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第 19 条 [思想および良心の自由]思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

Q: 謝罪広告を裁判所が命じることは、個人の良心の自由に反するか。

A: :個人の良心の自由に反しない。謝罪広告を命ずる判決の内容上、これを新聞紙に掲載することが単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するにとどまる程度のものにあっては、これが強制執行も代替作為として民事訴訟法 733 条(現民事執行法 171 条)の手続によることをえるものである。されば少なくともこの種の謝罪広告を新聞紙に掲 い。本件通達は、第二表乙の自己観察ならびに希望事項欄の記載方法として、自己評価に基づき、たとえば「学校の指導計画が適確に実施されるように工夫しているか」、「分掌した校務を積極的に処理しているか」、「熱意をもって仕事に打ち込んでいるか」というような第二表甲の観察内容や乙の各項目等を参考にして、つとめて具体的に記入することと定めているにすぎないのであって(通達別冊第 2 項(25))、その文言自体、これを最大限に拡大して解釈するのでなければ、記入者の有する世界観、人生観、教育観等の表明を命じたものと解することはできない。してみれば、本件通達によって記載を求められる事項が、上告人らの主張するような内心的自由等に重大なかかわりを有するものと認めるべき合理的根拠はないく勤務評定長野方式事件-(最判昭 47·11·30)。

Q: 企業者が被用者の思想·信条を理由に雇入れを拒否することは違法か。

A: :違法ではない。憲法は、思想·信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、22 条、29 条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それ故、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をその故をもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないく三菱樹脂事件-(最大判昭 48·12·12)。

Q: 使用者が、その調査目的を明らかにせずに、労働者に対して所属政党を調査し、その回答として書面の交付を要求することは、いかなる態様によったとしても、憲法 19 条に違反するのか。

A: :質問の態様が返答を強要するものではなければ、憲法 19 条に違反しない。調査目的を明らかにせずに共産党員であるか否かを尋ねた本件質問は、調査の方法として相当性に欠ける面があるものの、必要性、合理性を肯認でき、また、本件質問の態様は、返答を強要するものではなかったのであるから、本件質問は、社会的に許容しうる限界を超えて X の精神的自由を侵害した違法行為であるとはいえない。また、X が本件書面交付の要求を拒否することによって不利益な取扱いを受けるおそれのあることを示唆したり、その要求に応じることによって有利な取扱いを受けうる旨の発言をした事実はなく、さらに、X は右要求を拒否したのであるから、本件書面交付の要求は、社会的に許容しうる限界を超えて X の精神的自由を侵害した違法行為であるとはいえない - 東京電力塩山営業所事件-(最判昭 63·2·5)。

Q: 公立高校入試の際、中学校長より作成提出された内申書において、中学生の学校内外における政治的活動が記載された場合には、受験生の思想·信条の自由の侵害にあたるのか。

A: :思想·信条の自由の侵害にあたらない。内申書に「麹町中全共闘を名乗り、他校生徒とともに校内に乱入·ビラ撒きをしたり、大学生 ML 派の集会に参加している」等の記載をすることは、個人の思想、信条そのものを記載したものでないことは明らかであり、その記載に係る外部的行為によっては個人の思想、信条を了知しうるものではないし、また、個人の思想、信条自体を高等学校の入学者選抜の資料に供したものとはとうてい解することができないく麹町中学内申書事件-(最判昭 63·7·15)。

Q: 使用者の行為が不当労働行為と認定されたことを関係者に周知徹底させ、同種行為の再発を抑制する趣旨のポスト·ノーティス命令で「深く反省する」、「誓約します」との文言を用いることは、憲法 19 条に違反するのか。

A: 憲法 19 条に違反しない。本件ポスト·ノーティス命令が、労働委員会によって使用者の行為が不当労働行為と認定されたことを関係者に周知徹底させ、同種行為の再発を抑制しようとする趣旨のものであることは明らかであるから、その掲示文に「深く反省する」、「誓約します」などの文言を用いても、それは同種行為を繰り返さない旨の約束文言を強調する意味を有するにすぎず、使用者に対し反省等の意思表明を要求することは、当該命令の本旨とするところではなく、憲法 19 条に違反しないく医療法人社団·亮正会事件-(最判平 2·3·6)。

Q: 労働委員会が、不当労働行為はあったが将来はこれを繰り返さない旨、使用者名で表明する看板を目立つ場所に掲示するよう命じること(ポスト·ノーティス命令)は、思想·良心の自由を侵害するか。

A: 思想·良心の自由を侵害しない。労働委員会によるポスト·ノーティス命令は、全体として使用者らの行為が不当労働行為に該当すると認定されたことおよび将来使用者らにおいて同種行為を繰り返さない旨を表示させる趣旨に出たものとみるべきであるから、当該命令が使用者らに対し、特定の思想、見解を受容することを強制するものであるとか、陳謝の意見表明を強制するものであるとの見解を前提とする憲法 19 条、21 条違反の主張は、その前提を欠くくネスレ日本(日高乳業)事件-(最判平 7·2·23)。

Q 指紋押なつ制度は、外国人の思想·良心の自由を侵害するのか。

A: :外国人の思想·良心の自由を侵害しない。指紋は指先の紋様でありそれ自体では思想、良心等個人の内心に関する情報となるものではないし、指紋押なつ制度の目的は在留外国人の公正な管理に資するため正確な人物特定をはかることにあるのであって、同制度が外国人の思想·良心の自由を害するものとは認められない(最判平 7·12·15)。

Q 強制加入団体である税理士会が、法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するため、政治資金規正法上の政治団体に金員の寄付をすることは、会員の思想·信条の自由との関係で許されるのか。

A: 許されない。税理士会は、法が、あらかじめ、税理士にその設立を義務付け、その結果設立された強制加入団体であって、その会員には、実質的には脱退の自由が保障されていない。したがって、その目的の範囲を判断するにあたっては、会員の思想·信条の自由との関係で、会員に要請される協力義務にも、おのずから限界がある。特に、政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏をなすものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄である。なぜなら、政党など規正法上の政治団体は、政治上の主義もしくは施策の推進、特定の公職の候補者の推薦等のため、金員の寄付を含む広範囲な政治活動をすることが当然に予定された政治団体であり、これらの団体に金員の寄付をすることは、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかに密接につながる問題だからである。そうすると、政党など規正法上の政治団体への金員の寄付を権限のある官公署に対する建議や答申と同視することはできないし、このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできないく税理士会政治献金事件-(最判平 8·3·19)。

Q 市立小学校の音楽専科の教諭が、入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏を行うことを内容とする校長の職務上の命令は、憲法 19 条に違反するのか。

A: 憲法 19 条に違反しない。本件職務命令当時、公立小学校における入学式や卒業式において、国歌斉唱として「君が代」が斉唱されることが広く行われていたことは周知の事実であり、客観的にみて、入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏をするという行為自体は、音楽専科の教諭等にとって通常想定され期待されるものであって、上記伴奏を行う教諭等が特定の思想を有するということを外部に表明する行為であると評価することは困難なものであり、特に、職務上の命令に従ってこのような行為が行われる場合には、上記のように評価することはいっそう困難であるといわざるをえない。本件職務命令は、公立小学校における儀式的行事において広く行われ、A: 小学校でも従前から入学式等において行われていた国歌斉唱に際し、音楽専科の教諭にそのピアノ伴奏を命ずるものであって、上告人に対して、特定の思想をもつことを強制したり、あるいはこれを禁止したりするものではなく、特定の思想の有無について告白することを強要するものでもなく、児童に対して一方的な思想や理念を教え込むことを強制するものとみることもできない。以上の諸点にかんがみると、本件職務命令は、上告人の思想および良心の自由を侵すものとして憲法 19 条に反するとはいえない(最判平 19·2·27)。

Q 公立高等学校の校長が教師に対し卒業式における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立し国歌を斉唱することを命じた職務命令は、個人の思想および良心の自由を直接的に制約し、憲法 19 条に違反するのか。

A: 直接的な制約ではなく、間接的に制約するもので、憲法 19 条に違反しない。本件職務命令当時、公立高等学校における卒業式等の式典において、国旗としての「日の丸」の掲揚および国歌としての「君が代」の斉唱が広く行われていたことは周知の事実である。そして、本件職務命令に係る起立斉唱行為は、上告人である教師の歴史観ないし世界観との関係で否定的な評価の対象となるものに対する敬意の表明の要素を含むものであることから、そのような敬意の表明には応じがたいと考える当該教師にとって、その歴史観ないし世界観に由来する行動(敬意の表明の拒否)と異なる外部的行為となるものである。この点に照らすと、本件職務命令は、一般的、客観的な見地からは式典における慣例上の儀礼的な所作とされる行為を求めるものであり、それが結果として上記の要素との関係においてその歴史観ないし世界観に由来する行動との相違を生じさせることとなるという点で、その限りで上告人の思想および良心の自由についての間接的な制約となる面がある。しかし、職務命令の目的および内容ならびに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に較量すれば、上記の制約を許容しうる程度の必要性および合理性が認められるというべきである。以上の諸点に鑑みると、本件職務命令は、上告人の思想および良心の自由を侵すものとして憲法 19 条に違反するとはいえない(最判平 23·5·30)。