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国家賠償法

国家賠償とは違法な行政作用により生じた損害を金銭で穴埋めしてもらうことであり、これについて定めた法律が国家賠償法です。最高裁判所の判例を中心に学習していきましょう。

1. 国家賠償法の全体像

(1) 国家賠償制度成立の経緯

大日本帝国憲法の下では、国家は過ちを犯さないと考えられており、国や公共団体の違法な行為により損害が発生したとしても、国民は損害賠償請求をすることはできないとされていました(これを国家無答責の原則といいます)。

もっとも、これではあまりに国民にとって不利益ですから、日本国憲法は、17条という条文を置いて国や公共団体に対する損害賠償請求(これを国家賠償請求といいます)を認め、これを受けて国家賠償法という法律が作られました。これにより、国家賠償制度が確立することとなりました。

(2) 国家賠償法の仕組み

国家賠償法は、たった6条しかない法律です。

そして、人(公務員)の行為により生じた損害については1条が、物(公物)により生じた損害については2条が、それぞれ国家賠償請求を認めています。これにより、国や公共団体の違法な行為によって生じた損害については、大体の場合、金銭で穴埋めすることができます。

なお、3条〜6条は、1条の場合と2条の場合に共通して適用されるルールを定めています。

2. 国家賠償法1条

(1) 要件

国家賠償法1条1項は、①国又は公共団体の②公権力の行使に当たる③公務員が、④その職務を行うについて、⑤故意又は過失によって、⑥違法に⑦他人に損害を加えたときは、国や公共団体がこれを賠償する責任を負うとしています。つまり、①〜⑦をすべて満たした場合、国家賠償請求が認められます。

[要件] ① 国又は公共団体 ② 公権力の行使 ③ 公務員 ④ 職務を行うについて ⑤ 故意・過失 ⑥ 違法性 ⑦ 損害の発生

(2) 免責事由

国家賠償法1条1項には、使用者責任(民法715条1項ただし書)のような免責事由が規定されていません。

したがって、国又は公共団体は、公務員の選任及びその公務の監督について相当の注意をしていたとしても、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負います。

(3) 損害賠償責任の性質

国家賠償法1条1項は、本来、賠償責任を負うべきなのは違法な行為をした公務員であるものの、公務員個人に支払能力がないこともあるので、国や公共団体が公務員に代わって賠償責任を負担することを定めたものと考えられています(これを代位責任説といいます)。

もっとも、損害を与えた公務員が完全に保護されるというのもおかしな話です。そこで、公務員に故意又は重大な過失があったときには、国や公共団体は、公務員に対して、損害を賠償するのにかかった費用の支払いを請求することができます(1条2項)。これを求償権といいます。

国家賠償法1条についてまとめると、以下のようになります。

[国家賠償法1条のまとめ]

3. 国家賠償法2条

(1) 要件

国家賠償法2条1項は、①道路・河川その他の公の営造物の、②設置又は管理に瑕疵があったため、③他人に損害を生じたときは、国や公共団体がこれを賠償する責任を負うとしています。つまり、①〜③の条件をすべて満たした場合、国家賠償請求が認められます。

なお、他に損害の原因について責任を負うべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有します(2条2項)。

(2) 免責事由

国家賠償法2条1項には、土地の工作物の占有者(民法717条1項ただし書)のような免責事由が規定されていません。したがって、国又は公共団体は、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたとしても、国家賠償法2条1項に基づく損害賠償責任を負います。

4. 国家賠償法3条〜6条

以下では、1条の場合と2条の場合に共通して適用されるルールについて説明していきます。

(1) 賠償責任者

国家賠償法1条の場合、公務員を選任・監督している国や公共団体が、国家賠償法2条の場合、公の営造物を設置・管理している国や公共団体が、それぞれ国家賠償責任を負うのが通常です。

もっとも、どこが公務員を選任・監督しているか、どこが公の営造物を設置・管理しているかが不明確な場合もあり、誰に対して国家賠償請求をしてよいかわからないという事態もあり得ます。

そこで、国家賠償法3条は、公務員の選任・監督又は公の営造物の設置・管理に当たる者と公務員の給与その他の費用又は公の営造物の設置・管理費用の負担者が異なるときは、費用負担者もまた損害賠償責任を負うこととして、請求先を広げています。

(2) 他の法律の適用

国家賠償責任については、国家賠償法に規定がない事項については民法の規定が適用されますが(4条)、民法以外の他の法律に別段の規定がある場合は、その規定が適用されます(5条)。

つまり、①民法以外の他の法律→②国家賠償法→③民法の順で法律が適用されることになります。

(3) 相互保証主義

被害者が外国人である場合、原則として、日本で国家賠償請求をすることはできません。

しかし、ある外国(A国)において日本人が国家賠償請求をすることが保証されている場合には、その外国の人(A国人)も日本で国家賠償請求をすることができます(6条)。

これを相互保証主義といいます。

5. 取消訴訟と国家賠償請求訴訟の関係

行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするためには、あらかじめその行政処分につき取消し又は無効確認の判決を得ておく必要はありません(最判昭36.4.21)。

損失補償

国家賠償は、違法な行政作用により生じた損害を金銭で穴埋め(賠償)してもらう制度であるのに対し、損失補償は、適法な行政作用により生じた損失を金銭で穴埋め(補償)してもらう制度です。

1. 損失補償とは何か

損失補償とは、国又は公共団体の適法な活動によって私人が受けた特別の犠牲に対する補償のことです。この「特別の犠牲」に該当するか否かは、規制又は侵害の態様・程度・内容・目的等を総合的に考慮して判断されます。

なお、最高裁判所の判例は、以下のような場合に、特別の犠牲に該当せず損失補償は認められないとしました。

[損失補償が認められない場合]

  1. 在外資産の賠償への充当による損害(戦争損害)(最大判昭43.11.27)
  2. 行政財産である土地の使用許可が、当該行政財産本来の用途又は目的上の必要に基づき将来に向かって取り消されたことによる損失(最判昭49.2.5)
  3. 国道の改築工事として地下横断歩道が設置された結果、消防法違反の状態となったガソリンタンクを移設しなければならなくなったことによる損失(最判昭58.2.18)
  4. 都市計画道路の区域内の土地所有者が長期にわたり建築制限を受けたことによる損失(最判平17.11.1)

2. 補償の根拠

損失補償については、損失補償法といったような一般法は存在せず、個別の法律で、どのような場合にどのような損失補償をするかについてそれぞれ規定しています。

なお、個別の法律に損失補償の規定がない場合であっても、憲法29条3項を根拠として損失補償を請求する余地が認められるとされています(最大判昭43.11.27)。

3. 補償の内容・程度

補償の内容と程度をめぐっては、完全補償説と相当補償説の対立があります。

最高裁判所の判例は、①土地収用法上の補償について規制・侵害の前後を通じて被侵害者の保持する財産価値が等しいものとなるような補償を要するという考え方(最判昭48.10.18)と、②必ずしも常に市場価格に合致する補償を要するものではないという考え方(農地改革事件:最大判昭28.12.23)を示しており、①は完全補償説に、②は相当補償説に近くなっています。

4. 補償の方法

(1) 補償の支払時期

最高裁判所の判例は、憲法は「正当な補償」と規定しているだけであって、補償の時期については少しも言明していないのであるから、補償が財産の供与と交換的に同時に履行されるべきことについては、憲法の保障するところではないとしています(最大判昭24.7.13)。

(2) 収用目的の消滅と収用目的物の返還

最高裁判所の判例は、私有財産の収用が行われた後に、収用目的が消滅した場合、法律上当然にこれを被収用者に返還しなければならないものではないとしています(最大判昭46.1.20)。