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8.2 駅前広場の計画 駅前広場は、鉄道利用者のバス、車への乗換えなどのターミナル交通を処理する「交通空間」としての役割を持つ一方、買物客や待合せなどの人々の交流や都市景観を形作るなどの「環境空間」としての役割を担っており、これらに対応した施設を適切な内容と規模で計画されます。また、駅前広場は都市形成、都市活動の根幹をなす都市施設の一つであり、まちづくりの一環として、駅本屋および周辺地域と一体的に計画・整備されます。

具体的には、パークアンドライド、キスアンドライド、高速バスや路面電車の乗入れや荷きぱき交通処理等の新しい交通形態への対応なども含め、駅周辺地区の拠点性向上に対する要請、都市の玄関口としての役割、都市景観への配慮、一体的・複合的・立体的または分散的利用等による都市空間の有効利用、バリアフリー社会への配慮などに対応できるように、駅の特性、都市の特性を踏まえて計画されます。

8.2.1 駅前広場の計画 (1)計画の流れ 駅前広場の計画策定に当たっては、都市の将来像、都市全体の総合交通計画や鉄道沿線地域全体における当該駅の位置付けを把握するとともに、駅前広場とその周辺の現況や将来計画などを踏まえ、当該駅前広場の問題点や計画課題を整理します。つぎに、駅前広場計画の基本方針として、駅前広場利用者の性格や求められるサービスレベルなどから、当該駅前広場の備えるべき機能や駅前広場と周辺の在り方について検討します。

基本方針を受けて、駅前広場の概略規模を全体施設配置計画と併せて検討し、さらに、広場内に設置を予定したおのおのの施設の配置、意匠などについて動線計画、施設配置計画、景観計画などを行い、駅前広場計画を策定します(図8.11参照)。

(2)駅前広場計画策定の基本的考え方 駅前広場の計画では、駅前広場に必要な面積を算定し、さらに、施設を具体的に配置しながら計画を確定していくことが必要です。このための必要な面積の算定としては従来、28年式、48年式等の算定式が用いられてきましたが、1998年に新たな『駅前広場計画指針』6^6(1998年5月建設省都市交通調査室)が出され、現在ではこれによって計画を策定することが一般的となっています。しかしながら、既存の駅前広場を改良する場合等については、28年式、48年式が既存計画の面積算定根拠となっていることから、これらの算定についても参考として把握しておくことが重要です。また、28年式は駅前広場整備に関する鉄道事業者との協議(特に負担割合)にも用いられており、このためにも28年式による算定値を把握しておくことが必要となります。この28年式は戦後間もなく駅前広場研究委員会式として提案されたもので、広場利用人員、出入車両数等を鉄道乗降客数に変換して積み上げ、約20%の余裕面積を加えて広場面積とする算定式です(図8.12参照)。

駅前広場面積を検討する際には、①駅前広場利用者の予測を行った上で、②交通空間機能のために確保すべき面積と環境空間機能のために確保すべき面積の総和として、「駅前広場基準面積」を求めます。さらに③駅前広場基準面積に対して、具体の交通空間や環境空間を構成する施設の配置計画等を検討します。この際、駅前広場の機能確保のためには、当該施設の配置条件によっては駅前広場を多層構造とする立体化を含めた検討を行い、必要な面積を確保することも考えられます。つぎに、④配置計画を踏まえて、必要な機能が十分に確保できるかどうかを評価します。場合によっては、⑤確保すべき機能や配置計画に見合うように駅前広場基準面積の拡大・縮小を図り、再度、配置計画などの見直しや検討を行い、駅前広場面積を設定していく必要があります。以上の検討手順に基づき、⑥最終的な駅前広場面積を確定します。

(3)都市計画決定 広場を含む交通広場のうち、道路の一部を構成するものについては、都市計画法第11条第1項第1号で規定される「道路」に含めて都市計画決定されます。具体的には、幹線街路(都市計画法施行規則第7条第1号)に接続する交通広場として、位置付けられます。これは、交通広場が幹線街路に接続して計画、整備されることが一般的であることによります。また、歩行者空間を中心とするものなどのそれ以外の交通広場については、その他の交通施設(都市計画法第11条第1項第1号)の「交通広場」として、都市計画決定することが望ましいとされています。

8.2.2 駅前広場の管理運営 駅前広場の管理運営については、基本的に「都市計画による駅前広場の造成に関する協定(建運協定)」等によるものとされており、管理協定については広場造成完了後、道路管理者と当該鉄道事業者の間で遅滞なく締結することとされています。この場合、道路管理者が管理する部分については、道路法に基づく「道路」とされ、鉄道事業者が管理する部分については、都市計画では「道路」として決定されていても、道路法の「道路」の区域とされないことが一般的です。

建運協定(1987年)は、それまでの建設省と国鉄の申合せ(1972年)を国鉄の分割民営化に際して見直したものです。さらにJR本州3社の完全民営化に伴って、当該3社が建運協定の対象外となったことから、3社による「都市計画による駅前広場の造成に関する申合せ(2001年)」が締結されています。また、民鉄についても、同様の申合せ(1975年)が締結されています。

8.2.3 自由通路等 市街地が拡大し、駅周辺に都市機能が集積すると、これまで都市的土地利用がなされていなかった駅裏地区も市街化が進展します。一方、わが国の鉄道は、地平に整備されることが一般的であったために、都市内に多数の踏切が存置し、市街地が鉄道で分断されています。このため、幹線道路と鉄道の立体交差化が進められてきました。駅周辺は、各種の都市機能が集積することから、鉄道を横断する徒歩・自転車の交通需要も多いです。連続立体交差事業によって鉄道を高架化または地下化する場合は、駅部においても歩行者・自転車の自由な往来が確保できます。しかしながら、連続立体交差事業は、一定の採択基準を満たすことが必要で、事業規模も大きいことから、事業箇所は限定的です。また、駅部において、幹線道路を立体交差させることは、駅前広場との接続が困難であることや構造物が大きくなることなどから、一般的に行われていません。このため、駅の両側を結ぶ自由通路の整備が行われています。

自由通路は、構造的には道路と建築物に大別されます。法的に見ると、道路形状の自由通路であっても、道路法上の「道路」とされる場合と、道路認定を受けず道路法を適用しない場合があります。また、鉄道の用に供する駅施設のうちラッチ内の施設は、建築基準法の対象外であるため、鉄道事業法(軌道の場合は、軌道法)の適用を受けます。さらに、店舗等の鉄道施設以外の機能を併設したものについては、建築基準法の適用を受けます。自由通路は、駅前広場上のペデストリアンデッキや地下通路、駅周辺の建築物の通路等と一体的に計画整備されることもあり、自由通路等として扱う。

8.2.4 整備手法 駅前広場の整備手法には、以下のようなものがあります。

(1)道路事業による整備 道路事業による整備は、駅前広場を都市計画道路として都市計画決定し、道路管理者が事業主体となって整備する方法です。この場合、都市計画事業の認可を受けて事業が実施されます。都市計画道路の整備は、基本的に道路管理者が行いますが、鉄道事業者等と協議し、協定等を締結することによって、鉄道事業者等が事業主体となって整備することも可能です。

(2)市街地再開発事業等による整備 市街地再開発事業等による整備は、駅前広場を市街地再開発事業等の都市計画事業の区域に含めて都市計画決定し、市街地再開発事業等の事業計画に基づいて整備する方法です。この場合、駅前広場は市街地再開発事業等の公共施設として位置付けられ、事業の中で整備されます。市街地再開発事業等では、駅前広場と周辺の建築物等が一体的に計画、整備されるため、駅前広場の立体的な利用や、駅前広場と周辺施設との一体的な利用等が可能となります。

(3)都市再生特別地区等による整備 都市再生特別措置法に基づく都市再生特別地区や、都市計画法に基づく特定街区等においては、都市計画の内容に適合するものとして、駅前広場等の都市計画施設を都市計画事業によらずに整備することができます。この場合、都市再生特別地区や特定街区等の都市計画を定める際に、その中に駅前広場等の都市計画施設を定め、当該都市再生特別地区や特定街区等の都市計画に適合するものとして、駅前広場等の整備を行うことになります。

(4)民間事業者等による整備 公共による整備が困難な場合や、公共と民間が適切な役割分担の下で駅前広場を整備することが望ましい場合等においては、民間事業者等が駅前広場の整備を行うことも考えられます。この場合、都市再生特別地区や特定街区等の都市計画決定を行い、その中で民間事業者等による駅前広場の整備を位置付けることが考えられます。また、市町村等が民間事業者等と協定を締結し、その協定に基づいて駅前広場の整備を行うことも考えられます。

駅前広場の整備に当たっては、駅前広場がまちづくりの核となる都市の重要な施設であることを踏まえ、駅前広場と周辺のまちづくりとが連携して行われるよう、関係者間で十分な協議、調整を図ることが重要です。また、周辺の都市開発事業等との適切な役割分担の下で効率的、効果的な整備を行うことが求められます。

8.2.5 バリアフリー化 駅前広場は、高齢者、障害者等を含むすべての人が安全で快適に移動できるよう、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー法)に基づき、公共交通機関の旅客施設を中心とした一定の地区(重点整備地区)において、住民参加の下で、重点的かつ一体的なバリアフリー化を推進することとされています。

具体的には、駅前広場においては、歩道や通路の段差解消、点字ブロック等の視覚障害者誘導用設備の設置、上下移動のためのエレベーターやスロープの設置、ベンチ等の休憩施設の設置等のバリアフリー化が図られることとなります。また、駅前広場に接続する公共交通機関の旅客施設や周辺の道路等においても、一体的にバリアフリー化が図られることが重要です。

バリアフリー化に当たっては、高齢者、障害者等の参加の下で、関係者が連携しつつ、地域の特性や利用者のニーズを踏まえて計画的に実施していくことが求められます。

8.3 自由通路等の計画と課題 自由通路等の整備は、鉄道により分断された市街地の一体化や、駅を中心とした回遊性の向上等による地域の活性化に寄与するものであり、駅を中心としたまちづくりを進める上で重要な役割を果たすものです。一方で、自由通路等の整備には、多額の事業費を要し、また、その機能を十分に発揮するためには、自由通路等と駅前広場や周辺市街地との一体的な整備が必要となるなど、その計画や事業実施には様々な課題があります。

8.3.1 自由通路等の計画 自由通路等の計画に当たっては、以下のような点に留意する必要があります。

(1)駅とまちの一体的な整備 自由通路等は、駅の自由通路部分だけでなく、駅前広場や周辺市街地と一体的に整備することで、その効果を最大限に発揮することができます。このため、自由通路等の計画に当たっては、駅前広場や周辺市街地の整備計画との整合を図りつつ、一体的な整備を行うことが重要です。

(2)自由通路等の規模の適正化 自由通路等の規模は、将来の利用者数の見通しや、駅前広場等との一体的な利用を考慮して、適切に設定する必要があります。過大な規模とした場合、事業費の増大を招くだけでなく、自由通路等の利用が低迷し、その機能が十分に発揮されないおそれがあります。一方、過小な規模とした場合、将来的な利用者の増加に対応できなくなるおそれがあります。

(3)バリアフリー化への対応 自由通路等は、高齢者、障害者等を含むすべての人が安全で快適に移動できるよう、バリアフリー化を図ることが必要です。具体的には、エレベーターやスロープの設置、段差の解消、点字ブロック等の視覚障害者誘導用設備の設置等が求められます。

(4)周辺のまちづくりとの連携 自由通路等の整備は、単に駅の利便性の向上だけでなく、周辺のまちづくりと連携して行うことで、より大きな効果を発揮することができます。例えば、自由通路等の整備と併せて、駅周辺の商業施設の整備を行うことで、賑わいの創出や地域経済の活性化につなげることができます。

8.3.2 自由通路等の整備の課題 自由通路等の整備には、以下のような課題があります。

(1)事業費の確保 自由通路等の整備には、多額の事業費を要します。特に、既存の駅を改良する場合には、工事費用が高額となる傾向にあります。このため、事業費の確保が大きな課題となります。

(2)関係者間の調整 自由通路等の整備は、鉄道事業者、道路管理者、地方公共団体等の多様な主体が関係することから、関係者間の調整が重要となります。特に、事業費の負担や管理区分の設定等については、関係者間で十分な協議を行い、合意形成を図ることが必要です。

(3)工事期間中の対応 自由通路等の整備工事においては、工事期間中の駅の利用や周辺の交通への影響を最小限に抑える必要があります。このため、工事計画の策定に当たっては、仮設通路の設置や工事時間の設定等について、十分に検討することが求められます。

(4)整備後の管理運営 自由通路等の整備後は、その管理運営を適切に行うことが重要です。管理運営に当たっては、日常的な清掃や補修等の維持管理だけでなく、地域の活性化につながるようなイベント等のソフト施策の実施も求められます。また、自由通路等の管理運営には、多額の費用を要することから、その費用負担のあり方についても検討が必要です。

自由通路等の整備は、地域の活性化や利便性の向上に大きく寄与するものであり、今後とも積極的に推進していくことが求められます。一方で、その整備には多額の事業費を要するとともに、多様な主体が関わることから、関係者が連携しつつ、地域の実情を踏まえた計画的な整備を行っていくことが重要です。

8.4 まとめ 本章では、駅前広場と自由通路等について、その計画と整備の考え方を述べてきました。

駅前広場は、交通結節点としての機能だけでなく、都市の玄関口としての顔となる空間であり、都市のシンボル的な役割も担っています。このため、駅前広場の計画に当たっては、交通機能と空間機能の両立を図りつつ、都市の個性を生かした魅力ある空間とすることが求められます。

一方、自由通路等は、鉄道により分断された市街地の一体化や、駅を中心とした回遊性の向上等による地域の活性化に寄与するものであり、駅を中心としたまちづくりを進める上で重要な役割を果たすものです。自由通路等の整備に当たっては、駅前広場や周辺市街地との一体的な整備を図るとともに、将来の需要に対応した適切な規模の設定やバリアフリー化への対応等が求められます。

駅前広場と自由通路等は、いずれも駅を中心としたまちづくりを進める上で重要な施設です。今後とも、都市の活力の維持・増進や地域の活性化等を図る観点から、これらの施設の整備を戦略的に進めていくことが求められます。