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7.5 交通事故対策と交通安全管理

7.5.1 交通事故の発生状況[^18]

(1) 交通事故の発生状況の推移

交通事故対策に関する近年の状況を論じる前に、まずは事故発生状況について概括しておきたい。図7.13は、1993~2014(平成5~26)年の期間における事故発生件数、負傷者数、死者数(24時間、30日以内)を示したものである。なお、事故発生件数および負傷者数は左側の縦軸を、死者数は右側の軸により表示されている。死者数については、上記の期間において減少を続け、24時間以内の死者数で1993年時点では10945人だったものが、2014年には4113人まで減少している。一方、事故発生件数と負傷者数は、死者数とは異なる傾向を示し、2000年までは増加の傾向を見せ、その後2004年までは大きな増減はなく、2005年以降に大きく減少する傾向を示している。事故件数・負傷者数の最大値は、1183616件・952709人(ともに2004年)であり、これが2014年にはおのおの711374件、573842人まで大きく減少している。

図7.13 交通事故発生状況の推移(1993~2014年)

図7.14は2004~2014年の期間における、24時間以内の交通事故による死者数(左側縦軸)と致死率(右側縦軸)の関係を示している。致死率とは、死者数を死者数と負傷者数を加算したもので除した比率である。図7.13でも確認したが、当該期間においては、死者数は単調に減少している。一方、致死率については、2013年、2014年とわずかではあるが増加傾向にある。これは、負傷者数の減少による致死率の増加と考えられるが、一方で死亡に至る重大事故の減少傾向が多少鈍化している可能性も考えられ得る。

図7.14 死者数と致死率の経年変化(2004~2014年)

(2) 高齢者事故の発生状況

高齢化の急速な進展に伴い、高齢者が巻き込まれる交通事故にも注目が集まっている。ここでは年齢階層別の交通事故の死者数(24時間以内)および負傷者数の経年変化を示しておく。図7.15には年齢階層別の死者数を示しているが、1993~2014年の間の変化を見ると、高齢層(65歳以上)と運転免許取得可能な若年層(16~24歳)を除き、基本的には漸減する傾向にある。高齢層の死者数は2004年までは3000人/年と高い水準にとどまっており、2004年以降減少傾向に転じているが、交通事故死者数の約半数は高齢者が占める結果となっている。若年層については、大きく減少しており、1993年時点で2600人を超えていた死者数は、20年余りの間に300人強にまで大きく減少している。この結果からも、現状においては、高齢者に着目した交通安全対策の重要性が浮き彫りになるといえる。

図7.15 年齢階層別の死者数(1993~2014年)

図7.16は年齢階層別の交通事故による負傷者数の経年変化を示したものである。負傷者数については、基本的な傾向として2004~2005年までの増加傾向とその後の減少傾向を確認することができる。ただし、運転免許保有可能な若年層(16~24歳)については、2000年をピークとして急速に負傷者数が減少している。ピーク時には26万人超の負傷者が記録されていたが、2014年には10万人強まで減少している。また、死者数では最近の状況として過半数を占めている高齢層であるが、負傷者数については2014年時点で全年齢階層に占める比率が15%弱にとどまっている。言い換えれば、事故に巻き込まれた際の高齢者の致死率は非常に高いといえる。負傷者については、30歳代、40歳代の占める比率が相対的に高く、各18%を超えている。

図7.16 年齢階層別の負傷者数(1993~2014年)

(3) 状態別の事故発生状況

続いて、事故発生時の状態別の死者数および負傷者数に注目する。図7.17は、1993~2014年の状態別の死者数を示したものである。事故発生時の状態によらず、基本的には経年的に減少傾向にあるが、中でも自動車乗車中の死者数の減少は顕著である。1993年時点で5000名弱であった自動車乗車中の死者数は、2008年時点で1700名強にまで大きく減少し、2014年時点では1300名あまりとなっている。自動車乗車中の死者数の減少は、車両側の安全装備の充実、飲酒運転の厳罰化に代表される適切かつ厳格な取り締まり、高規格道路に代表される質の高い道路環境の実現等、交通安全に資する多くの取組みの成果の表れとも解釈できる。

一方、これまで自動車乗車中に次いで多数を占めていたのは、歩行中の事故による死者数であったが、2008年以降は歩行中の死者数が自動車乗車中のそれよりも多くなる傾向にある。よって、今後は歩行者に対する安全対策のさらなる強化が求められるところである。

図7.17 状態別の死者数(1993~2014年)

図7.18は、状態別の負傷者数の経年変化を表している。交通事故による負傷者数に関する特徴としては、自動車乗車中の事故による負傷者が突出している点、また、2005年以降はその数も減少傾向にある点である。加えて、自転車乗車中の事故による負傷者数が、全体の15%強を占め、自動車乗車中に次いで多い点も特徴的である。この点からも、自転車に着目した安全対策の重要性を確認することができる。

図7.18 状態別の負傷者数(1993~2014年)

7.5.2 交通事故対策の近年の取組み

(1) 第九次交通安全基本計画の概要

近年の交通事故対策を概括する上で、ここでは第九次交通安全基本計画を参照する[^19]。第九次交通安全基本計画は2011~2015年度を対象期間として立案され、各種施策が実施されてきた。道路交通の分野においては、究極の目標として、交通事故のない社会を目指しつつ、現実的な取組みとして、段階的な削減を行う上で、2015年度までに24時間死者数を3000人以下とし、世界一安全な道路交通の実現を目指している。死傷者数については、70万人以下とすることを目指している。

2010年度の24時間死者数と30日以内の死者数の比率(1.18)を用いて、上記の24時間死者数を30日以内死者数に換算すると3500人となる。この数値は、国際道路交通事故データベース(The International Road Traffic and Accident Database, IRTAD)がデータを公表している29箇国中で、人口10万人当りの30日以内死者数に換算して、最も少ない数値に相当する。そのことを根拠として、上記数値目標が達成された場合、世界一安全な道路交通になるとしている。

第九次の計画において対策を策定するに当たり、経済社会情勢および交通情勢を踏まえて、① 高齢者および子どもの安全確保、② 歩行者および自転車の安全確保、③ 生活道路および幹線道路における安全確保の各視点を設定した。① については、7.5.1項で示したとおりに交通事故による高齢者の死傷者数の比率の増加からも明らかなように、重要な視点である。また近年、歩行中の事故による死者数の比率が増加している点、および、負傷者に占める自転車乗車中の人の割合が、自動車乗車中に次いで多いこと等を踏まえると、② も重要な視点と考えることができる。

第九次交通安全基本計画では、1) 道路交通環境の整備、2) 交通安全思想の普及徹底、3) 安全運転の確保、4) 車両の安全性の確保、5) 道路交通秩序の維持、6) 救助・救急活動の充実、7) 損害賠償の適正化をはじめとした被害者支援の推進、8) 研究開発および調査研究の充実の各取組みが盛り込まれた。ここでは、1)、3)、4) に関わる新規施策および新規事業について、特徴的なものを示しておく。

  1. の道路交通環境の整備に関しては、国土交通省が主導する施策として「事故ゼロプラン(事故危険区間重点解消作戦)」の推進が盛り込まれ、2011年度より実施されている[^20]。これは、「選択と集中」、「市民参加・市民との協働」をキーワードとして、事故データや地方公共団体・地域住民からの指摘等に基づき事故危険区間を選定し、地域住民への注意喚起や事故要因に即した対策を重点的・集中的に講じることにより、効率的・効果的な交通事故対策を推進するとともに、完了後はその効果を計測・評価し、マネジメントサイクルを機能させるものである。

警察庁では、生活道路における安全性向上を目的として、生活道路の最高速度を原則時速30kmとする取組みを2009年10月から実施している。同時に、地域の交通実態を踏まえて最高速度、駐車および信号制御について重点的に見直す取組みも進めてきている。

  1. の安全運転の確保に関しては、事故時等の情報収集を進め、交通安全教育および安全運転管理に活用することを目指し、ドライブレコーダーの普及に努めている。具体的には、映像記録型ドライブレコーダーを活用した交通安全教育マニュアルの作成(警察庁、2009年3月)、ドライブレコーダー等の安全運転の確保に資する機器の普及促進のための補助制度の創設(国土交通省、2010年度より)等が行われた。また、バス会社を始めとする旅客運送事業者に対する点呼時におけるアルコール検知器の使用義務付け等も行われた。

  2. の車両の安全性の確保に関しては、2007年度から実施済みの大型車用衝突被害軽減ブレーキに対する補助に加え、2010年度からはふらつき警報も補助対象に追加し、とりわけ都市間の物流・人流を担う大型車自体の安全性向上を目指している。

(2) 高齢化の進展と事故対策

わが国が高齢社会であるといわれてすでに久しい。国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2012年1月推計)」における出生中位(死亡中位)推計を基に見てみると、総人口は2010年1億2806万人から2030(平成42)年の1億1662万人を経て2048(平成60)年には9913万人まで減少し、さらに2060(平成72)年には8674万人にまで減少すると見込まれている。一方、高齢人口(65歳以上の人口)は、2010(平成22)年の2948万人(高齢化率23.0%)から、2042(平成54)年には3878万人とピークを迎え、その後は減少に転じ、2060(平成72)年には3464万人(高齢化率39.9%)となると予測されている。

一方、自動車の普及および自動車依存型社会の進展に伴い、現在および将来の高齢者の多くが自動車の利用を継続する可能性が高まっている。地方部においては、道路運送法における規制緩和もあり、過去10年あまりにわたり多くの路線バスが廃止されてきている。自ら運転しないと、また家族・親族の送迎がないと自由に移動ができない高齢者が多くなってきており、その結果、7.5.1項でも見たとおりに高齢者が事故の加害者・被害者となり、死傷する割合も増えてきている。

高齢者が加害者となる事故を減らすためには、まず、安全運転に必要な知識などを得てもらい、さらに自らの身体的機能を正しく把握できるような条件を整えることが重要である。現在の運転免許制度の下では、「高齢者講習」および「講習予備検査(認知機能検査)」が実施されている。前者については、更新期間満了日の年齢が70歳以上の者が運転免許更新の際に義務付けられている講習であり、安全運転に必要な知識等に関する講義のほか、自動車等の運転指導や運転適性検査器材による指導が実施されている。運転適性検査器材には、動体視力検査器、夜間視力検査器および視野検査器が含まれる。

更新期間満了日における年齢が75歳以上の者については、上記の高齢者講習に加えて、運転免許証の更新期間が満了する日より前6箇月以内に講習予備検査を受けることも義務付けられている。講習予備検査は、高齢運転者各自に認知力・記憶力・判断力を確認してもらい、安全運転の継続を支援することを目的としたものである。

運転免許証は現代社会においては、有力な身分証明書としての機能も有している。それがゆえに、身体能力の低下が顕著であるにもかかわらず高齢者が免許の更新を継続し、時として運転を行い不幸にして事故を引き起こす可能性も否めない。運転免許証は所有者本人の申請により、免許の取消しおよび返納が可能である。運転に不安を覚える高齢者に対して、運転免許証の返納を支援する一つの施策として、運転経歴証明書の交付が行われている。運転経歴証明書は、金融機関の窓口等で犯罪収益移転防止法の本人確認書類として使用することができ、身分証明書の機能を代替するものである。

高齢者に顕著な事故として、自動車専用道路の出口等から本線に進入し、通常の交通とは逆向きに走行し、対向車両と接触・衝突するような逆走に起因する交通事故(一般的に逆走問題と呼ばれる)が着目されている。逆走問題の大きな要因としては認知症を上げることができる。専門医の検診の結果、認知症と判断された場合は、運転免許の取消し・停止などの措置がとられることとなっているが、特に地方部においては、自動車は人々の生活の足となっているケースも多く、高齢者であるがゆえに自動車の利用を志向する可能性も高いと考えられる。運転免許の取消しや自主的な返納を促すことは、高齢者の交通事故の予防の観点からは有効ではあるが、その一方で、いかにして人々のモビリティーを確保するかという課題をより顕在化させることとなる。

道路管理者も近年では逆走問題対策には積極的に取り組んでいる[^21]。逆走が発生しやすい場所として、高速道路の出口部、休憩施設の入口部があり、これらの箇所には矢印路面標示と注意喚起の案内板を組み合わせて設置し、正しい進行方向をわかりやすく教示する工夫などがなされている。先進的な逆走対策の例としては、GPSによる位置特定情報を活用した逆走報知ナビゲーションの開発・実用化、道路脇に設置したカメラ画像(CCTV画像)の解析による逆走検知と周辺車両への情報提供の試行等も進められてきている。

(3) 生活道路における取組み

近年、生活道路上を登校中の小学生が、速度超過の車両により死傷させられる事故が相次いでいる。第九次交通安全基本計画においても、上述のとおり一つの重要な視点として、生活道路における安全確保が提示されている。第九次基本計画が策定されるに先立ち、2009年3月には、「あんしん歩行エリア」を全国で582エリア指定し、都道府県公安委員会と道路管理者が連携して、面的かつ総合的な事故対策を実施してきている。あんしん歩行エリアは、人口集中地区であり、歩行者・自転車関連事故件数が12.65件/km^2・年以上の箇所について指定することとしている。2009年3月に定めた社会資本整備重点計画では、2012年までに対策実施箇所における歩行者・自転車死傷事故件数について約2割抑止という数値目標を掲げている。

これに関連して、具体的にはつぎの三つの施策を推進している。1) 住宅地区内の速度規制、クランクやハンプ等の車両速度を抑制する構造を有する道路整備を面的に実施し、歩行者・自転車優先のゾーン形成を進める。2) 歩道の整備や路肩の拡幅等により、ネットワークとしての歩行空間を確保し、歩行者・自転車・自動車の適切な分離や安全・安心な歩行空間の確保を図る。3) 外周幹線道路の交通円滑化を図り、エリア内への通過車両を抑制するため、交差点の改良、信号機の高度化・改良等の施策を実施する。近年では、生活道路における速度規制を路線単位で指定する従来の方法に加えて、エリア単位で速度を指定できる「ゾーン30」が多く導入され、生活道路の安全性向上に効果を発揮するものと期待されている。

(4) 自転車事故の増加と対策

自転車は免許の取得も不要で、子どもからお年寄りまで誰もが利用可能な軽車両であり、日本国内で約7000万台の自転車が登録されている。特に近年の健康志向、環境意識の高まりなどもあり、自転車の良さが新たに見直される傾向にある。一方、全交通事故の中で自転車関連の事故は約2割を占めており、そのうち、自転車の運転者になんらかの法令違反が認められるケースが、3/5以上に上るとの報告もある。また、7.5.1項で示したとおりに自転車乗車中の事故による負傷者数が、全体の15%強を占め、自動車乗車中に次いで多いということもあり、自転車事故に焦点を当てた対策の重要性も高まっている。

わが国においては、1970年頃に「交通戦争」と呼ばれるほど交通事故が多発し、自転車対自動車事故対策として、多くの歩道で「自転車通行可」の指定がなされた。しかし近年では、歩行者と自転車が引き起こす事故も少なからずあり、死傷事故に至るケースも散見される。加えて、裁判所側が自転車運転者の過失を認め、被害者への多額の賠償金の支払いを命じるケースも見受けられる状況にある。そこで、自転車事故に関わる近年の対策として、2015年6月の自転車走行空間の整備と道路交通法の改正により、自転車通行可能な歩道を例外として残しつつも、自転車は車道走行とする原則の徹底が示された。また、「自転車講習制度」が導入され、交通に危険を及ぼす違反行為を反復して行う運転者に対しては、自転車の運転による交通の危険を防止するための講習(自転車運転者講習)の受講が義務付けられた。

交通に危険を及ぼす違反行為としては、14種類が示されており、その中で主なものとしては、信号無視、一時不停止、酒酔い運転、歩道通行時の通行方法違反などが含まれている。仮に受講命令に違反した場合は、5万円以下の罰金が課せられることもあり、罰則規定も明示的に盛り込まれている。

一方、安全な自転車走行空間を整備する上で、自動車と自転車、歩行者と自転車の錯綜をいかに減じるかが重要なポイントといえる。『自転車利用環境整備ガイドブック』(国土交通省道路局地方道環境課・警察庁交通局交通規制課、2007年10月発行)によれば、自転車は車両であり車道通行が原則となっているため、まずは自転車道を基本として、自転車レーンを含めて車道における自転車走行空間の整備を検討する。種々の制約により、車道内における自転車走行空間の確保が困難な場合は、自転車歩行者道による整備を検討すべきとなっている。

現状を鑑みるに、自転車走行用の空間を確保するに至っていない区間が大多数であり、歩行者と自転車が空間を共有しているケースが多い。空間的な制約、財政面での制約などもあり、自転車走行空間の整備には時間を要するものと考えられる。環境面に優しい自転車が、歩行者と自転車が空間を共有する状況下で、いかに歩行者にも優しい交通モードとなり得るか、利用者への啓発、教育などの重要性もますます高まっているといえる。

7.5.3 道路安全監査の考え方とわが国における取組み

(1) 道路安全監査とは[^22], [^23]

道路安全監査(road safety audit)とは、より安全な道路づくりを目指し、イギリスにおいて提唱され、ヨーロッパをはじめとして多くの国で普及している制度であり、道路交通安全における予防工学的アプローチといえる。「新設、既存の別を問わず、道路設計案や交通運用案の有する交通安全上の潜在的な問題を独立的に評価する公式の制度」と考えられている。イギリスでは特に道路建設の計画段階において、安全面で評価を行い、なんらかの問題が予見される場合には、必要な対応を求める手続きを制度化している。交通省が1990年に道路安全監査実施のための基準と要項を定め、1991年からは幹線道路と高速道路の計画に安全監査の実施を義務付けた。道路の完成まで、1) 概略設計の完了、2) 詳細設計の完了、3) 工事の完了の3ステージで所定の手続きを行うことを求めている。オーストラリアでは、この3ステージに路線選定計画段階の検討と開通後の監査を含めて5段階での監査を実施している。道路交通安全向上のためには、道路の計画・設計段階から安全面の評価を行い、PDCAサイクルを回していくという点は、重要な考え方といえる。

(2) 交通安全をめぐるPDCAサイクル実施の取組み

わが国においては、道路の新設・改築に際しては、「道路構造令」に記載の技術基準に従うことが求められている。道路構造令においては、その技術基準を定めるに当たり、「自動車を安全かつ円滑に通行させる」ことを目標として、道路構造・線形に関わる要素を設定している。その意味で道路の設計段階でも安全面への配慮は一定なされているとはいえるが、上述のような道路安全監査制度が十分に確立されているとはいい難い点もある。

わが国においては、供用済みの道路を対象として、その安全性向上を図るための取組みが主としてなされてきている。例えば、第七次交通安全基本計画(2001年3月中央交通安全対策会議決定)では、「道路交通の安全施策」の目標として2005年までに年間の24時間死者数を8466人以下とすることを目標に掲げ、それを達成するための基本計画を示していた。このうち、国土交通省が重要な役割を果たす交通事故の未然防止・被害軽減を目的とした諸施策は、① 事故多発地点緊急対策事業、② 事業用自動車の安全対策、③ 車両の安全基準の拡充・強化がある。

ここでは、この3施策の中で、道路インフラの改善を主とした、「事故多発地点緊急対策事業」について、説明を加えることとする[^24]。1996年にスタートした事故多発地点緊急対策事業では、交通事故統合データ(1990~1993年)を用いて分析した結果、幹線道路延長(17万6千キロ)の9%に当たる1万6千キロの区間に、幹線道路の死傷事故(32万5千件)のうち4割(13万1千件)が集中しているなど、幹線道路の中でも特定の場所に事故が集中し、いわゆる事故多発地点が存在することが確認された。そのため、この事故多発地点を対象に集中的に対策を実施することが効果的であることを確認した。事故多発地点は、以下の3条件のいずれかに該当する箇所として、3196箇所(単路部1483箇所、交差点部1713箇所)を選定した。

① 死亡事故件数・死亡事故件数が4年間で2件以上発生している箇所

② 死傷事故件数・死傷事故件数が4年間で24件以上発生している箇所

③ 潜在的死亡事故件数・正面衝突、追突等の事故類型に応じて換算した潜在的死亡事故件数が4年間で0.4件以上となる箇所

この結果を踏まえ、事故多発地点およびその周辺地域について道路管理者と交通管理者が連携しながら、交差点改良、道路照明の設置、交通規制の見直し等の事故削減対策を集中的に実施してきた。事故多発地点緊急対策事業は、事故の実態分析に基づく、供用済み道路に対するPDCAサイクルの実施の一環であり、主として道路インフラの面を中心として取り組まれてきたものと位置付けられる。

近年では、多種多様なデータの入手可能性が高まってきたこともあり、都市高速道路等を中心として、交通事故データを中心に据えた統合型のデータベースを構築し、これを核として道路交通安全面のPDCAサイクルを回していく動きもある。例えば、都市高速道路における交通安全性向上を目指して、事故多発地点に着目した即地的、ハード的な対策に加えて、幅広く安全性の向上に資する対策を見いだすため、事故原票データ、事故時の交通環境データ、道路構造データから成る統合型のデータベースを構築し、データマイニングを適用して、事故対策に向けた課題の抽出を試みているケースなどが見受けられる[^25]。(宇野伸宏)