土木工事の安全対策
安全措置一般
土木工事の安全に関する規程等
土木工事の安全対策は、主として労働安全衛生法およびその関係政省令にしたがって取り組まれる。しかし、労働安全衛生法令は労働者の安全対策が中心であるため、工事関係者以外の第三者の生命・財産への危害についても対策する必要がある。第三者への危害は絶対にあってはならない。このため、国土交通大臣より「建設工事公衆災害防止対策要綱」が告示されている。公災防は、重要な規範としての位置づけにとどまらず、多くの公共工事において仕様書に遵守義務が明記されているので、この場合遵守しなければ直ちに契約違反となる。また、公災防には、発注者や設計者の責務も 明記されている。
また、土木工事に関してこれらの法令・要綱を踏まえてさらに具体的な内容にも言及した「土木工事安全施工技術指針」が国土交通省より示されており、各公共工事発注者の土木工事共通仕様書においては参考にすることが求められている。
本章の土木工事の安全対策は、これらの法令・要綱・指針に沿って解説する。なお、これらの法令等に具体の記載がなくとも、工事現場の責任者たる事業者にとって、現場における危険性の事前評価(リスクアセスメント)を行い、相当の注意をもって労働災害・公衆災害を防ぐ方策を実施することは、法的にも道義的にも本来の責務である。
安全措置の留意事項
施工計画、指揮命令系統の周知
施工計画、指揮命令系統および作業の順序、方法等をあらかじめ作業員に周知する(工安針第2章第10節1)。
保護具等の着用と使用
保護具等の常備と使用については、次の通りとなる。
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呼吸用保護具等
- 事業者は、著しく暑熱又は寒冷な場所における業務、多量の高熱物体、低温物体又は有害物を取り扱う業務、有害な光線にさらされる業務、ガス、蒸気又は粉じんを発散する有害な場所における業務、病原体による汚染のおそれの著しい業務その他有害な業務においては、当該業務に従事する労働者に使用させるために、保護衣、保護眼鏡、呼吸用保護具等適切な保護具を備えなければならない(安衛則593条)。
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皮膚障害等防止用の保護具
- 事業者は、皮膚に障害を与える物を取り扱う業務又は有害物が皮膚から吸収され、若しくは侵入して、健康障害若しくは感染をおこすおそれのある業務においては、当該業務に従事する労働者に使用させるために、塗布剤、不浸透性の保護衣、保護手袋又は履(はき)物等適切な保護具を備えなければならない(安衛則594条)。
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騒音障害防止用の保護具
- 事業者は、強烈な騒音を発する場所における業務においては、当該業務に従事する労働者に使用させるために、耳栓その他の保護具を備えなければならない。事業者は、労働者に耳栓その他の保護具の使用を命じたときは、遅滞なく、当該保護具を使用しなければならない旨を、作業中の労働者が容易に知ることができるよう、見やすい場所に掲示しなければならない(安衛則595条)。
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保護具の数等
- 事業者は、保護具については、同時に就業する労働者の人数と同数以上を備え、常時有効かつ清潔に保持しなければならない(安衛則596条)。
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労働者の使用義務
- 規定する業務に従事する労働者は、事業者から当該業務に必要な保護具の使用を命じられたときは、当該保護具を使用しなければならない(安衛則597条)。
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専用の保護具等
- 事業者は、保護具又は器具の使用によって、労働者に疾病感染のおそれがあるときは、各人専用のものを備え、又は疾病感染を予防する措置を講じなければならない(安衛則598条)。
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保護帽
- 明り掘削の作業 (安衛則366条)
- 採石の作業 (安衛則412条)
- 最大積載量が5t 以上の貨物自動車の荷の積み卸し作業 (安衛則151条の74)
- 最大積載量が5t 以上の不整地運搬車の荷の積み卸し作業 (安衛則151条の52)
- ジャッキ式つり上げ機械を用いた荷のつり上げ、つり下げ等の作業 (安衛則194条の7)
- 高さ2m以上のはいの上における作業 (安衛則435条)
- 高さ5m以上または支間30 m以上の鋼橋の架設、解体、変更(大規模補修など)の作業 (安衛則517条の10)
- 高さ5 m以上または支間30 m以上のコンクリート橋の架設、変更の作業 (安衛則517条の24)
- 高さ5m以上のコンクリート造の工作物の解体等の作業 (安衛則517条の19)
- 高層建築場等で物体の飛来落下の危険のある作業 (安衛則539条)
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要求性能墜落制止用具
- 高所作業車(作業床が接地面に対し垂直にのみ上昇しまたは下降する構造のものを除く) (安衛則194条の22)
- 高さ2 m以上の高所作業で墜落の危険がある作業 (安衛則518~521条)
- つり足場、張出し足場または高さ2 m以上の足場の組立て、解体、変更の作業 (安衛則564条)
- クレーン、移動式クレーンの専用の搭乗設備に必要があって労働者を乗せる場合 (クレーン則27条 クレーン則73条)
- ゴンドラの作業床での作業 (ゴンドラ則17条)
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防毒マスク
- 酸素欠乏の危険がある作業 (酸欠則6条)
水上作業時の器具
- 水上作業には、器具をそろえておくこと。
- 水中に転落するおそれのあるときは、器具を使用すること。
非常事態における応急処置
非常事態の発生時における連絡の方法、応急処置の方法等を作業員に周知すること。
危険箇所の周知
架空工作物、特に高圧電線等は、その危険性について作業員に十分認識させておくこと。
作業環境の整備
材料の置き場所、作業に適した場所を選定し、脚、非常口、分電盤、操作盤の前面等は避けること。
投下・落下・飛来に関する安全対策
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3m以上の高所から物体を投下するときは、適切な投下設備を設け、監視人を配置するなど、危険を防止するための措置を講ずること。
- 立入禁止区域を設け、監視員を配置すること。。(工安針第2章第6節3)
- 投下設備は、ゴミ投下用シュートまたは木製によるダストシュート等、周囲に投下物が飛散しない構造であること。(工安針第2章第6節3)
- 投下設備先端と地上との間隔は、投下物が飛散しないように、投下設備の長さ、勾配を考慮した設備とすること。(工安針第2章第6節3)
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物体が落下することにより、労働者に危険が及ぶおそれのあるときは、防網(防護網、安全ネット)の設備を設け、立入区域を設するなど、危険を防止するための措置を講ずること。
- 構造物の出入口と外部足場が交差する場所の入口上部には、飛来落下の防止措置を講じること。(工安針第2章第6節1)
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物体が飛来することにより、労働者に危険が及ぶおそれのあるときは、飛来防止の設備を設け、保護具を使用するなど、危険を防止するための措置を講ずること。
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足場、鉄骨等物体の落下しやすい高所には物を置かないこと。また、飛散物を仮置きする場合は緊結するか、箱、袋に収納すること。やむを得ず足場上に材料等を集積する場合は、集中荷重による足場のたわみ等の影響に留意すること。(工安針第2章第6節4)
- 作業床端、開口部、のり肩等の1m以内には集積しないこと。作業床の開口部等では、幅木等により、落下を防止する措置を講じること。(工安針第2章第6節4)
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上下作業は極力避けること。やむを得ず上下作業を行うときは、事前に両者の作業責任 者と場所、内容、時間等をよく調整し、安全確保を図ること。(工安針第2章第6節5)
墜落による危険を防止するための安全ネット
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ネットの材料は、合成繊維とすること。
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網目は、その辺の長さ(一マスの大きさ、目合い)が10cm以下とすること。
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作業床等とネットの取付け位置との垂直距離(以下「落下高さ」という。)は、次の式により計算して得た値以下とすること。
- 単体ネットの場合
- のとき
- のとき
- 複合ネット(単体ネッ トを組み合わせたネット)の場合
- のとき
- のとき
- ここで、、およびは、それぞれ次の値を表すものとする。
- : 単体ネットにあってはその短辺の長さ、複合ネットにあってはそれを構成するネットの短辺の長さのうち最小のもの(単位m)
- : ネット周辺の支持点の間隔(単位m)
- : 落下高さ(単位m)
- 単体ネットの場合
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ネットの支持点の間隔は、ネット周辺からの墜落による危険がないものであること。
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ネットの損耗が著しい場合、ネットが有毒ガスに暴露された場合等においては、ネットの使用後に試験用糸について等速引張試験を行うこと。
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ネットは、紫外線、油、有害ガス等のない乾燥した場所に保管すること。
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次のネットは、使用しないこと。
- 網糸が規定する強度を有しないネット
- 人体またはこれと同等以上の重さを有する落下物による衝撃を受けたネット
- 破損した部分が補修されていないネット
- 強度が明らかでないネット
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ネットには、見やすい箇所に次の事項が表示されていること。
- 製造者名
- 製造年月
- 仕立寸法
- 網目
- 新品時の網糸の強度
仮設工事
仮設構造物は、永久構造物とは異なり、特定の期間だけ用いられ、工事完成時には一般的に撤去される構造物のことで、建設工事においては欠くことのできな いものである。
仮設構造物に係る事故には、組立てまたは解体作業中および使用中における仮設構造物自体の倒壊と、作業員の墜落や物の落下等による被災がある。発生件数では墜落災害が多く見られる。
また、仮設構造物の倒壊事故は数こそそれほど多くはないが、一度発生すると多数の死傷者を出す重大な災害となりやすいうえ、近年の市街地工事の増大により、第三者を巻き込む事故となる可能性が高まっている。
仮設構造物に係る事故の背景には、仮設構造物はいずれは撤去されるものであることから、あまり重要視されなかったり(油断)、経費節減の対象項目とされやすい(手抜き)ことが挙げられる。
このような仮設構造物に係る事故を未然に防止するためには、当該仮設物の重要性に応じた現地調査や解析を入念に行い、適切な施工計画を立て、個々の仮設構造物ごとに、きめ細かい安全上の対策を講じることが基本となる。
施工者は、工事着手前の施工計画立案時において強風、豪雨、豪雪時における作業中止の基準を定めるとともに、中止時の仮設構造物、建設機械、資材等の具体的な措置について定めておかなければならない。
- 良質な材料を使用すること。
- 丈夫な構造とすること(構造物としての剛性を高め、基礎の沈下等を防止する)。
- 墜落、転落が起きない構造とすること(足場および手すりの設置、開口部の閉塞)。
- 万一、墜落·転落しても事故とならない措置を講ずること(防網、転落防護柵、親綱の使用等)。
- 点検を行うこと(設置完了時の点検、作業開始前点検、定期点検)。
安全通路·架設通路 ·昇降設備等
工事現場内または工事現場に通ずる場所には安全な通路を設け、これを有効に保持しなければならない。通路は、その場所で作業をしている者はもちろん、作業員以外の通行者も利用することがある。さらに、工事用のダンプトラック等の運搬車、車両系建設機械等が頻繁に通行するため、作業員がこれらの機械に接触、巻き込まれまたは轢かれて被災する災害が多発している。また、桟橋、階段等から作業員や通行者が墜落する災害も多発している。
このような災害を防止するために、通路は、危険のない良好な状態を保持するよう維持管理し、見通しの悪い曲がり角や交差点等には標識を立て、誘導員を配置するなどの措置を講じることが大切である。さらに、通路を建設機械等の走行路と作業員等の通行部分とに、柵などによって分離すれば、両者の接触による事故の発生防止に効果的である。
安全通路の設定
- 作業場に通じる場所および作業場内には、労働者が使用するための安全な通路を設けること。
- 通路面は、つまずき、すべり、踏抜き等の危険がない状態に保持すること。
- 通路は、用途に応じた幅員を有すること(機械相互の間、またはこれと他の設備の間に設ける通路は、80cm以上とすること)。
- 屋内に設ける通路には、通路面から高さ1.8m以内に障害物を置いてはならない。
- 通路には、通行を妨げない程度の採光または照明を設けること。
- 安全通路には、通路であることを表示するとともに、常時通路の安全を保持しなければならない。
架設通路(桟橋)
通路のうち、両端が支点で支持され、架け渡されているものを架設通路と呼び、一般に桟橋として知られている。架設通路は、高所に架け渡される場合が多く、構造などに欠陥があれば、墜落、倒壊などにより重大な災害につながるおそれが高い。このため、架設通路は丈夫な構造とし、両側には墜落防止のための丈夫な手すりなどを設けることが必要である。
設置計画の届出
事業者は、高さおよび長さがそれぞれ10 m以上で、かつ、組立てから解体までの期間が60日以上となる架設通路については、あらかじめ、その設置計画を工事の開始日の30日前までに、所轄の労働基準監督署長に届け出ることが義務付けられている(安衛法第88条、安衛則第85条、安衛則別表第7)。