工作物設置許可基準
この章は、国土技術研究センターで公開されている改訂 解説・工作物設置許可基準の内容を複写・一部加工したものです。
第1章 総則
趣旨
第一 この基準は、河川区域内における河川法(昭和39年法律第167号、以下「法」という.)第26条第1項に基づく工作物の新築、改築又は除却(以下「工作物の設置等」という.)の許可に際して、工作物の設置位置等について河川管理上必要とされる一般的技術的基準を定めるものとする.
一 本基準の趣旨
工作物の設置等の許可を行うにあたっては、本基準のほかに、構造に関しては「河川管理施設等構造令」(昭和51年政令第199号)(以下「構造令」という.)に、土木工学上の安定計算等の設計基準的な内容については「河川砂防技術基準(案)」に基づき、総合的に河川管理上の判断を行う必要がある.
二 工作物の設置等の許可
河川区域内の土地において工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者は、建設省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない(法第26条第1項前段).
本基準は、主な工作物である堰、水門及び樋門、水路、揚水機場及び排水機場、取水塔、伏せ越し、管類等、光ファイバケーブル類、集水暗渠、橋、潜水橋、道路、自転車歩行者専用道路、坂路、階段、安全施設、架空線類、河底横過トンネル、地下工作物並びに船舶係留施設について設置位置等の一般的技術的基準を示しているが、ここに示されていない工作物に対してもこの基本的な考え方は準用されるべきものである.
なお、本基準は、河川保全区域内における法第55条第1項に基づく工作物の新築又は改築の許可に際しても参考とされるべきものである.また、工作物が河川区域及び河川保全区域以外の土地にまたがる場合には、これらの区域外の部分は、許可の対象外であるが、許可に関する処分に必要な範囲内 において、当然審査の対象となる.
三 許可の範囲
法第26条第1項の許可は、工作物の新築、改築又は除却という行為に対する許可であり、土地を使用する権原までも与えるものではない.したがって、完成した工作物を河川区域内の土地(河川管理者以外の者がその権原に基づき管理する土地を除く.)に存置するためには、同時に、法第24条に基づいて占用の許可を受ける必要がある.
なお、法第26条第1項後段は、河川の河口付近の海面において河川の流水を貯留し、又は停滞させるための工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者も、河川管理者の許可を受けなければならないものとしている.
適用範囲
第二 この基準は、法第6条第1項に規定する河川区域のうち遊水地、湖沼(ダム湖を含む.)、高規格堤防特別区域及び樹林帯区域を除いた区域における工作物の設置等に適用する.
遊水地及び湖沼(ダム湖を含む.)は、水位変動の状況、洪水の流下の状況、利用形態等が個々に異なり共通の基準により判断することが適当でないため、この基準の適用範囲から除外したものである.
高規格堤防特別区域内は、一般の河川区域と異なり、通常の利用に供することができる土地の区域として位置づけられており、また、樹林帯区域も、樹林の育成・保護を図るべ き土地として位置づけられており、それぞれ許可の対象となる工作物の種類が異なることから、この基準の適用範囲から除外したものである.
基本方針
第三 工作物の設置等の許可は、当該工作物の設置等が次の各号に該当し、かつ、真にやむを得ないと認められる場合に行うことを基本とする.
- 当該工作物の機能上、河川区域に設ける以外に方法がない場合又は河川区域に設置することがやむを得ないと認められる場合.
- 当該工作物の設置等により治水上又は利水上支障を生ずることがなく、かつ、他の工作物に悪影響を与えない場合.
- 当該工作物の設置等により河川の自由使用を妨げない場合.
- 当該工作物の設置等が河川及びその周辺の土地利用の状況、景観その他自然的及び社会的環境を損なわない場合.
- 河川環境管理基本計画(「河川環境管理基本計画の策定について」(昭和63年6月28日付け建設省河川局長通達)による河川環境管理基本計画をいう.)が定められている場合にあっては、当該工作物の設置等が当該計画に定める事項と整合性を失しない場合.
河川区域内の土地は、公共用物として本来一般公衆の自由なる使用に供されるべきものである.また、河川は、洪水、高潮等による災害の発生が防止され、河川が適正に利用され、流水の正常な機能が維持され、及び河川環境の整備と保全がされるように総合的に管理されなければならないものである.しかし、工作物の設置等は、洪水の疎通を阻害するなど、河川管理上の支障となる可能性がある.
このため、工作物の設置等の許可にあたっては、当該工作物を河川区域内に設けなければならない必然性、公共性の程度、河川管理上の支障の有無等を十分に検討する必要がある.
この場合に、工作物を恒久的に設置するものか、一時的に設置するものか、非出水期に限って設置するものか、可動式・可搬式のものかなど、設置期間や設置形態を考慮する必要があることはいうまでもない.
なお、工作物の設置等が、申請どおりに実施されないことや許可条件が遵守されないこと等により河川管理上の支障となる場合がある.また、工作物の管理が適正に行われない場合や改築した工作物の供用を開始し従前の工作物が不要となったにもかかわらず適正に撤去が行われず放置される場合がある.このため、工作物の設置等の許可にあたっては、申請者の事業遂行の意志と能力
、完成後の管理方法
(操作が必要な工作物にあっては、操作規定を含む.)、用途を廃止したときの撤去方法
等についても十分に審査しておくべきである.
第三 1について
堰や樋門・樋管等の取排水施設の多くは、生活の維持や、産業活動のために欠かすことができない.また、橋は対岸へ渡河する交通の確保のために必要であり、他の手段によることは一般には困難である.坂路、階段等の利便施設は河川の適正な利用のため必要である.
一方で、堤内地の用地取得の困難を 理由として、道路を河川側に張り出すことや、河川の上に蓋を掛けて駐車場を設置することは、必然性がなく、張り出し部や蓋掛け部が洪水時に流下物の流下に支障となるおそれがあり治水上好ましくないほか、日常の維持管理が困難となり、親水性を欠如させ、さらには、将来の河川改修が困難となるなど、河川管理上極めて支障があるものである.むしろ、河川のもつ貴重な水と緑のオープンスペースを狭めることなく河川環境を整備して積極的に活用することが望まれる.
以上のように、工作物の種類によってその設置の必然性も異なるものであり、工作物の設置等の許可にあたっては、その社会経済上の効果を勘案し、当該工作物を河川区域内に設けなければならない必然性を十分に検討しなければならない.
第三 2について
河川は、治水、利水及び環境機能の増進を図るよう管理されるべきものであり、工作物の設置等により治水上、利水上又は環境上著しい支障を生じてはならない.また、河川は適正に管理されるべきものであり、工作物の設置等により他の工作物に著しい悪影響を与えてはならない.
例えば、河道の流下断面内に建物等を設置すると、建物等自身により、あるいは建物等にかかった塵芥等により、流下断面が減少し、洪水の疎通阻害が生じる.また、建物等の存在によって洪水流の流向や流速が変化し、河道の土砂輸送のバランスが崩れ、河床の洗掘、砂州や水衝部の移動の原因となる.この河 床の洗掘は、河岸の安定を失わせ、河岸の侵食、崩壊の引き金にもなり、堤岸や堤防に悪影響を及ぼすことがある.また、土砂が堆積し取水堰の取水機能障害の原因となるなど利水面への悪影響も考えられる.建物等が流失すると、水門や堰等の工作物に挟まり操作への支障を生じたり、流失した建物等が廃物化し環境を悪化させる等の悪影響も考えられる.
このような理由により、工作物の設置等の許可は、第一号に示したように機能上、河川区域に設ける以外に方法がない場合、又は河川区域に設けることがやむを得ないと認められる場合に限り行うことができるものであり、その場合であっても設置にあたっては、治水上、利水上又は環境上の支障を最小限度にとどめるとともに他の工作物に著しい悪影響を与えないよう配慮する必要がある.
なお、水門及び樋門に限らず堤体内に異質の工作物が存在すると、漏水の原因となりやすいので、設置にあたっては、工作物の付近が堤防の弱点部とならないよう、位置、構造及び施工方法について十分な配慮がなされなければならない.
第三 3について
河川は、適正に利用されるよう管理されるべきものであり、既設の工作物や占用がある場合にはこれらとの調整を要するとともに、極力他の一般公衆の自由使用を損なわないようにすべきである.