人権総論
1人権の分類
人権とは、人間が生まれながらにして当然にもっている権利のことです。人権は、その性質に応じて、「自由権」、「社会権」、「参政権」、「受益権」の4種類に分類することができます。
【人権の分類】
分類 | 内容 |
---|---|
自由権 | 国家が国民に対して強制的に介入することを排除して個人の自由な活動を保障する権利 |
社会権 | 社会的弱者が人間に値する生活を送れるよう国家に一定の配慮を求める権利 |
参政権 | 国民が自己の属する国の政治に参加する権利 |
受益権 | 人権の保障を確実なものとするため、国に対して一定の行為を求める権利 |
自由権は「国家からの自由」とも呼ばれる。なお、社会権は「国家による自由」、参政権は「国家への自由」と呼ばれる。
受益権は、国務請求権とも呼ばれる。
自由権は、さらに1精神的自由権、2経済的自由権、3人身の自由の3種類に分類することができます。
【自由権の分類】
分類 | 内容 |
---|---|
精神的自由権 | 学問・表現などの精神的活動を行う自由 |
経済的自由権 | 職業選択などの経済的活動を行う自由 |
人身の自由 | 国家から不当に身体を拘束されない自由 |
2人権の享有主体
人権の享有主体とは、人権が保障されている人のことです。
ここでは、法人や外国人が人権の享有主体となるかが問題となります。
法人:法律の規定により権利をもつことが認められている会社などの団体のこと。
外国人:日本国籍を取得していない人のこと。
自然人:生身の人間のこと。
(1)法人の人権
人権とは人間が生まれながらにして当然にもっている権利のことですから、本来、自然人でなければ人権は保障されないはずです。しかし、法人も、社会においては重要な存在です。
そこで、最高裁判所の判例 は、法人についても、権利の性質上可能な限り人権が保障されるとしています(八幡製鉄事件:最大判昭45.6.24)。
「権利の性質上可能な限り」というのは、例えば、法人は自然人と違って体をもっていないので、法人には人身の自由が保障されないというような場合である。
法人に保障される人権と保障されない人権をまとめると、以下のようになります。
【法人の人権】
法人に保障される人権 | 法人に保障されない人権 |
---|---|
1. 精神的自由権 | 1. 人身の自由 |
2. 経済的自由権 | 2. 社会権 |
3. 受益権 | 3. 参政権 |
法人の人権については、以下のような判例があります。
最重要判例
八幡製鉄事件(最大判昭45.6.24)
事案:
八幡製鉄の代表取締役が特定の政党※1に対して政治献金をしたため、同社の株主がその行為の責任を追及する訴訟を提起し、この政治献金が会社の目的の範囲外の行為であり無効ではないかが争われた。
結論:
有効である。
判旨:
1法人の人権
憲法第3章に定める国民の権利及び義務の各条項は、性質上可能な限り、内国の法人にも適用される。
2会社の政治的行為の自由
会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持·推進し又は反対するなどの政治的行為をなす自由を有する。
最重要判例
南九州税理士会政治献金事件(最判平8.3.19)
事案:
強制加入団体である税理士会が、会の決議に基づいて、税理士法を業界に有利な方向に改正するための工作資金として会員から特別会費を徴収 し、それを特定の政治団体に寄付した行為が、税理士会の目的の範囲外の行為であり無効ではないかが争われた。
結論:
無効である。
判旨:
税理士法が税理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、様々な思想·信条及び主義·主張を有する者が存在することが当然に予定されているから、税理士会が決定した意思に基づいてする活動にも、そのために会員に要請される協力義務にも、おのずから限界がある。したがって、税理士会が政党など政治資金規正法上の政治団体に金員の寄付をすることは、たとえ税理士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するためのものであっても、税理士会の目的の範囲外の行為である。
参考
民法34条は、「法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。」と規定し、法人の目的の範囲外の行為は無効であるとしている。
※3重要判例 阪神·淡路大震災により被災した兵庫県司法書士会(強制加入団体)に3000万円の復興支援拠出金を寄付することは、群馬司法書士会の目的の範囲内の行為であり、そのために登記申請事件1件当たり50円の復興支援特別負担金を徴収する旨の同会の総会決議は、有効である(群馬司法書士会事件:最判平14.4.25)。
(2)外国人の人権
憲法第3章は「国民の権利及び義務」というタイトルで人権について規定していますから、本来、 日本国民でなければ人権は保障されないはずです。しかし、人権は人間が生まれながらにして当然にもっている権利である以上、日本国民と外国人を区別するのは妥当ではありません。
そこで、最高裁判所の判例は、外国人についても、権利の性質上日本国民のみを対象としている場合を除いて人権が保障されるとしています(マクリーン事件:最大判昭53.10.4)。
最重要判例 マクリーン事件(最大判昭53.10.4)
事案
アメリカ人のマクリーン氏が日本に入国し、1年後に在留期間更新の申請をしたところ、法務大臣は、マクリーン氏が在留中に政治活動を行ったことを理由に更新を拒否した。そこで、この更新拒否処分が政治活動の自由を侵害して違法ではないかが争われた。
結論
適法
1外国人の人権
憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人にも等しく及ぶ。
2外国人の政治活動の自由
政治活動の自由は、我が国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないものを除き、その保障が及ぶ。
3外国人の在留の権利
憲法22条1項は、日本国内における居住·移転の自由を保障する旨を規定するにとどまり、憲法上、外国人は、我が国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん、在留の権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものでもない。
※4具体例をイメージ 「権利の性質上日本国民のみを対象としている場合を除いて」というのは、例え ば、参政権は国民が自己の属する国の政治に参加する権利であり、その性質上日本国民のみを対象としている権利であるから、外国人には参政権が保障されないというような場合である。
在留:入国した後、日本にとどまること。
外国人に保障される人権と保障されない人権をまとめると、以下のようになります。
【外国人の人権】
外国人に保障される人権 | 外国人に保障されない人権 |
---|---|
1. 自由権 | 1. 入国·再入国の自由 |
2. 受益権 | 2. 社会権 |
3. 参政権 |
1入国の自由
入国の自由は、外国人には保障されません(最大判昭32.6.19)。これは、国際法上、国家が自己に危害を及ぼすおそれのある外国人の入国を拒否することは、その国家の権限に属するとされているからです。
最重要判例
森川キャサリーン事件(最判平4.11.16)
事案:
日本に入国して定住しているアメリカ人の森川キャサリーン氏が、韓国へ旅行するため再入国許可の申請をしたところ、不許可とされた。そこで、この不許可処分が再入国の自由を侵害して違法ではないかが争われた。
結論
適法
判旨:
我が国に在留する外国人は、憲法上、外国へ一時旅行する自由を保障されているものではなく、再入国の自由も保障されない。
2社会権
社会権は、各人の所属する国が保障すべき権利ですから、外国人には保障されません。
最重要判例
塩見訴訟(最判平1.3.2)
事案:
外国人が知事に対して(旧)障害福祉年金の請求を行ったところ、この請求が却下された。そこで、当該却下処分が憲法14条、25条に違反しないかが争われた。
結論:
合憲
判旨:
社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては、国は、特別の条約の存しない限り、その政治的判断によりこれを決定することができるのであり、その限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも許される。
3参政権
参政権は、国民が自己の属する国の政治に参加する権利ですから、外国人には保障されません。
最重要判例
外国人の地方選挙権(最判平7.2.28)
事案:
外国人が地方公共団体※3の選挙人名簿に登録されていないことを不服として選挙管理委員会に対して異議の申出をした。そこで、外国人にも地方選挙権が保障されるかが争われた。
結論
外国人には地方選挙権が保障されない。
判旨:
1憲法93条2項の「住民」の意味
憲法93条2項で地方公共団体の長や議会の議員などを選挙することとされた「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味する。
2外国人の地方選挙権の許容
我が国に在留する外国人の うちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、法律をもって、地方公共団体の長·議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではない。しかしながら、このような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の問題を生ずるものではない。
重要判例
外国人には国政選挙権も保障されていない(最判平5.2.26)。
最重要判例
外国人の公務就任権(最大判平17.1.26)
事案
外国人である東京都の職員が管理職選考試験を受験しようとしたところ、日本国籍を有していないことを理由に拒否された。そこで、この拒否処分が法の下の平等を定めた憲法14条1項に反するのではないかが争われた。
結論
合憲
判旨:
地方公共団体が、日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは、合理的な理由に基づいて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、このような措置は、憲法14条1項に違反するものではない。
※6参考 この判例は、理由付けとして、国の統治のあり方については国民が最終的な責任を負うべきものである以上、外国人が公民法権力の行使等を行う地方公務員に就任することはわが国の法体系の想定するところではないという点を挙げている。