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7.2 階層型道路ネットワークの計画・設計

道路交通を安全かつ効率的に管理するためには、道路ネットワークを階層的に計画・設計することが効果的である。ここでは、機能階層型道路ネットワーク計画・設計とその性能評価に関する基本コンセプトについて述べる。

7.2.1 道路の機能と性能

道路の機能には、大きく交通機能と空間機能の二つがあり、そのうち一義的な機能が交通機能である1。交通機能は、交通を円滑に流すためのトラフィック機能と、沿道の土地・施設に出入りするためのアクセス機能、駐停車や滞留のための滞留機能に分けられる(図7.1参照)。これらの機能は、自動車だけでなく歩行者や自転車を主体とした場合にも考慮されなければならない。

ワークを構成する各道路の利用主体や機能を明確にするとともに、機能が実現されているかどうかを適切な性能評価指標(measure of effectiveness)で評価することが重要である。

従来、日本の道路の計画・設計では、交通容量による評価を中心として行われてきたが、性能評価では、渋滞させないことは前提とした上で、各道路で発揮される交通サービスの質を測る。したがって、サービスの享受者(利用主体)や種類(機能)に応じて、性能評価指標も異なる。性能評価指標は、自動車のトラフィック機能優先の道路では、交通密度・旅行速度(およびその信頼性)・追従走行区間割合・停止回数2など走りやすさを表すものとなり、アクセス機能・滞留機能優先の道路では、アクセスのしやすさや滞留スペースなどを測るものとなる。また、歩行者・自転車の利用が卓越する道路では、これらの主体の観点からトラフィック機能やアクセス・滞留機能をそれぞれ評価することになる。

7.2.2 機能的階層型の道路ネットワーク構成

代表的な性能評価指標である旅行速度を用いて考えると、トラフィック機能を優先するほど旅行速度が高くなる必要がある。すると、沿道施設への入出庫や駐停車が多い道路では高速走行しづらいというように、トラフィック機能とアクセス・滞留機能はトレードオフ関係にあることがわかる(図7.1参照)。

このため、生活交通、出入交通、通過交通など異なる機能を求める交通を、道路ネットワークの中で適切に分離することが望ましい。同様に、自動車・自転車・歩行者などさまざまな利用主体についても、それぞれの道路の機能が担保されるよう分離することが重要である。

このためには、国土の根幹的道路ネットワークを形成し、都市間連絡を担うトラフィック機能に特化した高速道路から、居住地と直結するアクセス・滞留機能重視の生活道路までを機能的に分類した機能階層型道路ネットワーク(functionally hierarchical road network)を構成することが効率的である。

機能階層型道路ネットワークでは、求められる機能に応じた階層別の性能目標(代表的には、目標旅行速度)を規定し、それが担保されるような計画・設計・運用を一貫して行う。性能目標を達成させるためには、機能的にトレードオフの関係にある階層を直接接続できないように配慮することが重要である(図7.2参照)。

階層ごとに交通性能を差別化することにより、道路利用者は、図7.3に示すように、起点からまず旅行速度の低い階層(アクセス機能重視)を使い、トリップ長が長いほど旅行速度の高い階層(トラフィック機能重視)へと段階的に階層を乗り換えながら移動を行う。そして終点に近付くとまた旅行速度の高い階層から低い階層へと降りて到着する。

これにより、トラフィック機能優先の階層では出入交通が制限されることで、交通が整流化され円滑性が向上する。一方、アクセス・滞留機能優先の階層からは、通過交通が排除されることにより静穏化が実現し、周辺環境が良好に保たれる。さらに、利用者間(例えば、歩行者と自動車、低速車と高速車など)の動線交錯が減少することで安全性の向上も期待できる。

現行の道路構造令では、道路を分類する種級区分1が、トラフィック・アクセス・滞留といった機能と必ずしも対応しておらず、性能目標も明確に示されていない。結果として、特に一般道路の機能分担が曖昧であり、自動車専用道路との間に性能面で大きな乖離が生じているほか、低速の幹線道路を嫌う通過交通の生活道路への流入などが課題となっている。このような課題を解決するためには、量的整備が収束しつつあるわが国においても、道路の機能改良や運用方法の再検討などによって道路ネットワークを機能階層型に再編していくことが求められている。

7.2.3 性能照査による道路計画・設計

先に述べたとおり、階層型道路ネットワークでは、道路本来の機能を表す階層別の性能目標を設定することが必要である。道路の計画・設計・運用を行う際には、つねにこの階層別の性能目標に対して、推定または観測される性能が十分かどうか照査を行いながら道路の構造や運用方法を検討することが重要である。

(1) 計画・設計段階

道路交通流ではたとえ混雑していない状況下でも、平面交差点が密に存在する場合などには一定の遅れが生じる。よって、まずは需要を考えない段階で、階層間の接続可否やその間隔、立体交差か平面交差かといった基本的な接続形式を照査しておくべきである。これに応じて、必要であれば、沿道からの出入交通を制限するアクセス制御(access control)を行う。また、トラフィック機能が主体の階層では、自動車の動線が歩行者・自転車の動線と可能な限り交錯しないようにしておくことも重要である。

つぎに、交通需要を考慮する段階では、交通容量による判定に加えて、交通量と発揮される性能の関係を考慮して平面交差形式(信号交差点、ラウンドアバウトなど)や車線数などの道路構造諸元を照査する。それぞれの階層の機能を考慮した代表的な性能確保策としては、表7.1に示すようなものがある。

(2) 運用段階

計画・設計段階で決定される道路構造に加えて、交通運用手法も道路の性能を大きく左右する。

トラフィック機能が主体の階層に関しては、自動車専用道路では、例えば車線運用による車線利用率の変化が性能に影響を与える。また、交通混雑や工事など一時的に高い需要が発生した場合でも、弾力的に路肩を活用することで車線を確保し、道路の性能が著しく低下しないような対応が望まれる。一般道路でも、例えば信号制御の最適化・高度化によってトラフィック機能を高めることができる可能性がある。また、通勤・帰宅のピーク時に合わせたリバーシブルレーンの導入なども検討できる。

これらに加えて今後は、ITSや情報提供の活用など、特にソフト面で、より多様な性能確保手法の検討が可能になると期待される。また、交通需要が著しく高い地域や時間帯などにおいて、道路の計画・設計・運用といった供給側の対策だけでは性能を確保できない場合には、混雑課金・ランプメータリングなどによる交通需要側の対策と連携して性能確保に努める必要がある。


表7.1 性能を確保するための対策例

対策狙い
付加車線設置適切な追越し機会の提供・車線利用率の是正・本線交通流の速度低下防止
直進車線の立体交差化直進車線の遅れ解消
副道出入交通の集約
右折車線・右折ポケット沿道施設に出入する右折車による本線交通流のブロック防止
信号交差点のコンパクト化信号サイクル長の短縮
バスベイバス停車による影響を緩和
荷さばきスペース業務交通に停車空間を提供
駐停車マス駐停車機会を提供
ハンプ(凸部)・シケイン(屈曲部)・狭窄部・クルドサック交通静穏化
7.2.4 道路ネットワークの将来計画 ここまでに述べた階層型ネットワークの計画において重要なのは、道路網をなるべく早期に機能に応じて階層化しておくことである。そうすることで、ネットワークの各部分がそれぞれの役割を果たし、全体としての効率性が高まるとともに、将来の開発や需要の変化に柔軟に対応できるようになる。

道路ネットワークの計画は、 20年先、 30年先といった長期的な視点で行う必要があるが、その間には社会情勢や交通需要も大きく変化するだろう。そこで、計画においては多様なシナリオを考慮し、それぞれのシナリオに応じた望ましいネットワーク像を描いておくことが重要である。

特に近年では、 ICTやITS、自動運転技術などの発展により、道路交通システムのあり方そのものが大きく変わる可能性がある。例えば、交通需要の時間的・空間的な平準化が進んだり、車両の小型化・電動化が進むかもしれない。そうした状況に対しても、機能階層型の道路ネットワークはロバストに対応できると考えられる。つまり、将来どのような方向に社会が進んだとしても、機能に基づいて適切に計画された道路ネットワークは、それに適応して役割を果たし続けることができるのである。

もちろんその際には、時代に応じて各階層の性能目標や役割分担を見直していく必要がある。例えば、自動運転の普及に伴い、人の判断を介さない車両の走行が一般的になれば、各階層に求められる性能や接続条件なども変化するだろう。

また、道路と他の交通モード(鉄道、航空など)との役割分担や連携のあり方も、技術の進歩に伴って変化していくと考えられる。道路ネットワークの計画にあたっては、他のモードとの整合性にも十分に留意する必要がある。

7.2.5 おわりに 本節では、機能階層型道路ネットワークの計画・設計について、その基本的な考え方と具体的な方法論、将来への展望などについて概説した。道路ネットワークを機能に応じて階層化し、各階層の役割を明確にすることで、安全性、効率性、環境への適合性など、道路に求められるさまざまな要件を同時に満たすことが可能になる。

一方で、機能分化を進めるためには既存の道路の大規模な改良が必要となることも多く、多大な時間と費用を要する。そのため、各地域の実情に応じて優先順位をつけながら、長期的・段階的に取り組んでいくことが求められる。

今後はさらに、ビッグデータやAIなどの新技術を活用した道路交通マネジメントの高度化が進むと考えられる。そうした新しいアプローチを取り入れつつ、機能階層型道路ネットワークの考え方を発展させていくことが、持続可能な道路交通システムの実現につながるだろう。

人口減少と高齢化が進行し、環境・エネルギー制約がますます強まる中、限られた道路空間を賢く使いこなすことがこれまで以上に重要になっている。機能に基づく道路の階層化は、そうした課題解決に向けた有力なアプローチの一つといえる。道路の計画・設計・運用に携わる技術者には、本節で述べたような考え方を理解し、それぞれの現場で実践していくことが期待される。

Footnotes

  1. 道路構造令に基づく道路の種類(高速自動車国道、一般国道、都道府県道、市町村道)と級(第1級〜第4級)の組み合わせによる区分。 2

  2. 自由走行可能距離(追従走行区間)の全走行距離に対する割合の逆数。