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工作物設置許可基準

はじめに

この章は、国土技術研究センターで公開されている改訂 解説・工作物設置許可基準の内容を複写・一部加工したものです。

第1章 総則

趣旨

第一 この基準は、河川区域内における河川法(昭和39年法律第167号、以下「法」という.)第26条第1項に基づく工作物の新築、改築又は除却(以下「工作物の設置等」という.)の許可に際して、工作物の設置位置等について河川管理上必要とされる一般的技術的基準を定めるものとする.

一 本基準の趣旨

工作物の設置等の許可を行うにあたっては、本基準のほかに、構造に関しては「河川管理施設等構造令」(昭和51年政令第199号)(以下「構造令」という.)に、土木工学上の安定計算等の設計基準的な内容については「河川砂防技術基準(案)」に基づき、総合的に河川管理上の判断を行う必要がある.

二 工作物の設置等の許可

河川区域内の土地において工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者は、建設省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない(法第26条第1項前段).

本基準は、主な工作物である堰、水門及び樋門、水路、揚水機場及び排水機場、取水塔、伏せ越し、管類等、光ファイバケーブル類、集水暗渠、橋、潜水橋、道路、自転車歩行者専用道路、坂路、階段、安全施設、架空線類、河底横過トンネル、地下工作物並びに船舶係留施設について設置位置等の一般的技術的基準を示しているが、ここに示されていない工作物に対してもこの基本的な考え方は準用されるべきものである.

なお、本基準は、河川保全区域内における法第55条第1項に基づく工作物の新築又は改築の許可に際しても参考とされるべきものである.また、工作物が河川区域及び河川保全区域以外の土地にまたがる場合には、これらの区域外の部分は、許可の対象外であるが、許可に関する処分に必要な範囲内において、当然審査の対象となる.

三 許可の範囲

法第26条第1項の許可は、工作物の新築、改築又は除却という行為に対する許可であり、土地を使用する権原までも与えるものではない.したがって、完成した工作物を河川区域内の土地(河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地を除く.)に存置するためには、同時に、法第24条に基づいて占用の許可を受ける必要がある.

なお、法第26条第1項後段は、河川の河口付近の海面において河川の流水を貯留し、又は停滞させるための工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者も、河川管理者の許可を受けなければならないものとしている.

適用範囲

第二 この基準は、法第6条第1項に規定する河川区域のうち遊水地、湖沼(ダム湖を含む.)、高規格堤防特別区域及び樹林帯区域を除いた区域における工作物の設置等に適用する.

遊水地及び湖沼(ダム湖を含む.)は、水位変動の状況、洪水の流下の状況、利用形態等が個々に異なり共通の基準により判断することが適当でないため、この基準の適用範囲から除外したものである.

高規格堤防特別区域内は、一般の河川区域と異なり、通常の利用に供することができる土地の区域として位置づけられており、また、樹林帯区域も、樹林の育成・保護を図るべき土地として位置づけられており、それぞれ許可の対象となる工作物の種類が異なることから、この基準の適用範囲から除外したものである.

基本方針

第三 工作物の設置等の許可は、当該工作物の設置等が次の各号に該当し、かつ、真にやむを得ないと認められる場合に行うことを基本とする.

  1. 当該工作物の機能上、河川区域に設ける以外に方法がない場合又は河川区域に設置することがやむを得ないと認められる場合.
  2. 当該工作物の設置等により治水上又は利水上支障を生ずることがなく、かつ、他の工作物に悪影響を与えない場合.
  3. 当該工作物の設置等により河川の自由使用を妨げない場合.
  4. 当該工作物の設置等が河川及びその周辺の土地利用の状況、景観その他自然的及び社会的環境を損なわない場合.
  5. 河川環境管理基本計画(「河川環境管理基本計画の策定について」(昭和63年6月28日付け建設省河川局長通達)による河川環境管理基本計画をいう.)が定められている場合にあっては、当該工作物の設置等が当該計画に定める事項と整合性を失しない場合.

河川区域内の土地は、公共用物として本来一般公衆の自由なる使用に供されるべきものである.また、河川は、洪水、高潮等による災害の発生が防止され、河川が適正に利用され、流水の正常な機能が維持され、及び河川環境の整備と保全がされるように総合的に管理されなければならないものである.しかし、工作物の設置等は、洪水の疎通を阻害するなど、河川管理上の支障となる可能性がある.

このため、工作物の設置等の許可にあたっては、当該工作物を河川区域内に設けなければならない必然性、公共性の程度、河川管理上の支障の有無等を十分に検討する必要がある.

この場合に、工作物を恒久的に設置するものか、一時的に設置するものか、非出水期に限って設置するものか、可動式・可搬式のものかなど、設置期間や設置形態を考慮する必要があることはいうまでもない.

なお、工作物の設置等が、申請どおりに実施されないことや許可条件が遵守されないこと等により河川管理上の支障となる場合がある.また、工作物の管理が適正に行われない場合や改築した工作物の供用を開始し従前の工作物が不要となったにもかかわらず適正に撤去が行われず放置される場合がある.このため、工作物の設置等の許可にあたっては、申請者の事業遂行の意志と能力、完成後の管理方法(操作が必要な工作物にあっては、操作規定を含む.)、用途を廃止したときの撤去方法等についても十分に審査しておくべきである.

第三 1について

堰や樋門・樋管等の取排水施設の多くは、生活の維持や、産業活動のために欠かすことができない.また、橋は対岸へ渡河する交通の確保のために必要であり、他の手段によることは一般には困難である.坂路、階段等の利便施設は河川の適正な利用のため必要である.

一方で、堤内地の用地取得の困難を理由として、道路を河川側に張り出すことや、河川の上に蓋を掛けて駐車場を設置することは、必然性がなく、張り出し部や蓋掛け部が洪水時に流下物の流下に支障となるおそれがあり治水上好ましくないほか、日常の維持管理が困難となり、親水性を欠如させ、さらには、将来の河川改修が困難となるなど、河川管理上極めて支障があるものである.むしろ、河川のもつ貴重な水と緑のオープンスペースを狭めることなく河川環境を整備して積極的に活用することが望まれる.

以上のように、工作物の種類によってその設置の必然性も異なるものであり、工作物の設置等の許可にあたっては、その社会経済上の効果を勘案し、当該工作物を河川区域内に設けなければならない必然性を十分に検討しなければならない.

第三 2について

河川は、治水、利水及び環境機能の増進を図るよう管理されるべきものであり、工作物の設置等により治水上、利水上又は環境上著しい支障を生じてはならない.また、河川は適正に管理されるべきものであり、工作物の設置等により他の工作物に著しい悪影響を与えてはならない.

例えば、河道の流下断面内に建物等を設置すると、建物等自身により、あるいは建物等にかかった塵芥等により、流下断面が減少し、洪水の疎通阻害が生じる.また、建物等の存在によって洪水流の流向や流速が変化し、河道の土砂輸送のバランスが崩れ、河床の洗掘、砂州や水衝部の移動の原因となる.この河床の洗掘は、河岸の安定を失わせ、河岸の侵食、崩壊の引き金にもなり、堤岸や堤防に悪影響を及ぼすことがある.また、土砂が堆積し取水堰の取水機能障害の原因となるなど利水面への悪影響も考えられる.建物等が流失すると、水門や堰等の工作物に挟まり操作への支障を生じたり、流失した建物等が廃物化し環境を悪化させる等の悪影響も考えられる.

このような理由により、工作物の設置等の許可は、第一号に示したように機能上、河川区域に設ける以外に方法がない場合、又は河川区域に設けることがやむを得ないと認められる場合に限り行うことができるものであり、その場合であっても設置にあたっては、治水上、利水上又は環境上の支障を最小限度にとどめるとともに他の工作物に著しい悪影響を与えないよう配慮する必要がある.

なお、水門及び樋門に限らず堤体内に異質の工作物が存在すると、漏水の原因となりやすいので、設置にあたっては、工作物の付近が堤防の弱点部とならないよう、位置、構造及び施工方法について十分な配慮がなされなければならない.

第三 3について

河川は、適正に利用されるよう管理されるべきものであり、既設の工作物や占用がある場合にはこれらとの調整を要するとともに、極力他の一般公衆の自由使用を損なわないようにすべきである.

第三 4について

国民のゆとりや豊かさへの志向が高まってきており、自然への回帰志向も出てきている.このような国民の要望に対応し、うるおいある美しい水系環境を創造することによって、豊かな生活環境を実現していくという治水事業の展開が求められている.このような状況を踏まえ、河川法第1条に河川管理の目的として「河川環境の整備と保全」が規定されているところであり、工作物の設置等にあたっては、この規定を踏まえ、周辺の景観と調和のとれた形状、色彩等とするとともに河川及びその付近の生態系を損なわず、また、騒音、振動や不法駐車等の問題が生じないよう十分配慮する必要がある.

第三 5について

河川環境の適正な管理を図ることを目的として、河川環境の保全と創造に係る施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的事項を定めた「河川環境管理基本計画」を策定している.工作物の設置等にあたっては、河川のもつ多面的な機能を十分に生かし、うるおいのある美しい水系環境の実現を図るため、河川管理者は「河川環境管理基本計画」との整合を失わないよう十分に留意する必要がある.

この基本方針において、「河川環境管理基本計画との整合性を失しないこと」としたのは、河川区域における工作物の設置等の申請が、河川管理者が権原を有する土地について行われる場合が多く、当該土地の区域については、河川環境管理基本計画に定められた基本的考え方に従って河川管理者は判断すべきものである旨を明確にすることを主に意図したものである.

なお、河川管理者以外の者が権利を有する土地における工作物の設置に係る許可の際は、河川環境管理基本計画との整合が図られたものとなるよう個別にその協力を依頼するなどの措置を講じるものとする.

設置等の一般的基準

第四 工作物の設置等にあたっての一般的基準は次のとおりとする.

  1. 工作物の設置にあたっては、河川整備基本方針に従って定めた計画横断形(以下、この基準において「計画横断形」という.)に適合した位置を選定するものとすること.
  2. 工作物の設置にあたっては、地質的に安定した箇所を選定することを基本とするものとすること.
  3. 水門及び樋門、橋台等その機能上やむを得ず計画堤防(計画横断形の堤防に係る部分をいう.以下、この基準において同じ.)内に設けることが必要と認める工作物の設置にあたっては、水衝部等以外の箇所を選定することを基本とするものとすること.
  4. 三に掲げる工作物以外の工作物については、計画堤防内に設置しないことを基本とするものとすること.
  5. 橋、堰等河道内に設ける工作物並びに計画堤防内に設ける水門及び樋門等の設置等にあたっては、既存の施設の統廃合に努めるものとすること.
  6. 河川の縦断方向に上空又は地下に設ける工作物は、設置がやむを得ないもので治水上支障のないものを除き設けないものとすること.
  7. 設置が不適当な箇所においてやむを得ず工作物を設置するときは、水理模型実験、数値解析等により、局所洗掘及び河道の安定等、設置による河川への影響について検討を行い、適切と認められる対策を講ずるものとすること.
  8. 付近の土地の区域における景観との調和、河川における生態系の保全等の河川環境の保全に配慮するものとすること.なお、工事を施工するために仮に設けられる工作物においては、必要に応じ、河川環境の保全に配慮するよう努めるものとすること.
  9. 工作物の用途を廃止したときは、その工作物が治水上、利水上の支障とならないように除却することを基本とするものとすること.

第四 1について

工作物の設置位置は、河川整備基本方針に従って定めた計画横断形に適合する位置とするものとする.なお、河床の変動が大きい箇所では、川の流れが出水のたびごとに変わって取水に必要な水位や橋脚等の必要な根入れを確保できなくなることがあるため、工作物の設置にあたっては、将来の河床変動を考慮した位置を選定する必要がある.

第四 2について

地質的に脆弱な箇所に工作物を設置すると、地震等による工作物と堤防又は基礎等の地盤との接触面における空隙や、基礎地盤の地盤沈下(圧密沈下、即時沈下)による工作物底面下部の空洞化が生じやすい.また、周辺の地盤沈下に伴うネガティブフリクションや上載荷重の工作物への集中の影響による工作物の損傷や、背後地の盛土等に伴う側方流動圧による工作物や堤防の変状等が生じやすい.これらが原因となって、漏水やパイピングが生じやすくなるほか、洪水後の堤体内の水位低下時等に、土粒子の吸出しによる堤防陥没が誘発される場合もある.このため、工作物の設置にあたっては、旧河道等地質的に脆弱な箇所を避け、地質的に安定した箇所を選定することを基本としたものである.

第四 3について

水門及び樋門、橋台等その機能上やむを得ず計画堤防内に工作物を設置する場合には、水衝部等を避ける必要がある.これは、一般に水衝部は洪水時の流速が大きく洪水流の挙動も複雑であり、このような位置に工作物を設置すると、流れの乱れが生じ、洗掘が助長されるなど周辺施設への影響が大きくなると考えられるためである.

ただし、堤防の安全性について上下流方向及び左右岸においてバランスが乱されないことを事前に確認するか又は適切と認められる対策を講じ、かつ、その効果が安定的に維持される場合はこの限りでない.

第四 4について

堤体内に工作物を設けると、堤防の一部が異質なものに置き換えられたこととなり、堤防の弱点部となるおそれがある.すなわち、地震時においては工作物と堤防との接触面にある程度の空隙が生じることは避けられず、また、工作物の沈下と堤防との沈下とは一般に差異が生じやすい.これらが原因となって、漏水が生じ土粒子が移動したり、工作物付近の堤体内の間隙水圧が大きくなり、洪水時の減水時に土粒子の吸出し現象が助長されることがある.

このため、水門及び樋門、橋台等その機能上やむを得ないものを除き、計画堤防内に工作物を設けてはならないことを基本としたものである.

なお、堤防のかさ上げ、拡幅時等に施工した堤防の余盛部分については、築造後3年以上経過しており、さらなる沈下(長期的な地盤沈下を含む.)等が見込まれない場合は、計画堤防外として工作物が設置可能なものとする.

第四 5について

橋、堰等、その他の河道内に設ける工作物は、河積の阻害や洗掘の助長等、河川の弱点となることが多いので、できる限り少ないほうがよい.このため、工作物の設置等にあたっては付近の既設の工作物をいくつか廃止して新しく一つに統合するなどの努力も必要である.また、工作物の改築にあたっては、旧施設の撤去を併せて実施しなければ実態上旧施設のみの撤去は困難となるため、改築の許可に際しては当該旧施設を確実に撤去させることを担保する必要がある.

また、水門、樋門等についても、付近の既設の工作物をいくつか廃止して新しく一つに統合するなどの努力も必要である.

第四 6について

河川に沿って縦断的に設けることについての要望が生じることが考えられる施設(上空、地下とも)としては、送電線、光ファイバーケーブル、通信ケーブル、上下水道管類、油送管(パイプライン)、道路、新交通システム(鉄道・モノレール等)、ガス管等がある.

一般に、河川に沿って上空に工作物を設置すると、工作物を支える多くの柱や基礎等により流下断面が減少し洪水の疎通阻害が生じ、洗掘を助長し、堤防や護岸に悪影響を及ぼす.さらに堤防直近に設置する場合は、日照阻害により堤防法面の張芝が枯死するほか、景観を悪化させ、河川の利用者に圧迫感を与えるなど、河川環境に与える影響も大きい.

また、河川に沿って地下に工作物を設置すると、その影響により堤防や護岸が沈下するおそれがある.上下水道管類(特に圧送管)や油送管(パイプライン)等が万一地震等で損傷した場合には、圧送されている水等が噴出し堤防や護岸を破壊したり、汚水や油脂類が河川に流出し水質事故を生じさせるおそれが大きい(このことは、横過工作物にあっても同様であるが、河川に沿って縦断的に設置される工作物は延長が相対的に長く、危険性が一層高い).道路や、新交通システム等のように、工作物の断面が大きい場合には、河川と背後地とで通じている地下水脈を遮断し、付近の地下水利用等に甚大な影響を及ぼすことも懸念される.

第四 7について

設置が不適当な箇所にやむを得ず工作物を設置するときには、水理模型実験、数値解析、過去の設置事例による知見等により、局所洗掘及び河道の安定等、設置による河川への影響について検討を行い、適切と認められ、その効果が安定的に維持される対策を講ずる必要がある.

第四 8について

工作物の設置等にあたっては、河川法第1条の「河川環境の整備と保全」との河川管理の目的の規定を踏まえ、適切に配慮する必要がある.

河川法第1条における「河川環境」とは、河川区域内の「環境」であり、河川の自然環境と河川と人との係りにおける生活環境を指すものであり、具体的には、

  1. 河川の水量及び水質
  2. 河川区域内における生態系
  3. 河川区域内におけるアメニティ、景観及び親水

からなるものである.

工作物の設置等にあたっては、付近の土地の区域における景観との調和、河川における生態系の保全等の河川環境の保全に配慮する必要がある.ただし、その際、現在講じられている河川環境対策の状況を踏まえるとともに、河川管理者としても工作物の設置等に係る経済性にも配慮するよう努める必要がある.

なお、次に掲げる工作物については、あらゆる場合に河川環境の保全への配慮を求めることは適当でないため、必要に応じ(具体的な対応を行わなければ河川環境の保全が困難な場合)河川環境の保全に配慮するよう努めるものとする.

  • 既設の工作物で、部分的な改造工事(災害復旧による部分的な改造工事を含む.施設全体に及ぶ改造工事(「改築」という)以外の工事)を施工するもの
  • 応急措置として設置される工作物
  • 工事を施工するために仮に設けられる工作物

第四 9について

許可を受けた工作物の用途を廃止したときには、治水上、利水上、環境上及び他の河川使用上の支障とならないように、速やかに当該工作物を除却することを基本としたものである.

なお、橋の撤去の際に、基礎杭の杭頭部のみを除却し、地中部に杭の一部を存置する場合があるが、河川低下時に杭頭が突出し思わぬ支障の原因となることもあるので、除却範囲の設定には十分に留意する必要がある.

第2章 堰

堰とは、河川の流水を制御するために、河川を横断して設けられるダム以外の施設であって、堤防機能を有しないものをいう。

堰は用途別に次のように分類される。

  • 取水堰:河川の水位を調節して、都市用水、かんがい用水及び発電用水等を取水するためのもの。
  • 分流堰:河川の分派点付近に設け、水位を調節又は制限して洪水又は低水を計画的に分流させるもの(分水堰ともいう)。
  • 湖止堰:感潮区間に設け、塩水の遡上を防止するためのもの。
  • その他:河川の水位及び流量(流況)を調節するための堰及び総合目的の堰。河口堰は湖止堰としての機能を有する総合目的の堰の場合が多い。

一般的には、堰は河川の水位を調節しても流水を貯留することによって流量調節を行うことは少ない。これに対し、ダムは、流水を貯留して積極的に流量調節を行うものである。一般的には、この点で堰とダムとの区別がつくものであるが、最近は流量調節を行って積極的に流水の正常な機能を維持するための堰が設けられるようになってきているので、堰とダムとの区別が必ずしもはっきりしなくなってきている。発電用水の調整池についても、堰とダムとの区別がつけにくいものがある。本基準においては、次の点に基づいて、堰とダムとを区別するものとした。

  • 基礎地盤から固定部の天端までの高さが15m以上のものはダム。
  • 流水の貯留による流量調節を目的としないものは堰。
  • 堤防に接続するものは堰。

次に堰と水門又は樋門との区別は、堤防の機能を有しているかどうかで定まる。堤防の機能を有しているもの、いい換えれば、洪水又は高潮による流水の氾濫を防止又は軽減するためのものは、水門又は樋門であって、堰には該当しない。

なお、構造上の分類として、堰は、可動堰と固定堰に分けられ、ゲートによって水位の調節ができるものを可動堰といい、調節のできないものを固定堰という。

設置位置の選定基準

第五


一. 設置が不適当な箇所

  1. 狭窄部(山間狭窄部は除く)、水衝部、支派川の分合流部
  2. 河床の変動が大きい箇所、みお筋の不安定な箇所

二. 設置にあたって対策が必要な箇所

  1. 河川に設けられている他の工作物(橋、伏せ越し等)に近接した箇所
  2. 堤内地の排水に影響を及ぼすおそれのある箇所
  3. 堰の計画湛水位が堤内地盤高より高くなる箇所

第五 一の1 について

一般に、狭窄部(山間狭窄部を除く)は洪水時における流速が大きく、河積に影響を与える施設を設置すると洪水の流下を阻害するとともに、局所的に流速を助長し、河床洗掘を誘発するおそれがある。また、水衝部は洪水時の流速が大きく、洪水流の挙動も複雑である。また、河川の分合流部は、洪水流の挙動が複雑であり、河川管理上も重要な箇所である。これらの箇所は、河岸侵食あるいは護岸や堤防の破壊の要因(水衝作用や局所洗掘等)が重なり合う場所であり、堰を設置すると、より流況を複雑にする方向に作用するため、設置が不適当な箇所としたものである。なお、山間狭窄部とは、堰の設置によって洪水の流下が妨げられても、その上流部に治水上の支障を及ぼさない箇所をいい、設置が不適当な箇所から除いている。

第五 一の2 について

河床の変動が大きい箇所では、堰の設置が河床に大きな影響を与えることがあり、また川の流れが出水のたびごとに変わって取水に支障を与えることが多いので、設置が不適当な箇所としたものである。

また、みお筋の不安定な箇所では、堰を設置した場合、想定した位置と異なる位置に土砂が堆積し、取水困難や排砂困難等の支障が生じることが考えられるので、設置が不適当な箇所としたものである。

第五 二の1 について

水の流れに影響を与える工作物が近接して設置されると、相互に作用してさらに大きい影響を与えることがある。特に堰の上下流では河床変動が促進されることが多く、河底に埋設された他の工作物が露出したり、他の工作物の基礎が危険になるおそれがあるため、対策が必要な箇所としているものである。

設置位置の選定にあたっては、堰の設置目的を十分に果たすように選定するのはもちろんであるが、堰の設置によって上下流の水衝作用を助長したり、局所洗掘の原因となることがないよう十分考慮する必要がある。

なお、近接した箇所については、従来より橋では上下流の隣の橋脚間の距離が当該河川の川幅以上、又は200m以上離れている場合には、橋脚の位置関係に関する制限は特に必要がないと考えられているので、これを参考にするとよい。さらに、河底に埋設されている他の工作物に近接しているかどうかについては、設置する堰による河床低下の影響が及ぶ範囲と考えてよい。

第五 二の2 について

堰設置後の湛水により河川の水位が従前より上昇し、堤内地の排水に影響を及ぼすおそれもあるので、対策が必要な箇所としているものである。

第五 二の3 について

計画湛水位が堤内地盤高より高くなる箇所に堰を設置すると、堤防基礎地盤や周辺地盤が悪いところでは、基盤漏水が生じるおそれがある。また、常時堤防が湿潤な状態になり、降雨とあいまって堤体内の裏法部の浸潤面が早期に上昇し、法面すべりが起こりやすくなる。さらに、堤防に常に浸透圧が作用し堤体漏水が生じるおそれがある。このため、対策が必要な箇所としているものである。

設置の基準

第六


一. 共通事項

  1. 堰の平面形状は直線とし、設置の方向は洪水時の流水の方向に対して直角を基本とするものとすること。
  2. 起伏堰(ゴム引布製起伏堰を除く。以下同じ)は、計画高水流量が大きい重要区間又は河床勾配が急な区間若しくは河床材料の粒径が粗い区間等には、設置しないことを基本とするものとすること。
  3. 魚類の遡上等のため必要がある場合には、適切な構造の魚道を設けるものとすること。
  4. 取付護岸及び高水敷保護工は、河川環境の保全に配慮した構造とするものとすること。

二. 対策が必要な箇所における設置基準

  1. 他の工作物に近接して設置する場合において、堰の設置による河床の変動等により、他の工作物の基礎に影響を与えるおそれがあるときは、基礎の補強等の対策を講ずるとともに、堰柱については他の工作物と相互に作用して流水の流れを大きくしない配置とするものとすること。
  2. 堤内地の排水に影響を及ぼすおそれのある箇所に設置するときは、堤内地の排水系統の見直し又はポンプによる排水処理等の対策を講ずるものとすること。
  3. 計画湛水位が堤内地盤高より高くなるときは、十分な漏水対策の他、水抜き施設の設置等、堤防の湿潤化防止対策を講ずるものとすること。

第六 一の1 について

堰を流下する流水は、堰と直角の方向に流れるものであり、堰の平面形状のいかんによっては、下流側の水衝作用を助長したり、局所洗掘の原因となることが多い。従来、取水の都合から、斜堰が用いられた例も少なくないが、このような理由から、堰の河川横断方向の線形は、洪水の流心方向に直角の直線形(直堰)とすることを基本としたものである。ただし、中小河川において下流部での深掘れ、堰付近の洪水流の著しい乱れ等が生じるおそれがない場合は、円孤形の緩傾斜(全面越流タイプ)の堰とすることができるものとする。

なお、洪水時の流向と平常時の流向が一致していない河道区間においては、本来低水路法線を修正すべきであろうが、それが困難なときは、洪水時の流心線をより重視して、堰の平面形状を定める必要がある。

第六 一の2 について

起伏堰(ゴム引布製起伏堰を除く)は、工事の簡易さ、低廉さ、横断工作物としての河川流水の阻害の僅少さ等、引き上げ式ゲートに比していくつかの優位性を認めることができる。しかし、河床勾配が急な区間若しくは河床材料の粒径が粗い区間等においては、その構造上、出水時の不完全倒伏が懸念されるため、このような事態によって治水上の障害の大きい河川においては、設置位置に関しては慎重な検討が必要である。

また、河川の重要区間(ここでいう重要区間とは、原則として、計画高水流量がおおむね2,000m3/s2,000m^{3}/s以上の区間をいう)においては、不完全倒伏による治水上の影響が大きいことから、ゲートの開閉が確実な引き上げ式のゲートないしはゴム引布製ゲートを採用して管理に万全を期すことを基本としている。なお、渇水期以外は倒伏させておく湖止堰や低水路のみに設ける低水位維持のための堰等、洪水の疎通に支障となるおそれのない場合は、この限りでない。

なお、起伏堰の一種にゴム引布製起伏堰があるが、一般にゴム引布製起伏堰は、倒伏の確実性、堰関長の長大化、下部工の簡略化、施工の容易性と工期の短縮、維持管理の容易性、建設費の低廉性、耐不同沈下性、耐震性、水密性等において鋼製ゲートを有する堰より優れているため、重要区間又は河床勾配が急な区間若しくは河床材料の粒径が粗い区間においても採用を考えてよい。ただし、水位や流量を制御するような堰高操作を必要とする機能については十分ではないことや、倒伏時に袋体上に多量の堆砂が生じた場合には起立操作が不可能となる場合があることに留意する必要がある。

第六 一の3 について

堰は河川の低水路部分を横断して設置される工作物であり、魚類の遡上等のため必要がある場合には適切な構造の魚道を設置する必要がある。魚道の構造は、構造令に規定されているので、それによるものとする。

第六 一の4 について

水際部は河川環境にとって特に重要であり、取付護岸及び高水敷保護工は河川環境の保全に配慮した構造とする必要がある。

一般的には、次によるものとするが、各河川において、河川の状況等を踏まえた創意工夫が望まれる。

  • 擁壁部の護岸
    • 流水の変化に伴って生じる河岸又は堤防の洗掘を防止する構造とし、必要に応じて周辺景観との調和に配慮するものとする。
  • 擁壁部以外の護岸
    • 流水の変化に伴って生じる河岸又は堤防の洗掘を防止するため、コンクリートブロック構造、コンクリート張り構造等の構造とし、その際、必要に応じて周辺景観との調和に配慮するものとする。
  • 高水敷保護工
    • カゴマット、連節ブロック等の流水の作用による高水敷の洗掘を防止し、かつ、周辺景観との調和、河川の生態系の保全等の河川環境の保全に配慮した構造とするものとする。また、覆土することを基本とするものとする。

第六 二の1 について

既設工作物の上流側に堰を設置する場合は、既設工作物の基礎を補強したり、護床工等により河床変動を抑えるなどの適切な対策を講ずる必要がある。また、堰柱については、洪水時の流水の疎通の阻害や乱流の原因とならないように、堰柱と橋脚、取水塔等、各施設相互の位置関係について考慮する必要がある。

第六 二の2 について

計画湛水位が堤内地盤高より高くなるときは、数値解析等により十分な検討を行い、必要に応じ、堤防側帯及び高水敷の造成又は止水矢板による漏水対策のほか、川裏側には堤脚水路(堤体内に浸透した水を排除するための水路)等による堤防の湿潤化防止対策を講じ、かつ、その効果が安定的に維持されるようにしなければならない。図2.1には堤防側帯及び高水敷の造成による漏水対策例を、また、堤体内の水位の上昇を防ぐ湿潤化防止対策として、図2.2(a)には堤内地側法尻の一部に粒調砕石による排水層を設けた対策例を、図2.2(b)には川裏の堤脚部に水路を設けた対策例を示す。ただし、図2.2(b)のような対策工法は、排水層や堤脚水路付近に流線が集中するため、吸出し防止材を敷き、砂利、砂からなるフィルターを設け、水路の側面はブロックを空積みとするなど、堤体内の浸透水を安全に排除しやすくするような配慮が必要である。

第3章 水門及び樋門

水門及び樋門(以下「水門等」という。)とは、河川又は水路を横断して設けられる制水施設であって、堤防の機能を有する工作物をいう。

水門等と堰との区別は、堤防の機能を有しているかどうかで定まる。ゲートを全開することにより洪水時又は高潮時において堤防の代わりとなり得るものは、水門又は樋門である。

水門と樋門の区別は、当該施設が横断する河川又は水路が合流する河川(*1)の堤防を分断して設けられるものは水門であり、堤体内に暗渠を挿入して設けられるものは樋門である。なお、本基準では、樋門と樋管の区別はなく、通常樋管と称しているものも樋門に含めて取り扱うこととしている。

設置位置の選定基準

第七


一. 設置が不適当な箇所

  1. 水衝部
  2. 河床の変動が大きい箇所、みお筋の不安定な箇所

二. 設置にあたって対策が必要な箇所

  1. 既設の水門及び樋門(以下「水門等」という。)に近接した箇所
  2. 基礎地盤が軟弱な箇所
  3. 堤防又は基礎地盤に漏水履歴のある箇所

第七 一の1 について

水衝部は、洪水時の流速が大きく、洪水流の挙動も複雑である。水門等を設置すると、河床等の洗掘を助長し、門柱等川側の張出し構造物による流れの乱れの発生など周辺施設への影響が大きくなるので、設置が不適当な箇所としたものである。ただし、取水するために樋門をやむを得ず水衝部に設置する場合で、設置による河川への影響について検討し、適切と認められる対策を講ずるときはこの限りではない。

第七 一の2 について

河床の変動が大きい箇所に水門等を設置すると、流水による局所洗掘等を助長したり、埋没土砂により取排水が困難となることが予想されるため、設置が不適当な箇所としたものである。

また、みお筋が不安定な地点に水門等を設置すると、施設前面に堆積する土砂により取排水が困難となることが予想されるため、設置が不適当な箇所としたものである。

第七 二の1 について

水門等を近接して設置すると、門柱等により生じる乱流が相互に影響して付近の河岸等に被害を与えることが懸念される。また、堤防の一部が異質なものに置き換えられ、近接して堤防の弱点部が生じることとなり、水門等と堤防との接触面に生じる空隙等からの漏水現象等が助長されることなどが懸念される。このため、対策が必要な箇所としているものである。

第七 二の2 について

基礎地盤の悪いところに水門等を設置すると、基礎地盤の地盤沈下(圧密沈下、即時沈下)に伴う函体底面下の空洞化、函体周辺土の緩みの発生やクラックの発生、また、函体周辺土の緩みの発生に伴う堤体内の浸潤面の変化とパイピングの発生、そしてこれらに伴う土砂の流失と明洞化の発生が懸念される。また、地盤沈下に伴うネガティブフリクションによる函体継手部の開きや函体クラックの発生、地盤沈下平行流動による函体継手部や函体と翼壁の継手部の開きの発生が考えられる。このような理由により対策が必要な箇所としているものである。

第七 二の3 について

堤防又は基礎地盤に漏水履歴のある箇所に水門等を設けると、水門等の周囲が水みちとなりやすく、堤体漏水や基盤漏水の要因となるため、対策が必要な箇所としているものである。

設置の基準

第八


一. 共通事項

  1. 水門等の設置の方向は、堤防法線に対して直角を基本とするものとすること。
  2. 排水のための水門等を設置するときは、必要に応じ、取付河川との連続性を確保するよう配慮するものとすること。
  3. 取付護岸及び高水敷保護工は、河川環境の保全に配慮した構造とするものとすること。

二. 対策が必要な箇所における設置基準

  1. 既設の水門等に近接した箇所に設置するときは、取付護岸の一体化等必要な対策を講ずるものとすること。
  2. 基礎地盤が軟弱な箇所及び堤防又は基礎地盤に漏水履歴のある箇所に設置するときは、十分な漏水対策を講ずるものとすること。

第八 一の1 について

水門等を設置すると、堤防の弱点部となるおそれがある。堤防に異質なものを挿入する程度を少しでも少なくするほか、斜角による構造の複雑化を避け、施工の確実性を図るため、設置の方向を直角とすることを基本としたものである。なお、設置の方向を堤防法線に直角とすることにより、対岸の堤防に悪影響を与えることや、取水が不安定になること等が懸念される場合には、設置位置や堤防法線の修正について検討する必要がある。

第八 一の2 について

水門、樋門から取付河川までの間で段差等が生じている場合、当該河川及びその連続する水路の状況等(必要な場合には関係者の意見を含む)を踏まえ、魚類等の移動のため必要があるときは、段差等の緩傾斜化、水深の確保等を実施するものとしたものである。

第八 一の3 について

一般的には次によるものとするが、各河川において、河川の状況等を踏まえた創意工夫が求められる。

  • 護岸
    • 洪水の変化に伴って生じる河岸又は堤防の決壊を防止し、かつ、周辺景観との調和、河川の生態系の保全等の河川環境の保全に配慮した構造とするものとする。
  • 高水敷保護工
    • カゴマット、連節ブロック等の、流水の作用による高水敷の洗掘を防止し、かつ、周辺景観との調和、河川の生態系の保全等の河川環境の保全に配慮した構造とするものとする。また、覆土することを基本とするものとする。

第八 二の2 について

基礎地盤が軟弱な箇所に設置するときは、函体の可撓性、止水性、地震時の安全性、耐久性等を十分に検討し、地盤沈下により水門等と堤防との間に空洞が生じないような構造とするとともに、函体の折損等の欠陥が生じないようにしなければならない。また、堤防及び基礎地盤の漏水履歴のある箇所に設置するときは、止水対策等の漏水対策を講じるとともに、さらに函体周囲の空洞化について十分な検討を行い、支障が生じないことを事前に確認することが必要である。

ここで、樋門において(樋管を含む)空洞化が懸念される場合は、柔構造・柔支持方式の構造を採用し、加えて函体内部から空洞部の処置が行えるようなグラウトホールを設置するものとする。その際、函体の変形を函体施工後の地盤の変形に追従させることが可能であっても、函体内の堆砂により流下能力を阻害し、維持管理上の障害とならないように、函体長、函体断面の大きさ、沈下分布形状、継手の変形能力、地盤の沈下性状等を勘案して、堤防及び函体に影響を与えないような沈下量に納める必要がある。なお、杭(先端支持杭及び摩擦支持杭)基礎併用の樋門の新設・改築は禁止しているので留意を要する。また、既設の杭基礎構造の樋門に継ぎ足す場合には、その機会を捉えて空洞化の調査・対策を行ったうえで、基礎以外の構造で継ぎ足すことが重要である。

また、堤防又は基礎地盤に漏水履歴のある箇所若しくは基礎地盤が軟弱な箇所に設置したときは、施設の完成後においても変形等について適宜点検を行うことが必要である。

設置に係るその他の留意事項

第九


  1. 水門等は、統廃合に努めるものとすること。
  2. 水門等は、他の利水及び河川利用の状況に配慮し設置するものとすること。

第九 1 について

水門等の工作物が堤体内に含まれると、工作物と堤防との接触面に間隙を生じ、堤防の弱点部となるおそれがあるため、統廃合に努めるものとしている。

第九 2 について

排水口を上水道の取水口の上流側に近接して設置することは利水上好ましくない。また、水門等の設置位置は当該区間の高水敷等における河川利用に著しい支障を与えないように配慮されなければならない。

第4章 水路

設置の基準

第十


一 共通事項

  1. 堤防に設置しないことを基本とするものとすること。
  2. 堤外地において、河川の縦断方向に設置しないことを基本とするものとすること。
  3. 堤外地に横断的に設置する水路の方向は洪水時の流水の方向に対して直角を基本とするとともに、法勾配は緩やかにし、その周囲には高水敷保護工を設置するものとすること。
  4. 堤内地において、河川の縦断方向に設置するときは、「堤内地の堤脚付近に設置する工作物の位置等について」(平成6年5月31日建設省河治発第40号)によるものとすること。
  5. 排水のための水路を設置するときは、必要に応じ、取付河川との連続性を確保するよう配慮するものとすること。
  6. 高水敷保護工は、河川環境の保全に配慮した構造とするものとすること。

第十 一の1 について

堤防に水路を設けると、水路からの漏水や溢水により堤体を湿潤化させるとともに水路と堤防の間に亀裂が入り、雨水が浸透し、すべりが生じやすくなり、堤防を弱体化させる。また、日常の河川巡視、水防活動、将来の河川工事、河川の自由使用の支障につながるなど、河川管理上の支障となる。このため、堤防に水路を設置しないことを基本としたものである。

第十 一の2 について

堤外地において、水路を河川の縦断方向に設けると、洪水時に水路付近の洪水の流速が速くなることが多く、それに伴って乱流、渦流等を引き起こし付近の異常洗掘等の原因となりやすい。また、水路が堤脚部の排水を阻害し堤防のすべりの要因となる可能性もある。このため、縦断方向に設置しないことを基本としたものである。

やむを得ず堤外水路を河川の縦断方向に設ける場合は、できるだけ河岸又は堤防から離す必要がある。特に堤防に沿って設けると、水路設置の際の掘削により、堤防を含む斜面の荷重バランスを崩したり、止水性のあるRC構造の工作物が設置されること等により堤体内の浸潤面が下がりにくくなり、堤防法面の崩壊等の要因となり、堤防の安全性を損なうおそれがある。

一般的には、出水後の水位低下時の堤体内の浸潤面を浸透流計算により求め、これに基づき堤防のすべり安定計算を行い、従前の堤防の安全性が損なわれないことを確認するか、浸潤面の低下を促進するような対策を行い、堤防の安定性を損なわないよう措置する必要がある。

また、河川の重要性や堤防の基礎地盤の土質等に応じて河川管理上必要な距離を堤脚から確保するとともに、洪水時の水路付近の異常洗掘に対して安全な構造とする必要がある。また、芝刈り等の維持管理作業のスペースの確保や、河川工事に支障とならないような配慮が必要である。

堤外水路の構造は、河岸又は堤防の安全に支障を与えない構造で、かつ、流水に著しい影響を及ぼさない構造とし、原則として、その法面には護岸を設けるものとする。

図4.1には、堀込河道の状況を呈する河川の場合の対策例を示す。

第十 一の3 について

堤外地において、水路を河川の横断方向に設けると、流路の方向や形状によっては、洪水時に水路付近において乱流、渦流等を惹起し、付近の異常洗掘等の原因となる可能性がある。このため、高水敷を横断して設ける堤外水路は、本川の流向に直角ないしはそれに近い角度で設置するとともに、法勾配をできるだけ緩やかにし、その周囲には高水敷保護工を設けるものとする。

図4.2と写真4.1に示すように、堤外水路の周囲には高水敷の保護のために高水敷保護工を設ける必要がある。写真4.1の事例では、フトン篭により高水敷の保護を行っている。

第十 一の4 について

堤外水路において段差等が生じ、当該河川及びその連続する水路の状況等(必要な場合には関係者の意見を含む)を踏まえ、魚類等の移動のため必要があるときは、段差等の緩傾斜化、水深の確保等を実施するものとしたものでもある。

第十 一の5 について

高水敷保護工は、一般的にはカゴマット、連節ブロック等の、流水の作用による高水敷の洗掘を防止し、かつ、周辺景観との調和、河川の生態系の保全等の河川環境の保全に配慮した構造とするものとする。また、覆土することを基本とするものとする。ただし、各河川において、河川の状況等を踏まえた創意工夫が望まれる。

第5章 揚水機場及び排水機場

揚水機場及び排水機場(以下「揚排水機場」という。)とは、ポンプによって河川又は水路の流水を河岸又は堤防を横断して取水又は排水するための工作物をいう。揚排水機場は、構造令の解説において「構造令は河川管理施設及び法第26条(工作物の新築等の許可)に基づく許可工作物に適用されるものであり、法第26条の許可対象とならない部分については、そもそも構造令の適用対象とはならない・・・(中略)・・・河川区域外のどの部分まで構造令が適用されるかについては、法第26条の解釈によって決まるものであり、構造令においてポンプ場及びその付属施設の全体を揚排水機場と称しているからといって、それら全べてに構造令が適用されるべきものと考えてはならない。」とあるように、揚排水機場の施設すべてが必ずしも構造令の適用を受けるものではないとされているが、設置位置等の決定にあたっては切り離して考えることができないため、本基準においてはポンプ場及びその付属施設を一体として審査の対象とするものとした。

設置の基準

第十一

一 共通事項


  1. 揚水機場及び排水機場(以下「揚排水機場」という。)のポンプ設備及び吐出水槽その他の調圧部を堤防法尻に近接して設置するときは、「堤内地の堤脚付近に設置する工作物の位置等について」(平成6年5月31日建設省河治発第40号)によるものとすること。

第十一 一の1 について

揚排水機場のポンプ設備及び吐出水槽その他の調圧部は、一般に堤防法尻に近接して設置される。この場合、堤体内の浸潤面を下げにくくする可能性があるため、堤脚部の排水を阻害しない位置に設置することが必要であり、設置にあたっては、「堤内地の堤脚付近に設置する工作物の位置等について」(平成6年5月31日建設省河治発第40号)によるものとしたものである。なお、吐出水槽その他の調圧部は、水槽からの水漏れが生じないように内面処理を施すことが必要である。

また、揚排水機場のポンプ場は、ポンプの振動が堤防に著しい影響を及ぼさない位置に設ける必要がある。特に、排水機場は、その付近の地形上最も低い位置に設けられることから低湿地の軟弱地盤地帯に設けられることが多く、その連続的な振動は付近の軟弱層上の堤防の安定を損なうおそれがある。このため、「堤内地の堤脚付近に設置する工作物の位置等について」(平成6年5月31日建設省河治発第40号)において、いわゆる「2Hルール」に加えて、「排水機場の吐出水槽等の振動が堤防に伝わるおそれのある工作物を設置する場合については、堤防のり尻より5メートル以上離すものとすること。」としているので留意する必要がある。

なお、揚排水機場の防振対策として前記に加え、一般に以下の対策が講じられ、効果を上げているところである。

  • 主原動機やポンプのある建屋と吐出水槽を結ぶ吐出管に可撓伸縮継手を設けて、建屋の振動が吐出樋管に伝わらないようにする。
  • 建屋の振動の原因は主原動機(一般にはディーゼルエンジン)の振動がほとんどであるため、主原動機の基礎を十分に大きくして床の剛性を高める。
  • 主原動機と建屋が共振しないように配慮する。

設置に係るその他の留意事項

第十二


  1. ポンプの連続運転による振動等により、周辺環境に著しい影響を及ぼすおそれがあるときは、設置位置の変更や十分な振動対策等の措置を講ずるものとすること。

第十二 1 について

都市部等の人家密集地域内に設置する揚排水機場にあっては、ポンプの連続運転等による振動や騒音問題等に配慮し、必要に応じて設置位置の変更や十分な振動対策、騒音対策等の措置を講ずるものとする。

第6章 取水塔

取水塔とは、河川の流水をポンプによって取水するため、河道内に設ける塔状の集水施設をいう。

設置位置の選定基準

第十三


一 設置が不適当な箇所

  1. 狭窄部(山間狭窄部は除く。)、水衝部、支派川の分合流部
  2. 河床の変動が大きい箇所、みお筋の不安定な箇所

二 設置にあたって対策が必要な箇所

  1. 河川に設けられている他の工作物(橋、伏せ越し等)に近接した箇所

第十三 一の1 について

一般に、狭窄部(山間狭窄部を除く。)は洪水時における流速が大きく、断面に影響を与える施設を設置すると洪水の流下を阻害するとともに、局所的に流速を助長し、河床洗掘を誘発するおそれがある。また、水衝部は洪水時の流速が大きく、洪水流の挙動も複雑である。また、河川の分合流部は、洪水流の挙動が複雑であり、河川管理上も重要な箇所である。これらの箇所は、河岸侵食あるいは護岸や堤防の破壊の要因(水衝作用や局所洗掘等)が重なり合う場所であり、取水塔を設置すると、より流況を複雑にする方向に作用し、自身の取水機能障害の発生も考えられるため、設置が不適当な箇所としたものである。なお、山間狭窄部とは、取水塔の設置によって洪水の流下が妨げられても、その上流部に治水上の支障を及ぼさない箇所をいい、設置が不適当な箇所から除いている。

第十三 一の2 について

河床勾配の変化点等河床の変動が大きい箇所では、取水塔の必要な根入れを確保できなくなり、また、取水が困難となる場合があるため、設置が不適当な箇所としたものである。また、みお筋が不安定な箇所では、みお筋が変化し取水が困難となることが考えられるため、設置が不適当な箇所としたものである。

第十三 二の1 について

洪水時においては、取水塔により流線が乱され、渦流が発生することはある程度避けられず、十分な配慮を払わないと、河床の局所洗掘を引き起こし、河底に埋設された他の工作物が露出するおそれがある。また、取水塔を橋脚や堰と近接して設置すると、洪水時においては、これらの工作物による渦が重なりやすく、治水上の支障となるおそれがある。このため、対策が必要な箇所としているものである。

なお、近接した箇所については、従来より橋では上下流の橋の橋脚間の距離が当該河川の川幅以上、又は200m以上離れている場合には、橋脚の位置関係に関する制限は特に必要がないと考えられているので、これを参考にするとよい。さらに、河底に埋設されている他の工作物に近接しているかどうかについては、設置する取水塔による局所洗掘の影響が及ぶ範囲と考えてよい。

設置の基準

第十四


一 共通事項

  1. 魚類の迷入、吸込み防止に配慮した構造とするものとすること。
  2. 取付護岸は、河川環境の保全に配慮した構造とするものとすること。

二 対策が必要な箇所における設置基準

  1. 取水塔の設置による局所洗掘が、近接した他の工作物に支障を及ぼさないよう河床の洗掘防止について適切に配慮された対策を講ずるものとし、橋、堰等の工作物に近接して設置するときは、橋脚、堰柱等と相互に作用して流水の乱れを大きくしない配置とする等の対策を講ずるものとすること。

第十四 一の1 について

取水塔は、魚類の迷入、吸込み防止に配慮した構造とするものとする。

これまでに用いられている迷入防止策は、以下の四つの方法及びそれらの組合わせによっている。

  1. 取水口への進入を、物理的に排除する方法
  2. 取水口への進入を抑止あるいは妨害する方法
  3. 取水口に入ってきた魚を、機械的に集めて捕獲し、安全な場所に移動させる方法
  4. 取水口に近づいた魚を誘導等によって方向転換させる方法

設置事例として、取水口に取り付けるスクリーンを赤くしている事例が多いが、これはイの範疇に入るスクリーンにロの範疇に入る忌避色を加えたものということができる。

第十四 一の2 について

護岸は、一般的には、流水の変化に伴って生じる河岸又は堤防の洗掘を防止し、かつ、周辺景観との調和、河川の生態系の保全等の河川環境の保全に配慮した構造とするものとする。ただし、各河川において、河川の状況等を踏まえた創意工夫が望まれる。

第十四 二の1 について

伏せ越しや集水埋渠等の河底に埋設する工作物に近傍して設置すると、河床の洗掘により、これらの工作物が露出するなどのおそれがある。また、近接した橋等の基礎の安定性が損なわれるおそれがある。このため、護床工等を設けて河床の安定化を図る、他の工作物の基礎を補強するなどの適切な対策を講ずるものとしたものである。また、既設の橋、堰等に近接した箇所に設置するときは、取水塔の配置を既設の橋脚や堰柱等に合わせるなどの取水塔による流水の乱れを小さくする対策を講ずるものとする。

第7章 伏せ越し

伏せ越しとは、用水路又は排水路等である開渠が河川と交差する場合において逆サイフォン構造で河底を横過する工作物で、施工方法が開削工法による工作物をいう。

開水路である用水路又は排水路が河川と交差する場合には、水路橋か伏せ越しとして河川を横過する必要が生ずる。水路橋とするときは、一般には、ポンプで揚水しなければならないが、対岸の地形が低い場合、伏せ越しとすれば、自然流下が可能であり、ポンプで揚水する必要がないので、伏せ越しを採用することが多い。

なお、シールド工法により河底を横過する工作物(地下鉄、道路、上下水道、工業用水道、石油パイプライン等)は、「河底横過トンネル」と呼び、伏せ越しとは区別することとしている。

設置位置の選定基準

第十五


一 設置が不適当な箇所

  1. 河床の変動が大きい箇所
  2. 河川に設けられている他の工作物(堰、橋等)に近接した箇所

二 設置にあたって対策が必要な箇所

  1. 基礎地盤が軟弱な箇所
  2. 基礎地盤に漏水履歴のある箇所

第十五 一の1・2について

伏せ越しは、河底に埋設されるため、洪水時には局所洗掘の影響を受けやすい。また、露出や折損等によって局所洗掘が助長され、付近の河川管理施設等に悪影響を与えることや、洪水時に折損箇所から堤内地に浸水する原因となることも考えられる。このため、河床の変動の大きい箇所及び河川の局所洗掘が生じやすい橋の下流側、堰等の工作物に近接した箇所は、設置が不適当な箇所としたものである。

なお、近接した箇所については、既設の工作物の局所洗掘の影響が及ぶ範囲と考えてよい。写真7.1に伏せ越しが露出した事例を示す。

第十五 二の1 について

軟弱地盤等の地盤沈下のおそれのある箇所に伏せ越しを設けると、地盤沈下により伏せ越しの函体と堤防との間に空洞が生じ、基盤漏水を引き起こすおそれがあるため、対策が必要な箇所としているものである。なお、地盤沈下量が大きい場合には函体折損等の事例が少なからず発生しており、この場合、基盤漏水を助長することになりやすいため、対策が必要な範囲として特に注意が必要である。

第十五 二の2 について

基礎地盤に漏水履歴のある箇所に伏せ越しを設けると、函体の周囲が水みちとなりやすく基盤漏水の要因となるため、対策が必要な箇所としているものである。

設置の基準

第十六


一 共通事項

  1. 伏せ越しの平面形状は直線とし、設置の方向は洪水時の流水の方向に対して直角を基本とするものとすること。

二 対策が必要な箇所における設置基準

  1. 基礎地盤が軟弱又は漏水履歴のある箇所に設置するときは、十分な漏水対策を講ずるものとすること。

第十六 一の1 について

伏せ越しを斜めに設置すると、洗掘を受け函体が露出したときに水が斜めに走り、河岸の侵食を助長することが考えられることから、設置の方向は洪水時の流水の方向に対して直角とすることを基本としたものである。やむを得ず斜めに設置する場合には、伏せ越しを深く設置することや、取付護岸の根入れを深くすることなどの対策を講ずる必要がある。

第十六 二の1 について

基礎地盤が軟弱な箇所に設置するときは、函体の可撓性、止水性、地震時の安全性、耐久性等を十分に検討し、地盤沈下により伏せ越しの函体と堤防との間に空洞が生じない構造とするとともに、函体の折損等の欠陥が生じないようにしなければならない。また、基礎地盤の漏水履歴のある箇所に設置するときは、止水対策等の漏水対策を講じるとともに函体周囲の空洞化について十分な検討を行い、支障が生じないことを事前に確認することが必要である。ここで空洞化が懸念される場合は、グラウトホールを設置するなどの対策を講ずる必要がある。

また、基礎地盤に漏水履歴のある箇所若しくは基礎地盤が軟弱な箇所に設置したときは、施設の完成後においても変形等について適宜点検を行う必要がある。

第8章 管類等

管類等とは、水道管、下水道管、ガス管等で河川と交差し、橋に添架して堤防を横過する工作物、揚排水施設及び高水敷利用に伴い生じた堤防上を乗り越す工作物又は河川に縦断的に設置される工作物をいう。なお、光ファイバケーブル類は水道管等と比べて断面が小さく移設も容易であり、地表等で破損した場合でも水質事故等につながるおそれがないものであり、ここでいう管類とは性状が異なることから区別することとしている。

適用範囲

第十六の二


この章の規定は、光ファイバケーブル類(通信用のケーブル等を含む。以下同じとする。)以外の管類等について適用するものとする。

設置の基準

第十七


一 共通事項

  1. 縦断的に設置しないことを基本とするものとすること。
  2. 圧力管を設置するときは、二重構造とするものとすること。
  3. 堤防乗り越し管は、堤防法線に対して直角を基本とするものとすること。
  4. 堤防乗り越し管は、堤防の表法肩から堤外側部分については流水の乱れを大きくしないよう必要な対策を講ずるものとすること。
  5. 堤防乗り越し管は、堤防の天端及び裏法肩から堤内地側の部分については計画堤防内に設置しないものとすること。
  6. 堤防乗り越し管の設置にあたっては管類の振動が堤防に支障を与えないよう必要な対策を講ずるものとすること。
  7. 構造令に適合していない既存の橋には管類等を添架しないことを基本とするものとすること。

第十七 一の1 について

堤防付近において縦断方向に管類等を設置すると、その後の横過工作物の構造及び施工法等に大きな制約を与えたり、管類等の亀裂破損により内容物が流出するおそれがあり、さらには杭打ちや土砂掘削等の水防活動の支障となることが考えられる。また、河川の堤防は、河川の開発に伴う洪水量の増大等に対処するために、将来にわたって逐次堤防の補強やかさ上げを行っていくことが予想されるため、縦断的に工作物を設けることは問題が多い。さらに、管類等は横断工作物とは異なり、河川敷地内に縦断的に設置しなければならない必然性はなく、河川区域外に縦断的に設置することによってもその目的が達せられるものである。このため、管類等を河川の縦断方向に設置しないことを基本としたものである。

管類等(基礎を含む)をやむを得ず河川の縦断方向に設置する場合には、計画堤防外に設置することとなる。ここで、堤防のかさ上げ、拡幅時等に施工した堤防の余盛部分については、築造後3年以上経過しており、さらなる沈下(広域的な地盤沈下を含む)が見込まれない場合は、計画堤防外として管類等の工作物が設置可能なものとする。また、堤防の安定を図るため必要な箇所に設ける第1種側帯や、非常用土砂等を備蓄するため特に必要な箇所に設ける第2種側帯には、その用途の性格から管類等を設置してはならない。

第十七 一の2 について

水道や石油のパイプライン等の圧力管が損傷した場合には、河川水の汚染や堤防の損傷を引き起こすことがある。十分な安全性の確保のため、その構造は、二重管構造等とするものとした。

第十七 一の3 について

堤防乗り越し管は、堤防を横過する延長を最小にするため、堤防に対し直角に設置することを基本とした。

第十七 一の4 について

堤防乗り越し管の堤防の表法肩から堤外地側の部分は、洪水の流下を阻害したり、流水の乱れなどにより法面の洗掘が起きないようにするための対策を講じなければならない。管類等を堤防法線に合わせて堤体内に埋設して設置する場合には、護岸等の補強を行うとともに、設置の幅分について堤内地側に堤防を拡幅するものとする(図8.1、写真8.1)。また、計画堤防外に設置する場合には、護床等の補強を行い流水の作用に対して安全に防護された構造とするとともに、その防護部分により流水の乱れを生じて堤体が洗掘されることのないように、堤防にすり付けるものとする(図8.2)。その際、護岸等による防護の高さは、計画高水位以上とし、流水が著しく変化することとなる区間にあっては堤防の高さとするものとする。

また、防護の幅は、施設(すり付け部を含む)の両端から1m以上とするが、2mとしている事例が多い。

第十七 一の5 について

堤防乗り越し管の堤防の天端及び袋法肩から堤内地側の部分は、堤防に支障を与えないように、計画堤防外に設けるものとする。その際、河川管理用車両の通行に支障のない構造とする必要がある。なお、堤防の天端に管理用通路を設けることが、特類等の構造上著しく困難又は不適当な場合で、かつ、水防活動に支障がないと認められるときには、管理用通路を堤防の裏小段又は堤内地に迂回させることができるものとする。この場合は、河川の巡視に支障とならないよう堤防の天端に必要な対策を講ずるものとする。

第十七 一の6 について

堤防の乗り越し管の設置により管類等の振動が堤防に支障を与えることが予想される。このため必要に応じて、ボックス構造、鞘管構造等とするなどの振動対策を行うこととする。

第十七 一の7について

構造令に適合していない既存の橋は、例えば橋の桁下高さが所定の高さを確保していないなど、すでに治水上なんらかの問題点を有している。これに管類等を添架すると、その問題点が管類等まで及び、河川管理上の問題となる場合がある。そのため、このようなおそれがある既存の橋には管類等を添架しないことを基本としたものである。

第9章 集水埋渠

集水埋渠とは、地下へ常設された多孔管により伏流水を集水するために設けられる土木構造物をいう(図9.1(a))。また暗渠の側壁面から多孔集水管を放射状に突出した特殊な集水渠(図9.1(b))といわれる形式についてもここでは集水埋渠として取り扱うものとする。

設置位置の選定基準

第十八


一 設置が不適当な箇所

  1. 水衝部、支派川の分合流部
  2. 河床の変動が大きい箇所
  3. 河川に設けられている他の工作物(堰、橋等)に近接した箇所

第十八 一の1・2について

集水埋渠は河底に埋設されるため、洪水時の河床の変動による影響を受けやすく、露出や折損等によって局所洗掘が助長され、付近の河川管理施設等に悪影響を与えることや、洪水時に折損箇所から堤内地に浸水する原因となることも考えられる。一般に、集水管である埋渠はその継手部からも集水できるように空継手で接続されているため、埋渠が露出した際には伏せ越しに比べ流失しやすい。

このため、河床の変動が大きい箇所に加え、水衝部、支派川の分合流部等の河床の変動を生じやすい箇所は、設置が不適当な箇所としたものである。

第十八 一の3について

河床の局所洗掘が生じやすい堰の下流側や、橋等の工作物に近接した箇所は、設置が不適当な箇所としたものである。

なお、近接した箇所については、堰、橋等の工作物の局所洗掘の影響が及ぶ範囲が考えられる。

設置の基準

第十九


一 共通事項

  1. 設置深さは、計画河床、現河床に配慮するとともに、河床低下や洗掘に対して十分安全な深さとするものとすること。
  2. 集水埋渠の有孔部は、堤脚から治水上支障のない距離を離して設置するものとすること。

第十九 一の1について

集水埋渠は河床下の工作物であるので、その設置深さは構造令第72条の伏せ越しの設置深さを参考に設定すればよいと考えられる。ただし、この設置深さは最低基準を示したものであるので、河床変動の大きさを考慮して、埋渠のフィルター層までを取水施設とみなし、設置深さを定めるのがよい。また、埋渠の埋戻し部分のみが流失した事例もあるので、埋戻しにあたっては周辺部となじむよう現地で発生した河床材料により埋め戻すことを基本とする。

接合井は構造上埋渠より浅い位置に天端が位置するために、出水時に接合井のみが露出して被災した事例もある。したがって、接合井と接合弁の間隔を極力離し、接合井の基数を少なくするとともに、接合井の天端高は埋渠のフィルター層の上面と同様の位置とすることが望ましい。ただし、施設の維持管理や接合井に出入りするための頻繁な河川内の工事を避けるために、接合井が浅いほうが有利な場合もあり、この場合は、河床の安定を図るための適切と認められる対策を講ずれば、天端位置を河床面の高さ(計画河床高が現況河床より深い場合はその高さ)とすることができるものである。

第十九 一の2について

集水埋渠の有孔部を堤防に近接した位置に設けると、洪水時に水圧が地盤内を浸透するよりも早く伝わるため、堤体内の浸潤線を押し上げる場合がある。このため、集水埋渠の有孔部は、堤脚から治水上支障のない距離以上離して設けることとしたものである。

設置に係るその他の留意事項

第二十


  1. 集水埋渠の設置は、表流水取水が不適当又は著しく困難な場合に限られるものとすること。
  2. 集水埋渠の取水量は、周辺の地下水利用等を著しく損なわない規模であるものとすること。
  3. 埋設物の長さ等の規模は、施設の維持、補修を勘案し定めたうえで必要最小限にとどめるものとすること。

第二十 1について

従来より適切な河川管理、取水の安定性の観点から、表流水取水を原則としている。また、集水埋渠による伏流水取水については、以下の不適切な場合がある。このため、集水埋渠の設置は、表流水取水が不適当又は著しく困難な場合に限られるものとしたものである。

  • 地上工作物による表流水取水に比べて施設の安全性の把握や、施設の維持管理が困難であること。
  • 機能上多孔管の布設が縦断方向又は横断方向に広範囲にわたり、河川浚渫、護岸災害工事及び将来の流量改定等に伴う河床切下げ等に対して障害物となるおそれがあること。
  • 不適切な施工の場合、埋渠の継手部(一般に空継手)や有孔部から土粒子を吸い込み、埋渠の閉塞や地表の陥没等が起こるおそれがあること。
  • 河床変動により、施設の露出・流失等のおそれがあること。
  • 集水不良解消のための埋戻し部のフィルター層の入れ換え、みお筋の付け替え、集水管の延長等の対策が行われることが多く、河川内の工事が繰り返し必要となるおそれがあること。

しかし、わずかな量の取水のために大規模な堰等の施設の設置が必要となる場合など、社会的経済的妥当性の観点から表流水取水をすることが不適当な場合が考えられる。また、堰を設ける際の河積確保のための河道拡幅が地形条件により著しく困難である場合や、流路が不安定なため表流水取水ができない場合など、表流水取水とすることが物理的に困難な場合が考えられる。

このような場合には、上記の伏流水取水方式の不適切な点を踏まえ、堰や取水塔を用いた表流水取水方式と伏流水取水方式を比較検討して、表流水取水が不適当又は著しく困難な場合で、かつ対策を講ずることにより河川管理上支障がない場合には伏流水取水方式を選定できるものとする。

第二十 2について

既存の伏流水取水施設を取水規模(実績取水量)別に整理すると、取水量が0.5m3/s0.5m^{3}/s以下の施設数が全体の96%(0.1m3/s0.1m^{3}/s以下の施設数は75%)とその大部分を占めている。また、取水量が0.5m3/s0.5m^{3}/s以下の施設では、周辺の地下水利用等に支障を与えた事例は報告されていない。このため、取水量は0.5m3/s0.5m^{3}/s以下にすることが望ましい。なお、0.5m3/s0.5m^{3}/sより大きな規模の取水を行う場合には、計画位置周辺の地下水の利用状況を考慮して、取水による周辺地下水利用等に与える影響について事前に十分な検討を行い、適切な措置を講ずるとともに、施設の完成後も継続的にその影響を調査、監視するものとし、施設の完成後になんらかの支障が認められた場合には、適切な対策をとるように指導するものとする。特に河川が周辺地下水の涵養源となっている場合などは、十分な注意が必要である。また、0.5m3/s0.5m^{3}/s以下の取水量とする場合でも、周辺に地下水の利用施設がある場合にはその影響について検討することが必要である。

第二十 3について

施設の規模は必要最小限の規模とする。ここで、「施設の維持・補修を勘案」するとは、河床材料の吸込みや目詰まり等をできるだけ防ぐための構造としつつ、河川内における維持・補修の頻度を少なくするために見込む取水能力の余裕を必要最小限とすることを指す。なお、施設の規模については、対象河川の状況を十分検討のうえ、検討するものとする。

第10章 橋

橋とは、道路、鉄道、上・下水道及びガス管等が河川と交差する場所において、河川を横過するため設けられる永久橋(木橋、歩道橋、桟橋、仮橋及び工作物の管理橋を除く)で、河川区域内に橋脚や橋台を設けて、設置される工作物をいう。

なお、高架道路や高架鉄道が河川を横過する場合で、河川区域内に橋脚及び橋台を設けない場合でも、法第24条(土地の占用の許可)及び、法第26条(工作物の新築等の許可)の許可にあたっては本基準に準拠して審査を行う必要がある。

設置位置の選定基準

第二十一


一 設置が不適当な箇所

  1. 狭窄部(山間狭窄部は除く)、水衝部、支派川の分合流部
  2. 河床の変動が大きい箇所

二 設置にあたって対策が必要な箇所

  1. 河川に設けられている他の工作物(橋、伏せ越し等)に近接した箇所

第二十一 一の1について

一般に、狭窄部(山間狭窄部を除く)は洪水時における流速が大きく、河積に影響を与える施設を設置すると、洪水の流下を阻害するとともに、局所的に流速を助長し、河床洗掘を誘発するおそれがある。また、水衝部は洪水時の流速が大きく、洪水流の角度も変則的である。また、支川の分合流部は洪水波の挙動が複雑であり、河川管理上も重要な箇所である。これらの箇所は、河岸侵食あるいは護岸施設の破壊の要因(水衝作用や局所洗掘等)が重なり合う場所であり、橋を設置すると、より洗掘を複雑にする方向に作用するため、設置が不適当な箇所としたものである。山間狭窄部とは、橋の設置によって洪水の流下が妨げられても、その上流側に治水上の支障を及ぼさない箇所をいい、設置が不適当な箇所から除いている。

第二十一 一の2について

河床勾配の変化点等河床の変動が大きい箇所では、確保の必要な根入れを確保できなくなる場合があるため、設置が不適当な箇所としたものである。写真10.1には河床低下に伴う橋脚基礎の露出とその補強例を示す。

第二十一 二の1について

洪水時においては、橋脚により流れが乱され、渦流が発生することはある程度避けられず、十分な配慮を行わないと、河床の局所洗掘を引き起こし、河床に埋設された他の工作物が露出するおそれがある。また、橋脚を伏せ越しや堰と近接して設置すると、洪水時においては、これらの工作物による渦が重なりやすく、治水上の支障となるおそれがある。このため、対策が必要な箇所としているものである。

写真10.2には、2つの橋が近接して建設されている例を示す。このうち手前の橋は、パイルベント橋脚として施工されたものを、その対策として一つの橋脚としてみなせるように底版を設けたものであるが、対策低下によりさらに露出分が露出しており埋戻し分の補強対策が必要となっている。

なお、近接した箇所については、従来より橋では、上下流の橋の橋脚間の距離が当該河川の川幅以上、又は200m以上離れている場合には、橋脚の位置関係に関する制限は必要ないと考えられているので、これを目安にするとよい。さらに、付近に既設されている他の工作物に近接しているかどうかについては、設置する橋脚による局所洗掘の影響が及ぶかどうかを考えてよい。

設置の基準

第二十二


一 共通事項

  1. 橋脚は堤体内に設けないものとすること。ただし、鋼管構造等の堤防に悪影響を及ぼさない構造のピアアバットを設け(ピアアバットの位置は原則として川表側とする)、川裏側において堤防補強を行うときはこの限りでない。
  2. 橋の設置によって、著しい流水の乱れや堤防への悪影響等が生じないよう必要な対策を講ずるものとすること。
  3. 取付護岸及び高水敷保護工は、河川環境の保全に配慮した構造とするものとすること。

二 対策が必要な箇所における設置基準

  1. 橋脚による局所洗掘が、近接した他の工作物に支障を及ぼさないよう河床及び高水敷の洗掘防止について適切に配慮された対策を講ずるものとし、取水堰、堰等の工作物に近接して設置するときは、取水堰、堰柱等と相互に作用して流水の乱れを大きくしない配置とする等の対策を講ずるものとすること。

第二十二 一の1について

高架橋の場合、橋台と異なり堤体内に橋脚を入れる必然性がない。また、堤防と橋脚とでは、平常時の交通振動や地震時の振動性状が異なること等により、堤防と橋脚の接触面に隙間ができやすく、漏水の原因となりやすい。このため、橋脚は堤体内に設けないこととしたものである。ただし、鋼管構造等の堤防に悪影響を及ぼさない構造のピアアバットを設け、川裏側において堤防補強を行うときはこの限りでない。このとき、ピアアバットの設置位置は原則として川表側とするほか、構造令第61条の規定を準用するものとする。この場合において、同条中の「橋台」は、「ピアアバット」と読み替えるものとする。また、堤防補強としては、ピアアバットの長さ以上の範囲において、堤防法線直角方向に見たピアアバットの川表側の面から川裏側の面までの幅以上の裏腹付けを行う等の堤防補強を行うものとする(図10.1)。

第二十二 一の2について

イ 斜橋の取扱い

橋の方向は、著しい流水の乱れや堤防への悪影響等が生じないよう、河川の洪水時の流向に対して直角とすることが望ましい。橋の方向を斜めとすると、橋脚により生じる渦が重なりやすい。また、橋脚の桁受けも河川に平行とすることができず、円形断面橋脚として桁受けの方向を上部工に合わせる手法をとらざるを得ないことが多く、かえって橋脚を太くしなければならないことが多い。橋台も上部工構造の関係から河川の法線に平行とすることができなくなり、堤防断面に大きく食い込む構造をとらざるを得なくなることが多い。また、橋により日陰になる部分も多くなるため、他の一般公衆の河川利用を制限したり芝枯れの原因となることも懸念される。このようなことから、斜橋の設置は一般に好ましくないものである。

やむを得ず斜角が60度以下の斜橋となる場合は、原則として、斜角は45度以上とし、堤防への食い込み角度は20度以下とするとともに、堤防への食い込み幅は堤防天端幅の1/3以下(2mを超える場合は2m)とする。また、橋台の長さ以上の範囲において、堤防への食い込み幅以上の裏腹付けを行う等の堤防補強を行うものとする。ただし、この場合、3スパン以上の橋(河道内に2本以上の橋脚を有する橋)では、水理模型実験、数値解析等により、局所洗掘及び河道の安定等、設置による河川への影響について検討を行い、適切と認められる対策を講じるものとする。

ロ 河川上空に張り出し構造となる橋等の取扱い

山間狭窄部等において張り出し歩道を設置する場合は、原則として計画高水位に必要な余裕高を見込んだ高さ以上の高さに設置するものとし、河岸の景観保全に十分配慮するものとする。なお、この場合、地形の状況等によってやむを得ず基礎等を流下断面内に設けざるを得ない場合は、当該張り出し部を無効河積として、せき上げ水位の影響について検討を行うとともに、当該張り出し部により付近の河岸及び河床等が洗掘されることのないよう措置するものとする(図10.2)。

なお、堤内地側の用地取得難のために、橋形式のランプを河川上空に設けるのは必然性がなく、一般に認められない

ハ 構造令に適合していない橋の部分拡幅等の取扱い

構造令に適合していない橋(以下、「現橋」という)に添架により隅切り、右折レーン及び歩道等(歩道、自転車歩行車道、自転車専用道路、自転車歩行者専用道路若しくは歩行者専用道路をいう。以下、「歩道等」という)を設ける場合は、部分改築であり、構造令の適用がないものである。また、現橋に近接した橋として歩道等を設ける場合についても、この種の歩道等の設置は、歩行者等の通行の安全の確保に著しい支障がある小区間について、橋の本来の機能である歩行者等の安全な通行を可能とする機能を緊急に確保するための改築であることに鑑み、構造令第73条第2号(臨時に設けられる河川管理施設等)に該当するものとして取り扱うことができるものとする。

ただし、前記の場合において、隅切り、右折レーン及び歩道等(以下、「右折レーン等」という)を設ける橋は、これによって治水上の著しい影響が生じないよう、原則として径間長が20m以上の橋とする。また、手戻り工事の発生を極力防止するために、近い将来に改築が行われる見込みがある橋は除くものとする。

このような、右折レーン等に係る橋の構造等は以下のように取り扱うものとする。

  1. 右折レーン等に係る橋の径間長は、橋脚を現橋の橋脚の見通し線上に設けることとして定まる径間長とすることができるものとする。
  2. 右折レーン等に係る橋の橋脚による河積の阻害は、現橋による河積の阻害以下にとどめるものとする。また、桁下高は、現橋の桁下高を下回らないものとする。
  3. 右折レーン等に係る橋の設置に伴い施工すべき河岸又は堤防の護岸については、構造令施行規則第31条の規定を準用するものとする。この場合において、基準径間長は、河川の現況流下能力の流量を計画高水流量とみなして定まる値とするとともに、右折レーン等に係る橋のみならず現橋の橋脚及び橋台の影響に対しても措置するものとする。
  4. 右折レーンを設ける場合は、堤防天端の兼用道路との平面交差処理対策について十分検討し、極力、堤防天端の兼用道路においても右折レーンを設けるものとする。
ニ 流木の発生するおそれのある河川における橋の設置の取扱い

計画高水位を上回った出水の際に、橋によって流木がせき止められ、上流側で溢水被害等が発生することがないよう留意する必要がある。洪水時に大量の流木が発生するおそれのある河川で、計画高水位を上回る洪水が頻繁に発生するおそれのある河川においては、必要に応じ、桁下高を増加することが望ましい。桁下高を増加することが困難な場合には、上流側の堤防を補強するなど、流木による被害を少なくなるよう配慮することが必要である。

ホ 地質的に脆弱な箇所の堤体内に橋台を設置する場合の取扱い

旧河道等の地質的に脆弱な箇所において、やむを得ず堤体内に橋台を設置する場合は、堤防への悪影響が生じないよう、堤防の補強等の対策を講じる必要がある。

による局所洗掘の影響を考慮して、既設堰に対する根固め工の対策を講じた例を示す。

第二十二 一の3について

一般的には次によるものとするが、各河川において、河川の状況等を踏まえた創意工夫が望まれる。

イ 護岸

流水の変化によって生じる河岸又は堤防の洗掘を防止し、かつ、周辺景観との調和、河川の生態系の保全等の河川環境の保全に配慮した構造とするものとする。

ロ 高水敷保護工

カゴマット、多自然型ブロック等の、流水の作用による高水敷の洗掘を防止し、かつ、周辺景観との調和、河川の生態系の保全等の河川環境の保全に配慮した構造とするものとする。また、緑化することを基本とするものとする。

第二十二 二の1について

伏せ越しや取水堰等の河底に設置される工作物に近接して設置すると、河床の洗掘により、これらの工作物が露出するなどのおそれがある。また、近接した橋等の基礎の安定性が損なわれるおそれがある。このため、床固め等を設けて河床の安定化を図る、他の工作物の基礎を補強するなどの適切な対策を講ずるものとしたものである。また、既設の取水堰、堰柱に近接した箇所に設置するときは、橋脚の配置を既設の取水堰や堰柱に合わせるなどの橋脚による流水の乱れを小さくする対策を講ずるものとする。

写真10.3には、歩道橋を既設堰の上流側に隣接する際に、2基の橋脚による局所洗掘の影響を考慮して、既設堰に対する根固め工の対策を講じた例を示す。

第11章 潜水橋

潜水橋とは、堤外地に設けられる橋で洪水時には桁面が水面下になる橋をいう。

設置の基準

第二十四 一 共通事項


  1. 低水路に設置しないことを基本とするものとすること。
  2. 潜水橋の上部構造が、洪水時等に流失することのないよう必要な対策を講ずるものとすること。

第二十四 一の1 について

潜水橋は洪水時に流れを阻害し乱流の原因となって種々の災害を惹起することが多い。特に出水の初期には上流からの流木、ゴミ等が潜水橋にひっかかり、これによる河積阻害が、潜水橋の桁面以下の断面のみでなく、その何倍にも達することが多く、治水上の影響が著しく大きいことから、低水路に設置しないことを基本としたものである(写真11.1)。

ただし、山間狭窄部等において、洪水時の河積阻害によって堰上げが発生しても治水上の影響が著しく小さい場合又は治水上の影響が著しく小さくなるよう必要な対策を講じた場合は、必要最小限の範囲に設けることができるものとする。

なお、水門等を通じて合流する支川の河道又は水路が高水敷を横断する区間に設置する橋(例えば、高水敷が公園緑地、運動広場等に利用されている場合に利用者の連絡通路の橋として設置する場合)は、必要な対策を講ずれば必要最小限の範囲に設けることができるものとする。これらの箇所に橋を設置するときは、高水敷周辺が洗掘される恐れがあるため、小外水路、高水敷及び河岸又は堤防の保護について十分留意し、その桁下は原則として高水敷の高さ以下にするものとし、また、せき上げによる支障が生じないよう適切に配慮された構造とするものとする。

第二十四 一の2 について

潜水橋が洪水時等に減失した場合には、下流側の橋梁工作物を破壊したり、河積を阻害するなどの支障をきたす恐れがあるため、洪水時等に流失しない構造とする必要がある。

設置に係るその他の留意事項

第二十四の二


  1. 縁石、防護柵等を設置するときは、治水上支障が生じないよう適切に配慮された構造とするものとすること。

第二十四の二 1について

安全対策上、潜水橋には、治水上支障のない構造の転落防止施設等を設置することが望ましい。治水上支障のない構造の転落防止施設の例としては、20 30cm20~30cm程度の高さの縁石や転倒式の防護柵が考えられる。

第12章 道路

本章における道路とは、堤防と効用を兼ねる道路とするものとする。

堤防を道路と兼用すると、日常の河川巡視、水防活動、河川工事、河川の自由使用及び河川環境の保全等に支障となる場合もあるため、堤防天端等に兼用道路を設ける時は、治水上、河川利用上、河川環境上又は道路計画上の得失を総合的に勘案するものとする。

設置位置の選定基準

第二十五


一 設置が不適当な箇所

  1. 表小段

第二十五 ーの1 について

堤内地側の用地取得難のために、河川に沿って堤外地に道路を設ける必然性はない。堤外地に道路を設けると、洪水時に流水を集中させたり、流水に乱れを生じさせ、周辺の洗掘を助長するおそれがある。また、河川利用の面からも、他の一般公衆の高水敷の安全な利用を制限するものであり、親水性を損なう、騒音を発生する、景観を損なう、動植物の生態系に影響を及ぼす、ゴミ等の不法投棄を助長するなど河川環境上も好ましくない。

特に、表小段は、洪水の流下する部分であり、道路の設置により周辺の河川工作物や堤防法面の洗掘に対して悪影響を与えるおそれがある。このため、表小段は、設置が不適当な箇所としたものである。

なお、以下のことから、河川に沿った上空及び地下に道路を設置することは認めないことを基本とする。

河川区域内の上空での縦断的設置

高架道路、堤防天端よりなんらかの方法で側方に張り出した道路等、河川に沿った上空に道路を設置すると、工作物を支える多くの柱や基礎等により流下断面が減少し、洪水の疎通阻害が生じ、洗掘を助長し、堤防や護岸に悪影響を及ぼす。

また、堤防直近に設置すると、日照阻害等により堤防法面の張芝が枯死することがあるほか、河川の利用者に圧迫感を与える、騒音を発生する、景観を損なう、動植物の生態系に影響を及ぼすなど、河川環境に与える影響も大きい。

河川区域内の地下での縦断的設置

河川に沿った地下に道路のトンネル施設等を設置するとその影響により堤防や護岸が沈下するおそれがある。また、工作物の断面が大きいため、河川と背後地とを通じている地下水脈を遮断し、付近の地下水利用等に甚大な影響を及ぼすことが懸念される。

設置の基準

第二十六


一 共通事項

  1. 河川管理用通路の機能の確保を優先するものとすること。

第二十六 ーの1 について

「堤防には、建設省令で定めるところにより、河川の管理のための通路(以下「管理用通路」という。)を設けるものとする。」(構造令第27条)とされている。管理用通路は日常の河川巡視又は水防活動等のために必要であり、一般には堤防天端に設けられる。したがって、堤防を道路と兼用する場合であっても、堤防天端の本来的な機能である河川管理用通路としての機能を優先させることとしたものである。

堤防を道路と兼用する場合において、管理用通路は以下のように取り扱うものとする。

計画交通量が1日につき6,0006,000台以上の道路の場合は、川側の位置に幅員3m3m以上の管理用通路を設けるものとする。ただし、次の各号のすべてに該当する場合はこの限りでない(図12.1)。

  • 計画交通量が1日につき6,0006,000台以上で10,00010,000台未満の道路で、かつ、車線数が22車線以下の道路の場合。
  • 川側の路肩の幅員が1.25m1.25m以上の場合。
  • 前記の川側の路肩に河川管理用車両が駐停車可能な場合。

また、計画交通量が1日につき6,0006,000台未満の道路の場合は、管理用通路と兼ねることができるものとする。

なお、堤防の天端を拡幅しないまま道路と兼用し、道路交通法により一方通行等の交通規制が掛けられ河川管理上の支障となった事例があるため、留意する必要がある。

設置に係るその他の留意事項

第二十七


  1. 防護柵、標識、表示板、信号機等の道路運用のために設置する道路付属物は、必要最小限にとどめるものとすること。
  2. 道路付属物の基礎は計画堤防内に設置しないことを基本とするものとすること。
  3. 橋の堤外地側にアンダークロス道路は設置しないことを基本とするものとすること。
  4. 道路の設置にあたっては、他の一般公衆の自由かつ安全な河川使用の妨げとならないよう、堤内地及び堤外地へのアクセスに配慮した横断歩道の設置等の必要な対策を講じるものとすること。
  5. 歩道等は、高齢者、障害者、車いす等の利用に配慮した構造とするものとすること。

第二十七 1 について

堤防天端に防護柵を設置すると、洪水時の水防活動の支障や堤防の弱体化につながるため、交通安全上特に必要と認められる区間に限り認めることとした。

第二十七 2 について

道路付属物の基礎(支柱を含む)付近は一般に亀裂が入りやすく雨水が浸透し堤防が弱体化(写真12.1)するおそれがあることから、縦断的又は横断的に設置する場合は、計画堤防外に設けることを原則としたものである。なお、標識、表示板等を堤防で設置する場合で特に入念な施工を行う時はこの限りでない。ここで、堤防のかさ上げ、拡幅時等に施工した堤防の余盛部分については、築造後3年以上経過しており、さらなる沈下(広域的な地盤沈下を含む。)等が見込まれない場合は、計画堤防外として工作物が設置可能とするものとする。

また、道路付属物の基礎付近は一般に亀裂が入りやすく、雨水も浸透するためすべりが起こりやすくなるため、基礎を法肩ぎりぎりに設けることも好ましくない。

第二十七 3について

橋の堤外地側に設けるアンダークロス道路は、以下の理由から設置しないことを基本としたものである。

  1. 堤防取付け部に必然的に生ずる坂路又は道路設置により必要となる道路付属物によって河積阻害が生ずるとともに、路面を舗装することによって部分的に流速が速くなり、坂路等の突起による影響とあいまって局部的に複雑な流れを生ずることとなり、洗掘等災害発生の危険性が増し、治水上の支障となるおそれがある。
  2. 堤外地側のアンダークロス道路は河川敷地を分断することとなり、一般公衆の高水敷の安全な利用を制限するものであり、親水性を損なう、景観を損なう、動植物の生態系に影響を及ぼす、ゴミ等の不法投棄を助長するなど、河川環境の悪化を招くおそれがあり、河川の自由使用の確保及び環境保全上好ましくない。
  3. 堤防を兼用している道路と橋の取付部が交差する箇所での交通渋滞の解消は堤内地側での立体交差施設の設置、バイパスの設置等の手段を講じ道路管理者においてなされるべきものであり、橋、取付水施設等のように河川敷地内に設置しなければならない必然性に乏しい。

第二十七 4 について

道路を設置すると、堤内地と川とを結ぶ通行路を分断し、堤内地及び堤外地への自由かつ安全なアクセスを妨げる場合がある。

このため、道路を設置する際には、川辺や堤防上の散策路、堤内地の歩道等からなるネットワークの形成に配慮しつつ、適当な位置に適当な間隔で横断歩道を設けるなどの必要な対策を講じるものとしたものである。

なお、横断歩道の取付け部には、横断待ちの歩行者のための安全な待ちスペースが確保されることが望ましい。

第二十七 5 について

川は、水と緑、生物の賑わい、風と匂いなどがある開けた空間であり、人を健康にし、人の心を癒す機能を有している空間である。また、子供、大人、高齢者、障害を持つ人が世代を超えて交流できる空間である。高齢化社会の到来に伴い、川の持つこれらの機能を活かすことが求められており、四季365日を意識した健康づくりやふれあい・交流の場としての川づくりが求められている。

このため、歩道等は、高齢者、障害者、車いす等の利用に配慮した構造とし、バリアフリー化とするものとしたところであり、地形の状況や地域の意向を踏まえつつ、可能な限り歩車道の分離、歩道等の有効幅員の確保、歩道等と車道との適切なすり付け等がなされるよう配慮するものとする。

第13章 自転車歩行者専用道路

自転車歩行者専用道路とは、道路法第48条の7第2項に定める「自転車歩行者専用道路」をいう.

道路法第48条の7第2項に定める「自転車歩行者専用道路」は、道路管理者が河川区域内の土地に設置することができるものとし、同法第48条の7第1項「自転車専用道路」については原則として設置を認めていない.これは、「自転車専用道路」は、自転車以外の方法により通行してはならない(同法第48条の9)ため、歩行者の通行はできず、このように歩行者の制限があることは、本来自由使用が原則である河川区域内への設置は過当ではなし.また、河川管理上の支障も考えられるため、河川区域内への設置を原則として認めていないものであり、本基準も原則として適用しないものとする.

設置位置の選定基準

第二十八


一 設置にあたって対策が必要な箇所

  1. 高水敷、表小段

第二十八 一の1 について

高水敷及び表小段に設けると、洪水時の流水の集中や流水の乱れの発生により、周辺の洗掘を助長するおそれがあることから、対策が必要な箇所としているものである.

設置の基準

第二十九


一 共通事項

  1. 自転車歩行者専用道路の設置の基準については、「河川区域内の土地に自転車歩行者専用道路を設置する場合の取扱いについて」(昭和50年11月19日 建設省河治発第98号)によるものとすること.

第二十九 一の1について

自転車歩行者専用道路の設置の基準については、「河川区域内の土地に自転車歩行者専用道路を設置する場合の取扱いについて」(昭和50年11月19日 建設省河治発第98号)によるものとする.

写真13.1には、河川管理用車両が制約なしに通行できる旨の表示及び一般車両が進入できないようにするための柵等の規制の事例を示す.

写真13.2には、堤防法尻に近接して設置した事例を示す.この事例は、堤防天端に道路が設置されているため、やむを得ず高水敷に設置したものである.高水敷の幅が10m程度であるため、低水護岸より約5m離し、堤防に近傍した位置に自転車歩行者道路を設置している.対策として、低水護岸付近にフトン篭による洗掘防止工を設置し、縦断方向の亀裂による強度の低下への堤防の洗掘防止対策として高水敷作業通路を設置している。

第14章 坂路

坂路とは、堤防の天端や裏小段に設けた公道である道路と堤内地側の辺路を接続する場合や、河川管理施設等の管理、河川利用等のために必要な場合に設置する堤防天端又は小段から堤内又は堤外に接続するための道路状の形態をなす構造物をいう.

設置位置の選定基準

第三十


一 設置が不適当な箇所

  1. 狭窄部、水衝部(川表側への設置の場合)

第三十一 一の1 について

一般に、狭窄部は洪水時における流速が大きく、川表側の坂路等、河岸に影響を与える施設を設置すると洪水の流下を阻害するとともに、局所的に流速を助長し、河床洗掘を誘発するおそれがある.また、水衝部は洪水時の流速が大きく、洪水流の挙動も複雑である.これらの箇所は、河岸浸食あるいは護岸や堤防の破壊の要因(水衝作用や局所洗掘等)が重なり合う場所であり、坂路を設置すると、より流況を複雑にする方向に作用するため、設置が不適当な箇所としたものである.

設置の基準

第三十一


一 共通事項

  1. 坂路は計画堤防内に設置しないことを基本とするものとすること.
  2. 川表側には逆坂路を設置しないものとすること.ただし、治水上の支障の生じないよう必要な対策を講ずるときはこの限りでない.
  3. 公園の附属施設等として設けられる坂路(以下「公園の坂路等」という.)は、高齢者、障害者、車いす等の利用に配慮した構造とするものとすること.

第三十一 一の1 について

坂路の設置にあたっては、堤防の弱体化を避けるため、計画堤防を切り込まないように設置することを基本とした.

第三十一 一の2 について

川表にあっては、洪水時の乱流、流水のはい上がりによる溢水等治水上の悪影響の原因となるため、上流へと向かって下る逆坂路は避けるものとする.ただし、洪水時の流速が小さく、乱流、溢水等の発生するおそれが少ない箇所で、対策を講ずることにより治水上の支障が生じないことが確認される場合はこの限りでない.

なお、河口付近の高潮区間で高潮時の影響が顕著な区間においては、当該地点の水理現象を考慮してその方向を定めるのがよい.

第三十一 一の3 について

公園の坂路等(事業活動、生活等のため企業や個人が設置する坂路を除く.)は、地形の状況や地域の意向を踏まえつつ、可能な限り、緩傾斜化、転落防止のための縁石の設置、車いすが通行可能な車止めの設置等がなされるよう配慮するものとする.

設置に係るその他の留意事項

第三十一の二


  1. 公園の坂路等は、堤内地及び堤外地へのアクセスに配慮し設置するものとすること.

第三十一の二 1について

公園の坂路等(事業活動、生活等のため企業や個人が設置する坂路を除く.)を設置する際には、地形の状況や地域の意向を踏まえつつ、可能な限り、川辺や堤防上の散策路、堤内地の歩道等からなるネットワークが形成されるよう配慮するものとしたものである.

第15章 階段

階段とは、堤防法面を安全に昇降するため設置される階段形状の工作物をいう.

設置の基準

第三十二


一 共通事項

  1. 川表側は階段の上面を堤防法面に合わせ、川裏側は階段を計画堤防外に設置することを基本とするものとすること.
  2. 川表側は、護岸等の堤防補強を行うものとすること.
  3. 手すりを設置するときは、治水上支障が生じないよう適切に配慮された構造とするものとすること.

第三十二 一の1・2 について

階段を川表側に設ける場合は、階段の上面を計画堤防の法面又は現状堤防の法面に合わせるものとし、川裏側に設ける場合は、計画堤防外に設けることを基本とする.

なお、堤防の法面が芝である場所に階段を設置する場合は、川表にあっては洪水の乱れなどにより法面の洗掘が起きないように、施設の両端から法面保護を行うものとする.法面保護の範囲は施設の両端から1m以上とするが、2mとしている事例が多い.また、川裏にあっては、川表と同様に法面保護を施し、自転車の昇降が考えられる場合は自転車を運搬可能な構造とするのが一般的である(図15.1).

第三十二 一の3 について

河川の安全な利用のため階段には手すりを設置することが望ましい.手すりの場合、一般的には、高さが1m以下のパイプ形式のものであれば治水の影響は小さい.

設置に係るその他の留意事項

第三十二の二


  1. 公園の附属施設等として設けられる階段は、堤内地及び堤外地へのアクセスに配慮し設置するものとすること.

第三十二の二 1 について

公園の附属施設等として階段(事業活動、生活等のため企業や個人が設置する階段を除く.)を設置する際には、地形の状況や地域の意向を踏まえつつ、可能な限り、川辺や堤防上の散策路、堤内地の歩道等からなるネットワークが形成されるよう配慮するものとしたものである.

第16章 安全施設

安全施設とは、堰、水門、樋門等の構造物周辺や河岸周辺で安全を確保するために設けられる標識表示板低木植栽フトン篭等をいう.

設置に係る留意事項

第三十三


  1. 堤体及び堤外地における安全施設の設置は、安全上必要と認められる部分に限られるものとすること.

第三十三 1 について

河川は、洪水時だけでなく平常時においても、水流によってみお筋の位置や河床の高さが常に変化しており、これらに伴って水深や流速も常に変化している.このため、河川は、常に水難事故等の危険性を内包しており、その利用に伴う危険は原則として利用者自身の責任で回避されるべきものである.

ただし、親水性に配慮した施設が設置された場合は、子供のように危険判断能力や危機回避能力が小さいと考えられる人々の利用が多くなり、利用者がリスクに遭う蓋然性が増大するとともに、足場が安定すること等により、利用者が安心感を得て、利用者の危険意識が変化する.

このため、親水性に配慮した施設においては、基本的に次のような危険防止の視点が重要である.ただし、施設設置後、長期間安全に利用されている既存の施設については、その安全な利用方法が地域の中で確立されているものと考えられるので、このことも考慮すべきである.

位置の原則

原則として、水衝部などの川の状態が不安定な箇所や水深・流速が大きい場所などは避けて設置する.

地域ニーズの把握

積極的に施設の使用方法などの地域ニーズを把握し、それを安全対策に生かす.

情報提供

次の事項に留意しつつ、標識や表示板により、利用者に、適切な情報を的確に提供する.

  • 標識が必要とされる背景と目的に応じた具体的な内容とする.
  • 見やすく、わかりやすく、書かれたペンキがはがれず、専門用語は極力避け、絵図を使いながら、利用者の目にとまるような内容とする.
  • 児童など利用対象者の年齢等に応じた表現とする.
施設対策

すべりにくい素材を使用するなど施設構造に配慮する.また、次のような箇所では、洪水の流下、水防活動等の治水上の支障とならない範囲で、危険ラインの表示(柵、フェンス、密植した低木植栽、間石等)、施設断面でのフトン篭、カゴマット等の設置等の適切な措置を講じるものとする.ただし、親水機能を最大限に発揮させるため、柵、フェンス等の設置は最小限に留めるよう配慮が必要である.

  • 親水施設の設置により、河岸の形状が変化し、新たな転落の危険性が生じた箇所.
  • 堰・水門等の工作物と親水護岸との境界部.
  • 地域住民から、柵等の設置の要望があり、必要と認められる箇所.
  • 危険判断能力を有していても、誤転落すると極めて危険な状態に陥るような高齢者、障害者等が集まり、利用する箇所.
  • 危険判断能力や危険回避能力が十分でない幼児の利用が多く見込まれる箇所.
  • 上記の他、危険な状態と認められる箇所.
教育・啓発

近傍の幼稚園や小学校を通じて、保護者や子供に利用についての教育、指導を行う.

第17章 架空線類

架空線類とは、河川の上空を横過する送電線又は通信線等の架空線及び鉄塔、コンクリート柱、木柱等の支柱(以下「鉄塔等」という)からなる工作物をいう.

設置位置の選定基準

第三十四


一 設置が不適当な箇所

  1. 鉄塔、コンクリート柱、木柱等の支柱(以下「鉄塔等」という.)については、狭窄部、水衝部、支派川の分合流部
  2. 鉄塔等については、河床の変動が大きい箇所

二 設置にあたって対策が必要な箇所

  1. 鉄塔等については、堤外地
  2. 鉄塔等については、河川に設けられている他の工作物(橋、伏せ越し等)に近接した箇所
  3. 鉄塔等については、堤内地の堤脚付近

堤外地において、支間長が600mを越える場合に、設置技術の限界等を考慮し、河川の流心部を避け、かつ河川管理施設又はその他の工作物に悪影響を及ぼさない位置に、鉄塔等の設置を認めている事例がある.

第三十四 一の1 について

一般に、狭窄部は洪水時における流速が大きく、河積に影響を与える施設を設置すると洪水の流下を阻害するとともに、局所的に流速を助長し、河床洗掘を誘発するおそれがある.また、水衝部は洪水時の流速が大きく、洪水流の挙動も複雑である.また、河川の分合流部は、洪水流の挙動が複雑であり、河川管理上も重要な箇所である.これらの箇所は、河岸侵食あるいは護岸や堤防の破壊の要因(水衝作用や局所洗掘等)が重なり合う場所であり、鉄塔等を設置すると、より流況を複雑にする方向に作用するため、設置が不適当な箇所としたものである.

第三十四 一の2 について

河床勾配の変化点等河床の変動が大きい箇所では、鉄塔等の必要な根入れ長を確保できなくなる場合があるため、設置が不適当な箇所としたものである.

第三十四 二の1 について

鉄塔等は一般にトラス構造であり、このような構造は洪水時に流下物が掛かりやすく、洪水の流下の妨げとなるほか、過大な荷重が鉄塔等に作用し鉄塔等が流失するおそれがある.このため、対策が必要な箇所としているものである.

第三十四 二の2 について

洪水時においては、鉄塔等により流線が乱され、渦等が発生することはある程度避けられず、十分な配慮を払わないと、河床の局所洗掘を引き起こし、河底に埋設された他の工作物が露出するおそれがある.また、鉄塔等を橋や堰と近接して設置すると、洪水時においては、これらの工作物による渦が重なりやすく、治水上の支障となるおそれがある.このため、対策が必要な箇所としているものである.

なお、近接橋においては、上下流の橋の橋脚間の距離が当該河川の川幅以上、又は200m以上離れている場合には、橋脚の位置関係に関する制限は必要ないと考えられているので、これを参考にするとよい.さらに、河底に埋設されている他の工作物に近接しているかどうかについては、設置する鉄塔等による局所洗掘の影響が及ぶ範囲と考えてよい.

第三十四 二の3 について

堤防の堤脚に近接して設置すると、基礎の構造によっては堤体内の浸潤面が上昇し、堤防法面の崩壊等の要因となることもあるので、対策が必要な箇所としているものである.

設置の基準

第三十五


一 共通事項

  1. 鉄塔等は河川の縦断方向に設置しないものとすること.
  2. 河川の上空を横過する送電線又は通信線等の架空線(以下「架空線」という.)は堤外地にあっては河川の計画高水位に対し十分余裕を見込んだ高さ以上であるものとすること.
  3. 架空線は計画堤防天端から十分余裕を見込んだ高さ以上であるものとすること.

二 対策が必要な箇所における設置基準

  1. 堤外地に鉄塔等を設置するときは、河床の洗掘防止について適切に配慮された対策を講ずるものとすること.
  2. 鉄塔等による局所洗掘が、近接した他の工作物に支障を及ぼさないよう河床及び高水敷の洗掘防止について適切に配慮された対策を講ずるものとし、橋、堰等の工作物に近接して設置するときは、橋脚、堰柱等と相互に作用して流水の乱れを大きくしない配置とする等の対策を講ずるものとすること.
  3. 堤内地の堤防に近接した箇所に鉄塔等を設置するときは、「堤内地の堤脚付近に設置する工作物の位置等について」(平成6年5月31日建設省河治発第40号)によるものとすること.

第三十五 一の1 について

鉄塔等は河川の縦断方向に沿って連続的に設ける必然性がなく、また、鉄塔等が連続して設置された場合には、洪水の流下の阻害、河川環境への影響等、河川管理上の支障となるため河川の縦断方向に設置しないものとした.

第三十五 一の2・3 について

架空線の高さは、通産省令「電気設備に関する技術基準を定める省令(以下「通産省令」という.)」で定めるところによるほか、河川管理用車両の通行及び矢板打込み等の河川工事の作業に支障とならないように、計画高水位及び計画堤防高に対し十分余裕を見込んだ高さとするものとする.なお、船舶の航行が行われている河川においては、当該航行に支障とならない高さ以上とするものとする.

また、一般に、河川の自由使用者に対し、架空線への注意を促す看板等の設置を指導する必要がある.

第三十五 二の1 について

堤外地に設置する鉄塔等の基部は、洪水の流下を妨げず、かつ流下物が掛かりにくいような構造形式とするとともに、床固工等を設置して河床の安定化を図る必要がある.一般的には、鉄塔の基部の構造形式は、計画堤防高より高い位置で頭部を連結したラーメン構造としている事例が多い.

堤外地に設置された架空線鉄塔の事例を写真17.1に示す.

第三十五 二の2 について

伏せ越しや暗渠等の河底に埋設する工作物に近接して設置すると、河床の洗掘により、これらの工作物が露出するなどのおそれがある.また、近接した橋等の基礎の安定性が損なわれるおそれがある.このため、根固工等を設置して河床の安定化を図る、他の工作物の基礎を補強するなどの適切な対策を講ずるものとする.

また、既設の橋、堰等に近接した箇所に設置するときは、鉄塔の配置を既設の橋脚や堰柱等に合わせるなどの鉄塔による流水の乱れを小さくする対策を講ずるものとする.

第18章 河底横過トンネル

河底横過トンネルとは、河底を横過する上下水道、工業用水道、石油パイプライン、地下鉄、道路等の工作物で、施工方法がシールド工法及び推進工法(小口径推進工法を含む)によるものをいう.

シールド工法とは、シールド機で地山の崩壊を防ぎながら、掘削、推進を行い、テール部で覆工(セグメントをリング状に組み立てる)することによりトンネルを構築する工法である.シールド機のテール部後方にはテールクリアランスとスキンプレートの板厚の和に相当する空隙(テールボイド)が生じるため、テール通過直後にこの空隙により地山の応力が解放されて地盤沈下が生じる可能性がある.これを防止するため、地山の状況に応じた裏込め注入材を用いて、シールド機の推進と同時に裏込め注入を行う対策等がとられている.

推進工法とは、工場で製造された推進管の先端に先導体を取り付け、ジャッキ推力等によって管を順次地中部に圧入してトンネルを築造する工法である.管内での有人作業は、「下水道整備工事、電気通信施設埋設工事等における労働災害の防止について」(昭和50年4月7日付労働省基発第204号)によって、口径800mm以上の場合とするよう指導されているため、呼び径800mm未満の管路の設置は、発進立坑内等から遠隔操作により推進する工法(小口径推進工法)により行われている.推進工法は、順次推進管を発進立坑内等から送り出してトンネルを築造するため、推進が完了するまで管路全体が移動している.このため、裏込め注入工は推進作業が完了後に実施される.ただし、裏込め注入ができるのは、管内有人作業が可能な呼び径800mm以上のものに限られ、小口径推進工法ではこれを行うことができない.推進工法の種類は、切羽の安定の方法、掘削の方法、推力の伝達の方法、土砂の搬出の方法等により多種あり、トンネル周囲の状況もこれに大きく依存するものであるので、工法の選定にあたっては留意する必要がある.

設置の基準

第三十六


一 共通事項

  1. 河底横過トンネルの平面形状は直線とし、設置の方向は洪水時の流水の方向に対して直角を基本とするものとすること.
  2. 設置深さは、河床低下や洗掘に対して十分安全な深さとするものとすること.
  3. 河川水がトンネルを介して堤内へ流出するおそれがあるものについては両岸の堤内地側に制水ゲートを設置するものとすること.

第三十六 一の1 について

曲線施工を行うと、余掘りが生じ、この部分が空隙として残りやすい.空隙への裏込め注入が施工不良により不十分であったり、不適当な工法による場合には、トンネル周辺部が水みちとなり長期間のうちにトンネル周辺部の土砂が流失し、空洞化するおそれがある.トンネル周辺部の空洞化は基盤漏水の原因となり、河川水を堤内地に引き込むおそれがある.また空洞部の崩壊に伴って河床や堤体が陥没し、必要な堤防高さを確保できなくなったり、堤体に亀裂が入り、堤体漏水の原因となるおそれがある.また、トンネルを斜めに設置すると、洪水時の洗掘等でトンネルが河床に露出した場合、斜め樋と同様な状況になり、流向を堤防に向け洗掘を助長するおそれがある.斜角が著しい場合は、河川地下空間の利用計画の制約となるともある.このため、河底横過トンネルの平面形状は直線とし、設置の方向は極力横過区間を短くするように洪水時の流水の方向に対して直角を基本としたものである.

具体的には、工法に応じて次により取り扱うものとする.

小口径推進工法以外の工法の場合
  1. 次のような場合で治水上支障がないよう必要な対策を講じ、かつ、河川地下の利用計画の制約とならないものであれば、斜めに設置するものでも支障がないものである.
    • 河川の形態や規模、洪水時の特性、横過する地盤の状況等から、前記のような治水上の支障のおそれが少ないと認められる場合.
    • 平面形状を直線とし、設置の方向を洪水時の流水の方向に対して直角とすることが地形の状況上著しく困難な場合、又は、社会経済上著しく不適当と認められる場合.
  2. やむを得ず曲線区間を設ける場合は、急曲線施工を避けるとともに、その曲線区間の位置は堤防下や低水護岸下を避けることを基本とする.また、特に入念な施工管理を行いつつ、適切な工法による裏込め注入を実施するものとする.なお、トンネル周囲の空洞化対策として、セグメント外周の余掘りを密閉するための注入袋を有する特殊セグメントを使用している事例がある(図18.1).このような措置を堤防を挟む位置に講ずれば、堤防直下のトンネル沿いの浸透流の発生を減らす効果も期待される.
  3. 掘進開始後に想定されなかった巨礫等の地層に遭遇し、掘進不能に陥った事例もあるため事前の地質調査は入念に行わなければならない.
小口径推進工法の場合

小口径推進工法を採用する場合は以下の点に留意し、設置位置の地盤条件と過去の施工実績等を総合的に勘案して極力余掘りの小さな適切な工法選定を行う必要がある.

  1. 基礎地盤に漏水履歴のある箇所や、旧川締切箇所等の水みちの発生により河川管理上の支障が生じるおそれがある箇所においては、小口径推進工法は採用しないことを基本とするものとする.
    • このような箇所で、やむを得ず小口径推進工法を採用する場合は、管周囲の余掘りが生じない工法、若しくはテールボイドを極力小さくでき、その影響を軽減できる工法を選定するものとする.また、堤防横過位置での地盤改良の実施等の適切と認められる措置を講じるとともに、入念な施工管理を行うものとする.また、裏込め注入工ができず、わずかに残された空隙から徐々に水みちが発達するおそれがあるため、河川区域内において曲線施工を行わないことを基本とするものとする.
  2. 小口径推進工法は管内有人作業ができないため、掘進不能、推進管の破損等のトラブルが生じた場合には、立坑増設や到達立坑からの迎え掘りなど大規模な復旧対策が必要となる.このため、土層の変化、被圧層や伏流水の位置、礫含有率、最大礫径長、透水係数、埋木・仮設矢板等の障害物の有無等を把握するなど、土質調査を入念に行い、これを踏まえて、適切な工法を選定するものとする.

第三十六 一の2 について

洪水時には河床そのものが動いているため、トンネルが露出して床止めのようになった場合、著しい流水の乱れを生じさせるとともに、河床の連続性が損なわれ、上下流において思わぬ河床変動を引き起こしたり、他の工作物周辺の局所洗掘を助長するおそれがある.また、露出したトンネルが損壊し、河川水を堤内地に引き込むおそれもある.さらに、トンネルの土被りは施工中や完成後の浮き上がり安全性を支配し、設置位置が浅くなれば、施工中や完成後に河床及び地表面沈下に与える沈下等の影響も顕著になる.このため、トンネルの設置深さは、経年的な河床変動や洪水時の洗掘等により河床にトンネルが露出しないような深さとし、かつ、トンネルの施工中及び完成後の浮き上がりや、切羽の崩壊、噴発のほか、掘進に伴う地盤変状による沈下等の影響が河床及び地表面に生じない深さとする必要がある.なお、その際、トンネルは伏流水の流れを阻害するなど、地下水環境に支障を与えない深さとする必要がある.

トンネルの施工中及び完成後の浮き上がり安全性を確保するために必要な土被り深さや、トンネル掘進に起因する河底及び地表面の沈下量を急増させないために必要な深さは、地盤の状況によるが一般に1.5D1.5DDD:掘削外径)以上必要とされている.

このため、河底横過トンネルの設置にあたっては、計画河床高又は最深河床高のどちらか深いほうに経年的な河床変動とその周辺の局所洗掘深を加えた位置から1.5D1.5D以上の土被りを確保することを基本とする.ただし、局所洗掘深は河道の特性等により個別に検討する必要がある.

なお、過去の施工実績によれば、ϕ2.0m\phi 2.0m以下のシールド工法による河底横過トンネルの埋設深さは、ほとんどが5.0m5.0m以上である.また、堰の下流側を横過する場合には、経年的な河床低下にも留意し、必要に応じ適切な措置を講じなければならない.

やむを得ず浅い位置にトンネルを設置する場合には、横過位置の地盤改良、入念な施工管理、堤防や護岸の変状等に対する定期的な計測管理等、適切な対策を講じるものとする.

第三十六 一の3 について

構造令第71条に準じた規定である.しかし、地下鉄や道路等その機能上ゲートやバルブの設置が困難な場合には、これに準ずる対策が必要である.なお、地下鉄の制水ゲートは駅部に限らず、河川と駅間にあるポンプ室等の堤内地へ浸水のおそれのある施設のすべてに対して必要とされるものである.制水ゲートを設置していないトンネル内へ河川水が流入し、都市機能を麻痺させた事例がある.

なお、堤内地側の地形の状況(掘込河道区間、山間狭窄部等)等により、堤内地側で河川水が溢水しないことが確実であると認められる場合は、制水ゲートは設置しなくとも支障がない.

設置に係るその他の留意事項

第三十七


  1. 圧力管については、管の損傷による河川管理上の支障が生じないよう必要な対策を講じておくものとすること.

第三十七 1 について

河底横過トンネルが圧力管となる場合は、管の損傷により河川水の汚染や堤防の損傷等を引き起こすおそれがあるため、外管と内管とが構造上分離した二重鞘管構造とする等の所要の対策を講じる必要がある(図18.2).ただし、圧力管とならない場合は、一般に、二重鞘管構造とする等の対策は必要ない.

なお、ロボット等による定期的な点検や土砂の排除等の良好な維持管理が可能な場合には、外管と内管との間に管理用のスペースは確保しなくとも支障がない.ただし、トンネル設置者が必要と認める場合はこの限りでない.

第19章 地下工作物

地下工作物とは、大都市及びその周辺の地域等において、特定の河川敷地以外に立地が困難な場合に設置される公共駐車場、下水処理場、変電所、その他の工作物で、施工方法が開削工法による工作物をいう.

適用範囲

第三十八


この章の規定は、公共駐車場、下水処理場、変電所等の地下工作物について適用するものとする.

設置位置の選定基準

第三十九


一 設置が不適当な箇所

  1. 狭窄部、水衝部、支派川の分合流部
  2. 河床の変動が大きい箇所
  3. 河川に設けられている他の工作物(堰、橋等)に近接した箇所
  4. 基礎地盤が軟弱な箇所
  5. 基礎地盤に漏水履歴のある箇所
  6. 堤防下及び堤防に近接した箇所
  7. 低水路河岸に近接した箇所

二 設置にあたって対策が必要な箇所

  1. 堤防付近の高水敷部

第三十九 一の1・2 について

地下工作物は河底に埋設されるため、洪水時の河床の変動による影響を受けやすい.特に、地下工作物は一般に規模が大きく、露出や浮き上がりが生じた場合、地下工作物周辺の局所洗掘が著しく助長され付近の河川管理施設等に甚大な悪影響を与えることや、工作物が損傷し損傷箇所から堤内地へ連絡する施設を介して堤内地に浸水することが懸念される.

狭窄部は洪水時における流速が大きく、河床の変動が生ずる可能性がある.また、水衝部及び河川の分合流部は、洪水流の挙動が複雑な箇所であり、河床の変動が生じやすい.

このため、狭窄部、水衝部、支派川の分合流部及び河床の変動が大きい箇所は、設置が不適当な箇所としたものである.

第三十九 一の3 について

河床の局所洗掘の生じやすい堰の下流側、橋等の横断工作物に近接した箇所は、設置が不適当な箇所としたものである.

なお、近接した箇所については、堰、橋等の工作物による局所洗掘の影響が及ぶ範囲と考えてよい.

第三十九 一の4・5 について

地下工作物を軟弱地盤等の地盤沈下のおそれのある箇所に設けると、地下工作物と地盤との間に空洞が生じ、基盤漏水を引き起こすおそれがある.また、基礎地盤に漏水履歴のある箇所に地下工作物を設けると、躯体周囲が水みちとなりやすく基盤漏水の原因となる.

樋門など断面積が比較的小さい線状の工作物をこのような箇所に設置する場合は、躯体を可撓性を有するものとしたり、グラウトホールを設置するなどの対策が講じられている.しかし、規模の大きい地下工作物の場合は、十分な可撓性を有する構造とすることや、胴体周辺の空隙部を確実にグラウトすることは一般に困難である.このため、基礎地盤が軟弱な箇所及び基礎地盤に漏水履歴のある箇所を、設置が不適当な箇所としたものである.

第三十九 一の6 について

堤防下に地下工作物を設置すると、工作物に沿った浸透水のパイピングや、浸透流の変化による堤体内の浸潤面の上昇、浸透流の局部的な集中等が生じるおそれがある.また、地下工作物を設置した箇所は、その他の箇所と地盤内の応力分布や地震時の挙動が異なるため、堤防に亀裂等が生じるおそれがある.また、工作物の設置に伴う掘削により堤防の荷重バランスが崩れ、堤防の安定を損なうおそれがある.さらに、地下工作物の場合、事故や災害により堤防や地表面に思わぬ悪影響が生じたり、その復旧のための対応が著しく困難になる場合も考えられる.このため、堤防下及び堤防に近接した箇所は設置が不適当な箇所としたものである.なお、掘込河道区間においては、河床の下を除いては、一般に地下工作物の設置は支障を生じないものである.

地下工作物の設置にあたっては、具体的には次によることを基本とするものである.

  • イ.掘削時の最終掘削面が堤脚より50%の勾配(2割勾配)の線より堤防側で、かつ堤脚から20m以内の範囲(図19.1の(イ))は、工作物の設置が不適当であること.また、低水路の河岸付近(1洪水で低水路河岸が侵食される範囲付近)は、工作物の設置が不適当であること.
  • ロ.堤防下や堤防に近接した箇所で設置が不適当な箇所に該当する部分にやむを得ず地下工作物を設置する場合は、個別に十分な検討を行い、適切と認められる措置を講ずるものとすること.
  • ハ.杭基礎工(連続地中壁等長い延長にわたって連続して設置する工作物を除く.)は、構体として連続していないため、水位低下時の堤防の浸潤面の低下を妨げるものではない.このため、設置が不適当な箇所に該当する部分(ただし、堤防下を除く)に設置する場合においても、特に支障を生じないものであること.
  • ニ.掘削時の最終掘削面が堤脚より25%の勾配(4割勾配)の線より堤外地側で、かつ堤脚から50m以上の範囲(図19.1の(ハ))は、工作物を設置しても特に支障が生じないものであること.
  • ホ.イ及びニの範囲外(図19.1の(ロ))は、工作物の設置にあたって適切な対策を講じるものとすること.

なお、基礎地盤が軟弱な箇所に工作物を設置する場合は、荷重バランスの崩れ等により堤防の安定を損なうおそれがあるため、堤防の安定性について確認し、必要に応じて適切な対策を講ずるものとすること.

また、堤防の基礎地盤がシラスや泥炭地帯等の基盤漏水を生じやすい地質である場合においては、すべりに対する堤防の安定性及び基盤漏水に対する堤防の安定について確認し、必要に応じて適切な対策を講ずるものとすること.

第三十九 一の7 について

低水路の河岸付近は、洪水時に洗掘を受け横方向に大きく洗掘される場合がある.このような場所に地下工作物を設置すると工作物が露出するおそれが高く、露出した場合、河岸や河床の連続性が損なわれて著しい流水の乱れを生じさせる要因となる.このため、設置が不適当な箇所としたものである.

過去の天然河岸における1洪水あたりの被災幅と摩擦速度の関係を示すと図19.2のとおりであり、低水路河岸付近の範囲についてはこれを参考にするとよい.

第三十九 二の1 について

地下工作物を設置するための掘削時に、山留め壁背面の地盤沈下が堤脚部に及ぶおそれがあるため、対策が必要な箇所としたものである(図19.1の(ロ)).

設置の基準

第四十


一 共通事項

  1. 河川の地下空間の利用計画の制約とならないものとすること.
  2. 長区間にわたって縦断的に設置しないことを基本とするものとすること.
  3. 地下水に影響を及ぼさないよう必要な対策を講ずるものとすること.
  4. 設置深さは、河床低下や洗掘に対して十分安全な深さとするものとすること.
  5. 地表への出入口等の設置によって、著しい流水の乱れや堤防への悪影響等が生じないよう必要な対策を講ずるものとすること.

二 対策が必要な箇所における設置基準

  1. 堤防に悪影響が生じないよう適切に配慮された施工方法を採用するものとすること.

第四十 一の1 について

地下工作物は一般に規模が大きく、後に計画される河川横過トンネル等の設置深さを深くさせたり、平面的な横過位置を制限するなど、河川の地下空間の利用計画を制約するおそれがある.このため、河川の地下空間の利用計画について十分調整する必要がある.

第四十 一の2・3 について

河川に沿った地下に長区間にわたって工作物を縦断的に設置すると、堤防や護岸に悪影響が生じやすい.また、河川と背後地との間の地下水脈を遮断し、付近の地下水利用等に影響を及ぼすことが懸念されるし、河川の地下空間の利用計画の著しい制約ともなる.

このため、河川に沿って長い区間にわたって地下工作物を縦断的に設置しないことを基本としたものである.

第四十 一の4 について

洪水時には河床そのものが動いているため、地下工作物が露出した場合、著しい流水の乱れを生じさせるとともに、河床の連続性が損なわれ、上下流において思わぬ河床変動を引き起こしたり、他の工作物周辺の局所洗掘を助長するおそれがある.このため、地下工作物の設置深さは、経年的な河床変動や洪水時の洗掘等により河床に工作物が露出しない十分な深さとする必要がある.なお、その際、洪水時においても地下工作物の浮き上がりなどが生じない十分な深さとするとともに、地下水利用に支障を与えない深さとする必要がある.

このため、高水敷への地下工作物の設置にあたっては、高水敷表面から局所洗掘深を考慮した位置より地下工作物の浮き上がり安全性の確保に十分な土被り深さを確保するものとする.ただし、局所洗掘深は河道の特性等により個別に検討する必要がある.また、工作物と土の接触面は十分な転圧、締固めを行い工作物に沿った浸透流が発生しないように措置するとともに、埋戻しにあたっては周辺部となじむよう現地で発生した河床材料により埋め戻すことを基本とする.

なお、地震時に液状化のおそれのある地盤内に設置する場合には、地震時の過剰間隙水圧に対して工作物が浮き上がることがないように対策を講じる必要がある.

第四十 一の5 について

河道の流下断面内に出入口等を設置すると、出入口等自身又はこれに塵芥等がかかることにより河積が阻害され、流下断面が減少し、洪水の疎通阻害を生じさせる.さらに、洪水流の流向や流速を変化させ、河道の土砂輸送のバランスを崩し河床の洗掘、砂州や水衝部の移動の原因となるとともに、河岸の安定を失わせ、河岸の侵食、崩壊の引き金にもなり、護岸や堤防に悪影響を及ぼすおそれがある.

このため、河道の流下断面内における地表への出入口等の設置にあたっては、治水上の支障が生じないように必要な対策を講ずるものとしたものである.

第四十 二の1 について

掘削時の最終掘削面が堤脚より25%の勾配(4割勾配)の線より堤防側の範囲に工作物を設置すると、掘削時に山留め壁がたわみ変形を生じ、これに起因する背面地盤の沈下が堤脚部に及ぶおそれがある.このため、この範囲内における掘削工事に際しては、山留め壁のたわみ変形に起因する影響範囲を推定し、その影響が堤脚部に及ばないようにするために適切な施工方法を採用し、堤防の変状等について計測管理を行うことを基本とする.山留め壁のたわみ変形を小さくする施工方法としては、切梁設置時にプレロードを導入すること、剛性の高い山留め壁を採用すること、地盤改良を行うこと等が考えられる.

なお、掘削底面以下の地盤が軟弱な場合は、この範囲外に設置する場合であっても、掘削による背面地盤の沈下が堤脚部に及ぶおそれがあるため、事前に十分な検討を行い堤防に悪影響が生じないようにするものとする.

設置に係るその他の留意事項

第四十一


  1. 工作物内部における火災等により河川管理上の支障が生じないよう必要な対策を講ずるものとすること.

第四十一 1 について

地下工作物に関する事故・災害事例の調査結果によれば、最も多い事故・災害は火災で全体の52%(収集件数:330件中170件)を占めている.次いで工事によるもの(同9.7%)、交通災害(同5.2%)、風水害(同4.5%)、爆発・破壊(同3.9%)となっている.このような事故・災害により地下工作物が損壊すると堤防や地表面に悪影響が及び、著しい河川管理上の支障となるおそれがある.このため、地下工作物の設置にあたっては、これらの事故や災害の防止について事前に十分な検討を行い、施設内の事故や災害により河川管理上の支障が生じないように、十分な対策を講ずるものとする.