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第 39 条 [刑罰法規の不遡及、一事不再理]

何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

Q: 刑法 56 条の再犯加重規定は、憲法 39 条に違反しないか。

A: 憲法 39 条に違反しない。刑法 56 条、57 条の再犯加重の規定は、56 条所定の再犯者であるという事由に基づいて、新たに犯した罪に対する法定刑を加重し、重い刑罰を科しうべきことを是認したにすぎないもので、前犯に対する確定判決を動かしたり、あるいは前犯に対し、重ねて刑罰を科する趣旨ではないから、憲法 39 条に違反しない(最大判昭 24·12·21)。

Q: 憲法 39 条前段の規定は、実体法についてだけではなく、手続法についても適用があるのか。

A: 手続法については適用がない。上告理由の部を制限したにすぎない訴訟手続に関する刑訴応急措置法の規定を適用して、その制定前の行為を審判することは、たといそれが行為時の手続法よりも多少被告人に不利益であるとしても、憲法 39 条にいわゆる「何人も、実行の時に適法であった行為……については、刑事上の責任を問はれない」の法則の趣旨を類推すべき場合ではない。したがって、憲法に違反しない(最大判昭 25·4·26)。

Q: 下級審における無罪または有罪判決に対し、検察官が上訴をなし有罪またはより重き刑の判決を求めることは、憲法 39 条に違反するか。

A: :憲法 39 条に違反しない。一事不再理の原則は、何人も同じ犯行について、二度以上罪の有無に関する裁判を受ける危険に曝されるべきではないという根本思想に基づくものである。そして、その危険とは、同一の事件においては、訴訟手続の開始から終末に至るまでの一つの継続的状態である。されば、一審の手続も控訴審の手続もまた、上告審のそれも同じ事件においては、継続するーつの危険の各部分にすぎないのである。したがって、同じ事件においては、いかなる段階においても唯一の危険があるのみであって、そこには二重の危険ないし二度の危険というものは存在しない。それ故に、下級審における無罪または有罪判決に対し、検察官が上訴をなし有罪またはより重き刑の判決を求めることは、被告人を二重の危険に曝すものでもなく、したがってまた憲法 39 条に違反して重ねて刑事上の責任を問うものでもない(最大判昭 25·9·27)。

Q: 憲法 39 条は、行為時の法令によれば有罪とされるものが、裁判時の法令に従えば無罪である行為につき、刑事上の責任を問われない趣旨をも含むのか。

A: 刑事上の責任を問われない趣旨をも含まない。憲法 39 条前段の後半に「既に無罪とされた行為については刑事上の責任を問われない」というのは、行為時の法令によれば有罪であったものが裁判時の法令に従えば無罪である行為につき、刑事上の責任を問われないという趣旨ではなく、すでに無罪の裁判のあった行為については、再び刑事上の責任を問われないという趣旨である(最大判昭 26·5·30)。

Q: 起訴状に公訴事実の記載のないことを理由として公訴棄却の判決がなされた場合、同一事件につき再度公訴を提起することは、憲法 39 条に違反するのか。

A: 憲法 39 条に違反しない。憲法 39 条は、起訴状に公訴事実の記載のないことを理由として公訴棄却の判決がなされた場合において、同一事件につき再度公訴を提起することを禁ずる趣旨を包含するものではない(最大判昭 28·12·9)。

Q: 法人税の脱税をした株式会社に対し、法人税法違反による罰金を科し、さらに同法違反による追徴税を併科することは、憲法 39 条の二重処罰の禁止の原則に違反するのか。

A: 憲法 39 条の二重処罰の禁止の原則に違反しない(最大判昭 33·4·30)。

Q: 法廷等の秩序維持に関する法律による監置の制裁を科した後、さらに同一事実について刑事訴追を行い有罪判決を言い渡すことは、憲法 39 条に違反するのか。

A: 憲法 39 条に違反しない。刑事的または行政的な処罰のいずれの範疇にも属していない法廷等の秩序維持に関する法律による監置の制裁を受けた後、さらに同一事実に基づいて刑事訴追を受け有罪判決を言い渡されたとしても、憲法 39 条にいう同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問われたものとはいえない(最判昭 34·4·9)。

Q: 少年法 19 条に基づく審判不開始の決定が事案の罪とならないことを理由とするものであっても、これを刑事訴訟における無罪判決と同視すべきではなく、少年が成年に達した後に、同一事案につき訴えを提起したとしても憲法 39 条に違反しないのか。

A: 憲法 39 条に違反しない。少年法 19 条 1 項に基づく審判不開始の決定が事案の罪とならないことを理由とするものであっても、これを刑事訴訟における無罪の判決と同視すべきではなく、これに対する不服申立ての方法がないからといって、その判断に刑事訴訟におけるいわゆる既判力が生ずることはないものといわなければならない。また、憲法 39 条前段にいう「無罪とされた行為」とは、刑事訴訟における確定裁判によって無罪の判断を受けた行為を指すものと解すべきであるから、上記の解釈が憲法のこの条項に抵触するものでないことも明らかである(最大判昭 40·4·28)。

Q: 行為当時の最高裁判例の示す法解釈に従えば、無罪となるべき行為を判例変更により処罰することは、憲法 39 条に違反するのか。

A: 憲法 39 条に違反しない。行為当時の最高裁判所の判例の示す法解釈に従えば、無罪となるべき行為であっても、これを処罰することは、憲法 39 条に違反しない(最判平 8·11·18)。裁判所総合·一般-平成 25

Q 第一審裁判所が無罪の判決を言い渡した場合に、控訴審裁判所が新たな証拠の取調べを待たないで被告人を勾留することは認められるのか。

A: :認められる。裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合であって、刑事訴訟法 60 条 1 項各号に定める事由(以下「勾留の理由」という。)があり、かつ、その必要性があるときは、同条により、職権で被告人を勾留することができ、その時期には特段の制約がない。したがって、第一審裁判所が犯罪の証明がないことを理由として無罪の判決を言い渡した場合であっても、控訴審裁判所は、記録等の調査により、その無罪判決の理由の検討を経た上でもなお罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、勾留の理由があり、かつ、控訴審における適正、迅速な審理のためにも勾留の必要性があると認める限り、その審理の段階を問わず、被告人を勾留することができ、新たな証拠の取調べを待たなければならないものではない(最判平 12·6·27)。