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損失補償

国家賠償は、違法な行政作用により生じた損害を金銭で穴埋め(賠償)してもらう制度であるのに対し、損失補償は、適法な行政作用により生じた損失を金銭で穴埋め(補償)してもらう制度です。

損失補償とは何か

損失補償とは、国又は公共団体の適法な活動によって私人が受けた特別の犠牲に対する補償のことです。この「特別の犠牲」に該当するか否かは、規制又は侵害の態様・程度・内容・目的等を総合的に考慮して判断されます。

なお、最高裁判所の判例は、以下のような場合に、特別の犠牲に該当せず損失補償は認められないとしました。

[損失補償が認められない場合]

  1. 在外資産の賠償への充当による損害(戦争損害)(最大判昭 43.11.27)
  2. 行政財産である土地の使用許可が、当該行政財産本来の用途又は目的上の必要に基づき将来に向かって取り消されたことによる損失(最判昭 49.2.5)
  3. 国道の改築工事として地下横断歩道が設置された結果、消防法違反の状態となったガソリンタンクを移設しなければならなくなったことによる損失(最判昭 58.2.18)
  4. 都市計画道路の区域内の土地所有者が長期にわたり建築制限を受けたことによる損失(最判平 17.11.1)

補償の根拠

損失補償については、損失補償法といったような一般法は存在せず、個別の法律で、どのような場合にどのような損失補償をするかについてそれぞれ規定しています。

重要判例

火災の際の消防活動により損害を受けた者が、その損失の補償を請求しうるためには、当該処分等が、火災が発生しようとし若しくは発生し、又は延焼のおそれがある消防対象物及びこれらの物のある土地以外の消防対象物及び土地に対しなされたものであり、かつ、当該処分等が消火・延焼の防止又は人命の救助のために緊急の必要があるときになされたものであることを要する(最判昭47.5.30)。

参考

都市計画法には、用途地域の指定について、土地の利用規制を受けることとなった者が、通常生ずべき損害の補償を求めることができる旨の規定はない。

なお、個別の法律に損失補償の規定がない場合であっても、憲法 29 条 3 項を根拠として損失補償を請求する余地が認められるとされています(最大判昭 43.11.27)。

補償の内容・程度

補償の内容と程度をめぐっては、完全補償説相当補償説の対立があります。

最高裁判所の判例は、

  1. 土地収用法上の補償について規制・侵害の前後を通じて被侵害者の保持する財産価値が等しいものとなるような補償を要するという考え方(最判昭 48.10.18)
  2. 必ずしも常に市場価格に合致する補償を要するものではないという考え方(農地改革事件:最大判昭 28.12.23)

を示しており、1.は完全補償説に、2.は相当補償説に近くなっています。

重要判例

土地収用法にいう「通常受ける損失」とは、収用に基づき被収用者が当然に受けるであろうと考えられる経済的・財産的な損失をいうと解するのが相当であって、経済的でない特殊な価値についてまで補償の対象とする趣旨ではない(最判昭63.1.21)。

最重要判例

農地改革事件(最大判昭28.12.23)

事案

農地改革における農地の買収に際しての損失補償額が争われた。

結論相当補償説
判旨

憲法29条3項にいうところの財産権を公共の用に供する場合の「正当な補償」とは、その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基づき、合理的に算出された相当な額をいうのであって、必ずしも常にかかる価格と完全に一致することを要するものではない。

最重要判例

建築制限付土地の収用と補償(最判昭48.10.18)

事案

都市計画街路予定地内にあることにより建築制限を受けていた土地の収用に際しての損失補償額が争われた。

結論完全補償説
判旨

1 土地収用法における損失補償の内容・程度
土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によって当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもって補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要する。
2 建築制限付土地が収用される場合に補償すべき価格
都市計画事業のために土地が収用される場合、被収用地に都市計画決定による建築制限が課されていても、被収用者に対して土地収用法によって補償すべき相当な価格とは、被収用地が、建築制限を受けていないとすれば、裁決時において有するであろうと認められる価格をいう。

補償の方法

補償の支払時期

最高裁判所の判例は、憲法は「正当な補償」と規定しているだけであって、補償の時期については少しも言明していないのであるから、補償が財産の供与と交換的に同時に履行されるべきことについては、憲法の保障するところではないとしています(最大判昭 24.7.13)。

収用目的の消滅と収用目的物の返還

最高裁判所の判例は、私有財産の収用が行われた後に、収用目的が消滅した場合、法律上当然にこれを被収用者に返還しなければならないものではないとしています(最大判昭 46.1.20)。