8.1 道路網計画
道路は、われわれの暮らしに最も身近な存在であり、社会経済活動はすべて道路を介して営まれているといっても過言ではない。日常生活を支える重要なインフラである道路の計画に当たっては、都市の骨格形成はもとより重要な交通拠点との連絡性の確保、上位計画や他の施設計画等との整合を図ることが肝要である。
近年では、社会環境の変化や価値観の多様化等により、道路整備に対する要求や条件も厳しくなってきており、道路計画者はこれらの制約条件の中で道路網計画の考え方を明確に示すことが求められるようになってきている。
8.1.1 道路の計画・設計手順
(1) 道路網計画の要諦
道路計画の中にあって、道路網計画は最上流に位置し、道路ネットワーク全体で達成すべき目標を設定して策定すべきものである。高速道路のように国土の骨格を形成する道路から地域の生活基盤となる道路に至るまで、その目標や解決すべき課題によっ て対象とするエリアの規模や、適用する道路の種類等が異なる。
道路網計画の策定に当たっては、対象エリアにおける道路ネットワークとしての機能が十分に発揮されるよう、交通課題等の現状を踏まえ、当該地域の環境条件への配慮、鉄道・バス・空港・港湾等の交通結節点との連結、災害時のリダンダンシーの確保、シビルミニマムの確保、国土計画や地域計画および都市計画等との関係等に十分配慮する必要がある。
(2) 道路計画・設計の進め方
道路計画は、高規格な高速道路から地先の市町村道に至るまで、道路の種類によって事業の進め方および手続きに多少の違いはあるが、一般的に、① 予備調査(道路網調査)に始まり、② 概略計画、③ 路線選定、④ 道路設計の流れで計画を策定する(図8.1参照)。
① 予備調査(道路網調査):計画地域の経済状況や道路交通状況および計画上の制約条件を把握した上で、計画道路の実現可能性を検討する。なお、経済調査ではおもに人口、所得、事業所数、工業出荷額等を把握する。交通調査では、おもに断面交通量やOD交通量等を把握する。技術調査では、自然条件・関連公共事業・環境条件・文化財・公共施設等のコントロールポイントを把握する。
② 概略計画:連絡する拠点や通過する地域等を概略的に示し、個別の路線計画の集合体である道路網の整備計画を立案する。高規格幹線道路網計画や広域道路整備基本計画等 がこれに当たる。
③ 路線選定:② で策定された道路網計画のうち、優先度の高い区間から計画を具体化していく上で、基本となる区間単位の計画を立案する。
④ 道路設計:事業実施のための測量や設計を行い、事業費の算定や工程計画を勘案した事業計画のための実施設計を行う。
上記① 予備調査から② 概略計画、③ 路線選定を経て都市計画が決定され、事業着手となる。事業着手後に現地測量を実施して④ 道路設計から道路中心線を設定する。関係機関協議(周辺土地利用計画との調整、環境保全の具体的な対応、関連道路との接続方法等)を経て用地幅杭を設置し、用地取得、工事着手の手順を踏む。なお、② 概略計画から④ 道路設計までの詳細は8.1.2項で後述する。④ 道路設計のうち、幾何構造設計に関する詳細は8.1.3項で後述する。
(3) 道路事業の手続き
道路計画の策定プロセスにおいて、近年では、透明性や客観性、合理性、公正性を確保するためのパブリックインボルブメント(public involvement, PI)の導入や、限られた予算の中で効率的かつ重点的に対策を行うため客観的指標によって交通課題や事業成果を把握・整理し、これを再度計画に反映させるPDCA(plan → do → check → act)サイクルで道路事業を照査する行政マネジメントの導入が進んでいる。このように目標とするサービス水準を設定し、現状の課題を客観的データで明確化した上で、重点的かつ早急に対策すべき箇所から事業を実施し、短期計画から長期計画に至るまでの計画の体系化や、各計画を定期的に照査するプロセスの重要性が見直されている。
なお、事業化後においては、新規採択時および事業採択時から定められた期間を経過して未着工あるいは継続中の事業を対象に行う再評価時、完成後に行う事後評価時において、費用便益比(cost-benefit ratio, B/C)を含む客観的な評価指標を用いた事業評価分析が義務付けられている。
8.1.2 路線計画
(1) 道路機能に応じた路線配置
(1) 道路の機能分類 道路の機能は図8.2に示すように、自動車や歩行者・自転車それぞれについての交通機能として、通行機能・アクセス機能・滞留機能があり、空間機能として、市街地形成機能、防災機能、環境機能、収容機能がある。
道路は、拠点都市間あるいは地域間を連絡する都市間道路と、地域・都市内における域内交通に対応するための都市内道路とで、その主たる機能が異なる。
都市間道路は高速性・定時性といった通行機能が重視され、一般により長距離で幹線道路の機能を有する都市間道路ほど高速走行・大量輸送が求められる。一方で、山間部の集落相互を結ぶような都市間道路では、高速走行や大量輸送はそれほど重要ではなく、安全かつ円滑に往来できること、そして接続信頼性が高いことが重要となる。
都市内道路は通行機能に加えてアクセス機能、空間機能も重視される。都市の骨格を形成し、防災機能や環境機能等の空間機能を求められると同時に、高速・大量の通行機能も併せ持つ都市内の幹線道路では、沿道施設へのアクセス機能は限定的とすべきである。反対に、幹線道路以外の住区内道路は、空間機能と併せて沿道施設へのアクセス機能が重視されることから、通行機能は必要最小限に制約されるべきである。
(2) 路線配置計画 道路網計画の策定に当たっては、対象エリアにおける道路ネットワークとしての機能が十分に発揮できるように、道路の規格・構造等を決定することが重要である。この際、さまざまなレベルの道路網について道路の階層性や、上位計画・他の施設計画等との整合性を確保することが重要である。道路の階層性とは、例えば高規格な幹線道路と生活道路等、性質の大きく異なる道路どうしを直接連絡することは適切ではなく、道路の機能が近いものから段階的に接続するといった考え方である。
(2) 都市間道路の路線計画
(1) 概略計画 構想段階は道路の計画帯の選定や基本的な道路構造を概略的に決定する段階であり、縮尺1/50000~1/10000のスケールの地形図上に考えられる路線をフ リーハンドで描いて検討する。あらかじめ大まかな起終点を設定し、計画路線に求められる機能と将来交通量に応じた構造規格を定め、対象地域の社会経済的、地形・地質的条件を考慮して、所与の線形条件の下で実現性の高いいくつかの候補路線を選定する。この段階では、巨視的な判断が必要であり、周辺道路網の現状および将来計画との対応を十分把握するとともに、地域計画や都市計画、土地利用計画等、当該路線の計画に影響する関連情報を広範に収集して、計画に反映することが必要である。
(2) 路線選定 概略計画において検討された候補路線について、さらに小スケールの1/5000~1/2500の地形図を用いて、具体的な路線位置の選定を行う。この段階ではおもに平面線形に重点が置かれるが、等高線から概略の地盤高を縦断図に記入し、切盛状況や土量バランスに配慮した縦断線形についても概略で検討する。また、橋梁・トンネル等の構造型式も想定する。これを2~3案の比較路線について実施し、以下の観点から各候補路線の優劣を比較検討する。
① 交通渋滞解消、事故減少、走行時間短縮、災害時の防災機能向上、広域ネットワーク形成等
② 環境:騒音、大気汚染、地球温暖化、景観、生態系への影響、集落や公共公益施設への影響等
③ 土地利用・市街地整備:地域間交流、工業・農業・農地利用への影響、市街地の防災性、沿道商業施設への影響等
④ 事業性:事業費、維持管理費、事業期間、施工性、用地取得の容易性等
なお、比較線の数は2~3案とされることが多いが、一般には比較線の数が多いほどより良い解を得やすいため、できるだけ多くの比較線を検 討することが望ましい。ただし、単に数を増やすのではなく、それぞれの比較線は、地域特性を踏まえた計画意図を持つことが重要である。
路線選定の段階では、コントロールポイントの情報精度も向上させ、地形条件や開発計画、地質、文化財等の資料等から詳細に設定することが必要である。おもなコントロールポイントを表8.1に示す。
(3) 道路設計 路線選定による比較線検討の結果、選択された路線について都市計画決定されると、事業化の段階に入る。この段階では、現地測量を実施し、詳細なコントロールポイントを確認しながら、1/1000~1/500の地形図上に実施設計を展開し、道路中心線を設定する。
つぎに、等高線を基に縦断図を作成し、縦断的な制約条件(河川、水路、鉄道、立体交差道路等のクリアランス等)との関係を確認するとともに、平面線形と縦断線形の調和・連続性等の観点から吟味する。さらに、横断図を作成して、土工量、構造物の位置・寸法等の条件を吟味する。
表8.1 おもなコントロールポイント1
項目 | 一次コントロール | 二次コントロール | 備考 |
---|---|---|---|
地形 | 山脈、山塊、渓谷、峠 | 大切土、大盛土、長大切土法面、長大トンネル、長大橋梁の位置決定、主要河川の渡橋地点、湖沼、池、中小河川 | |
自然条件 | 地質土質 | 大規模な地すべり地帯、軟弱地盤地帯、崖錐地帯、崩壊地帯、断層の方向 | |
気象 | 大規模雪崩地区、標高の高い波霧多発地区および路面凍結予想地区 | 標高800m以上はできるだけ低位を選択、吹きだまり地、雪崩、強風の予想箇所 | |
関連公共事業 | インターチェンジ位置と取付け道路との関係 | インターチェンジ付近の線形、交差箇所 | |
重要な主要道路や鉄道との交差位置 | |||
農業構造改善事業(改良、新設事業とも)、区画整理事業、都市計画事業 | 仮換地の期間が長い | ||
社会環境 | 集落、工場、工業団地 | 学校、病院、老人ホーム、養護施設、住宅密集地 | |
厚生 | 自然環境保全地域 | 自然環境保全地域、特別地区 | |
環境条件 | 自然環境 | 国立公園特別地域第二、第三種および普通地域、国立公園特別保護地区 | 国定公園特別地域第二、第三種および普通地域、国 定公園特別保護地区、県立公園 |
文化財 | 国宝、重要文化財 | 文化財、社寺、仏閣 | 有形文化財のうち、建造物のみ |
特別名勝、特別史跡、記念物 | |||
特別天然記念物 | |||
名勝、史跡、記念物 | |||
公共施設 | 空港、大規模鉄道駅、大規模港湾 | 鉄道、道路、港湾、漁港、電波受信施設、貯水池、大規模発電所等 | 電波発信所施設、送電線 |
(3) 都市内道路の路線計画
都市内道路にあっても路線計画の基本的な考え方は、都市間道路と同様であり、① 予備調査(道路網調査)、② 概略計画、③ 路線選定、④ 道路設計のプロセスを経て策定する。しかし、都市間道路に対して都市内道路ではアクセス機能や空間機能の重要性が高まることから、以下に都市内道路の路線計画における特徴を解説する。
(1) 道路の機能分類 都市内の既存道路ネットワークを構成する各路線・区間を、都市高速道路等の自動車専用道路、主要な幹線道路、幹線道路、市街地道路といった各階層に機能分類する。規格の高い階層の道路は通行機能に特化すべきであるのに対し、低い階層の道路はアクセス機能を重視すべき道路となる。通行機能とアクセス機能には相互に排他的な特徴があるため、1本の道路に両方の機能を持たせることは原則として適切ではない。しかし、わが国の既成市街地を勘案すると、当該路線を通行機能とアクセス機能のいずれかに特化することは難しいことから、各道路の階層や沿道立地条件に合わせて、道路の各機能間のバランスを図ることが重要である。
(2) 市街地との調和 都市内の道路計画においては、交通機能よりも空間機能の重要性が高まる。都市内の道路計画、特に道路の新設と拡幅は、人々の生活・行動パターンの変化をもたらし、長期的には都市内の市街地形成に影響を及ぼす。一方で、既成市街地を分断する可能性もあることから、保存すべき町割りに配慮した計画とすることも必要である。
(4) 交差道路の接続計画
(1) 接続方式選択の重要性 道路ネットワークの機能が十分発揮されるためには、道路の幾何構造はもとより、道路相互の交差接続方式に配慮することが重要である。例えば、長距離高速交通を処理する自動車専用道路では、フルアクセスコントロールするとともに、アクセス間隔に配慮する。都市内道路では、通行機能の要素が高い路線もあれば、短距離利用の生活 交通に資するアクセス機能の要素の高い路線も混在する。都市内にあって通行機能の要素の高い路線を相互に接続する場合には、交差接続する位置を限定する、あるいは立体化することが必要である。一方で、アクセス機能の要素が高い道路では、単純な平面交差型式を基本とするとともに、通過交通型の幹線道路とは直接接続しないことが望ましい。このように、交差道路との接続方法の検討に当たっては、地域の交通計画を踏まえて、当該道路の機能、規格、交通量、交差間隔、さらには地形、沿道環境、土地利用状況等を勘案して決定することが必要である。
(2) 交差接続方式の分類 道路相互の交差接続方式は、一般に平面交差と立体交差に大別される。平面交差はさらに、信号交差点、環状交差点(以下、ラウンドアバウト(roundabout, RAB)という)、無信号交差点に分類され、立体交差はさらに、単純立体交差、交差点立体交差、インターチェンジ(ジャンクション)に分類される。
平面交差は、三枝以上の道路が同一平面上で交差するものであり、交通量の大小に応じて信号処理の有無を決定する。交通量の多い交差点では方向別の通行権を明確にするため信号制御が必要となる。交通量の少ない交差点では信号制御しないケースが多いが、衝突事故の危険性の高い交差点や、五枝以上の複雑な交差点ではラウンドアバウトの採用が有効である。ラウンドアバウトとは、「環道交通流に優先権があり、かつ環道交通流は信号機や一時停止等により中断されない、円形の平面交差部の一方通行制御方式」のことをいう。ラウンドアバウトの標準的な構成要素を図8.3に示し、各地における導入事例を 図8.4に示す。
ラウンドアバウトの長所には、以下のようなものが挙げられる。
① 安全性:速度抑制による交通事故の減少
② 円滑性:無信号による無駄な待ち時間の解消
③ 環境性:信号待ちの解消によるCO2の削減
④ 経済性:信号機の設置・維持管理費の削減
⑤ 自律性:災害時や停電時も自律的に機能
ラウンドアバウトには上記のような長所がある一方で、導入に当たってはつぎの点に十分留意することが必要である。
① ラウンドアバウトの交通容量は、一般的な平面信号交差点に比べて低いため、交通渋滞対策を目的とした導入には適さない。
② ラウンドアバウトの長所は、おもに自動車に対するものであるが、歩行者・自転車に対しては、安全性の確保に十分注意を払うことが必要である。
立体交差は道路が交差接続する場合に、相互の交通流が同一平面内で交差しないように立体化するもので、交差部の交通容量や走行速度の低下を回避し、円滑な交差処理を行うこと、交差部における交通事故の減少を図ることを企図する。単純立体交差は道路が互いに立体的に交差するのみで、交差道路相互間の連絡路が交差地点の近傍にないものを指す。交差点立体交差は、主方向の右左折交通のみに対して、立体交差構造物に沿ってランプ(連絡路)を設け、平面交差により従道路と接続するものである。インターチェンジは、交差する道路相互を完全に立体交差化すると同時に、右左折交通をランプで交差道路に接続する。