年では、事前に受援計画をまとめておくことも有効な手段であるといわれている。受援計画を策定する際には、 どの程度の権限を移譲できるかについて検討し必要に応じて他市町村と災害協定を締結しておくことが有効である。また、計画策定しないままに被災してしまった場合の受援では、四川地震や東日本大震災時に関西広域連合が行った対向支援が効果的であったことが報告されている。

[2 ) 災害状況の把握

災害時には、まず、現地状況を把握し被害の様相を明らかにすることが求められる。すべての被災箇所を危機管理担当者が見て回ることが理想であるが、被災者対応がすぐに始まってしまい。十分な調査ができないことが多い。阪神・淡路大震災以降、このような状況に対応するため衛星画像を利用した被災状況の把握に関する研究が進められ現在ではJAXAを通じて被災地の衛星写真が行政や関係機関には提供されるようになった。これに加え、国土地理院が災害直後に航空写真を撮影・公開している。これらに加え、 ドローンの活用も検討されており、 ZEからの情報は技術の発展に合わせて整備されている。また、災害調査にもレーザ一計測可能な車両であるモパイルマッピングシステム(MMS) を利用することも提案され、地上での情報の自動取得にも期待が持たれている。スマートフォンの普及により携帯端末からのインターネット接続が可能になったことで、ソーシャルネットワークサービス(SNS)を通じて被災地内からの情報提供も行われるようになった。これまでは、行政などによる現地調査に頼っていたために情報は十分にとれなかったが、情報通信技術の進化により玉石混合ではあるが、情報があふれる状況になりつつある。今後の課題は、これらの情報から災害対応に必要なメッセージを取り出すための分析手法開発であり、分析機関と災害対策本部との連携も受援の一つ形態として考慮、していく必要がある。

(3 ) 災害直後の行政対応

災害直後、特に最初の72時間は自衛隊やDMATなどの外部機関と連携しての救援救命活動に大きな力が注がれる。しかし同時に命を守った被災者のために、避難所を開設し、支援物資を支給することも求められる。これらは災害救助法の適応の有無で、 自治体へのコスト負担が変わるので.必要に応じて災害救助法の適応申請といった作業もこなす必要がある。また、その後の復旧・復興を見越して被災者生活再建支援法など支援事業に係る法律の適応申請も行わなければならない。

インフラ被害があった場合には、早期のインフラ復旧を図る必要がある。特に道路復旧はι 救助活動の担い手となる自衛隊やDMATの搬送のために必要で、あり被災地の土木事務所に加えて、国土交通省のTecForc巴を中心とする外部からの支援者が連携して対応することとなる。大規模な災害になれば、災害の影響を受けず通行可能な道路に、 il貢次なされる道路啓開の状況を加えて得られる通行可能道路のリソースに対して、救援活動や支援物資の搬送を行う緊急車両の交通を優先的に割り当てるような管理が必要となる場合も多い。

水道-電気-通信については。富民の違いはあるもののこれまでの災害で支援・受援の体制が積極的に構築されてきており体制は組みやすい。復旧計画と進捗状況を見える化できれば被災者の不安を和らげることにつながるため、広報も重要性な要素であることを認識し窓口となるホームページが更新できなくなった場合に備え、パックアップ体制などを検討しておくことが求められる。

(4 ) 災害ボランティア・支援組織

災害対応や復旧・復興段階における被災者支援では災害ボランティアの協力が必須となった。阪神・淡路大震災を契機に災害支援の在り方が議論されおり、災害ボランテイアセンターの運営は.社会福祉協議会が担うことが一般的となった。しかしながら、社会福祉協議会との関係が明記されていない地域防災計画も散見され、早い段階からの行政との連携に課題を残す場合も多い。民間の支援団体は、被災者の視点に立ち、きめ細かな支援を目指している(廃棄物の処理などで、公的機関では、実施が困難な支援活動を担う団体も存在する)が、社会福祉協議会との連携・協力体制が構築できないときは、そのポテンシャルを十分に発揮できない場合もある。求められている支援内容を広く共有し、地域による隔たりをできるだけなくせる支援体制の構築が求められる。

(5 ) 避難所運営

2013年の災害対策基本法改正でE 被災者の生活環境の整備についての項目が追加され、災害応急対策責任者が、遅滞なく、避難所を供与するとともに、避難所の安全性および良好な居住性の確保、食糧、衣料、医薬品その他の生活関連物資の配布および保健医療サービスの提供など被災者の生活環境の整備に努めること.やむを得ない理由により避難所以外の場所に滞在する被災者についても、同様に生活関連物資の配布、保健医療サービスの提供、情報の提供に努めることが明記された。避難所の開設は、基本的に行政職員が行うことになるが、実効性を考慮して地域の自主防災組織に委ねられている場合も多く、運営を担う場合もある。行政が運営を担う場合には.その他の対応業務での職員確保の観点からl 避難所から職員を引き上げざるを得ない事態に陥る可能性があること、自主防災組織が運営を担う場合には、地域外からの避難者(帰宅困難者を含む)の受け入れなど、 自治体職員でなければ判断に窮する事態が発生する可能性あることを考慮しておく必要がある。また、避難所での支援活動には、災害ボランテイアや支援団体の協力も不可欠となっており、行政、 自主防災組織、ボランティアの密な連携の下での運営体制の構築が求められる。

指定避難所に入れない人の対応も避難所運営の課題として指摘される。要支援者の滞在避難を目的とした福祉避難所の必要性も指摘されているが整備は十分でないのが現状である。容量を超える数の避難者が避難所に訪れた場合、避難者のトリアージ(滞在できる家屋がある人には避難所から退去してもらう)も検討されているが、実現が難しいことは熊本地震でも示された。避難所に入れなかった人に、 どのように滞在避難場所を提供するかについても検討が求められている。

(6 ) 災害支援物資

東日本大震災の経験を受けて、国では、物資支援計画として、被災都道府県からの具体的な要請を待たないで、必要不可欠と見込まれる物資を調達し被災地に緊急輸送を行う「プッシュ型支援」と、その実行のために、支援物資の集積地を多段階に設定することも検討されている。2016年に発生した熊本地震では、このプッシュ型支援、多段階の集積所設置が行われ、一定の効果を上げたことが報告されている。ただ、都道府県まで届いた物資を避難者まで届ける機能については課題が残った。プッシュ型支援は、災害発生直後の時期に限定されるものであり、被災地からの要望をまとめる機能が回復した場合には、要望に対応するプル型支援に切り替えられる。プル型支援の手段については インターネットショッピングモールサイトやSNSを利用する形態が提案・実施され、必要なものを、必要な場所へt 必要なだけ届けることが可能となっている。一方で、支援物資過多による倉庫不足の問題も被災地では問題視されることが多く、時期に合わせたバランスの良い支援物資の供給が求められる。

(7 ) 生活再建

災害対応は被災者の生活再建に至るまでは終わりではない。2013年の災害対策基本法改正では、生活再建支援事業の基礎資料となる催災証明書の速やかな発行が、行政に義務付けられ、被災者の援護を総合的かつ効率的に実施するための台1度(被災者台帳)の作成が明記された。被災者台帳は、被災者(世帯)ベースで、支援事業に関する情報をまとめたものであり、被災者の生活再建をきめ細かにサポートするために利用されるものである。

支援事業により金銭的1 物質的な支援を行うと同時に、被災者の健康面にも気を配る必要がある。PTSDをはじめとする精神的なストレスがかかった状態では生活再建へ向かうことも困難になるため、被災者のこころのケアにも十分な配慮が求められることになる。 (畑山満則)

5.3.4 使いやすい地域防災計画をつくる

( 1 ) 読者を設定する

実際の災害対応では地域防災計画役に立たなかった、 というコメントが聞かれることが多い。災害対策基本法では、地方自治体は地域防災計画を作成することにしており、内容について以下のように定めている。

  1. 当該市町村の地域に係る防災に関し、当該市町村及び当該市町村の区域内の公共的団体その他防災上重要な施設の管理者の処理すべき事務又は業務の大綱
  2. 当該市町村の地域に係る防災施設の新設又は改良、防災のための調査研究、教育及び訓練その他の災害予防、情報の収集及び伝達、災害に関する予報又は警報の発令及び伝達、避難、消火、水防、救難、救助、衛生その他の災害応急対策並びに災害復旧に関する事項別の計画
  3. 当該市町村の地域に係る災害に関する前号に掲げる措置に要する労務、施設、設備、物資、資金等の整備、備蓄、調達、配分、輸送、通信等に関する計画

地域防災計画は前述の災害対策基本法が定める三つの内容について網羅する数百ページにも及ぶ大部のものとなり、すべて読むことが困難かつ災害対応マニュアルとしても使い勝手が悪いといったことが原因であると考えられます。

そもそも計画においては、実施者ごとに必要な内容の詳細度は異なり、ISOのマニュアルでもレベルに応じて計画を階層化することが求められています33^{33}。奈良県橿原市や和歌山県海南市の地域防災計画では、市長・市民を対象とした計画本編、職員を対象とした災害時行動マニュアル、そして資料編という3層の計画の計画構成を持っています(図5.27参照)。計画本編には、行政は何を実施するのか(WHAT)についてのみ書かれており、どうやって実施するのか(HOW)については2層目の災害時行動マニュアルに書かれます。WHATとHOWを分離することにより、計画本編では行政が実施すべき防災対策の全体像を容易に把握することが可能にしています。地域防災計画は、防災対策としてこういったことは行政が実施するが、それ以外については市民で実施してほしいという、災害対応についての行政と市民の契約書である必要があります。したがって、市民が容易に理解することができる内容であることも重要であります。

市民に対する契約という観点から、海南市の地域防災計画では、災害発生後、行政はどういった支援を実施可能なのかについて、「いつ」実施可能なのかについても記述が行われています(図5.28参照)。これは、行政はすべての支援を即時に実施することはできず、ある一定時間は市民が独自に対応してほしいという意味もあります。

[2 ) 使いやすい地域防災計画

地域防災計画は、行政と市民の防災対策に関する契約書であること加えて、行政職員にとっては災害時の対応マニュアルという側面を持つ。使いやすい対応マニュアルであるためには、災害発生時に、自分が何を実施する必要があるのか、ということが簡単に理解できる必要がある。しかし、通常の地域防災計画では、自分が災害発生時に何をするのかについて規定した「事務分掌」は資Jf-l編に掲載されており、さらに事務分掌の規定する業務と地域防災計画の内容が一致しないという問題がある。海南市の地域防災計画は、 図5.29に示すように事務分掌を本編として掲載しさらに事務分掌と計画の内容を一致させたものとなっている。

図5.29のように、海南市の地域防災計画では、災害発生後の時間経過に応じて、行政が実施可能な支援内容が記述されています。

(1)目的 民家による水道施設が被災したことにより給水を受けられない者や医療機関等に対し、生命や身体を維持していくために必要な飲料水等を提供します。

(2)実施業務 調達班、給水班、物資輸送調達プロジェクトは、給水活動の実施に当たります。拠点に集積したペットボトル入りの飲料水は一元的に管理することにより効率化を図り、各避難所等に搬送し配布します。また、応急給水栓、浄水施設等の応急復旧等により、市内の拠点場所における給水と遊覧船や医療機関等への大型タンク車による運搬給水を実施します。

<災害対策本部の事務分掌> 各班の事務分掌は次のとおりです。ただし、明記されていない業務は、そのつど定めます。

部・部長・プロジェクト長職名 事務分掌 詳細記載名(担当課名) 総務班 ・本部体制の決定 3.1.1(危機管理課) (選挙管理委員会事務局) ・災害対策本部の設置 3.1.2 (監査委員事務局) ・災害対策本部会議の実施 3.1.2 ・通信手段の確保 3.1.5 ・通信手段の管理・運用 3.1.5 ・応援要請 3.1.8 ・避難情報の発令及び伝達 3.1.12.1 ・緊急輸送活動の要請 3.1.12.10 ・その他ライフライン施設の応急復旧 3.1.12.12 ・活動体制の確立(海上災害対策) 3.2.1.1 ・海上流出油等対策 3.2.1.1 ・活動体制の確立(鉄道施設災害対策) 3.2.1.2 ・人命救出救助活動等(鉄道施設災害対策) 3.2.1.2 ・活動体制の確立(道路災害対策) 3.2.1.3 ・人命救出救助活動等(道路災害対策) 3.2.1.3 ・活動体制の確立(コンビナート災害対策) 3.2.1.4 ・人命救出救助活動等(コンビナート災害対策) 3.2.1.4 ・危険物災害応急対策 3.2.2.1 ・有害物質漏えい等応急対策 3.2.2.1 ・放射性物質事故応急対策 3.2.2.1 ・本部の閉鎖 広報財政班 ・地震、津波情報の収集・伝達 3.1.3 (企画財政課) ・市民への情報提供 3.1.6 (出納室) ・外部への情報発信 3.1.6 ・財政措置 3.1.10 ・避難情報の発令及び伝達 3.1.2.1 ・道路交通の確保 3.1.2.7 ・避難所避難者への情報伝達活動 3.3.7 ・在宅避難者への情報伝達活動 3.3.7 ・一時市外避難者への情報伝達活動 3.3.7 ・活動体制の確立(海上災害対策) 3.2.1.1 ・海上流出油等対策 3.2.1.1 ・活動体制の確立(鉄道施設災害対策) 3.2.1.2 ・活動体制の確立(道路災害対策) 3.2.1.3 ・活動体制の確立(コンビナート災害対策) 3.2.1.4 ・危険物災害応急対策 3.2.2.1 ・有害物質漏えい等応急対策 3.2.2.1 ・放射性物質事故応急対策 3.2.2.1

また、図5.30に示すように行政組織は通常業務を効率的に実施する組織体制となっており、災害時に新たに発生する業務に対応する組織とはなっていません。災害情報の分析、物資輸送・調達、避難所運営、生活再建支援といった業務は、災害時に新たに発生する業務であり、海南市の地域防災計画では、災害発生時にはプロジェクトチームを形成することで、より機動的に対応できる仕組みと、さらにあらかじめ担当部局を決めておくことで、業務の押し付け合いにならない仕組みを地域防災計画で規定し、効果的な災害対応を可能にしています。

(3 J 地域防災計画と訓練

歌舞伎の世界で「型無し」と「型破り」という言葉が使われる。「地域防災計画は役に立たなかったので(計画を見ずに行動している場合も多い)、自分で考えてさまざまな対応を行った、というのは、決して評価されることではなく、歌舞伎の言葉でいうと「形無し」である。災害対応においては、即興(improvisation)が重要で、あるということはよくいわれる。しかしそれは、継続的に計画の見直しを行っており、 さらに計画に従って対応を行ったが、うまくいかなかったので、独自の対応を行う、という場合であか歌舞伎の言葉で言うと「型破り」ということになる。

行政ではさまざまな災害対応訓練が行われている。しかし訓練を実施しでも、訓練の評価を行わず、単に災害対応についての、こういった問題が発生する、という「気づきの場」として利用されている場合が多く、継続的な災害対応能力の向上にはつながっていつていなし、。

災害対応のあるべきすがたは「型破り」であり、まず地域防災計画に書かれた内容について手}I貫通り実施できるのか、さらには計画の内容は適切なのか、について検証することで「方を身に着けるj ということが重要である。災害対応訓練を「気づきの場」ではなく、地域防災計画の策定・見直しの場として災害対応訓練を実施していくことが求められる(図5.31参照)。

(a) 災害対策本部会議訓練 (b) 地域防災計画に基づく防災対応業務検証訓練 図5.31 災害対応訓練の様子(和歌山県海南市)

(牧紀男)