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公共資産管理

高度成長期以降に整備した社会資本が今後急速に老朽化することを踏まえて、これまでに蓄積してきたインフラストラクチャー(以下、インフラと呼びます)の資産をどのように維持・活用していくかという観点がますます重要になります。

国土交通省の推計によりますと、今後の投資総額の伸びが2010年度以降対前年度比±0%で、維持管理・更新に従来どおりの費用の支出を継続すると仮定すると、2037年度には維持管理・更新費が投資総額を上回ると報告されています。そういった状況の中、国土交通省では省を挙げて老朽化対策に取り組むため、2013年を「社会資本メンテナンス元年」と位置付け、国土交通大臣を議長とする「社会資本の老朽化対策会議」を設置し、老朽化対策の全体像を今後3箇年にわたる「社会資本の維持管理・更新に関し当面講ずべき措置」としてとりまとめ、総合的・横断的な取組みを推進しています。

また、土木学会においても、社会インフラ維持管理・更新の重点課題特別委員会を立ち上げて、高齢化した社会インフラの維持管理・更新の課題に組織的かつ体系的に取り組み、その成果をとりまとめています。このようにインフラをはじめとした公共資産を適切に管理していく方法論の開発は非常に重要な課題であり、これまでに多くの研究・実践が行われてきました。

それらの取組みは、個別施設の劣化を分析するミクロレベルのものと、所有する資産全体をどのように管理するかというマクロレベルのものとに分類されます。橋梁、トンネル、空港といった個別の施設の劣化をどのように食い止め、長寿命化を図るのかといったミクロレベルの取組みが重要であることはいうに及びません。その一方で、個別インフラ資産の劣化を把握した上で、インフラ資産の持つ機能を最も効果的に発揮させるために、国や地方公共団体のすべてのインフラ資産を管理する方法論の開発が求められています。

すなわち、ライフサイクル費用の低減を達成し得る望ましいインフラの維持補修戦略や、インフラのサービス水準を維持するために必要となる維持補修予算を求めるためのマクロレベルの戦略が必要となります。インフラの管理者が直面する意思決定問題を、「維持補修の必要性」に関する議論から、「優先順位の決定」に関する問題に置き換えられることができ、このことがマクロレベルにおけるアセットマネジメント(asset management)システムを導入することの利点です。

図17.1にインフラを対象としたアセットマネジメントシステムの概要を示しています。アセットマネジメントは、インフラの劣化過程とそれに応じた維持管理業務を長期的にモニタリングし、評価することによってその効果が計測されます。そのため、アセットマネジメントのPDCAサイクル(PDCA cycle)に従って、逐次その効果を検証し改善するための方法を取り入れたマネジメントシステムの開発と運用が必要となります。

そのために、インフラ資産管理を適切に実施するためには、日常点検や補修の記録などを格納するデータマネジメントシステムと、日常的な舗装の維持管理業務のパフォーマンスを計測し改善するための評価ツールとしてのロジックモデルとから構成される統合システムが必要となります。

以降では、この統合的アセットマネジメントシステムの各構成要素を説明いたします。すなわち、インフラ資産の管理水準の設定の基本的な考え方とロジックモデルの活用(17.2節参照)、インフラ資産管理の方法論であるインフラ会計(17.3節参照)、資産管理を行う上で必要となるデータ入手の方法論(17.4節参照)、個別のインフラ施設の劣化予測の方法論(17.5節参照)、についてそれぞれ紹介いたします。