位置と高さの基準
土木計画学では、土地に付随する土地利用や地形などの情報、あるいは交通分析に不可欠である移動情報などが重要な基盤となっています。これらの情報はいずれも位置と関連付けられた情報、すなわち空間情報です。
概説
空間情報として多様な情報の取得・分析・管理を行うためには、位置の基準が必要となります。この基準として、地球重心を原点にとった三次元直交座標である測地座標系を用います。
世界共通に利用できるように、国際機関により定められたものを世界測地系と呼びます。また、地球の形状を近似した回転楕円体である準拠楕円体が定義されます。準拠楕円体を導入することにより、平面位置および高さを、緯度・経度および楕円体高として求めることができます。
ここで、日常的に用いられる標高は、楕円体高とは異なることに注意を要します。わが国においては、東京湾平均海面を標高0mと定義しています。
三次元座標で定義される地球上の位置に対して、地形図などでは平面的に表現する図法が必要となります。よく用いられている図法として、メルカトル図法とガウス・クリューゲル図法があります。
メルカトル図法はWeb地図で利用されている図法です。わが国の地形図や地勢図をはじめ、世界的に用いられている図法が、ガウス・クリューゲル図法です。ガウス・クリューゲル図法に基づき、UTM座標系や、平面直角座標系へと投影されます。平面直角座標系では、二次元直交座標X(北向きを正)、Y(東向きを正)により平面位置を表現します。
わが国においては、19の平面直角座標系が定められています。
空間情報を地形図として表現しているもののうち、わが国においては、長い間1/25000地形図を基本図として整備・更新を行ってきました。現在では、2007年に制定された「地理空間情報活用推進基本法」を受け、位置の基準となる基盤地図情報をベースとした新たな基本図として、電子国土基本図が整備されました。また、近年のディジタル化の流れに伴い、これらの情報は、「地理院地図」として、その他の情報と重ね合わせて、インターネット閲覧が可能です。
世界測地系
地球上の位置を正確に表現するためには、測地系の定義が不可欠です。測地系とは、地球に固定された座標軸である測地座標系と、地球の形状を近似する回転楕円体である地球楕円体の組み合わせを指します。
従来、各国や各地域ごとに独自の測地系が定められていました。しかし、近年のGNSS(全球測位衛星システム)による測位技術の普及に伴い、世界共通の座標系を採用することのメリットが増大しました。
そこで、国際機関により定義された世界測地系が広く採用されるようになりました。世界測地系を用いることで、グローバルな位置情報の共有や、測位データの相互利用が容易 になります。
測地系の選択は、測量や地理空間情報の分野だけでなく、ナビゲーションシステムやGISなど、位置情報を扱う様々な応用分野に影響を与えます。今後も、測位技術の発展と共に、測地系の重要性はさらに高まっていくでしょう。
測地座標系
測地座標系は、地球上の位置を三次元的に表現するための直交座標系です。その原点は地球の重心に置かれ、以下のように座標軸が定義されています。
- Z軸:地球の自転軸の北緯90度の方向
- X軸:経度0度の経線(グリニッジ子午線)と赤道の交点の方向
- Y軸:東経90度の方向(右手系)
この座標系を用いることで、地球上の任意の位置を一意に特定することができます。
日本では、2002年の測量法改正により、世界測地系が導入されました。これに伴い、国際的な基準である国際地球基準座標系(ITRF: International Terrestrial Reference Frame)の一つ、ITRF94が測地座標系として採用されています。
測地座標系は、様々な宇宙測地技術による観測結果に基づいて定められています。これらの観測結果は、地殻変動などの影響を受けて時間とともに変化します。
2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震では、日本列島に大きな地殻変動が生じました。この変動に伴い、測地座標系も改定される必要が生じました。
準拠楕円体
地球の形状を表現する上で、重要な概念の一つがジオイドです。ジオイドとは、等重力ポテンシャル面のうち、平均海面とよく一致する面のことを指します。平均海面は、潮汐、波浪、海流などの影響を取り除いた仮想の静水面として定義されます。
ジオイドを数学的に扱いやすい形状で近似したものが、地球楕円体です。地球楕円体は、回転楕円体の一種であり、その国や地域で採用されているものを準拠楕円体と呼びます。
日本では、準拠楕円体としてGRS80(Geodetic Reference System 1980)を採用しています。GRS80は、以下の3つのパラメータで定義されます。
- 赤道半径
- 極半径
- 扁平率
これらのパラメータの値は、次の通りです。
位置の表現
準拠楕円体を測地座標系に固定することで、地球上の任意の点の位置を緯度と経度で表現することができます(下図参照)。経度は、グリニッジ子午線を基準とし、ある地点を通る子午線までの角度で定義され、グリニッジ子午線から東西に180度ずつ分けられ、それぞれ東経、西経として示されます。一方、緯度は、ある地点において準拠楕円体の法線が赤道面となす角度(測地緯度)で定義され、赤道を緯度0度として南北に90度ずつ分けられ、それぞれ北緯、南緯として示されます。
![](https://www.gsi.go.jp/common/000092013.jpg)
図:準拠楕円体
位置を正確に記述するためには、使用する測地座標系と準拠楕円体を明確にすることが重要です。測地座標系と準拠楕円体が異なれば、同じ場所の座標値も異なるため注意が必要です。日本では、測地成果2000や測地成果2011という用語を測量成果に適用し、使用している測地座標系と準拠楕円体を明確にしています。
GPSにおいても、算出される座標値は測地座標系と準拠楕円体に基づいて表現されます。GPSでは、測地座標系としてWGS84、準拠楕円体としてWGS84を使用しています。現在のWGS84は、ITRF94およびGRS80とほぼ同一のものとして扱うことができ、実用上の違いはありません。
日本において世界測地系を利用するためには、世界測地系の座標を持った原点や基準となる方位角が必要です。日本経緯度原点は東京都港区麻布台に設置されており、その原点数値は測量法施行令により定められています。この原点数値は、世界測地系の導入および東北地方太平洋沖地震に伴い改正されたものです。
測地座標系と地球楕円体に基づく座標を用いた測量を測地的測量といいます。一方、局所的に平面を仮定しても必要精度が確保される場合には、地表の水平位置と基準平面からの高さによる平面的測量も用いられます。このとき使用される平面直角座標系については後述します。
高さの基準
前項で説明した測地座標系と準拠楕円体に基づけば、高さは準拠楕円体からの法線方向の高さで表現でき、これを楕円体高と呼びます。一方、測量法では、高さの基準は標高として定められています。
標高は、ジオイドからの鉛直方向の高さであり、楕円体高とは異なります。ジオイドは、等重力ポテンシャル面のうち、平均海面とよく一致するものです。また、準拠楕円体からジオイドまでの高さをジオイド高と呼び、一般に、標高 = 楕円体高 - ジオイド高で近似されます。
![](https://www.gsi.go.jp/common/000207803.png)
図:楕円体高、ジオイド高、標高の関係
GNSSの普及に伴い、楕円体高から標高への変換のために、精密なジオイドモデルが作成されています。例えば、「日本のジオイド2011」は、そのようなジオイドモデルの一つです。
日本では、東京湾平均海面T.P. (Tokyo Peil)を標高0mと定義しています。東京湾平均海面は、隅田川河口の霊岸島量水標の験潮記録に基づき定められ、伊豆諸島などの一部を除き、全国の標高の原点として日本水準原点が設置されました。その後、神奈川県三浦市の油壷験潮場における長期観測記録に基づき、水準原点の標高が検証・確認され、油壷験潮場が東京湾平均海面の基準となりました。現在でも、油壷験潮場において継続的な潮位観測が行われ、水準原点の標高が定期的に確認されています。
日本水準原点は、東京都千代田区永田町に設置されており、その原点数値は測量法施行令で東京湾平均海面上24.3900mと定められています。この数値は、大正関東地震や東北地方太平洋沖地震に伴い改正された結果です。
日本水準原点が設置される以前から、各主要河川に設けられた量水標による高さの基準が用いられ、現在でも利用が続けられています。霊岸島量水標の験潮記録による基準もその一つであり、A.P (Arakawa Peil)と呼ばれます。A.P. 0mがほぼ干潮時の、A.P. 2mがほぼ満潮時の海面に対応するため、工事のための基準として都合が良く、現在でもA.P表記の例が見られます。なお、T.P.はA.P上1.134mと定められています。