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衛星測位の原理とその応用

GNSSの概説

GNSS (全地球測位システム) とは

GNSS (全地球測位システム)とは、人工衛星からの信号を使用して地上の現在位置を決定する衛星測位システムの総称です。GPSはGNSSの一つであり、アメリカにより構築されているシステムです。そのほかにGLONASS(ロシア)、Galileo(欧州)、BeiDou(中国)が挙げられます。

GPSの歴史と現状

GPSは1978年に初めての衛星が打ち上げられ、1994年にシステム上の必要機数である24機が配置されました(2015年12月現在での運用機数は31)。理論上は4機の衛星をつねに観測でき、安定的に位置情報を取得できる環境となりました。加えて、GNSS受信機の小型軽量化、操作性の向上などは、土木計画学の分野でも位置情報を利用した交通調査などを容易に実施できるようにしました。

衛星測位の利用における注意点

容易に利用でき結果を得られる反面、利用環境に応じたシステムの選択(測位手法の選択)や測位誤差の解釈を的確に行う必要があります。

衛星測位を利用する際に最も考慮しなければならないことは、利用目的ならびに要求精度に応じた測位方法の決定および実際の測位環境下における測位精度です。

測位方法の分類

測位方法として、単独測位と干渉測位に大別することができます。土木計画学の分野において交通調査等では単独測位を利用する場合が多いですが、より精度を必要とする自動車走行挙動の把握等には、干渉測位が用いられる場合が多くなっています。

単独測位における測位誤差の要因

単独測位における測位原理を鑑みると、測位誤差は本質的には以下の要因に大きく影響されています。

  • 衛星軌道推定位置
  • 擬似距離測定
  • 衛星の幾何学的配置

衛星の幾何学的配置による精度劣化を表す指標の一つとして、DOP が用いられます。

単独測位

測位原理

単独測位の基本原理

単独測位の基本原理は、衛星から受信機までの距離を観測し、それを衛星からの半径として複数の球面の交点を求めて受信機の位置として決定する方法です。衛星からの距離を正確に観測するためには、衛星から発せられた電波が受信機に到達するまでに要した時間を観測し、電波の速度(光速)と掛け合わせることで求めることができます。

時間を正確に計測するには、衛星と受信機の時刻が正確に同期されている必要がありますが、衛星は複数の原子時計による正確な時刻で発信された信号を受信機に送っている一方、受信機の時計は水晶時計であり、衛星の原子時計と比較して極端に精度が劣ります。そのため、時間誤差δt\delta_tにより距離にs(=δtc)s(=\delta_tc)の差が生じます。ここでccは高速です。

この誤差を含んで観測される距離のことを、誤差を持っている概略値であるという意味で擬似距離と呼んでいます。よって、この時間誤差δt\delta_tと受信機の三次元座標(x,y,z)(x, y, z)の4変数が未知の変数となります。

式(15.1)は、左辺の擬似距離rir_i、右辺の第1項で真の距離ρi\rho_i、第2項で時間誤差δt\delta tによる距離s(=δtc)s(=\delta tc)を表しています。なお、衛星iiの位置(Xi,Yi,Zi)(X_i, Y_i, Z_i)は衛星からの信号に含まれる軌道要素から比較的精度高く計算可能であり既知とできます。

γi=ρi+s=(Xix)2+(Yiy)2+(Ziz)2+δtc(15.1)\gamma_i = \rho_i + s = \sqrt{(X_i-x)^2 + (Y_i-y)^2 + (Z_i-z)^2} + \delta_t c \tag{15.1}

擬似距離γi\gamma_iは測定で得られた衛星電波の伝搬時間と光速から計算される距離であり、観測誤差を含む観測量です。そのため、未知量の(x,y,z,s)(x, y, z, s)を最小二乗法により最確値として推計することになります。

最小二乗法による測位手法

まず、受信機の位置(x,y,z)(x, y, z)と時間誤差による距離ssを近似値と補正値の和で表せられるとします。

x=x+Δxy=y+Δyz=z+Δzs=s+Δs(15.2)\begin{aligned} x = x' + \Delta x \\ y = y' + \Delta y \\ z = z' + \Delta z \\ s = s' + \Delta s \\ \end{aligned} \tag{15.2}

計算初期に近似値x,y,z,sx', y', z', s'の数量を仮定すると、補正値Δx,Δy,Δz,Δs\Delta x, \Delta y, \Delta z, \Delta sが新たな未知量となります。式(15.1)は線形ではないので容易に解くことができませんが、未知数を近似値と補正値の和で表し、補正量が微小であると仮定できるならば、近似値に関してテイラー展開することで、つぎの線形方程式を得ることができます。ただし、テイラー展開はここでは一次の項までで打ち切ることとします。

γi=γiρxΔxρyΔyρzΔzΔs(15.3)\gamma_i = \gamma_i' - \frac{\partial \rho}{\partial x}\Delta x - \frac{\partial \rho}{\partial y}\Delta y - \frac{\partial \rho}{\partial z}\Delta z - \Delta s \tag{15.3}

γiγi=XixriΔx+YiyriΔy+ZizriΔzΔs(15.4)\gamma_i - \gamma_i' = \frac{X_i - x}{r_i}\Delta x + \frac{Y_i - y}{r_i}\Delta y + \frac{Z_i - z}{r_i}\Delta z - \Delta s \tag{15.4}

ここで、γi\gamma_i'は衛星iiまでの距離の近似とする。つぎに

αi=Xixri,βi=Yiyri,γi=Zizri(15.5)\alpha_i = \frac{X_i - x}{r_i}, \beta_i = \frac{Y_i - y}{r_i}, \gamma_i = \frac{Z_i - z}{r_i} \tag{15.5}

とすると、これらは近似値の座標点から衛星に向けた方向余弦を表しているといえる。よって、擬似距離の補正量は

Δri=riri=αiΔx+βiΔy+γiΔz+Δs(15.6)\Delta r_i = r_i - r_i' = \alpha_i\Delta x + \beta_i\Delta y + \gamma_i\Delta z + \Delta s \tag{15.6}

となる。

4機の衛星から電波を観測したとして、行列で表現すると

[Δr1Δr2Δr3Δr4]=[α1β1γ11α2β2γ21α3β3γ31α4β4γ41][ΔxΔyΔzΔs](15.7)\begin{bmatrix} \Delta r_1 \\ \Delta r_2 \\ \Delta r_3 \\ \Delta r_4 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} \alpha_1 & \beta_1 & \gamma_1 & 1 \\ \alpha_2 & \beta_2 & \gamma_2 & 1 \\ \alpha_3 & \beta_3 & \gamma_3 & 1 \\ \alpha_4 & \beta_4 & \gamma_4 & 1 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} \Delta x \\ \Delta y \\ \Delta z \\ \Delta s \end{bmatrix} \tag{15.7}

と表され、またつぎのように表現できる。

R=AX(15.8)\mathbf{R} = \mathbf{A}\mathbf{X} \tag{15.8}

補正量X\mathbf{X}

X=A1R(15.9)\mathbf{X} = \mathbf{A}^{-1}\mathbf{R} \tag{15.9}

と表せます。

この補正量を用いて計算した擬似距離の差Δγi\Delta \gamma_iから新たな補正量X\mathbf{X}を算出し、収束するまで繰り返し計算を行う。この収束計算により受信機の位置(x,y,z)(x, y, z)と時間誤差による距離ssを推計することができます。

測位精度

測位精度への影響要因

測位精度への影響要因の中で、衛星軌道推定位置の誤差や衛星の原子時計の誤差は単独測位で得られる精度に対して比較的小さく、影響の度合いは少ないといえます。

もう一つの要因である衛星の幾何的な配置は単独測位の場合、大きな影響を与える場合があります。衛星の幾何的な配置は受信機から見て半円球状の天頂および水平方向で方位角が120度ずつずれた位置に3機配置されているときに、理論的には最も高い精度が得られます。通常、地球上のどこでも最低4機以上の衛星からの信号を受信できるように設計されていますが、つねに理想的な配置が得られる保証はありません。また、高層ビルによって低仰角の衛星からの信号が遮断されることによって衛星の幾何配置が偏ることも想定されます。

遮蔽環境下では、衛星の幾何的配置が狭くなり精度の低下をもたらす原因の一つとなります。

もう一つの要因である擬似距離測定の精度に関しては、電離層遅延、対流圏遅延、マルチパスなどの要因が影響を与えます。これらが観測誤差として擬似距離の観測に影響することとなります。測位原理を振り返ると、4機の衛星から受信機への擬似距離を半径とした球面の交点が受信機の位置として推定されます。その球面自体は擬似距離の観測誤差を含む層になるので、四つの層が形成する多面体の中に受信機の位置が定められることになります。衛星の幾何学的な配置によってその多面体の体積が変化し、その変化に応じて測位精度が変化することになります。よって、その体積が小さくなれば精度が向上することになります。この衛星の幾何学的な配置による精度の低下率を表す指標として、幾何学的精度劣化率(geometrical dilution of precision, GDOP)が用いられています。

この指標に関して導出過程を踏まえて説明します。最小二乗法による解(補正量)の精度は、解の分散で表されます。誤差伝播の法則から補正量の分散は

Cov(X)=A1Cov(R)(A1)T(15.10)\mathrm{Cov}(\mathbf{X}) = \mathbf{A}^{-1}\mathrm{Cov}(\mathbf{R})(\mathbf{A}^{-1})^T \tag{15.10}

と表されます。

ここで、擬似距離γ\gammaに一定の誤差σ0\sigma_0があって相互に無相関のとき

Cov(X)=σ02A1(A1)T=σ02(ATA)1(15.11)\mathrm{Cov}(\mathbf{X}) = \sigma_0^2\mathbf{A}^{-1}(\mathbf{A}^{-1})^T = \sigma_0^2(\mathbf{A}^T\mathbf{A})^{-1} \tag{15.11}

となります。簡単のためQ=(ATA)1\mathbf{Q} = (\mathbf{A}^T\mathbf{A})^{-1}とすると

Q=(ATA)1=[σxx2σxy2σxz2σxt2σyx2σyy2σyz2σyt2σzx2σzy2σzz2σzt2σtx2σty2σtz2σtt2](15.12)\mathbf{Q} = (\mathbf{A}^T\mathbf{A})^{-1} = \begin{bmatrix} \sigma_{xx}^2 & \sigma_{xy}^2 & \sigma_{xz}^2 & \sigma_{xt}^2 \\ \sigma_{yx}^2 & \sigma_{yy}^2 & \sigma_{yz}^2 & \sigma_{yt}^2 \\ \sigma_{zx}^2 & \sigma_{zy}^2 & \sigma_{zz}^2 & \sigma_{zt}^2 \\ \sigma_{tx}^2 & \sigma_{ty}^2 & \sigma_{tz}^2 & \sigma_{tt}^2 \end{bmatrix} \tag{15.12}

となります。

この対角成分を測位精度の尺度としてわかりやすくしたものが幾何学的な精度低下率DOPであり、つぎのとおり表されます。

GDOP=σxx2+σyy2+σzz2+σtt2(15.13)\mathrm{GDOP} = \sqrt{\sigma_{xx}^2 + \sigma_{yy}^2 + \sigma_{zz}^2 + \sigma_{tt}^2} \tag{15.13}

GDOPを分割して空間座標に関する部分と時計に関する部分を分けて

PDOP=σxx2+σyy2+σzz2,TDOP=σtt(15.14)\mathrm{PDOP} = \sqrt{\sigma_{xx}^2 + \sigma_{yy}^2 + \sigma_{zz}^2},\qquad \mathrm{TDOP} = \sigma_{tt} \tag{15.14}

とします。また、これ以外に水平方向の精度劣化率を表すHDOP(horizontal DOP)、上下方向の精度劣化率を表すVDOP(vertical DOP)などがあります。

具体的にDOPは式(15.7)の行列A\mathbf{A}で表現されているので、観測地点から衛星への仰角と方位角により表すことができます。よって、測位時の4機の衛星の位置からDOPを事前に計算することができます。

先ほど述べたとおり、天頂に1機、および水平方向で方位角が120度ずつ離れた位置に3機配置されている場合が、DOP値が最小になります。一般にDOP値が少ないほど衛星の幾何配置が良好であり、位置推定精度は向上することになります。しかし、擬似距離に一定の誤差を仮定していることなどから、DOP値がある値のときに位置推定精度を何mと保証する指標ではないことに注意が必要です。

マルチパス誤差

擬似距離の観測に直接影響するマルチパス誤差は、衛星から送信された信号が地面や構造物に反射して受信機に届いてしまうことによる誤差です。本来であれば受信機に直接届く電波(直接波)ではなく、反射して届いた反射波を利用して測位してしまうことによる誤差です。特にトタン屋根や看板など電波を反射しやすい構造物の近くでの測位には注意が必要です。ソフトウェアにおける対策とハードウェア上の対策があります。ソフトウェアにおいては、影響を受けやすい低仰角の衛星を利用しないことが基本ですが、反射した電波の信号強度が劣ることを利用して利用する衛星を取捨選択し誤差を低減する対策もあります。

建物と衛星の軌跡が重複する位置にある衛星からは直接波を受信できないので、例えば、建物がある位置から衛星信号を受信していればマルチパスの可能性があるとして、測位に用いる衛星から除去する対策をとることができます。

干渉測位

測位原理

干渉測位は、二つの受信機で衛星から搬送波の位相の差を利用して測位する手法です。

搬送波はサイン波形で表され、その位相とは波の位相角のことです。位相の差とは、受信機で受信した衛星からの搬送波と受信機で生成した搬送波レプリカの二つの信号の差のことです。この位相差を用いた擬似距離の導出は、文献[^5]に譲りますが、本項では基本的な原理を概説します。位相差により算出する擬似距離は、衛星から受信機までの波数に波長を掛けた数値と時計誤差による誤差距離の和として表すことができます。

図15.4に示すとおり、観測開始時(t=0t=0)には観測開始時の波数の小数部分である位相角と、観測開始後(t=t1t=t_1)には時刻の変化に伴う波数の変化(位相積算値)を受信機で観測することができます。この位相積算値に波長を掛ければ擬似距離を算出することができます。一方、衛星から受信機までいくつの波数が含まれているかを計測することはできません。波数を数え上げられない理由として、単独測位では衛星時計の時刻情報を含んだ信号コードを送信していたのに対して、干渉測位の位相にはそれが含まれないためです。観測開始時に観測できない波数の整数値部分のことを整数値バイアスと呼びます。

干渉測位に用いられる代表的な電波であるL1帯の波長は約19cmです。干渉測位用の受信機では、搬送波の位相を100分の1より短い周期で観測できるため、ミリメートル精度での測定が可能です。干渉測位で、この分解能で測定するには、単独測位では考慮しなかった衛星時計の精度も無視することができなくなります。干渉測位では、1機の衛星から二つの受信機への位相積算値の差(行路差)をとることで衛星時計の誤差を取り除きます。つぎに、2機の衛星から二つの受信機への行路差の差を考慮することで、受信機時計の誤差を取り除きます。

行路差の差と整数値バイアスとの差は二重位相差と呼ばれ、二重位相差は観測することができるので、整数値バイアスを決定できれば行路差の差を求めることができます。一方、行路差の差は、2機の受信機のうち1機の受信機の位置は既知とするので、もう一方の未知点の三次元座標を含む数学モデルで表すことができます。4機の衛星からの3個の組合せ(二重位相差)を用いて、三つの未知数を決定することができます。

干渉測位の種類

整数値バイアスの決定方法

つぎに整数値バイアスを決定する方法(初期化)の違いにより、スタティック測位やキネマティック測位などの方法に分類されます。スタティック測位は未知点と整数値バイアスを同時に確定する方法です。確定方法の詳細は割愛しますが、これは衛星の移動を利用した確定方法です。一般に1時間程度の長時間の観測を必要とするため、土木計画における移動体観測には応用が難しいでしょう。

キネマティック測位は、スタティック測位で長時間の観測を必要とする点に対処した手法であり、観測地点での観測時間を数秒から1分程度に抑えて、移動しながら測位を効率良くできるようにした手法です。キネマティック測位は、測位終了後の後処理で計算を行う方法ですが、リアルタイムキネマティック測位(RTK測位)は既知点の基準局データを、通信システムを介して未知点の移動局に伝送し、実時間で測位する方法です。

OTF法

整数値バイアスの確定方法として、複数の手法がありますが、OTF法は移動しながらでも任意の場所で、きわめて短時間で整数値バイアスを決定できる方法です。OTF法が導入される以前は、初期化するために既知点でのその座標を入力しなければなりませんでした。OTF法により、既知点での初期化が必要なくなり、任意の点で可能となりました。このことが、自動車で移動しながらの観測やトンネルなどで信号が遮られた後の測位を可能とさせ、飛躍的に利用可能性を拡大させました。ただし、スタティック測位のように長時間観測するのではなく、整数値バイアスを最小二乗法で算出するため、移動する未知点に対して初期化には、観測する衛星数を5衛星以上利用できなければなりません。

ネットワーク型RTK法

既知点は測量の成果による基準点を用いる場合と、全国に約1300点で配備されている電子基準点を用いる場合があります。電子基準点を既知点として、ネットワークを組んで行うRTK法のことをネットワーク型RTK法(network-based RTK)と呼びます。しかし、ネットワークを介して得られる電子基準点と観測点との距離が長いと測位誤差が大きくなる場合があります。そこで複数の電子基準点に囲まれた範囲に、電子基準点の観測データを処理して仮想の基準点を作成することで、移動局との間で干渉測位を行うことで、誤差の発生を軽減できます。VRS(仮想基準点)方式とFKP(面補正パラメーター)方式があります。

測位誤差

干渉測位における整数値バイアスは、まず実数値として推定され、その後確定手法により整数値として確定されます。整数値として確定した際の解を厳密解(フィックス解)、確定できず実数値のままの解を非厳密解(フロート解)と呼びます。一般にフロート解の精度は100mmから数m、フィックス解は5mmから20mmになります。フロート解も得られない場合は、単独測位解として10m以上の精度で測位される場合もあります。表15.1に水平方向と鉛直方向の精度(フィックス解に相当)を示しましたが、鉛直方向は水平方向に対して2倍から3倍の誤差が発生することに注意が必要です。

これらの誤差は、観測時間が短い場合や衛星電波の受信状況が悪く、観測条件が十分でなかったことに起因すると考えられます。解の種類も観測条件により、フロート解、フィックス解と変化する場合も多いです。また、フィックス解が得られたとしても、電離層の影響やマルチパスの影響により解の値はつねに変動していることは理解しておく必要があります。

このように、干渉測位は基準局からの通信と衛星信号の受信状況によってその精度が大きく左右されるので、連続して受信できる環境で測位を行えるかどうかを確認して観測計画を策定することが必要です。

単独測位

単独測位は、観測量として信号コードを用いる方式です。受信機も衛星も同じタイミングでコードを生成しているので、受信機で受信した衛星からのコードと受信機のコードの違いにより時間差を算出し、三辺測量により位置を決定します。精度は約10mで、ナビゲーションや交通調査などに用いられます。

アシスト型測位

アシスト型測位は、携帯電話のネットワークを介して、衛星の軌道データを送信して計測開始時間の短縮を図る仕組みです。精度は約10mで、主に携帯電話に用いられます。

ディファレンシャル測位

ディファレンシャル測位は、既知の位置でのGPS測位結果を中波やFM波で配信して補正を行う方式です。リアルタイムで計測でき、精度は0.5-2.0mで、主に船舶航行に用いられます。

スタティック測位

スタティック測位は、長時間観測を行い、衛星の時間的位置変化を基に、整数値バイアスを決定する方式です。数時間の観測が必要で後処理で計算されます。静止観測に用いられ、精度は水平方向で3mm + 0.5ppm×D、垂直方向で5mm + 0.5ppm×Dです。主に電子基準点や基準点測量に用いられます。

対相リアルタイムキネマティック方式(RTK法)

RTK法は、観測開始時に搬送波波長の整数値N(整数値バイアス)を決定し、通信を使って観測データを交換し即時解析を行う方式です。リアルタイムで計測でき、移動観測に用いられます。精度は水平方向で8mm + 1ppm×D、垂直方向で15mm + 1ppm×Dです。測量、移動体高精度測位、建設機械管理制御などに用いられます。

ネットワーク型RTK法

ネットワーク型RTK法は、電子基準点データから仮想基準点(VRS)をネットワークで得て干渉測位を行い高精度測位できる方式です。基準点を設置する必要がなく、あたかも単独測位を行っているかのように測位が可能です。移動観測に用いられ、精度は数cmです。測量、移動体高精度測位、建設機械管理制御などに用いられます。

土木計画学への応用

プローブ情報取得への利用

GNSSを利用した位置情報収集提供サービスが、開発されてきています。

プローブ情報システム

車両の位置情報を基本情報として、車両が持つ100以上のセンサーを活用して、車両の走行データを直接収集し、さまざまな交通情報を生成するシステムはプローブ情報システムと呼ばれています。近年は、民間が収集したプローブ情報を道路管理者が道路行政に反映させる動きが活発になっています。

プローブパーソン調査

一方、車両の動きではなく人の動きを把握する調査の場合は、プローブパーソン調査と呼ばれています。

プローブパーソン調査は、携帯電話・スマートフォンのGPSを利用して位置情報を取得し、移動目的や利用交通手段を利用者がアプリやWeb上で報告する仕組みです。人の動きを把握する上で課題であった屋内での測位も、さまざまな技術の開発により屋外、屋内をシームレスにまたいだ観測が可能となってきています。

屋内測位技術

利用可能な技術として、以下のようなものがあります。

  • IMES(indoor messaging system)
  • BLE(bluetooth low energy)ビーコン
  • 無線LANやRFIDを組み合わせる方法

例えば、IMESはGPSと同じ電波を使っていることから、GPSが利用可能な受信機でソフトウェアが対応していれば利用可能です。ただし、屋内にGPS信号の送信機を設置するなど、インフラの整備と受信装置の普及やスマートフォンへの組込み技術が必要である点など課題があります。

BLEは数m単位の近接通信であり、GPSなどと比較して狭域の特定された範囲内で位置情報を受信機側に送信可能です。建物入り口や案内表示板の前で、その場所に応じた情報を提供することが可能です。

また、RFIDやLEDの可視光通信を使う場合も追加の読取り装置が必要などの課題があります。

高精度測位データの利用

RTK法は20mm程度の精度で移動体観測できることから、その高精度測位を利用して、車線逸脱の検知や一時停止支援などに向けた自動車の詳細な走行挙動の解析等に利用することが可能である。

単独測位では困難であったがRTK法により得られる精度の高い高さ情報を活用して、津波避難に対して高さ情報を持った防災ハザードマップを作成するなど、移動体観測だけでなくその他の応用も進んでいる。

GNSSの今後の展開

準天頂衛星システム

準天頂衛星システム(QZSS)は、その名のとおり日本の天頂付近に連続的に配置されるように設計された衛星システムであり、GPS信号を補完・補強する役割を担っています。

QZSSの特徴

天頂方向に衛星を確保することができ、衛星の配置改善に寄与することができるといえます。これにより、利用できない時間・場所を減少させることをGPS機能の補完と呼んでいます。また、準天頂衛星は補強信号を送信していることから、精度向上を目指すことをGPSの補強と呼んでいます。これは電子基準点データを基に作成された補強信号を用いており、サブメートル級からセンチメートル級の測位精度を可能にさせるものです。複数の補強システムが構築されていますが、例えば、サブメートル級の補強信号を利用することで、測位精度は1m程度に向上するとされています。

QZSSの利活用

QZSSの利活用はさまざまな形で検討されています。

これまでのネットワーク型の測位システムは、携帯電話網を利用しているため、山間部などの通信不可地域では測位を行うことができませんでした。準天頂衛星の補強信号は、天頂付近にある衛星から送られてくるので、上空視界を確保することができれば、受信することができ、その利用拡大性を大きく向上させるといえます。

また、信号に災害情報などの緊急情報を付加して一斉に配信することも可能であり、スマートフォンユーザーが携帯電話網を介さず、被害状況の把握や二次災害を防ぐための避難情報を取得することができるようになります。

さらに、正確な位置情報を利用して、ETCに代わりゲートレスフリーフローを実現させ、課金する仕組みなどの検討もされています。また、離島における無人機による少量の貨物輸送システムへの活用が検討されています。

QZSSの運用計画

QZSSは現在1機で運用されており、1機の衛星が日本の真上に滞在できる時間は7時間から9時間で、現時点ではすべての時間帯でQZSSによる測位ができるわけではありません。2010年代後半をめどに4機体制となり、24時間途切れることなく、補完・補強のサービスを受けられるようになる予定です。最終的には7機体制とすることで、つねに4機が日本上空で観測可能となり、GPSに依存しない持続可能な測位体制を目指しています。

マルチGNSSへの対応

冒頭に述べたとおり、アメリカのGPSだけでなく、欧州、ロシアなどのGNSSの利用可能性が近年拡大しています。衛星の総数は飛躍的に増えており、各衛星システムを組み合わせることで、効率よくかつ高精度での測位を実現することが可能です。複数のシステムを組み合わせることで精度の向上などを期待することができます。

しかし、現時点では、異なるシステムを組み合わせると以下のような課題もあります。

  • 測位に必要な衛星数が増加すること
  • 解を得るための時間が増加すること

これらの課題を解決することで、複数のGNSSを組み合わせた測位システムの利用がさらに広がることが期待されます。