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7.4 交通信号制御交差点の管理・運用

本節では、交通信号制御交差点の管理・運用について、信号制御手法を中心に概説する。なお、本節に記載されている事項は、『改訂平面交差の計画と設計基礎編』[^11]、および『改訂交通信号の手引』[^12]の内容に準拠して記載されている。各項目については当該文献に詳細な説明があるので、当該文献も併せて参照されたい。

7.4.1 信号制御交差点に関する基本概念

(1) 基本的考え方

一般道路においては複数の方向からの交通が同一平面を利用するため、平面交差によって交通が処理される。これらの平面交差は、交通量が大きくない場合には、一時停止などの無信号制御や、ラウンドアバウト(環状交差点)による制御がなされるが、ある程度以上の交通量になると、交通流の円滑および安全の観点から信号制御により処理される。一般道路における渋滞のほとんどは信号制御交差点が原因であり、安全上も多くの課題があることから、道路交通において信号制御交差点の計画・設計およびその管理・運用が果たす役割はきわめて大きい。

平面交差の幾何構造と交通制御とはたがいに強い相互制約、相互依存関係にあって、おのおのを単独に扱うことができない。例えば、安全上の理由から右折専用現示を設けようとすれば、右折車線が必要である。また、同方向2車線を一時停止規制でさばくことは一般に危険であるので、従道路を拡幅すれば信号制御にしなければならないということも起きる。したがって、平面交差の計画・設計においては、新設の場合であれ改良の場合であれ、つねに幾何構造と交通制御とを同時に検討し、それらの組合せとしての計画と設計を行う必要があることに留意すべきである。

(2) 交通信号制御交差点の管理・運用に関する基本要素

交通信号制御交差点の管理・運用に当たり基本となる要素について、簡単に説明する。なお、より厳密な定義や基本特性については、I編4.3.4項「交通信号制御」も参照されたい。

(1) 信号現示 信号現示(signal phase)とは、一つの交差点において(歩行者も含む)ある1組の交通流に対して同時に与えられている通行権、またはその通行権が割り当てられている時間帯のことをいう。

(2) 制御パラメーター 信号制御パラメーターには、サイクル長、青時間スプリット、オフセットがある。

サイクル長(cycle time)は、信号現示が一巡する時間のことをいい、通常(s)で表す。

青時間スプリット(green split)とは、青表示の長さ(厳密には「有効青時間」)をサイクル長で割った値であり、「青時間率」とも呼ぶ。この場合、各現示の有効青時間の総和は、サイクル長から各現示切替り時の損失時間の総和を引いたものに一致するため、青時間スプリットの総和は1よりも小さくなる。

オフセット(offset)とは、隣接する信号交差点間の信号表示の時間的ずれのことをいい、系統制御における重要なパラメーターとなる。主道路青表示の開始時点の当該信号機群に共通な基準時点からのずれを絶対オフセットといい、また、隣接交差点間の同一方向の青表示開始点のずれを相対オフセットという。いずれも時間(s)またはサイクル長に対する百分率で表す。

(3) 飽和交通流率 飽和交通流率(saturation flow rate)とは、交差点流入部において単位時間当りに停止線を通過し得る最大の車両数であり、通常は有効青1時間当りの通過台数で表される〔台/有効青1時間〕。直進車線、右折専用車線、左折専用車線など、交通流の動線方向が異なると車線別飽和交通流率の値は異なり、車線幅員や大型車混入率など、道路・交通条件によっても異なる。

(4) 損失時間 信号現示の切替り時に発生する、車両の通行のためには有効に使われない時間を、損失時間(lost time)という。損失時間は一般に、現示終了時のクリアランス損失と次現示開始時の発進損失を合計したものとして捉えられる。これをすべての切替りについて合計した値を「1サイクル当りの損失時間」という。

(5) 需要率 需要率(flow ratio)とは、設計交通量(設計条件として与えられる交通需要)を飽和交通流率で除した値であり、その交通量をさばくために最低限必要な青時間スプリットを表す指標である。現示を構成する各方向別に定義された需要率を方向別需要率という。現示の需要率は、現示に含まれる方向に対する方向別需要率のうち、最大の需要率を表す。さらに、現示の需要率をすべての現示について合計したものを交差点需要率という。交差点需要率は、交差点における交通需要をさばくために最低限必要なスプリットの合計を表す。したがって、これが1.0を超えると、どのように信号制御をしても設計交通量をさばくことができず、過飽和状態となる。ただし、実際の信号制御では、現示切替りに伴う損失時間が発生すること、ランダム到着の影響を受けることから、1.0を下回っていてもさばけ残りが発生する。

(6) 信号制御方式 信号制御方式を概念的に整理すると、制御対象の信号交差点間の関連性と制御パラメーターの設定方式という、二つの視点から分類できる。

制御対象の信号交差点間の関連性からは、つぎのように分類される。

a) 地点制御(isolated control):信号交差点を単独で制御する方式である。

b) 路線系統制御(arterial coordinated control):一連の隣接する交差点を相互に連動させて制御する方式である。系統制御する複数の信号に対して共通サイクル長を定め、オフセットを適切に設定することにより、車両の停止回数の減少、停止時間の短縮、安全性の向上などの効果が期待される。

c) 面制御(area-wide coordinated control):面的に広がる道路網に設けられた多数の信号機を一括して制御する方式である。

また、制御パラメーターの設定方式からは、つぎのように分類される。

d) 定周期制御(pre-timed control):時間帯に応じてあらかじめ定められたパラメーターで制御される方式である。1日中同じ表示を繰り返す一段定周期制御や、曜日・時間帯に応じてあらかじめ制御パターンを作成しておき、定められた制御パラメーターの組合せ(プログラム)の中から一つを選択して制御する方式である多段定周期制御(定時式プログラム選択制御)などがある。

e) 端末感応制御(actuated control):車両感知器により、瞬間あるいは比較的短時間の交通需要や車両到着を感知し、青表示の開始や終了などを決定する信号方式である。全現示を感応式にしたものを全感応制御、一部の現示のみを感応式にしたものを半感応制御という。右折専用現示において右折車両の存在や到着を感知し、右折車両が多い場合には青表示の延長、右折車両が存在しない場合には青表示の打切りを行う制御などが端末感応制御の例である。

f) 中央感応制御(adaptive control, responsive control):路線系統制御・面制御される複数の交差点に対して、車両感知器等から得られた交通量などのデータに基づき制御パラメーターを変化させて制御する方式である。あらかじめ定められたプログラムの中から交通状態に最も適する一つを選択するプログラム選択制御、オンラインでパラメーターや信号表示の切替えタイミングが決定されるプログラム形成制御がある。

7.4.2 信号制御交差点の管理・運用の基本的考え方

先に述べたように、信号制御と幾何構造は相互依存関係にある。そのため、信号制御と幾何構造は併せて検討を進めていく必要がある。そのような観点から、信号制御交差点における計画・設計の手順について、信号制御と幾何構造の相互関係も踏まえつつ、検討の手順および留意点について概説する。

(1) 検討の手順

(1) 状況把握 計画・設計箇所の道路状況、交通状況、周辺状況について、それぞれ前提条件を把握し、整理する。

(2) 交差点の概略設計 道路幅員などの前提条件を踏まえた上で、横断構成を設定する。設定した横断構成と前提条件として把握した交通状況を踏まえて、現示方式(現示の組み方)やその順番を設定する。この際、横断構成と現示方式は整合している必要があり、単に与えられた横断構成に従って現示方式を考えるのみならず、交通処理の安全・円滑上望ましい現示方式を検討した上で、それに合わせて横断構成を再検討することも重要である。

(3) 交差点内幾何構造の設計 交差点内幾何構造の詳細を設計していく。ここで検討すべき事項としては、平面交差点の大きさを決定するための右左折車の走行軌跡の設定、走行軌跡に車両の旋回特性を反映させた上で交差点隅角部の詳細の決定、決定した歩道巻込み線に合わせた横断歩道や停止線等の路面標示の設計がある。

(4) 信号制御と交通処理検討 まず、交差点流入部の接近速度および流入部の停止線からその対向車線の停止線までの距離を用いて、黄表示の時間と全赤時間(すべての信号が赤表示となる時間)を設定する。つぎに、方向別需要率、現示の需要率、交差点需要率を順次算出し、交差点需要率に基づきすべての交通をさばくことができるかどうか判定する。さばくことが困難な場合には、現示方式等を再検討する必要がある。交差点の需要率を用いてサイクル長を設定し、それぞれの青表示時間を設定する。最後に、設定したサイクル長、青時間を用いて交通処理能力が十分にあることを確認する。

(5) 交差点流入部幾何構造の設定 右左折車線を設けた場合の車線長を決定する。右左折車線長は、右左折待ち車両が滞留して直進車線にあふれ出ることのないよう、必要な長さを確保する必要がある。その上で、交差点流入部における路面標示(矢印等)を決定する。

(2) 信号制御に関する留意点

(1) 現示方式の設定 現示方式(現示の組み方)は、信号制御交差点の運用上最も重要な要素である。現示方式により動線の交錯・分離とその順番を規定することとなるため、現示方式は安全上大きな影響を及ぼす。また、現示方式が複雑になり、現示数が増加すると、現示の切替え時の損失時間が増加し、交差点の処理能力は低下する。したがって、現示方式は特に慎重に検討する必要がある。

現示方式は、交差点の構造、交通条件、交差点の立地条件に十分配慮した上で設定する必要がある。まず、互いに交差あるいは合流しない交通流線の組合せをつくり、それぞれを一つの現示の対象とする。このうち、交差あるいは合流が許容できるもの(直進と右折など)は、まとめて一つの現示を割り当てることもある。以下に主な例を示す。

a) 標準2現示方式 標準的な十字交差点では、主として歩行者と右折交通の処理方法によって現示の組合せが決まる。歩行者や右折交通量が少なく、交差点の需要率が小さい場合には、2現示で処理することが可能である(図7.9(a)参照)。

交通需要の多い交通流線が交錯する場合や、自動車と歩行者の動線を分離して歩行者の安全性を高める場合などには、現示数を増やして多現示方式により制御することとなる。以下の例は多現示方式の例である。

b) 右折専用現示 矢印信号灯器を用いて右折交通流に対して制御する信号現示を右折専用現示という(図7.9(b)参照)。十字交差点等において、右折需要が多く青信号表示でさばくことができない場合、または右折車両と対向直進車両等の衝突事故を防止するために直進・左折と分けて右折車両をさばく必要が高い場合に設置する。この際、右折専用車線もしくは右折待ち車両が滞留できる車線幅員のあることが必要となる。

c) 時差式信号現示 複数方向を同時に流す現示の後に、いずれか一方向の青信号表示を延長する信号現示を、時差式信号現示という。時差式信号現示は、右折専用車線が設置できない交差点や、右折専用車線の有無にかかわらず、右折、直進方向の交通需要がともに多い交差点への導入が有効である。時差式信号現示の例を図7.9(c)に示す。

d) 歩車分離方式現示 横断歩道が設けられている場合には、歩行者の横断のための現示を確保しなければならない。歩行者交通流は、これと交差する自動車交通流が低速の場合にのみ両者を同一現示で処理できる。しかし、横断歩行者が多く、左折車両台数が十分に処理できない場合や、右左折車との交錯による事故の危険性がある場合は、歩行者の信号現示を分離する方法を検討する。

歩車分離方式としては、スクランブル現示があるほか、歩行者と車両の交錯がまったく生じない信号表示や、歩行者と車両の交錯が少ない信号表示による現示方式が考えられる。その例を図7.9(d)、(e)に示す。歩車分離方式現示の導入に当たっては、自動車処理能力の低下による渋滞の発生・悪化や、信号待ち時間の増加による歩行者や車両の信号無視を誘発するなどの悪影響が発生する場合もあるので、効果と悪影響を総合的に勘案する必要がある。

(2) 黄・全赤時間の設計と損失時間 信号現示の切替え時には、それまで通行権を得ていた交通の流れを安全に、しかも円滑に停止させることが必要である。このために必要な時間を黄時間と全赤時間によって設定しなければならない。

a) クリアランス距離の考え方 現示の切替り時において、前の現示の車両や歩行者が、つぎの現示の車両や歩行者の動線と交錯する位置を通り過ぎるまでに必要な移動距離をクリアランス距離という。全赤時間を考えるに当たっては、クリアランス距離を考慮して動線が交錯しないように確保しなければならない。例えば、図7.10は、図7.11における現示2の右折動線と現示3の直進動線とが交錯する点Cに着目して両者の交錯を模式的に時間距離図に描いたものである。必要な全赤時間Δ\DeltaΔ=TfTc\Delta=T_f-T_cで与えられる。ここで、TcT_cとは現示2の右折車が点Aから点Cに達するまでの時間、TfT_fとは現示3の直進車が点Bから点Cに達するまでの時間である。一般に、一つの現示では複数の動線に通行権が与えられるので、当該現示と次現示の交錯点も複数存在し得る。すべての交錯点のΔ\Deltaの最大値が、確保すべき全赤時間となる。なお、日本では安全側の立場からTf=0T_f=0とする場合が多い。しかし、この場合には全赤時間が過大となるおそれがある。損失時間が大きくなると信号制御交差点全体の処理能力の低下につながることから、安全性に配慮しつつ、全赤時間を短くすることを検討すべきである。

黄時間と全赤時間の計算例[^12]

動線交錯点[^12]

b) 現示切替え時の車両挙動 黄表示に直面した車両の運転者は、停止線等で安全に停止する必要があり、できない場合には、赤表示が始まるまでに停止線を越える必要がある。運転者の信号切替り時の予測・判断がうまくいかないと、急減速や急ハンドルなど錯綜が生ずることになる。こうした状態にあるかどうかを評価する手法として、ジレンマゾーン、オプションゾーン、コンフリクトゾーン、およびエスケープゾーンという考え方がある[^13]。ジレンマゾーン(dilemma zone)とは、通常の減速度で安全に停止することも、そのまま通過することも両方ともできない領域のことであり、オプションゾーン(option zone)とは、安全に停止すること、あるいはそのまま通過すること、どちらも選択できる領域のことである。一方、コンフリクトゾーン(conflict zone)とは、黄時間中に停止線を越えて交差点内へ進入することができるが、全赤表示が終了する前までに交差点を通過し終わることができない領域であり、エスケープゾーン(escape zone)とは、赤表示が始まってから停止線を越えて交差点内へ進入しても、全赤表示が終了するまでに交差点を通過し終わることのできる領域である。いずれも黄または赤表示開始時の交差点流入路の上流方向位置とそのときの接近速度によって規定される。なお、最適全赤時間長は、コンフリクトゾーンとエスケープゾーンの範囲がなるべく小さくなるように設定されるが、クリアランス距離と接近速度に依存しており、クリアランス距離が大きいほど長くなり、接近速度が高いほど短くなる。

c) 黄時間と全赤時間の設定 黄時間と全赤時間は、交差点への接近速度と交差点のクリアランス距離により異なるが、交差点への接近速度が高い場合は、黄時間は長め、全赤時間は短めに設定する必要がある。また全赤時間は、クリアランス距離が大きいほど長めに設定する必要がある(図7.11参照)。しかし実際には、運転者が黄表示に直面したときに通過または停止を判断するためには、黄信号の長さは場所によらず一定であるほうが望ましい。また、全赤時間が長過ぎると黄表示に直面しても停止しなくなり、全赤表示開始後に停止線を越える車両が生じやすくなるほか、交差側停止車両の違法なフライングを誘発する危険が生ずる。そのため、実務的には先に述べた考え方により導出される値よりも変動範囲を小さく設定することとなる。

d) 損失時間の考え方 信号制御の損失時間は、交差点内の車両を一掃するためのクリアランス損失時間と青信号表示が開始後の発進損失時間を合わせたものである。実用的には黄時間のうち有効に使われる時間と青表示開始直後の発進損失時間とが相殺され、有効青時間長は実青時間長に等しいとされることが多い。この場合、損失時間は黄表示と全赤表示の合計に等しくなる。しかし、黄時間が長い場合は上記の相殺条件は満たされずに、実際の損失時間は(黄時間+全赤時間)よりも短くなる。そのため、全赤表示を伴い黄時間が4秒または黄時間と全赤時間の合計が5秒以上ある場合には、その現示の切替え時における損失時間は、(黄時間+全赤時間)より1秒短い値と考えることがある。この場合、信号サイクル長の計算に用いる損失時間LL [s]は、(黄時間+全赤時間)から、現示の切替え時に上記の条件を満たす場合の回数nnを差し引いた値となる。

(3) 横断歩行者の青時間 横断歩道が設置される場合、歩行者が安全に車道を横断するために必要な時間を確保しなければならない。青時間やサイクル長の最小値はこの点から制約を受ける場合が多い。歩行者が横断に要する時間は、式(7.2)で表される。

tGp=LpVp+PSp×Wt_{Gp} = \frac{L_p}{V_p} + \frac{P}{S_p \times W} ...(7.2)

ここで、tGpt_{Gp}:歩行者現示時間の最小値[s]、LpL_p:横断歩道の長さ[m]、PP:歩行者青表示開始時の横断待ち歩行者数〔人〕、SpS_p:横断歩行者の飽和交通流率(単位横断歩道幅[m]当り)[人/(m/s)]、VpV_p:横断歩行速度[m/s]、WW:横断歩道の幅[m]である。

横断歩行速度は、歩行者の性別、年齢層、横断形態、横断時間帯等によって異なるが、設計上は1m/sがよく用いられる。

歩行者現示時間は、歩行者青時間(PG)、歩行者青点滅時間(PF)から構成される。道路交通法では、青点滅時には「道路の横断を始めてはならず」、また「道路を横断している歩行者は、速やかに、その横断を終わるか、または横断をやめて引き返さなければならない」とされている。そのため、最低でも横断距離の半分を渡るのに必要なPF時間を確保する必要があると考えられている。歩行者現示時間の最小値から、PFを差し引いた残りの時間が、PGの最小値となる。なお、歩行者青時間が極端に短いと青点滅時に急いで横断する歩行者が増え安全上望ましくないことから、歩行者青時間を5秒程度は確保するのが望ましい。

なお、同一現示で車両交通と横断歩行者が通行する場合には、右左折車を処理するために歩行者用現示を車両用現示より短く設定し、歩行者赤・自動車青時間(PR)を設定する。一般に、PRは1~5秒がとられるが、右左折交通量に応じてこれより長い値を設定する。

(4) 青時間スプリットの算定 現示の有効青時間長は、サイクル長から損失時間を差し引いたものを現示の需要率で比例配分して次式に基づいて計算する方法がよく用いられる。この方法は、各現示の代表流入路の需要容量比(degree of saturation)を等しくするように通行権を配分することを意味する。

Gi=(CL)yiYG_i = (C-L) \frac{y_i}{Y} ...(7.3)

ここで、GiG_i:現示iiの有効青時間長[s]、yiy_i:現示iiの需要率、YY:交差点の需要率(=yi=\sum y_i)、CC:サイクル長[s]、LL:損失時間[s]である。

各現示の青時間スプリットgig_iは、有効青時間長GiG_iのサイクル長CCに対する比として式(7.4)により定義される。

gi=GiCg_i = \frac{G_i}{C} ...(7.4)

なお、この青時間スプリットで車両用最小青時間や歩行者用最小青時間が確保されない現示がある場合には、その最小青時間を確保できるように有効青時間長とサイクル長を修正する必要がある。

(5) サイクル長設定の考え方

a) サイクル長の最小値 平面交差点では、赤信号による交通の中断の影響により、交差点の交通需要が交通容量より十分に小さい場合であっても遅れ時間が発生する。交差点遅れ時間は、交差点の交通量や交通容量だけでなく、交通流の到着分布の特性や交差点の交通制御方法と強い関連がある。

孤立交差点で、車両の到着交通流を一様到着として表現する場合、交通需要1台当りの平均遅れ時間は、以下の式(7.5)のように表すことができる。

d=(1g)2C2(1y)d = \frac{(1-g)^2C}{2(1-y)} ...(7.5)

ここで、SS:飽和交通流率、qq:交通需要、yy:需要率(y=q/Sy=q/S)、RR:赤時間長(損失時間を含む)、CC:サイクル長、gg:青時間スプリット(g=G/C=(1R)/Cg=G/C=(1-R)/C)である。

b) ランダム到着の場合の遅れ時間と最適サイクル長 交通流の到着分布をポアソン分布に従うと仮定した場合の平均遅れ時間は、以下のWebsterの式(7.6)で近似される[^14]。

d=(1g)2C2(1y)+y2C2q(1x)0.65(Cq)1/3y2+5gd = \frac{(1-g)^2C}{2(1-y)} + \frac{y^2C}{2q(1-x)} - 0.65 \left(\frac{C}{q}\right)^{1/3} y^{2+5g} ...(7.6)

ただし、x=y/g<1x=y/g<1である。この式の第1項は一様到着を仮定した遅れ時間の式(7.5)に一致する。また、第2項はランダム到着で飽和流により出発した場合の平均遅れ時間に相当する。第3項は、シミュレーション実験によって求めた修正項であるが、一般的に非常に小さい。

実際の到着流はポアソン到着と一様到着の中間的な性質を有している場合が多く、平均遅れ時間は式(7.5)と式(7.6)の中間的な値であると考えられている。

一方、交差点需要率、損失時間LLの関係から、最小サイクルCminC_{min}が以下の式(7.7)で与えられる。

Cmin=L1YC_{min} = \frac{L}{1-Y} ...(7.7)

一様到着を仮定した場合、式(7.5)および式(7.7)から、遅れを最小とするサイクル長は最小サイクル長CminC_{min}となる。一方、ランダム到着の影響を考慮した場合、Websterの式(7.6)を用いた遅れを最小とする最適サイクル長として、式(7.8)のCoptC_{opt}が示されている[^14]。

Copt=1.5L+51YC_{opt} = \frac{1.5L+5}{1-Y} ...(7.8)

c) 実用サイクル長 1977年の『平面交差の計画と設計』(交通工学研究会)によると、実用的な最小サイクル長を式(7.9)で与えることを提案している。

Cmin=L1(Y/0.9)C_{min'} = \frac{L}{1-(Y/0.9)} ...(7.9)

d) サイクル長を長くすることの弊害と最大サイクル長 交通需要が多く、需要率が大きい場合等において、必要な青時間比率を確保するためには、サイクル長を長くすることになる。一方、サイクル長を長くすることにより以下のような弊害が発生する。

  • 非飽和時の遅れが増大する。
  • 赤信号による待ち行列が上流側交差点まで延伸することにより、上流側交差点のさばけ台数を大幅に低下させる(先詰まりの発生)。
  • 右折待ち車両が右折専用車線の貯留可能台数を超えて到着し、あふれることにより、右折以外の直進交通などの車線閉塞を起こし、容量の大幅低下を招く。
  • 歩行者の信号待ち時間が増大し、心理的負担を増大させたり、信号無視を誘発するおそれがある。
  • 長い青信号は飽和交通流率を低下させることが知られている。そのため、長いサイクル長は処理効率の低下を招き、サイクル長を長くしても期待されるほどの容量増大効果は得られない。

したがって、交通需要が多い場合であっても、サイクル長はできるだけ短くする方向で検討することが望ましい場合が多い。一般的に120秒程度、最大でも180秒程度を最大とすべきである。一方、現示数が多くなると損失時間が増大し、計算上サイクル長が長くせざるを得ない場合がある。その際には、車線運用の見直しや交差点構造の改良なども併せ、現示方式の再検討を行う。

e) 系統制御の場合のサイクル長 複数の信号機群に対して系統制御を行う場合、共通のサイクル長を与えなければならない。この場合、最も高い需要率の交差点(重要交差点という)に適切なサイクル長を共通サイクル長とするのが一般的である。ただし、重要交差点以外の交差点の従道路の状況を考慮すると、総遅れ時間等に関しての最適解とは限らない。

非飽和時に隣り合う二つの信号交差点間のリンクに生ずる遅れは、相対オフセットとサイクル長によって決まる。往復所要旅行時間TTがサイクル長CCの整数倍(T=nCT=nC)のとき、相対オフセットの調整によってリンクの総遅れ時間を極小化でき、系統効果を最も高めることができる。逆に、T=(2n1)C/2T=(2n-1)C/2のとき、両方向の交通量が均衡していると、オフセットによらずリンクの総遅れはあまり変わらず、系統効果は最も低くなる。街路網の一般的なリンク長と、系統速度においては、往復旅行時間TTに対して常用のサイクル長の範囲(90~180秒)はほぼT/2TT/2 \sim Tの範囲付近にある。そのため、できるだけ短いサイクル長を用いることにより総遅れ時間を小さくできる可能性がある。実際の設定においては交通流シミュレーションを用いてオフセットの検討を行い、系統全体の最適サイクル長を決定することが望ましい。なお、系統内に需要率の特に低い交差点がある場合には、それらの交差点のサイクル長には共通サイクル長の半分のサイクル長が適用されることもある。

(6) オフセットの設定 オフセットは系統制御に特有な信号制御パラメーターであり、系統制御の効果に大きな影響を及ぼす。系統制御の最大の目的は遅れや停止回数を減らすことである。しかし、遅れ時間や停止回数を最小にするオフセットを解析的に求めることは容易ではない。そのため、従来はスルーバンド幅を最大にするという考え方を用いてきた。しかし、スルーバンド幅は、交通流における遅れや停止回数とは直接的な関連がないため、今日では系統効果の定量的評価基準として必ずしも適切でないという認識が広まっている。スルーバンド幅の最大化に代わるオフセット設計方法としては、交通流シミュレーションの活用が挙げられる。以下、オフセットに関する基本的な事項について述べる。

a) 平等オフセットと優先オフセット 上り、下りの両方向の交通に対してほぼ同等の系統効果を与えるようにオフセットを設定する方式を平等オフセットという。一方、上り、下りの方向別の交通需要に差がある場合などにおいて、いずれか一方向に対して優先的に高い系統効果を与えるようにオフセットを設定する方式を優先オフセット方式という。

b) 同時式オフセットと交互式オフセット 同時式オフセットとは、相対オフセットがほぼゼロとなるようなオフセット、交互式オフセットとは、相対オフセットがほぼ50%となるようなオフセットのことをいう。平等オフセット方式の場合、基本オフセット(一つのリンクについて交差点が飽和することがなく、一様な流れから成る単純な直進交通流を仮定した場合に、リンクの遅れを最小にする相対オフセット)は、同時式オフセットあるいは交互式オフセットのいずれかとなり、リンクの長さが往復旅行時間TT、サイクル長CCの条件から以下のように整理される。

0<T2/5C0 < T \leq 2/5C :同時式オフセット

2/5C<T3/5C2/5C < T \leq 3/5C :交互式オフセット

3/5C<T5/5C3/5C < T \leq 5/5C :同時式オフセット

(7) 多車線道路の場合の留意事項 多車線道路が2車線道路と異なるのは、右左折車線の設置など柔軟な車線運用が可能な点である。そのため、信号制御と車線運用の工夫によって、安全性と円滑性に配慮した柔軟な交通運用が可能となる。しかし、これまでは、信号制御については2現示を基本として2車線道路と同様の検討がなされ、多現示化が図られている場合が多い。このケースで多く見られるのは、標準2現示に右折専用現示を組み合わせた4現示制御である。しかし4現示とするのであれば、12方向ある十字交差点の動線を(歩行者も含めて)すべて分離型で現示設計することが可能である(図7.12参照)。そのため、現示設計や方向別車線配分を、単純2現示/流入部別制御の発展型として考えるのではなく、分離された動線どうしの組合せで各現示を組み、異なる現示となる動線の車線も分離した形での現示設計を行うことをまずは検討すべきである。その上で、現場に即して、完全動線分離型での設計が難しい条件の場合に、一部、動線の交錯を許すことを考えていくことが望ましい。

多車線時の現示構成例[^12]

(8) 運用開始後のモニタリングと設定値の修正 当初設定した信号パラメーターが交通状況に合っているとは限らず、また時の経過とともに交通状況が変化し、当初設定したパラメーターが合わなくなることは十分に考えられる。そのため、日常的に信号の運用状況と交通状況をモニタリングし、適切な信号パラメーターの設定になっているかどうかチェックすることが重要である。その上で、必要があれば設定値の修正を行う。

7.4.3 信号制御交差点の管理・運用に関する現状と今後の展望・課題

多くの都市においては、中央感応制御で制御パラメーターを自動調整するシステムが導入されている。数多くの運用実績を持つものとしてはイギリスで開発されたSCOOT[^15]、オーストラリアのSCAT[^16]、イタリアのUTOPIA[^17]等がある。わが国ではMODERATOが広く用いられている。これらの詳細については、文献[^12]にまとめられている。このような信号制御を高度化する研究開発は鋭意進められており、プローブデータを信号制御に用いるものや、系統制御において自動車に推奨速度を情報提供し停止を少なくするグリーンウェーブなど、さまざまな視点での高度化が進められている。

一方、日本における信号制御の課題の一つとして、横断歩行者の処理の問題がある。特に、主道路を横断する歩行者青が長くなると、サイクル長増加やさばけ台数減少につながる。対応として、2段階横断や、歩行者青と青点滅の配分見直しなどが考えられる。海外ではこのような事例は多く、日本でも実証実験等も行われたが事例は多くなく、さらなる検討が求められる。また、今後さらに増える高齢者への対応、自転車の交差点内処理の対応などは、大きな検討課題になると考えられる。(小根山裕之)