画像・レーザー計測
概説
三次元形状は、景観シミュレーションやハザードマップなどでの利用をはじめ、基盤的な情報として重要なものです。
一般的に、三次元形状の計測には写真測量が適用されてきました。
写真測量による三次元計測
写真測量は、画像を応用して被写体に関する情報を得る技術です。わが国の地形図も、昭和初期から写真測量により作成されてきました。特に、人間の近付きがたい場所でも観測でき、高い効率性を持つという特徴を有します。
画像は、地形図での表現である正射投影と異なり、中心投影に基づくものです。中心投影においては、高さ、あるいは奥行の差が画像上では平面的なずれとして表されます。これを基に、三次元計測が可 能となります。
複数枚の画像から同一点を画像上で計測すれば、画像面上でのずれである視差が観測されます。これらの画像を立体視することにより、対象点の三次元座標を特定することが可能になります。このためには、カメラの位置と傾きがわかっていなくてはなりません。
撮影ごとに求めることになるカメラの位置と傾きを外部標定要素といいます。これに対し、カメラの画面距離や主点位置のずれ、レンズひずみなど、カメラ固有のパラメーターを内部標定要素といいます。これらの標定要素を求めることを標定と呼びます。
1枚の画像に対する単写真標定のためには、画像と地上の座標間の幾何学的関係である共線条件に基づき、後方交会法を適用します。これらの基本的原理は動画像にも適用することが可能です。画像計測については次項で説明します。
レーザー計測による三次元計測
近年では、レーザー光を発射し、その反射波を計測することにより直接的に三次元計測を行う手法も広く利用されています。レーザーは、誘導放射による光の増幅の一般名称です。増幅されたレーザーは、単一波長であり、位相が一致し、方向も一致するという特徴を有します。
![正射投影と中心投影](/assets/images/0302-9b3949938c4cb9ca9d452d57552aef48.jpg)
これらの特徴を利用し、発射波と反射波の時間差あるいは位相差を計測することにより、センサーから対象物までの距離を計測します。フェイズシフト方式では、変調した複数のレーザー光の位相差から距離を計測します。
専門的に用いられるものは、レーザー光を走査することにより面的に三次元計測を行うレーザースキャナーが通常です。一般的に用いられる1点までの距離を計測するレーザー距離計では、フェイズシフト方式のものが多いです。
レーザー計測の詳細については別項で紹介します。
画像計測の原理
写真測量による三次元計測は、中心投影に基づく画像の平面的なずれを利用して行われます。
中心投影と正射投影の違い
地図などで用いられる正射投影は、光線を平行に投影するものです。一方、画像で用いられる中心投影は、光線がレンズの中心で集まるように投影されるものです。
中心投影では、地物の高さや奥行の差が、画像上で平面的なずれとして表されます。この平面的なずれを利用することで、三次元計測が可能となります。
![正射投影と中心投影](/assets/images/0301-c5dd16abb6d2831d2d5529e818592594.jpg)
立体視による三次元計測
複数の画像から同一の地物を観測した場合、画像間で平面的なずれ(視差)が生じます。この視差を利用して、立体視により三次元計測を行うことができます。
立体視では、同一の地物を異なる位置から撮影した複数の画像を用います。これらの画像から、地物上の同一点を特定し、その点の画像上での位置のずれ(視差)を計測します。
視差は、カメラの位置と地物までの距離に応じて変化します。カメラの位置と姿勢(外部標定要素)、およびカメラの内部パラメータ(内部標定要素)が既知であれば、視差から地物上の点の三次元位置を計算することができます。
このように、写真測量では、中心投影に基づく画像の平面的なずれを利用し、立体視の原理に基づいて三次元計測を行います。
用語の定義
写真測量で用いられる主な用語について、以下のように定義します。
![](/assets/images/0303-672cd5fc644578176ccc9cb2dae39b8b.png)
図-3:写真測量における用語の定義
- 投影中心O(): カメラの光学中心であり、光線が集まる点。
- 対象物P(): 撮影される対象物上の点。
- 陰画面: カメラの構造上、投影中心に対して対象物とは逆側に存在する画像面。
- 陽画面: 陰画面を投影中心に関して反転させた仮想的な画面。陽画面と陰画面は数学的に等価。
- 画像上の点p(): 対象物Pが画像上に投影された点。
- 主点n: 投影中心から画像面への垂線の足。
- 画面距離c: 投影中心と主点の距離。
- 地上座標: 三次元空間の座標系。
- 写真座標: 画像上の二次元座標系。
これらの用語を用いて、以降の説明を行います。
三次元計測の原理
人間が立体感を感じることができるのは、左右それぞれの眼に入る光線の角度が異なるためです。この角度差は、網膜に写される像の位置ずれ量として知覚され、立体感を得ることができます。眼を画像に代替すれば、画像平面上のずれを計測して、立体視に基づき、三次元計測が可能になります。
![](/assets/images/0304-ae61f0280709e9fd65a810b947d384dc.png)
図-4:ステレオ画像による計測原理
いま、図-4のように2枚の画像が、画像間距離B(基線長)で平行撮影により得られたものとします。画面距離は共通でcです。両画像には、対象点Pが写され、それぞれ画像上で、として観測されたとします。画像1、2間の投影点の位置ずれを視差といいます。
幾何学的関係から、視差と三次元座標の関係は次のように表せます。
この式から、三次元座標を次のように導くことができます。
視差と三次元座標の計測精度の関係は次のように表すことができます。
ここで、、は、それぞれXY座標、Z座標の精度、は視差計測の精度です。高さや奥行といった座標の精度向上のためには、基線長と対象物までの距離の比(基線高度比)を大きくすればよいことがわかります。
共線 条件と単写真標定
上記の例では、平行撮影により得られた画像を用いていましたが、実際には、カメラは傾いて撮影されます。カメラの傾きがわかっていれば、平行撮影に変換可能であり、この変換を偏位修正といいます。さらに、三次元座標の計算において基線長を必要とすることから、カメラの位置も求めなくてはなりません。これらのカメラの位置と傾きを外部標定要素といいます。
一方、カメラの画面距離や主点位置のずれ、レンズひずみなど、カメラ固有のパラメーターを内部標定要素といいます。これらの標定要素を求めることが標定です。
ここでは、特に1枚の画像の標定要素を推定する単写真標定について解説します。なお、内部標定要素はキャリブレーションにより、対象物の撮影前に求めることができるため、内部標定要素は既知とし、外部標定要素のみを求めるものとします。
単写真標定のためには、写真座標と地上座標が満たすべき幾何学的関係である共線条件が重要になります。図-5に示すとおり、対象物、、を撮影し、画像投影点、、が観測されたとします。共線条件とは、光の直進性に基づいた、「点、投影中心O、画像投影像は、同一直線上にある」という条件です。
![](/assets/images/0305-ec6ffc7fa5e8835009e73d47fdb5face.png)
図-5:共線条件
写真座標が地上座標に対して図のとおりに傾いていたとすると、共線条件に従えば、写真座標と地上座標の関係は次のように表すことができます。
ここで、Dは対応する回転行列を示します。
式(15.15)を考慮すれば、式(15.18)より以下の共線条件式が導かれます。
次に、共線条件式に基づき、外部標定要素であるカメラの位置()と傾き()を求めます。図中の対象物中の点、、とその投影像、、がつくる光線は、1点で交わらなければなりません。すなわち、すべての点が共線条件を満足するように外部標定要素を決定する後方交会法を適用します。
ここでは、写真座標と地上座標の両者とも既知である地上基準点を用い ます。未知パラメーターは六つの外部標定要素()であり、一つの地上基準点当り二つの共線条件式が得られるため、少なくとも3点の地上基準点によって外部標定要素を決定することが可能です。通常は、誤差を伴うため、4点以上用いて最小二乗法により求めます。ただし、共線条件式は非線形であるため、非線形最小二乗法を適用します。そのため、単写真標定においては、初期値が必要となります。現在では、GNSSやIMU(慣性計測装置)などにより、初期値を取得することが可能です。
内部標定要素が未知の場合には、共線条件式において、写真座標()を未知パラメーターである主点位置のずれとレンズひずみの近似値を考慮して補正し、画面距離を未知パラメーターとして扱えばよいです。
複数枚の画像に同時に共線条件式を適用するバンドル調整が用いられることも多いです。バンドル調整では、使用する全画像の外部標定要素に加え、座標未知点の三次元座標も未知パラメーターとします。初期値としての未知点の三次元座標を同点が写っている画像に再投影し、その写真座標と観測された写真座標の差(交会残差)を算出します。交会残差の二乗和を最小化することにより、未知パラメーターの推定を行い、各パラメーターの更新を行います。
共面条件と相互標定
共線条件は、写真座標と地上座標が満たすべき幾何学的関係でしたが、もう一つの重要な条件は、ある画像の写真座標ともう1枚の写真座標が満たすべき関係である共面条件