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ロジックモデルとサービス水準

サービス水準の設定と課題

インフラの管理を行っている多くの組織では、人員削減の傾向にある一方で、構造物の老朽化、苦情の増加、現場での業務量の増加等といった事態が生じており、これまで以上に効率的な執行体制の構築により、限られた予算や職員といった制約下で所定のサービス水準を保つことが重要な課題となっています。この課題を克服する上で必要なことは、住民などステークホルダーが求めているサービス水準を具体的に把握することであり、このことはアセットマネジメントの成果を事業レベルで評価する手法が必要であることを示しています。

多くのインフラ管理主体において、インフラ資産の修繕需要を推計する試みがなされていますが、合理的な修繕ルールが考慮されていないものが多く、インフラ修繕の予算水準がインフラ全体のライフサイクルコストに及ぼす影響を考慮できないという限界を有しています。また、仮に修繕のための財源が不足した場合、インフラ資産のサービス水準が将来どの程度低下するのかを明確にできないという問題点があります。

インフラ資産のサービス水準を長期的に持続するためには、将来時点に必要となる修繕投資のための予算に関する会計情報を適切に管理することが必要です。修繕予算の短期的な変動を許しても、長期的には安定的な修繕投資財源を確保し得る管理会計システムを確立することが重要であり、インフラ資産のサービス水準を維持するための修繕が十分に実施されたかを評価するとともに、サービス水準を維持するために必要な財源を自律的に調達するための会計情報を提供することが求められます。

ロジックモデルの特徴と活用

インフラの管理水準が設定されると、次にその管理水準をいかに効率的に達成できるかを考える必要があります。そのための有力なツールがロジックモデルです。

ロジックモデルは、最終的な成果を設定し、それを実現するために具体的にどのような中間的な成果を必要とし、またそのような成果を得るためにはどのようなデータ収集を行う必要があるのかを体系的に明示するためのツールです。ロジックモデルの特徴は以下の2点が挙げられます。

  1. 実際の日常業務から最終的な成果に至るまでの過程を1本もしくは複数の線によってつなげること
  2. 成果の段階を複数段階に分けて提示すること

ロジックモデルを作成することの最大の利点は、業務プログラムの立案者、実施者、管理者、評価者、住民、利害関係者等のさまざまな主体が、本格的な政策論争を行い、導き出した共通認識を具現化できるところにあります。

アセットマネジメントにおけるPDCAサイクルにおいて、パフォーマンス評価で問題点や課題が発見されれば、ロジックモデルに含まれている目標や手段の内容を修正していきます。このようなロジックモデルの修正を通じてPDCAサイクルが機能します。

また、多種多様な主体がインフラの管理に携わっている組織においては、異なる観点からロジックモデルを活用することができます。組織内のさまざまな場所に分散保有されているインフラ資産の故障や劣化状態、アセットマネジメントの実績に関わるデータをその種類や内容に着目して、ロジックモデルに従って分類・整理することができます。こういった作業を通じて、組織におけるアセットマネジメントの成熟度や組織内のアンバランスの実態を把握し、継続的改善につなげていくことが可能になります。

ロジックモデルは、まとまりに欠ける部分的最適化を通じて実施されてきた維持補修を、組織全体としてのアセットマネジメントに改善するための思考フレームの道具となり得るのです。インフラ管理組織において、ロジックモデルを活用することで、効率的な管理体制の構築とサービス水準の維持を実現していくことが期待されます。

アセットマネジメントシステムの概要

図-17.1:アセットマネジメントシステムの概要