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天皇

天皇の地位

大日本帝国憲法では、天皇は国政に関する最終的な決定権限を有する主権者とされていました。したがって、大日本帝国憲法の下では、天皇が一番偉かったといえます(天皇主権)。

しかし、日本国憲法は、国民を主権者とし、天皇は象徴としての地位にとどまるものとしました(1条)。したがって、日本国憲法の下では、一番偉いのは国民であり、天皇ではありません(国民主権)。

大日本菊国憲法

現在の日本国憲法ができる前の憲法のこと。明治憲法とも呼ばれる。

象徴

抽象的で形のないものを表すための具体的で形のあるもののこと。

重要判例

天皇は日本国の象徴であるから、天皇には民事裁判権が及ばない(最判平1.11.20)

皇位継承

世襲制は、国民の意思とかかわりなく天皇の血縁者に皇位を継承させる制度ですから、民主主義の理念及び平等原則に反するものといえます。

しかし、日本国憲法は、天皇制を存続させるために必要と考え、例外的に皇位は世襲のものと規定しています(2条)。

参考

憲法上、皇位の継承については世襲制が規定されているのみであり、女子の天皇即位は禁止されていない。もっとも、皇室典範によって、女子の天皇即位は禁止されている。

天皇の権能

範囲

天皇は、憲法の定める国事に関する行為(国事行為)のみを行い、国政に関する権能を有しません(4条1項)。国事行為は、いずれも形式的·儀礼的な行為です。国事行為の具体例としては、内閣総理大臣と最高裁判所の長たる裁判官の任命があります(6条1項·2項)。つまり、行政の長と司法の長といった偉い人たちについては、天皇が直々に任命するのです。

指名任命
内閣総理大臣国会 (6条1項)天皇 (6条1項)
国務大臣内閣総理大臣 (68条1項)
最高裁判所長官内閣 (6条2項)天皇 (6条2項)
長官以外の最高裁判所裁判官内閣 (79条1項)
下級裁判所裁判官最高裁判所 (80条1項前段)内閣 (80条1項前段)

Q: 指名と任命の違いは?

A: 指名とは、誰をその地位につけるかを選ぶ行為にすぎず、指名の時点ではまだその地位についているわけではありません。 これに対して、任命とは、その地位についたことと去なる効力を発生させる行為のことです。

国事行為

天皇は、内閣の助言と承認により、以下のような国事行為を行います(7条)。

憲法改正·法律·政令·条約の公布(1号)

公布とは、成立したルールを公表して一般国民が知り得る状態におくことです。

政令

内閣が制定するルール

条約

国家と国家の間の文書による合意

国会の召集(2号)

召集とは、期日や場所を指定して国会議員に集合を命ずる行為のことです。

衆議院の解散(3号)

衆議院の解散とは、衆議院議員の任期満了前に衆議院議員全員の資格を失わせることです。

国会議員の総選挙の施行の公示(4号)

総選挙の施行の公示とは、総選挙の期日を国民に知らせることです。

国務大臣その他の官吏の任免の認証(5号)

認証とは、ある行為が権限のある機関によってなされたことを外部に証明することです。なお、任免とは、任命と罷免の略で、選任したり辞めさせたりすることです。

官吏

国家公務員のこと。

恩赦の認証(6号)

大赦·特赦·減刑·刑の執行の免除·復権をまとめて恩赦と呼びます。要するに、政治的理由により刑罰を免除することです。

栄典の授与(7号)

栄典とは、特定の人に対してその栄誉を表彰するために認められる特別な地位のことです。

批准書その他の外交文書の認証(8号)

批准書とは、国家が条約の内容を審査し、確定的な同意を与えた書面のことです。

外国の大使·公使の接受(9号)

接受とは、外国の大使·公使と儀礼的に面会することです。

儀式を行うこと(10号)

「儀式を行うこと」とは、天皇が主宰して儀式を行うことを意味します。

参考

天皇が全国植樹祭に参列することは、「儀式を行うこと」に当たらない。

要件

天皇が国事行為をするためには、内閣の助言と承認が必要であり(3条)、天皇はこの助言を拒否することはできません。

代行

摂政

天皇が成年に達しないときや、精神·身体の重患又は重大な事故により自ら国事行為を行うことができないときは、天皇の権能は、摂政が代行します(皇室典範16条)。

この場合、摂政は、天皇の名で国事行為を行います(5条)。

国事行為の委任

摂政を置くほどではないものの、天皇が一時的に国事行為を行うことができないときは、天皇は、国事行為を他の人に委任することができます(4条2項)。例えば、海外旅行や病気の場合などである。

皇室の財産授受の議決

皇室へ財産が集中することや、皇室が特定の個人や団体と特別な関係を結ぶことで不当な支配力を持つことを防ぐため、皇室の財産授受については国会の議決が必要とされています(8条)。

皇室の財産授受に関する国会の議決(8条)には衆議院の優越は認められませんが、皇室の費用に関する国会の議決(88条)には衆議院の優越が認められます。